フランス・グルノーブルで開催されていた2024グランプリファイナル(GPF/GPF2024/GPFinal)が終了しました。
今日はシニア女子シングルフリーのみ振り返ります。
「日本女子5名」VS「アンバー・グレン選手」という構図だった今大会、今思うと私は米国のアンバー・グレン選手を一番心の奥で応援してたかもしれません。「彼女に勝ってほしい」というのではなくて、「自分に負けないでほしい」と一番強く願っていたような気がします。
男子フリーはちょっとした議論に発展しているので、ゆっくり考えてから改めて。
エキシやアイスダンスはまだ見られてないものもあるけれど、見ごたえのある大会でしたね。結局裏GPFのゴールデンスピン杯追いかけてる暇全くなかった…結果確認で精いっぱいw。
ジュニアの中田璃士選手がフリーで実力を発揮できず、キス&クライで涙を流して顔を伏せる姿は2019GPSフランス大会の宇野昌磨選手とダブったりしましたけどね。そんな思い出話もどこかでまた。
「今週末から全日本関係の番宣が色々始まるので宇野昌磨選手出演番組を追いかけるの大変!」と思ってたけど、やっぱり関西じゃ放送されないものもある模様。覚悟はしてたけどちょっとへこんでいます。
女子フリー(シニア)
SPは女子シングルで少々珍しい波乱の展開となりましたが、結果としてSP6~1位までは61.61~70.04と、8.43点の間に6人が並びました。
63.98点でSP4位の坂本花織選手もトップを狙えるし、SP6位の樋口新葉選手も5位の松生理乃選手も表彰台圏内。試合としては十分面白い条件が揃っていたと思います。
樋口新葉選手
第一滑走は、SPでコンビネーションジャンプのファーストで転倒という6選手中最も痛いミスをしてしまった樋口新葉選手。演技開始前の落ち着いた表情の奥に静かな気合が感じられて、「フリーは来る?」という期待を持たせてくれました。
中盤のサルコウがダブルになりましたが、他はスピンが一つレベル3になったぐらいでほぼクリーン。(フリップの「!」は通常運転、想定内でしょう)
コンビネーションジャンプに回転不足がつかなかったのは大きかったですね。テクニカルがとても厳しかったこの試合で、6人中ジャンプに「q」も「<」が一つもつかなかったのは樋口新葉選手ただ一人です。ビックリ!
フリー4位で総合順位を4位まで上げました。
私は、最終滑走のアンバー・グレン選手の演技後まで彼女がグリーンルームに坂本選手&千葉選手と残っていたことに感慨を覚えましたね。GPFのグリーンルームに坂本&樋口選手が最後までいるなんて北京五輪以前の世界では考えられなかったですから。
しかも最終滑走が長年一緒に戦ってきた、アンバー・グレン選手でしょ?25歳にしてようやく大きな大会のタイトルを手にするなんてね。
アンバー選手の優勝決定後のこのキス&クライとグリーンルームのやりとりには本当じーんと来るものがありました。10代と20代の女子が共に競い合ってこうやって笑顔で讃えあうっていいですよね。
松生理乃選手
続いての登場、松生理乃選手には今回もフリーでの猛追を期待していました。でもその一方で、初めてのビッグイベントでのプレッシャーで崩れてしまわないか?という心配もありました。
最初のループの着氷がぎこちなくて一瞬ヒヤッとしましたが、そこから持ち直していきます。後半のトリプルフリップがダブルになってなければ、もう少し上位に行けたかもしれませんね。全体的に固めで、あの滑りの伸びやかさが彼女比では少し控えめだったかなとは感じましたが、「最低ラインは完遂した」という印象でした。
しかし、今回の大会のテクニカルは厳しめ。タイト気味だったジャンプはことごとく回転不足を取られ技術点が結構下がったのは痛かったです。ルッツのエッジのアテンション「!」2個とダブったフリップのコンビネーションについた「<」の回転不足はともかく、「q」が4つ…
フィンランド大会のサラ・エバーハード選手の採点でも以前愚痴りましたけど、私は「映像で不足が証明できない『q』が一つの演技に4つも5つもつくのは不自然。先入観に左右されている可能性が否めないのに減点幅がでかすぎる」と思っています。
昔の「アンダーローテーション」&「ダウングレード」の2段階ではなく、「q」を設けて3段階での減点にしたことは「選手ファースト」で良かったと思ってたんですけどね。
「こんだけ乱発してたら全然選手ファーストになってへんやん…」っていうのが素人ファンとしての率直な感情です。
回転不足認定の話題はこの後の男子シングルフリーでもホットな話題になっていますので、また改めて考えます。
坂本花織選手
三人目にもう坂本花織選手が登場!
モントリオールワールドでは同じSP4位からの逆転優勝でした。今回はどうなるか?
SPよりはスピードは出ているように思えました。ジャンプは全部降りてきて、「さすが!」な貫禄の演技。「これなら表彰台行けそうだね!」という感じ。
しかし後半のジャンプの着氷がタイト気味だったから「回転不足取られて技術点下がるかもな~」とドキドキしてたところに出てきた得点は、137.15。「持ち前の底力で何とかやり遂げた」印象は感じていたので、通常より低い得点には驚かなかったのですが、採点表には驚きました。ルッツのアテンション「!」はともかく、後半ジャンプにアンダーローテーションを示す「<」マークが3つもついている…
いつもより少し慎重な滑りだったとはいえ、さすがにPCSは71点台と全選手中一番。
しかしアンバー・グレン選手や千葉百音選手のPCSとは2~3点差。あの坂本花織選手でもジャンプをクリーンに揃えないとここまで総得点が下がりうるーという怖さが露呈しました。
今季の坂本選手のプロは新しいジャンプ構成で繋ぎも難しくしています。これをクリーンにこなせればカオリ無双時代は継続確定。しかし後半にコンビ連発で技術点を稼ぐのは、強みである加点をごっそり失いかねないリスキーな挑戦です。
いくら絶品のダブルアクセルを跳べるといってもダブルアクセルの加点幅は限られています。滑りもよいアンバー選手がトリプルアクセル入りの構成で安定してきている今、トップを目指すのなら後半コンビへの挑戦は必要なのでしょう。アンバー・グレン選手も坂本花織選手もどちらも後半のスタミナが課題ですね。
吉田陽菜選手
続いては吉田陽菜選手。トリプルアクセルを決め、クリーンにまとめれば坂本花織選手を上回り、金メダルに手が届く可能性だってある点差。GPF二回目とはいえこのシチュエーションはかなりドキドキものですよね。
果敢に攻めた冒頭のトリプルアクセルは回転が足りず、着氷が乱れました。「でもここから後をまとめれば表彰台!」と言う感じでしたが、後半のトリプルルッツが二つとも少し乱れてしまいます。
結局トリプルアクセルと後半のルッツが「q」判定のうえ、ルッツとフリップ両方にエッジのアテンション「!」が合計3つつくという地味に痛い失点。フリーは5位、総合5位となりました。
千葉百音選手
千葉百音選手、初めてのGPFとあって緊張が見て取れました。
しかし固さがある中で着実に決めていく妙な落ち着きはありましたね。
中国杯は最後の最後でステップで転倒してしまったので、そこは見てる方もちょっと緊張しました。ISU配信の実況者にも「中国杯での転倒があったから、慎重にステップ踏んでるね」って突っ込まれていました(苦笑)
ルッツのエッジアテンション「!」は2個くらいましたが、回転不足はループの1個で済みました。中国杯のように140点は超えられずでしたが、それに迫る139.52。SPフリー総合全てアンバー・グレン選手に次ぐ2位です。
アンバー・グレン選手
アンバー・グレン選手が演技を開始する前、日本人選手の演技前と同じぐらい、いやそれ以上に私緊張していました。これまで何度も彼女が大舞台で崩れるところを見てきただけに大丈夫かなと。
冒頭のトリプルアクセルは綺麗に入りました。その後サルコウがダブルになったり、後半でやや疲れてスピンステップのレベル取りこぼしやフリップの回転不足(「q」判定)はあったものの、何とかまとめきりました。
いや~昨季からのトリプルアクセルの安定感は本当凄いですね。今季のフランス大会で1回ステップアウトしただけで、2シーズン転倒一度もなし。「q」がついたことも前回の中国杯の1回だけで、それもあちこちで「厳し過ぎないか」って言われてたし。
昨季は「トリプルアクセルは決まるのにその後が…」だったのに今季からはそこもなくなって。25歳になってこんなに開花する人っているんだなって。身体的な実力はあったのに、メンタルコントロールの部分が本当に大きかったんでしょうね。
下記の記事でまとめられている記者会見では、メンタルトレーニングをしてきた過程などを語っています。自分が得たノウハウを惜しみなく後輩に伝えたりしている辺りが「アンバー姐さん…!!」って気分になります。娘でもおかしくない年の選手なのにねw
GPFでの「程よい前進」
ちなみに私は試合開始前の「自分なりの見どころ」記事でこんな希望を書いていました。
もし神演技揃えてアンバー・グレン選手が優勝しちゃったら…
ボストンワールドを控えたアメリカの連盟&ファンの期待がとんでもないことになって、アンバー選手のメンタルが潰されそうでちょっと怖くて。
GPFでは程よく前進してほしいです(身勝手)
アンバー・グレン選手にとって今回のGPFは、「ライバルの不調があった中、自身の演技に課題を残しつつも優勝を勝ち取れるのには十分な良い演技をやり遂げた」と言えます。
ーこれって、まさに「程よく前進」という結果じゃないでしょうか?良かったなと思っています。
アリッサ・シズニー選手以来の米国人女子のGPF優勝にアメリカの連盟やファンが騒ぎすぎるとプレッシャーになるかもしれないけど、しっかり栄誉を称えてもらえうと自信にもなるだろうし、周囲にも程よく騒いでもらえるといいなと思います。
彼女たちだけでなく、出場したスケーター達のインタビューを見ると、みんな全日本や今後の大会に向けての課題をそれぞれしっかり見つけていて。ああ全日本どうなるかなぁ…。
坂本花織選手は全日本の成績に関わらずワールド代表はほぼ当確でしょうから、ここはドーンと構えてもらってワールド等シーズン終盤の試合に向けじっくり調整してほしいです。