2025世界ジュニア選手権 女子フリー 島田麻央選手「3連覇」の喜びと報道&年齢制限へのモヤモヤ

2025年世界ジュニアフィギュアスケート選手権の大会ロゴ

今回は、先日の2025世界ジュニアフィギュアスケート選手権・女子フリーについてです。女子シングルは島田麻央選手が総合230.84点、2位以下に40点以上の差をつけての優勝となりました。

今大会には国籍変更した元ロシア選手がこれまでになく多数出場していました。3人のスケーターが4回転ジャンプ(サルコウorトゥループ)に挑み、トリプルアクセルには8人ものスケーターが挑戦するというなかなかスゴい展開。

「ロシア女子が席捲していた時代はもっと凄かったのでは?」と思って過去の世界ジュニアを調べてみたのですが、意外にもトリプルアクセル以上の高難度ジャンプ数は今大会がダントツに多かったです。

確かに北京五輪前はロシアに高難度ジャンプ跳ぶ女子が多数いましたが、一か国からは最大3名までしか出られませんからね。ロシアでトレーニングを受けていた女子が国籍分散した&他国の女子も力をつけてきた結果かと思います。

高難度挑戦が増えた影響もあってか、女子シングルにしては比較的ミスが多めな印象のフリーとなりましたが、それはそれで見ごたえはありました。

一方で採点や「史上初の3連覇」の連呼にモヤモヤするものも感じたので、そこも含め振り返っていきたいと思います。

2025年世界ジュニアフィギュアスケート選手権リザルト

目次

世界ジュニア「3連覇」が激レアな理由

フィギュアスケートファンの多くは、「世界ジュニア3連覇」「来季4連覇へ」と言われてもスッキリしない人が多いでしょう。

「ジュニア」の一歩手前である小学校3~6年の「ノービス」ならば「3~4連覇」は素直に「スゲー」と称えられてきましたが、ジュニアは違う。ジュニア(13~19歳 ※ペア男子のぞく)移行後すぐに優勝できるほどの実力ある選手なら、以前なら15歳になったらすぐにシニアに移行してましたもんね。世界ジュニアを「連覇」できるチャンスはせいぜい1~2シーズンまで。

島田麻央選手は、シニア年齢15歳⇒17歳への引き上げ変更年にもろに当たってしまい、以前の規定なら今季はもうシニアとして戦えていたはずなのに、「ジュニアに2年間閉じ込められる」事態になっています。その状態でメディアに連覇連覇と言われましても…って気分についなっちゃいますね。

これまでシングル競技での世界ジュニアの連覇は2連覇が3人のみ。2007&08のアダム・リッポン選手、2013&14のエレーナ・ラジオノワ選手、2018&19のアレクサンドル・トゥルソワ選手

連覇のチャンスをものにできなかったレジェンドスケーターも多数いたことを考えると、「シングル競技での3連覇」は世界初の快挙。華々しく報道されて当然とは思います。

但し書きなしの「史上初の3連覇」扱いに物申す

しかしここ数日、日本の複数のメディアが「史上初の3連覇」と連呼していましたが…

カップル競技には「世界ジュニア3連覇」が過去に3組います史上初ではありません。
「史上初」のフレーズを使いたければ、「シングル競技では」との但し書きが必須です。

「史上初」を使っていなかったり、本文中に但し書きを入れたりしている記事はあります。(「男女通じて史上初」って曖昧な表現には「どうなん?」と思うけど、事実に忠実に書こうと意識している感は伝わります)

しかし「シングル競技では」の但し書き一切なしで「史上初」と報道しているメディアが思いのほか多く、うんざりです。

有名どころだと、中国のスイ/ハン組(ペア)が世界ジュニア3連覇経験者です。

ただし彼らは世界ジュニア初優勝の翌年からシニアの試合にも出ていて、シニアのグランプリファイナルにまで進出しています。ジュニア&シニア掛け持ちを2年も続けていたのは連盟の方針でしょうか。

旧ソビエト連邦のナタリア・クレスティアニノワ/アレクセイ・トルチンスキー組(ペア)も3連覇しています。ジュニアに長くとどまっていたのは、「国内のペア選手層が厚すぎたから」かもしれません。彼らはシニア移行期にソビエトが崩壊し、その後アゼルバイジャン国籍でユーロ(6位)とワールド(16位)に出たぐらいで、シニアでは突出した成績は残せていません。

彼らはその後アゼルバイジャンからロシア籍に変更、1995年名古屋NHK杯で銅メダルを獲っています。
ナマで演技をご覧になった方も結構いらっしゃるかも?

アイスダンスでは、リレハンメル五輪&長野五輪で金メダルを獲ったグリシュク/プラトフ組のエフゲニー・プラトフ選手が、オクサナ・グリシュク選手より前に組んでいたパートナー、エレーナ・クリカノワ選手と世界ジュニア3連覇しています。こちらもジュニアに長くいたのは国内競争が激し過ぎたせいかな?

スイ/ハン組好きだった人なら彼らが世界ジュニア3連覇していることはご存じの方が多いでしょう。私も彼らが好きでしたから、但し書きなしで「史上初3連覇」って書かれてる記事を見るとイラッと来ます

メール等で誤りを指摘した方がいいのでしょうが、対象になる媒体が多くて行動できてません。だいたい過去にこの手の誤報指摘したところで訂正してもらえたこと一度もないしね…

先月の四大陸選手権で「日本のメダルゼロ」なんて書いた媒体もありましたしね。(りくりゅう金メダル獲ってんのに?)

「フィギュアスケートにはシングル競技しかないと思てんのかー!最低限のことぐらい調べろやー!間違えたのわかったらちゃんと訂正しろー!」と文句を言いたくなります。

※私は誤りは訂正したいので、当サイト内の誤りを発見された方はご指摘願います

女子フリーの振り返り

メディアへの愚痴が長くなってしまいました。
ここからは女子フリーの中で、印象に残った演技を振り返っていきます。

ハナ・バス選手

前半で一番驚いたのはオーストラリアのハナ・バス選手のトリプルアクセルです。

「トリプルアクセル挑戦するらしい」という噂は知ってたものの、ファーストジャンプがトリプルループ。「あれ?アクセルは回避なの?」と思ったら、2本目に入れる構成でした(!)。1本しか跳ばないのに何故かトリプルアクセル単独じゃなくてダブルトゥループをつけるのがちょっと謎。

それを加点つきで決めちゃいました!南半球選手初の国際大会トリプルアクセル成功者!!!

彼女を初めて知ったのは、2023のジュニアグランプリシリーズ大阪大会でした。日本人のお母様の実家が大阪にあり、今は友野一希選手の所属しているクラブで練習しているとのこと。世界ジュニアの女子のキス&クライに平池コーチがいるのは、なかなか新鮮で面白かったです。(リンクサイドでかわす会話は日本語でした)

他のカテゴリ演技中、日本人選手と一緒に観戦してた姿も可愛らしかったです。数少ない南半球選手、ミラノ五輪は年齢制限で出られないけれどアルプス五輪には出てきそうなので応援したいです。

アンナ・ペゼッタ選手

アンナ・ペゼッタ選手のジャンプの飛距離も凄くてめちゃくちゃ記憶に残りました!

同じイタリアのララ・ナキ・グッドマン選手がボストンワールドでイタリアの五輪出場枠2枠が獲れなかったら、彼女が五輪代表かっさらうかもなって思いましたね。安定感の問題はまだありますが、ポテンシャルの高さは捨てがたいと思います。

私も一度フルサイズのリンクでの彼女の演技をナマで見てみたいです。かなり好きになりそうな予感。今大会後にX(Twitter)のアイコンを壁に激突した写真に変更したのも好感度高し(笑)。

演技後のインタビューで国別対抗戦来るかもって言ってますね。

シン・ジア選手

最終前グループのシン・ジア選手のフリーは「愛の夢」。彼女のイメージに合った繊細&優雅なプログラム。高いPCSが望めそうだしノーミス演技を見せたら表彰台もあるかな?と思いました。

しかし残念ながら後半のトリプルルッツートリプルトゥループで転倒。結局今季はずっとジャンプが安定しないまま終わってしまいました。

それ以外は美しくまとめたのはさすがでしたが、私はこの時点で「シン・ジア選手の4年連続表彰台は無くなっただろう」と思ってました。

しかしながら最終グループは島田麻央選手以外回転不足&ミスが多発し思いのほか点が伸びず。今大会で銅メダルを獲ったエリス・リン=グレイシー選手がかろうじて冒頭ルッツコンボの着氷乱れに抑えましたが、シン・ジア選手の190.53にはわずかに届かず。

結局シン・ジア選手は今大会はSPフリーともに転倒がありつつも、「世界ジュニア4大会連続銀メダル」という結果を残しました。この記録も今後そうそう破られることはなさそうに思います。

和田薫子選手

演技が良かったのに一番モヤモヤが残ってしまったのは、和田薫子選手の演技でした。

全ジャンプを大きな乱れなく着氷し、暫定得点表示では高得点。しかし最終的にはダブルアクセル以外全部のジャンプに「<(アンダーローテーション)」か「q」がつき、技術点が約10点下がりました

「いくつか回転不足は取られちゃうかもな」と危惧してはいたけど、まさかあそこまで減るとは…

一方スケーティングの良さはちゃんと評価されており、PCS60.93はシン・ジア選手を抑えて全選手中2位

専門家から見るとジャンプに難はあるのかもしれませんが、あそこまで減点されるとさすがに萎えますね。全体的に回転不足判定が厳しいのならまだしも、他の選手の時は「あれ?回転不足つかなかったんだ?」ってなったこともあり、一貫性が感じられなかっただけに。

(専門家の視点では一貫性はあるのかもしれないですけど、理解できる説明をしてほしいです)

私が日本人びいきなせいで、回転不足認定に一貫性がないと感じるのかも…」とも思い、海外掲示板を覗いてみました。

そしたら全然そんなことはなかった。
むしろ海外掲示板の英語圏スケオタの方が日本のスケオタ以上に怒り倒していました(苦笑)。

「カオルコだけ厳しく回転不足取り過ぎ!」「あの選手の〇〇は取らなかったくせに何で急に厳しくなった?」「PCSもっと出していいだろ!」てな声が多数。書き込んでたのが日本人or日系人という可能性もありますが、それにしても多かったです。

彼女はJGPF銀メダルで知名度が上がっていたし「見た目ノーミス演技」が少ない試合だっただけに注目度が高かったのもあるでしょう。「じゃあJGPシリーズでの採点は何だったんだよ?違い説明してくれよ!」って思うのは無理もないかと。

本人は演技後のインタビューで「総じてとても貴重な経験になった。来季は今回発見した課題をしっかりと克服してがんばりたい」と冷静&前向きな発言をしています。今後の活躍を期待したいです。

中井亜美選手

中井亜美選手はトリプルアクセル2本構成に挑戦してきました。しかし残念ながら2本とも着氷が乱れ、コンビネーションを付けられず2本目がREPEAT。更に2本ともアンダーローテーションを取られて手痛い失点になりました。

結果からすると、トリプルアクセル1本構成で抑えておけば世界ジュニア2度目のメダルを手に出来ていた可能性は高かったでしょう。でも、彼女はジュニア最後の試合で「挑戦」することを選びました。

表彰台は逃したものの4位でポイントも稼げましたし、今季シーズンベストスコアから来季のグランプリシリーズ大会出場は保証されています。怪我で出場できなかった昨季のことを思えば、この大舞台で闘志溢れる「復活のシンデレラ」を見せることができたのは前進だと思います。

彼女がシニアでどれだけ戦えるか、五輪代表争いにどこまで食い込めるか。来季の挑戦が楽しみです。

島田麻央選手フリーの印象の急変

今だから正直に言いますが、私、島田麻央選手の今季フリー「窓から見える」は「何だか不気味な曲で変なプロだな」とずっと思っておりました

でも、私は今回の彼女の演技でその認識を改めることになりました。

直前のプログラムがまさかの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」

そのきっかけの一つは、彼女の直前に演技したSP2位のインガグルゲニゼ選手(ロシア⇒ジョージア)の演技だったかもしれません。

私は彼女のフリープログラムを見るのは今回が初めて。数字のカウントが聞こえてきた当初は、「アダム・シャオ・イム・ファ選手の過去フリー曲みたいだな。こっちは日本語じゃなくて英語のカウントだけどw」って思ったんですが…すぐに「これ、ビョークの声?」と気づきました。

これって…ビョーク主演映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の超絶鬱展開シーンで流れる曲じゃないの?

最初の曲は「107 steps」という鬱曲。その後「Cvalda」という曲に変わりますが、これも「ダンサー・イン・ザ・ダーク」から。

ビョークの声はねっとりとのびるから、曲によってはフィギュアスケートにすごく合います。高橋大輔さんのエキシ「バチュラレット」とか凄く良かったですしね。

しかし選んだ曲は2曲とも前衛的な曲調でして。

「Cvalda」はデジタルリマスター版公開時の宣伝動画前半で聴けます 他にメロディアスな曲あるのに何故これにしたのか謎

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」は「ビョークの歌唱が見事&演出も素晴らしい名作ではあるけれど、二度と観たくない映画」です。

「ミュージカル映画の曲使うスケーターは多いけど、よりによってこれをジュニア女子が使うとは…本人と振付師どちらが選曲したかはわからないけど、挑戦的にも程があるだろうと唖然。

インガ・グルゲニゼ選手は残念なことにミスが多い演技になってしまい、表彰台を逃しました。いい演技が出来ていたら、私のこのプログラムの印象も変わっていたかもしれません。

この直後に流れた「窓から見える」は、いつも以上に爽やかに響きました

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の前衛的な陰鬱さを味わった後だと、「窓から見える」の世界観はより詩的さ&荘厳さが際立ちます。そこに島田麻央選手の個性が加わると、ちょっと不思議で怖いメルヘン童話のような奇妙な世界観になったように感じました。

初めて感じ取れた「島田麻央選手の個性」

そのうえ、あのクリーンな演技でしたからね~。

これまで私にとって島田麻央選手は「演技要素を淡々と見事にこなしていく」印象が強く、「プログラム中の感情表現が伝わりづらい」と感じていました。

その彼女がまとう雰囲気が、今回はいつもと違う気がする。全日本選手権でナマで演技を見たときには感じられなかった「異世界の生物の不敵さ」が時折漂っているような…?一瞬だけど魔王感みたいなものも見えた気すらしました。

私は次第に「この若さでこの異色プロを滑るのって実はすごくね?」と思い始めました。

ラストのスピンに入った際には「これって、実は島田麻央選手の個性が初めて見えた『初期の名プロ』かも」とすら思いました。

今まで不気味な変曲だと思っててごめんなさい、『窓から見える』ってこんな壮大な世界観の曲だったのね」と懺悔したくなる気持ちに

SPで演じたミュージカル「ウィキッド」の名曲「Defying Gravity」は普通に「いいね」と感じたけれど、このフリーは私の心の違う階層に届いた感じ。世界ジュニア終了後、youtubeで「窓から見える」の生歌唱&演奏を探して聴いたら、素直に「いい曲じゃないか」と思えました。

まさかこのプロをこんな気持ちで観終えてジュニアの今シーズンが終わるなんて、今季前半には思いもしなかったです(苦笑)

世界ジュニア3連覇は快挙

とにもかくにも3連覇はすごい快挙です。

3年連続で、最終戦の世界ジュニアでそのシーズン一番の演技を毎回やり遂げるってえぐすぎませんか?

島田麻央選手の「残り1年」について思うこと

島田麻央選手がこのまま怪我なく過ごせたら、来季とんでもない確変をする女子ジュニア選手が出てこない限り「4連覇」の可能性は高いと思います。

「前人未踏」ではあるけど「4連覇」については「なんだかね…」ってやっぱり思っちゃいます。

もう「シニアのルールで、シニアの選手と競わせてあげてよ」ってつい思ってしまう

これまでにも何度か書いてますが、私はタラ・リピンスキー選手が五輪金メダルを獲った頃から「15~16歳の少女体型の選手が短期間だけ無双して引退する風潮」を嫌っていました。なので私はシニア年齢引き上げ自体は歓迎派なんですよ。

ただ私には島田麻央さんは「少女期の体型メリットに頼って勝ってるスケーター」じゃないように思えるだけに、内心複雑なのです。彼女のトリプルアクセルは、スピード&パワーで跳ぶ印象だから成長期後も保てそうに見えるし、スピンは極上。シニアの試合に出られないのを歯がゆく思います。

浅田真央さんがトリノ五輪に出られなかったのも勿体なかったけど、あれは彼女が生まれる前から決まってたルールでしたからね…島田麻央選手の場合、試合の真っ最中にゴール位置を変えられたようなものでモヤモヤを感じる人は多いと思います。そんな中でモチベーションを見失わず、毎年の世界ジュニアで好演技を続けている彼女には感服します。

彼女のシニア構成を見られるのが全日本だけなのが本当に残念。シニアになったらPCSは今より下がるでしょうが、SPにトリプルアクセルも入れられるし、フリーではステップもフルに入れられて点は上積みできる。世界女王を超えうるポテンシャルがあるので、試合が面白くなる。ルール遵守は必要だけど、シニアの試合で早く彼女の活躍を見たいと思ってしまいます。まぁ年齢制限導入された経緯を考えると特例を!とまでは思わないのですが、何とも言えないジレンマを感じます。

どうかジュニアの残り1年、怪我なく過ごしてシニアを迎えて欲しいと思います。

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