2025年のフィギュアスケートグランプリシリーズ(GPS)第1戦フランス大会(フランスグランプリ/フランス杯)が終了しました。
競技初日&2日目の展開には心が踊り、体が二つあればその時の感想を記録したかったです。(同時期開催されていた宇野昌磨さん参加の「獅白杯東西対抗戦」についての記事を先に公開)
しかし、競技最終日のアイスダンスFDと男子シングルフリーを見たら、その高揚感もすっかり落ち着いてしまいました…。いい演技も見られたんですけど、どちらのカテゴリも滅入る展開がありまして。
全カテゴリまとめた記事を書こうと思っていましたが、前半競技と後半との熱量の差が大きすぎるので、今回は2025GPSフランス大会女子シングル&ペアのみを振り返ります。男子シングル&アイスダンスはまた改めて。
女子シングル
私が一番素直に盛り上がれたフランス大会の競技は、女子シングルでした。
日本女子表彰台独占!
「日本女子表彰台独占あるかもな?」とは思っていましたが、本当にそれが実現しました。

実は、坂本花織選手が昨季出場したGPS大会(ファイナルは除く)は2試合とも日本女子が表彰台独占でした。
日本女子がそれだけ強いということもあるのですが、3大会連続ともなると「坂本花織選手がいいムードメーカーになっていることで他の選手達も実力を発揮しやすいんじゃ?」って考えてしまいますね。
住吉りをん選手
住吉りをん選手は、フランス大会4連続銅メダル!これはこれでスゴい記録と言えるかもしれません。
フリーで挑んだ4回転トゥループは着氷はしたものの回転不足判定(<)となり、点数を伸ばしきれませんでした。トリプルサルコウがダブルになったのはありましたが、サルコウはもともとさほど点が高くないのでダメージは少なめ。SPフリーとも、ほぼクリーンにまとめてきたのは見事でしたね。日本女子でスピンステップオールレベル4は彼女だけです。

総合得点216.06は大抵のGPS大会なら優勝できるスコアですが、千葉百音選手の今季シーズンベストスコア(SB)216.59にわずかに及びませんでした。彼女としては、SPでコンビネーションジャンプのセカンドに回転不足(q)がついて加点が消えてしまったのが惜しまれるところでしょう。
明確に書かれている選考基準ではありませんが、彼女の「チャンピオンシップ大会出場経験がない」というハンデを超えるには、高いSBを残すorGPF上位2名に入るのどちらかを満たしたうえの全日本出場が必須となるそうです。GPFを目指すには次戦で高得点での2位以上を獲得したいところです。
坂本花織選手
坂本花織選手は初戦からトップギアでは来ないと思っていたので、中井亜美選手or住吉りをん選手が高難度ジャンプを決め、演技をクリーンにまとめたら上回るかも?と思っていました。でも、かなりクリーンにまとめてきた坂本花織選手を抑えるというのは、予想外でしたね。
といっても今回の坂本花織選手はスピンとステップで点数を結構とりこぼしています。(スピンはレベル4は取れたものの最後の2つのスピンで姿勢要件が満たせなかったことを示す「V」がつき、基礎点が下がっていました)
つまり今の構成のままでも得点を伸ばせる余地が結構ありますし、何よりGPS初戦で224.23点も出しているのですから例年よりはずっと早い仕上がりです。
本人のインタビューによるとSPはすごく緊張していたとのこと。

また、フリー後のインタビューではSPフリーともエッジのいいところに乗り切れず、滑りがしっくりこなかったと話していました。そのへんが細かい取りこぼしに繋がったのでしょうか?
でもSPフリーとも演技に漂う円熟味&貫禄は凄かったです。まったく焦る必要のない立場ですし、五輪に向けてじっくり調整して行ってくれるといいなと思います。外野で騒ぐ人を見かけると、「トリノ五輪シーズンの荒川静香選手の全日本までの成績を見ておいで」と言いたくなります。

中井亜美選手
中井亜美選手の演技では、女子選手にとってのトリプルアクセルパワーの物凄さを改めて実感させられました。去年のアンバー・グレン選手と同じですね。長年トリプルアクセルを跳んできた選手が、トリプルアクセル入りのプログラムをまとめられるようになってくると本当に強い。
昨季の世界ジュニアでトリプルアクセルの本数を減らしてまとめることよりも、攻めの構成を選んだ中井亜美選手。怪我でここ2年苦しい時期を過ごす中でも「攻めの姿勢」を続けてきたことが今、絶好のタイミングで花開いた感があります。

まぁ、五輪まではまだ4カ月あるしGPS1戦目で喜ぶのは気が早すぎますけどね(笑)。
でもおめでたいことは素直に喜びたいです!

女子がトリプルアクセルを安定して投入できることの強み
ダブルアクセルとトリプルアクセルの基礎点は3.30点と8.00点。その差はとても大きいです。
そして、出来栄え点(GOE)も基礎点上昇につれ加点幅が大きくなります。
強み<1>基礎点&GOEの差
中井亜美選手のフリーでのトリプルアクセルは軽くお手付きがあってGOEマイナスでしたが、それでも7.31点。回転不足を取られていなければ転倒しても4点、ダブルアクセル加点付き成功程度の点数が残ります。そして、今回のSPのように加点付きで決められれば9.60点がつきます。
(アンバー・グレン選手は2023スケートアメリカで9.94点を出しています)
一方、坂本花織選手がGOE満点のダブルアクセルを跳んでも4.95点。
トリプルアクセルが安定して入ることの効果は、女子ではかなり大きいです。
強み<2>3連続ジャンプにダブルアクセルを2回投入できる
そして何と言っても大きいのが、フリー後半にダブルアクセルを2回入れる3連続コンビネーションジャンプを投入できること。これで技術点を大きく稼げます。
(ルール上同じ種類のジャンプを一つのプログラム内で3回以上跳ぶことは許されていないため、トリプルアクセルを持たない選手はこのコンビネーションジャンプのメリットを得られません)
女子トップクラス選手の3連続ジャンプは大体11点前後ですが、中井亜美選手のようにルッツからのダブルアクセル2回の3連続ジャンプを加点付きで後半に決めると、15点を超えます。
このメリットがあるから、女子の場合、4回転ジャンプよりもトリプルアクセルを安定して入れられるほうが勝負には有利なんですよね。浅田真央さん現役時代にこのコンビネーションジャンプはルール上実施されていなかったので、「今の採点ルールならでは」のメリットでもあります。

渡辺倫果選手が今季SPフリーでトリプルアクセル3回の構成にずっと挑戦していますが、もし今の構成をSPフリーでまとめられれば、一気に点数を伸ばして来るでしょう。ただし彼女の場合はトリプルアクセル以外の要素で点数を落としてしまっているのが課題ですので、そこを先にクリアした中井亜美選手が一足先に抜けた感があります。
中井亜美選手も、今後もこの構成で一定レベルを保ち続けることが大事になってきそうです。
212点出しても表彰台に乗れなかったイザボー・レヴィト選手
総合得点216.06を出しても銅メダルだった住吉りをん選手も気の毒なのですが、彼女はまだグランプリファイナル出場の芽があります。212.71を出しても表彰台にすら乗れなかったイザボー・レヴィト選手(米国)はあまりにも運が悪すぎです。このスコア、昨季のGPSならほぼ優勝or銀メダルのスコアですからね。

4位でも次戦が優勝or2位ならGPF進出の可能性はありますが、彼女の次戦はスケートカナダ。千葉百音選手&中井亜美選手と競う必要があります。
日本女子選手にはGPS頑張ってほしいけれど、GPFがプレ全日本みたいになるのはイヤなんですよね(心臓に悪すぎるw)。なのでGPSではアメリカ勢や韓国勢にも頑張ってほしいのですが、日本女子にも頑張ってほしいのでどう応援したらいいものか複雑です。
韓国女子の代表争い
日本勢同様、五輪代表争いが注目されている韓国女子。韓国の女子シングル五輪代表枠は「2」です。ワールドメダリストが2名、ジュニアワールドメダリストが1名。他にも実力ある選手がいるので、こちらも結構熾烈な争いです。今大会は代表候補のうち3名が出場していました。
ユ・ヨン選手
ユ・ヨン選手は久々の出場でしたが、トリプルアクセルは入れてこず。彼女がトリプルアクセル入れてきたら五輪代表争いに絡んでくるかなとも思ったのですが。韓国の五輪代表枠は2つなので、イ・ヘイン選手とキム・チェヨン選手とジア・シン選手のうち1人は出られないことになります。

シン・ジア選手
私はシニアデビュー年のシン・ジア選手が表彰台争いにかんでくると見ていたのですが、今大会では実力を出しきれずに終わりました。
昨季の不振で当初GPSアサインが1試合しかなかったところ、今シーズンCS大会で表彰台に連続で乗ったこともあってGPS2戦目のチャンスを急遽手にした彼女。(フランス大会出場が決まったのは大会1週間前)「2戦出られたらGPF出場もありうる?」とすら思っていたのですが、昨季の状態に少し戻ってしまったような印象でした。
もともと出場予定だった中国杯は今週末。2週連続出場となりますが次戦には調子を合わせてこれるでしょうか?2週連続出場となったことが吉と出るか凶と出るか、やや不安になってきました。でも本人は、フリー演技後のインタビューでは過去の失敗は振り返らずに前を向いているようです。
Jia SHIN 🇰🇷 123.10 / 182.33
— Golden Skate (@goldenskate) October 18, 2025
“After making a mistake, I don’t look back on them anymore during my performance, they’re already made. The mistakes are done, so I just focus on what’s in front of me and on the next element. That’s how I was able to bounce back today in the second… pic.twitter.com/aWUtXndZHY
キム・チェヨン選手
2025ボストンワールド前の交通事故の後遺症を心配していたキム・チェヨン選手ですが、本人のインタビューによると今は足首を痛めているようです。SPでは精彩を欠きましたが、フリーはある程度まとめられたので次戦は期待できるかもしれません。
Chaeyeon KIM 🇰🇷 125.35 / 187.59
— Golden Skate (@goldenskate) October 18, 2025
“Today I wasn’t as nervous as yesterday. Before the loop, I felt like I hit a hole in the three turn, so I ended up not doing the loop. I was thinking about how I could add an additional Axel — it was a bit stressful, but I think I did okay with… pic.twitter.com/FGjOqks9Qx
フリーでトリプルループが跳べず(助走時に何かに引っかかって踏み切るのをやめた)、「これは点数的にかなり痛い」と思っていたのに、フリー終了時の暫定得点表示のチェックボックスが全部埋まっていたんで「?」と混乱しました。
「コリオステップ直後に跳んだダブルアクセルか?あれ急遽入れたんだ!」とわかったのはその後。あそこにダブルアクセルを入れるため、コンビネーションジャンプの後半に入れてたダブルアクセルをダブルトゥループに変更していたことも把握。いや~冷静なリカバリー判断力、素晴らしいですね!
ペア
ペアは、「りくりゅう」こと三浦璃来/木原龍一組が現地練習でも好調との情報だったので安心して視聴できました。今季は意図的にヨーロッパ開催の大会を選んだようです。
ディアナ・ステラート=デデュク/マキシム・デシャン組
「ステデシ」ことディアナ・ステラート=デデュク/マキシム・デシャン組のSPでのスローバックフリップとのような動きは、スムーズにプログラムの中にはまっていましたね。私は規定技のスロージャンプの方が幅が出てずっと好きですが、高さは出るのでコリオの一環としては面白い試みかもしれません。
ただ、SPに比べるとフリーはまだ滑り込めていない印象を受けました。冒頭のツイストでの思わぬミスの影響だけではなかったように思います。ジャンプの「抜け」はよくあることですが、ツイストの「抜け」って、トップクラス選手では初めて見たかも?それ位珍しいタイプのミスでした。

彼らはSPフリーとも新プロですし、次戦にはさらに仕上げて来るでしょうからまた印象が変わるものだと期待しています。
三浦璃来/木原龍一組
「りくりゅう」こと三浦璃来/木原龍一組はSPを継続したこともあって、シーズン序盤にしてはフリーがかなり仕上がっています。
私が気になっていたフリーのフィニッシュポーズは三浦璃来選手を高く掲げたままで終わりました。タイミングが早いと掲げた後に下ろしてポーズ、タイミング通りだと掲げたままフィニッシュ、という風に決まっているのかもしれませんね。

ふたりの試合後のインタビューが相変わらず名コンビっぷりが炸裂していてとても楽しいのですが、ほぼ全部が有料記事ばかりなんですよね。契約している媒体がある方は、是非課金者限定コンテンツのインタビュー記事を読んでほしいです。
私は有料インタビュー記事を読みながら「五輪の際は、有料記事じゃない部分でも彼らの個性を伝えてもらえるといいなぁ」なんて随分先のことを考えていました。私は「滑り」がピカイチな二人を凄く応援しているので、とにかく怪我なく五輪を迎えてほしいです。

男子シングル&アイスダンスの振り返りは別記事で公開します