ボストン滞在記<10>アイスダンス振り返り「キスクラ真横の暫定首位席」の切なさ&9月の五輪最終予選展望

アイスダンス表彰式でメダリストたちに花束が贈呈されている時の表彰台メンバー全景 マディソン・チョック選手が花束贈呈者と握手をしている

「Ice Brave」開始までには何とか終えたいと思っている2025世界フィギュアスケート選手権の振り返り今回はアイスダンスRD(リズムダンス)&FD(フリーダンス)をまとめて振り返ります。

アイスダンスについては印象的だったことを現地で割と書き残せているので、9月の五輪最終予選の展望や、現地で書き切れなかったことを撮影写真や採点表を見つつじっくり。FD整氷中トークコーナーにはシブタニ兄妹が出てきたので、米国&カナダの五輪代表争いの苛烈さについても少し

そして、後半には「キス&クライの真横に設けられた暫定首位席」についての何と言えない気持ちを改めて記しました。

現地では楽しい光景や感動的なドラマも見られましたけど、見たくなかったシーンも目に入りました

私はこういう形での「暫定首位席」はもういいかな…

2025世界フィギュアスケート選手権リザルト(総合)
2025世界フィギュアスケート選手権アイスダンスRD採点表
2025世界フィギュアスケート選手権アイスダンスFD採点表

目次

後半悪夢の展開だったRD ⇒ 五輪最終予選突破がハードモードに

RDは、思い出したくないぐらいの大波乱でした。

「トゥルヴェル」ことユーリア・トゥルッキラ/マティアス・ヴェルスルイス組(フィンランド)と「アリサウ」ことアリソン・リード/サウリウス・アンブルレヴィチウス組(リトアニア)双方が転倒し、RD20位と21位になったのです。

20位のトゥルヴェルはギリギリFD進出できましたが、21位のアリサウはまさかのRD落ち。リトアニアの五輪出場枠を確保できず。最終的に2枠確定できたフィンランドとは対照的な結果になりました。

続いてRD22位だったのは日本の「うたまさ」こと吉田唄菜/森田真沙也組

SB(シーズンベストスコア)に迫る好演技を見せたものの、FD進出にはあと一歩及ばず

観客へのメッセージは「This is our first worlds, we are having so much fun!」“初めてのワールド、とっても楽しんでます!”

つまり、彼らは9月の五輪最終予選ではアリサウと残り4枠を争うことになるわけです。

アイスダンスの五輪最終予選の展望

残されているアイスダンス五輪出場枠4のうち、一つはアリサウ(今季PB199.66)が確実に持って行くでしょう。ユーロメダル持ちのアリサウは、多少のミスをしても他の組を容易に近づけない程の実力差があります。

オーストラリアのホーリー・ハリス/ジェイソン・チャン組(今季PB179.53)も大ミスをしない限り当確に近そう。

残り2枠を争うのは、SB(シーズンベストスコア)170点以上の下記の組でしょうか。

マリアイグナテワ/ダニジル・レオニードビクス・スゼムコ組(ハンガリー)
⇒SB&PB174.95

ミラ・ルード・レイタン/ニコライマヨロフ組(スウェーデン)
⇒SB&PB172.56

吉田唄菜/森田真沙也組(日本)
⇒SB&PB171.59

キャロラーヌ・ソシース/ジェーン・フィリス組(アイルランド)
⇒SB171.34、PB181.39(2019)

ビクトリア・マンニ/カルロ・レートリスベルガー組(イタリア2枠目)
⇒SB&PB170.75
※イタリアには2025世界ジュニアアイスダンス王者(SB&PB177.50)がいるので、そちらの方が脅威?

ソフィア・バル/アサフ・カジモフ(スペイン2枠目)
⇒SB&PB 170.50

(国籍取得難しい?と思われる組は除きましたが、アイスダンス詳しくないのでリストアップが不完全かも)

このあたりは皆お団子状態なのでSB170点以下の組にもチャンスはあります。シーズン序盤の9月五輪最終予選での出来栄え次第です。

このラインでの五輪枠獲得に臨む組にとっては、アリサウが予選大会出て来るのは「勘弁して…」という気分だろうなと思います(苦笑)。日本のアイスダンスは団体戦での五輪出場がほぼ確定とはいえ、当然個人戦も出たい。ここで勝ち取れるといいなと思います。

個人的には男子シングルから転向したニコライ・マヨロフ選手(スウェーデン)がアイスダンスでも五輪出場を果たせるかどうかがちょっと気になります。

(私、彼は五輪未出場だと思い込んでましたが、連盟の厳しすぎる仕打ちで平昌の五輪に行けなかったのはお兄さんのアレクサンドルさんの方で、ニコライさんは北京五輪男子シングルで出場してました。エストニアのセレフコ兄弟もそうですけど、兄弟選手ってどうしても戦歴がこんがらかりますw)

FD前半

ここからはFDで印象に残った演技について、現地写真見ながら振り返っていきます。

FDの現地観戦直後の新鮮な記録はこちら。

ユーリア・トゥルッキラ/マティアス・ヴェルスルイス組(フィンランド)

アイスダンスのフリーは20組のみ。最初にいきなり「トゥルヴェル」ことユーリア・トゥルッキラ/マティアス・ヴェルスルイス組が登場。

彼らの観客へのメッセージ画面、残念ながら撮影し損ねました

ギリギリ彼らのフリーのタンゴを観ることができたというのに、「何でトップバッターやねん…」という複雑な想いと「出られてよかったぁ…」という安堵とがまぜこぜになった変な気持ちの鑑賞だったためか、あまり演技の記憶が残っていません。

FD7位で、RD20位から一気に浮上し最終的には総合11位。RDの転倒が無ければ入賞だったでしょうね。

折原裕香/ユホ・ピリネン組(フィンランド)

フィンランドの来季ワールド&五輪の枠を「2」にできるかは、「ピリハラ」こと折原裕香/ユホ・ピリネンの結果次第。

彼らのFDは「コーラスライン」。滑る前から観客席のあちこちからコーラスラインの「ONE」のメロディーの鼻歌が聞こえてきます(笑)。アメリカ人どんだけコーラスライン好きやねんwってレベル。

観客へのメッセージは「Let us entertain you」 あなた達を楽しませますよ!

動きは軽快・溌剌、サイコーな「コーラスライン」でした。観客は、笑顔の陰で必死にもがき挑むダンサーたちの泥臭さ&美しさを描いたドラマを勝手に見出してしまいます。

110.74でFD14位。盛り上がりからまだ冷めていない観客席からは「もっと出せー!」って感じで軽くブーイングが起きました。

ユーロ(欧州選手権)でPB118.24出してたので、何かで大きくレベル落としたのかと思い採点表を比較しましたが、技術点のベースバリューは0.25低いだけ。GOEとPCSで7点以上の違いが出ました。

それでも総合14位。2枠の条件は出場した上位2組の順位合計が13~28ですから、11+14=25<28 で、フィンランド2枠確保確定。

といっても折原裕香さんはフィンランド国籍を取らない限り五輪は無理なんですけどね。五輪で彼らを観たい想いはあるけど、一生の選択だしそんな簡単なことじゃないからなぁ…。少なくとも来年のワールドで再びこの二組を見ることができそう?なのは嬉しいです。

整氷タイムにはシブタニ兄妹!⇒その後の現役復帰で五輪枠争い熾烈に?

整氷中のキス&クライにはShibsことシブタニ兄妹、マイア・シブタニ/アレックス・シブタニ組が登場、恒例の観客向けインタビューコーナーが開催されました。

私、古風なアイスダンスの空気感がある彼らの演技が結構好きだったので、久々に姿を見られたのは嬉しかったです。2017名古屋グランプリファイナルでナマの滑りを一度だけ見ることができたのは良い想い出。

会場モニターに映るシブタニ兄妹、中央にはインタビューアのベンジャミン・アゴストが映っている
中央はベンジャミン・アゴストさん この時はまさか現役復帰宣言するとは思ってもみなかった

平昌五輪個人&団体で銅メダルを獲った後に休養していた2019年にマイアさんの腎臓がんが判明し摘出手術。抗がん治療を続けていたこともあり長く競技から離れていました。

最近は日本の試合の観客席などで見かけることもあり、「治療がうまくいったんだな、再発もせずよかった」と安心していました。それが、まさか現役復帰宣言をするとはね。

最後に試合を見たのは平昌五輪シーズンなので凄く前の選手のような気がしますが、現在二人はまだ30歳と34歳。アイスダンスのトップクラス選手たちより少し若いぐらいなんですよね。がんに罹っていなければ、彼らも現役を続けたかった気持ちがあったのかもしれません。

ミラノ五輪のアイスダンス枠は、3枠を確定させている米国国内の代表争いも熾烈になりそう。米国の選手層めちゃくちゃ厚いですからね。ワールド3連覇を果たしたマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組は余程のことが無い限り出場当確でしょうが、残り2枠がどうなるか

今回5位に入賞した「カレポノ」ことクリスティーナ・カレイラ/アンソニー・ポノマレンコ組、今回9位の「グリパー」ことキャロライン・グリーン/マイケル・パーソン組の他にも、四大陸選手権5位の「ジンコレ」ことエミリアジンガス/ヴァディム・コレスニク組もいるし、GPS出てるカップルは他にもいる。でもって、ここにシブタニ兄妹が加わるわけでしょう?

しかも「カレポノ」&「ジンコレ」は国籍取得が間に合うかどうかという問題も別途あって、ちょっとややこしい。(どちらも米国在住歴は長くてグリーンカード取得済だそうですが、最新情報はよくわからず。トランプ政権になったことが吉と出るか凶と出るか…?)

同じく3枠を確保しているカナダも、組み替えによってロランス・フルニエ・ボードリー/ギヨーム・シゼロン組というビッグカップルが爆誕したこともあり、五輪代表争い超熾烈なんですよね。

日本の男女シングルの五輪代表争いもえげつないけど、アメリカ・カナダのアイスダンスの五輪代表争いもかなりエグいです…

FD後半

オリヴィア・スマート/ティム・ディーク組(スペイン)

今季FDに関しては、「スマディク」のこのプロが一番好きでした。滑りに関してはトップクラス層の方が好きですが、ここまで世界観をどっぷり出せるのは凄い!衣装も好き。オリヴィアさんの衣装を手掛けたマディソン・チョック選手にはコスチュームデザインを今後も極めてほしい!

観客へのメッセージは「LISAN AL GAIB!」リサン・アル・ガイブは「DUNE砂の惑星」で外界から現れた預言者的存在を指す

「コーラスライン」やら「DUNE」やら、既存映像のある世界観を“借りる”のを安直だと捉える辛口目線の人はいるかもしれません。でもそういう系統の作品をやったとしても、どこまでその世界を深く描けるかは実力次第なわけで。

特に中堅層や伸び盛りの若手にとって「観客受けするプログラム」を打ち出せるのは大きいと思いました。彼らが来季どういうプログラムをやるかにもよるとは思うけど、これが飛躍の一歩になりそうな予感は今季ずっとありましたね。

シャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組(イタリア)

今季、ジャッジ評価の停滞に悩み続けた感がある「シャルマル(ギニャファブ)」ことシャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組。

私も正直申しまして、今季FDは最後までピンと来なかったです。昨季のエキシビションバージョンのロボットプロは大好きだったんですけどね。競技では彼らの滑りをもっとシンプルに堪能したかったというか、彼らで見たい路線はこういうのじゃないというか…。

ユーロ(欧州選手権)ではフランスの「ロバプリ」や「ライラルイス(フィアーギブ)」を抑えて優勝でした。私はワールドではスッキリとこのプロを楽しめるのかなと期待してたんですけど、何だか今一つ気持ちが乗り切れずに終わってしまいました。

観客へのメッセージは「Boston we came here for you」“ボストンの皆さんのために来ました!”

チョックベイツ組も今年は「彼らの王道路線」から敢えて少し外してた感ありましたし、シャルマルも「今年は変化球にしておくべき」との判断だったのでしょう。

採点への不安感が彼らにあったかどうかはわかりませんが、私が勝手に彼らの演技に「不安感」を見出してしまったことが、気持ちが乗り切れなかった原因かもしれません。

ライラ・フィアー/ルイス・ギブソン組(イギリス)

対照的にすごく元気に見えたのが、「ライラルイス(フィアギブ)」ことライラ・フィアー/ルイス・ギブソン組でした。出てきたときからボストンの観客を味方につけて波に乗って行った感を感じました。

観客へのメッセージは「We love your support. Let’s hear you scream」“応援ありがとう 盛り上がってね!”

パイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組(カナダ)

フィンランド大会で私に強烈な印象を残した「パイポー」ことパイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組。

今季RDで一番好きだったバービー&ケンは大波乱の流れで全然楽しめなかったけど、FDの「青い影」は堪能できました。ポールさんの背中の穴と共に(笑)。

観客へのメッセージは「Welcome to Piper & Paul’s World!」“パイパーとポールの世界へようこそ!”

最後まであの穴に何の意図があったのかは読めなかったけど、インパクトは抜群でした。フィンランド大会であの衣装に対する免疫がついていたため、ボストンでは演技そのものに集中できてよかったです(笑)。

マディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組(米国)

最終滑走はRD1位の「チョクベイ」ことマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組。地元選手とあって凄い声援でしたね。

FDは何ともこじゃれた「Take 5」。お得意とする「難解な抽象概念を描いたプロ」ではなく、ひたすらクールな雰囲気とスピード感で強引に押し切るジャズプロですが、私はこれ結構好き。滑りにプラスされる、美しくスキのないポージングが本当好きなんですよね。

観客へのメッセージは「Let’s Go Boston」

演技後の歓声は凄かったです。観客たちは文句なしのワールド三連覇、と言う感じでした。

ミラノ五輪シーズンまでこの勢いが保てるかどうか?今のシブタニ兄妹は米国アイスダンストップグループのどのあたりに入れるのか?

私どっちも好きなんで、全米選手権の結果が今から気になります…

「キス&クライ真横の暫定首位席」に感じた思い

2025世界フィギュアスケート選手権のボストン会場では、キス&クライの真横に暫定首位席が設けられました。最終2グループに入った時点での首位の選手はリンク脇に座って、後続選手の演技を見続けます。

観客は、暫定首位席に座る選手の笑顔や、リンクに届かなかったぬいぐるみを拾って演技直後の選手に渡すところ、首位交代時に抱き合って健闘をたたえ合う光景などを目にできました

好きな選手のオフアイスの時間を眺められるのは純粋に楽しいです

でも、順位の変動にジャンプの成否の割合が大きいシングル・ペア競技と違い、アイスダンスは「わずかな差をジャッジがどうとらえるか」で順位が変動します。最も「採点競技」の色彩が濃いカテゴリであり、「ジャッジ内の格付け」がどう変動していくかはファンも注目しています。

なので、利害が対立する組が並んでいる光景は、あまり楽しそうには思えません。

手前でライラルイスが採点を待つその向こうで、暫定首位席のシャルマルも採点を待っている 

私が見ていて一番きつかったのは、ライラルイス(フィアギブ)の採点前後です。自分たちのFDの得点に今一つ納得がいっていなさそうに見えたシャルレーヌさん&マルコさんは、次のライラルイスの採点待ち中、かなり不安そうに見えました。

そして得点&最新順位がコールされ、ライラルイスがワールド初メダルを獲得、自分たちは表彰台を逃したことが判明します。

その瞬間二人はすっと立ち上がり、シャルレーヌさんは一人先にステージを下りて行きます。立ち去ろうとする彼女にマルコさん何やら声をかけているのが見えました。

結局彼女はそのまま足早に退場、マルコさんはその後一人でキス&クライの二人を祝福に行きました。

全ての選手が敗北を即座に受け入れて勝者を祝福できるわけではありません。この試合に賭けてきたのだから悔しくて当然だし、一人になる時間が必要な人も多いでしょう。

これまでもグリーンルームでは悲喜こもごもの光景が繰り広げられてきましたが、本人が映してほしくなければカメラの前から立ち去ればよかった。ーでも、今回の形式では会場を出ていくまで、結構な長い時間観客の目に晒されます。

こういう光景を見てしまうと、リアルタイムで観客の前に全てを晒してほしくないと思いました。

マディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組の優勝が決まろうという瞬間、暫定首位席にいたパイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組は淡々と笑顔で祝福していました。

でも、この結果がもし逆になっていたら?
グリーンルームは物理的距離があったけど、この形式だと運命が分かれた人たちがほんの数mの距離にいる。

ボストンワールドは全カテゴリとも最終滑走選手がそのまま優勝でした。たまたま全ての最終滑走者が好演技でフィニッシュできたから、「暫定首位席で気まずそうに喜びをかみしめる優勝者」を見ずにすんだだけ。

「そういう光と影があるのが勝負の世界だよ」と言うことなのかもしれませんが、私は表彰式での笑顔を見られれば十分です。

アイスダンス表彰式でメダリストたちに花束が贈呈されている時の表彰台メンバー全景 マディソン・チョック選手が花束贈呈者と握手をしている
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アイスダンス表彰式でメダリストたちに花束が贈呈されている時の表彰台メンバー全景 マディソン・チョック選手が花束贈呈者と握手をしている

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