モントリオール滞在記<9>競技4日目(男子フリー)第1~2G アダムの大逆転劇とバックフリップ/カムデン君バナー

2024WCのフリー演技後にキス&クライで採点発表を待つアダム・シャオ・イム・ファ選手たち

男子フリーの日から今日で3週間。

あの後の週末は大阪と横浜の「スターズオンアイス」があって、再来週にはもう「プリンスアイスワールド」が開催される。マリニン君やチョックベイツも来週にはアメリカでのショー「GOLD ON ICE」がある。時はどんどん進んでいるけれど、2024世界フィギュアスケート選手権の現地観戦体験をしっかり記録しておきたいので、今日も記憶をさかのぼります。

というか私、まだフジとJSPORTSの放送、ごく一部しか見られてないんですよ(苦笑)。ワールド前にCSで放送されていた「あの時、キミは…」の最終回をようやく昨日見終えたところ。今年のゴールデンウィークはどこにも遠出しないので、試合のテレビ放送版映像はその時期に観ようかと思っています。

まずは前半グループで私の印象に残った選手から。

目次

第1グループ

アダム・シャオ・イム・ファ選手

私がアダム選手をイイなと思い始めたのは北京五輪のシーズンです。それまでは「あのブライアン・ジュベールが教えている、荒削りな感じのアジア系フランス男子」としてのイメージしかなく。

そういう意味では、独特の個性があるブノワ・リショー振り付けにしたことは正解だったのでしょう。広く注目を集め始めたのはリショープロになってからですもんね。(ただ今年はもう私は彼のリショープロお腹いっぱいです。昨季の「さんじゅーっ!」の謎プロ風味はめちゃくちゃ好きだったんですけどね、来季は別の振り付け師で彼の演技が観たい)

昨年のさいたまワールドでは「表彰台行けるんじゃ?」って期待していたのにSPもフリーも乱れてしまい。悲しそうな表情を浮かべる彼を見るのがすごくつらかったです。

なので今年のワールドでもSPでミス連発してまさかのSP19位で第1グループ滑走になってしまったのは、かなりショックでした。

「表彰台は厳しいだろうけど、フリーでいい演技をしたら4~6位には確実に上がれるだろう。ぜひ好演技をして笑顔でワールドを終えてほしい」と願っていました。そう思っていたのは私だけではなかったようで、彼がリンクインしてからは、会場の観客全体にアダムの好演技を心から願っている空気感が感じられました

それまでの練習ではあまり調子は良さそうに見えなかったので、ちょっと心配していたのですが…滑り始めたら笑っちゃうぐらいジャンプが決まっていく。「これは神アダムが見られちゃうのか!?」とワクワクしてきました。「こんなん第1グループの演技じゃねえええええ!!」って(笑)。

現地観戦時と競技終了後の「バックフリップ」に対する感情の変化

フリー終盤、「こりゃひょっとしてアレやるかもな?」と思ったら…やりましたバックフリップ!

「こんなスゴイ演技できたんだったら、禁止技も入れたくなるだろうw」ーとこの時私は喜んで笑っていました。「減点されることでスモールメダル逃すかもしれんのに、スモールメダルなんていらねえよ!ってこと?w」って。何よりあのアダムがワールドでやっと会心の演技ができたことが嬉しくて。

競技にバックフリップを入れることについての考えは下記の記事で過去に触れていますが、私は反対派でも賛成派でもなく中間の立ち位置です。“「最終滑走の時ならどうぞお好きに」だけど、「後に演技を控えているスケーターがいる時や周囲にキッズスケーターがいる時にやるのはちょっとどうか派」”。

しかし、ISU(国際スケート連盟)はこのバックフリップをどうも歓迎している様子なのが、後日になって色濃くなってきました。

アダムについて取り上げたX(Twitter)やInstagramのポストは、バックフリップ映像の嵐。観客からの大量投げ込みがあった時の対応といい、本当ISUは時々理解に苦しむ方向でプロモーションをするなと思います…。さらにモントリオールから帰国後は、「競技で解禁する流れだ」という噂までささやかれだしました。

そのせいで、現地ではあんなに興奮して大喜びしたアダムのフリーが「後味の悪い演技」に変わってきてしまい、なかなか見返す気になれないでいます。

今季はずっと「今の総得点考えるとマイナス2点だけってぬるくない?5~10点ぐらい引かないと罰にならないのでは」と内心思っていたけれど、まさかその減点幅が自分が最も応援している宇野昌磨選手のメダルの有無を左右することになるなんて…という複雑な想いも正直あります。演技直後は「これで4~5位には確実に上がれるね!」と思ったけれど、これでメダルを取れるとまでは思ってなかったですからね。

私はショーでバックフリップやるのは大歓迎ですが、競技で解禁することには大反対です。トップレベルの身体能力がある人が集まるショーで限られたスケーターが実施するのと、競技で実施を許可するのとはわけが違います。ひとたび競技で認めると、この技を習得しようとする若きスケーター達の練習過程で深刻な大怪我が発生するのは確実

アイスダンスやペアは二人でやる技だからどちらかかがミスしてもパートナーのサポートが期待できますが、バックフリップは単独実施で他者の手助けは受けようがありません。本人のちょっとしたミスから本人&周囲のスケーターに重篤な障害を残す事例や死亡例が出てからでは手遅れです。

あのスルヤ・ボナリーさん自身も警鐘を鳴らしています。
「非常に危険」の声も…ナゼ欧州王者は“禁止技”バックフリップを使った? あの先駆者ボナリーが語る懸念「大怪我した選手を大勢知っている」

「こんな大事な大会のメダルを禁止技やった選手に授与するのか…」という感情は長野五輪のスルヤ・ボナリーさんの時にも抱いたし。(といっても彼女に五輪メダルが与えられてなかったらそれはそれでおかしいと感じてたと思いますけどね。ボナリーさんのバックフリップは片足着氷だし、近年のスケーターがやっているバックフリップに比べ技術レベルが高いと思っています)

大好きな選手が「第1グループ滑走からの大逆転でメダル獲得!」という、歴史に残るとんでもなく胸熱なドラマチック展開を見せたのに…。
要らぬ雑音なしに好演技を長く噛みしめたかったです。

第2グループ

カムデン・プルキネン選手


第2グループトップで登場したのはアメリカのカムデン・プルキネン選手。滑りと所作が美しくて大好きな選手でワールド出場を獲得できたことを大喜びしていましたが、彼の問題は安定感…。

でもそんな彼も、2022モンペリエワールドでSPフリーノーミスを揃え、フリー3位で総合5位ーというスゴイ結果を出したことがありますから、「ひょっとして今回のワールドでも同じようなことが起きないだろうか?」との期待は秘めていました。

でも一方で「その夢が実現する可能性は高くはないだろう」ーと覚悟はしていたので、ドラマチックな冒頭の4回転トゥループで転倒、その後ダブルジャンプが続いても落ち着いて演技を見守ることができました。細かなミスはあれどプログラムの世界観は守ってくれましたしね。結果は総合20位と前回出場時の順位には及ばぬ結果でしたが、滑りは堪能できました。

学業優秀な彼は、2か月後にはコロンビア大学を卒業する予定だと練習時のインタビューで答えています。

https://twitter.com/goldenskate/status/1770101990879576260

「まさかこれで引退とか言わないよね?来年のワールドはボストン開催なんだし、来季までは続けてくれるよね?」と願っています。幸い今のところ引退情報は流れてきていませんが、来シーズンの情報が聞こえてくるまでは不安な時期が続きそう。

昨年のNHK杯の時のSP、スピンでミスがあったけれど「これが彼にスタオベできる最初で最後のチャンスかも!?」と思ってスタオベしておいてとりあえずよかったです。今回の演技はSPフリー共に大きな拍手を送りました!

カムデン君バナータオルがアメリカ人スケオタに喜ばれていたお話

そう言えば!

私の席の近くにいた「解説者ばりにしゃべりまくるアメリカ人のスケオタ女性」は日本人観客が持っているバナータオルに終始興味津々のご様子で、会場でバナータオルが掲げられるたびにその話をしていました。その彼女がプルキネン選手の演技開始時、彼用のバナータオルを発見すると…「見て!カムデンのタオルがあるわ!日本人ファンは凄いわね!!」とめちゃくちゃ感心していたことを付け加えておきます。

もともとバナータオルで応援する文化を凄く好意的にとらえていらしたうえ、同じアメリカ人の3番手選手にもバナーが存在するということを純粋に嬉しく感じてくれていたようでした。私が作ったわけでもないのにちょっぴり嬉しかったです(笑)。

アメリカ人スケオタ女性の話題はこちらで詳しく書いています。うるさかったけど彼女のおかげで楽しかったです(笑)

ウェスリー・チウ選手

一昨日私が語り倒したドノヴァン・カリーヨ選手の演技の後に登場したのは、今季のカナダ選手権を制したウェスリー・チウ選手。SPではジャンプに乱れがあり、第2グループのスタートでした。

フリーはなんとかまとめましたが、細かいミスが続いて点数には響いてしまいました。滑りがキレイな選手なのにもったいなかったです。

今のカナダ男子の状況では来季のワールド出場枠は1枠に減るだろうーと覚悟していたスケオタは多かったと思います。会場は終始暖かい声援で彼を迎えていましたが、代表二人のポテンシャルが高いだけに、残念そうな雰囲気がうっすら広がっていたのは否めなかったです。

https://twitter.com/goldenskate/status/1771686438985248778

どうでもいい話ですが、私の近くに座っていたのインドor中東系の観客はカナダ在住のようで、地元選手が出ると必ずカナダ国旗を広げてスタンディングオベーションしていたのですが、SPもフリーもウェスリー選手の登場前に席を外していました。あまりに謎過ぎる行動で気になって仕方なかったです。好みのスケーターじゃなかったんでしょうか。

(トイレや食料の買い出しに行っているようだったんだけど、なぜわざわざそのタイミング?と。「なんでウェスリーの演技見ないんですか?」とはさすがに聞けないし。誰が何を見ようと見まいと自由なんだからほっときゃいいんですが、気になるものは気になる…)

ミハイル・シャイドロフ選手

印象的な存在感はあるものの、「ジャンプ特化型」のイメージが強いミハイル・シャイドロフ選手(カザフスタン)。

回転不足を取られやすいとはいえ、高難度ジャンプ構成を安定して着氷し技術点を荒稼ぎできるイメージがありました。なので「今年のワールドでは一桁順位、あわよくば入賞も狙えるのでは?」と予想していたのですが、SPで乱れて後半グループに入れず。キス&クライではガックリと落ち込んでいる様子でした。

去年のさいたまでは全く危なげない感じの演技をしていて「肝が据わった選手だな~」と思っていたので私もビックリ。今季はグランプリシリーズでメダルも獲得して「有力選手の一人」に成長してしまったためにプレッシャーや欲が出てきてしまったんでしょうか?

フリーも後半のアクセルで転倒してしまうなどで会心の演技とまではいきませんでしたが、最後は笑顔も出ていてホッとしました。

https://twitter.com/goldenskate/status/1771691222756679800

そしてまさかのTHE ICE2024へのエントリー!衣装にこだわりを感じさせるところ以外、あまりアイスショー向きのスケーターだとは感じていなかったのですが、まだ若いですからね。来季は私のイメージがすっごく変わったりして!?

アダムの演技についてたくさん書きすぎて長くなってしまったので、第3グループ以降はまた改めて

2024WCのフリー演技後にキス&クライで採点発表を待つアダム・シャオ・イム・ファ選手たち

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