2025年フィギュアスケートのグランプリシリーズ(GPシリーズ)最終戦・フィンランド大会(フィンランディア杯2025/フィンランディア2025)が終了し、名古屋グランプリファイナル(GPR)の出場者が確定しました。
今回は、GPSフィンランド大会競技二日目の演技のうち、男子シングルを振り返ります。
2025GPSフィンランド大会リザルト
※出場者リスト・スケジュール・採点結果などの一覧です
男子フリーで印象に残った演技
第2滑走のアンドレアス・ノルデバック選手(スウェーデン)が手を切ったアクシデントについては前回の記事で詳しく紹介しました。

波乱含みで始まった男子フリーでしたが、その後も違う意味での波乱は続きました。
ヴァルター・ヴィルタネン選手
リンクに落ちている血を気にすることなく第一滑走での演技をしたフィンランドのヴァルター・ヴィルタネン選手(現役医師だから血痕を気にしないのはある意味当然?)の演技について、前回の記事では全く触れていなかったので少しだけ。
4回転トゥループに挑んだんですが、回転は足りず(ダウングレード)転倒。その後のジャンプにもアンダーローテーションが3つつき、総合12位。チェック姿勢やスピン姿勢の美しさは健在でした
御年38歳、試合後には冗談交じりで引退をほのめかすコメントを出していました。
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🇫🇮 Valtter Virtanen #FinlandiaTrophy
— Anything GOEs (@AnythingGOE) November 21, 2025
Is this my last season? Probably yes, but it’s been my last seasons for 4 or 5 years so. It was one big mistake, the rest was enjoyable and was good quality. It’s my old short’s from the 2022-23 season so I haven’t skated to it in a while. pic.twitter.com/2i7NLZTDj2
今年の欧州選手権に出場できたら、「現役最後かも?」との覚悟は一応持ったうえで見守ることにします。
デニス・ヴァシリエフス選手&ミハイル・セレフコ選手
SPでは持ちこたえた感があったデニス・ヴァシリエフス選手(ラトビア)もフリーでは崩れて総合10位に。後半の鉄板のトリプルルッツでまさかの転倒が痛かったです。いったん着氷したように見えただけに惜しい場面でした。フリーのキス&クライでは一人ではなく、女性(噂によるとラトビアの連盟の方らしい)が一緒に座っていました。
ミハイル・セレフコ選手(エストニア)は4回転フリップに挑むも転倒、続く4回転トゥループートリプルトゥループは何とか決めましたが、「q(ごく軽微な回転不足)」をとられ、後半のジャンプに乱れが続きSP5位から順位を落とし総合8位。
まだ確定ではないですが、GPシリーズでこの点差だとミラノ五輪代表はお兄さんのアレクサンドル・セレフコ選手になる可能性が高そうです。
この二人は流血したアンドレアス・ノルデバック選手よりフリーの順位は下回りました。
ベテラン勢の意地 ~リッツオ選手・ブラウン選手・山本草太選手~
キャリアの長い三人はどちらも苦しい演技になりましたが、ベテランの意地を感じさせてくれました。
マッテオ・リッツオ選手(イタリア)
マッテオ・リッツオ選手はまたしても冒頭の4回転トゥループで転倒。私は「今季は厳しいかもな…」と一瞬弱気になったのですが、その直後に4回転トゥループーダブルトゥループのコンビネーションを加点付きで決めてきたのは、嬉しい驚きでした。
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Matteo Rizzo 🇮🇹 150.80 / 229.55
— Golden Skate (@goldenskate) November 22, 2025
Matteo:
“Unfortunately, there were many mistakes. You know, seven jumps are three big mistakes. But I enjoyed to skate more today.
I cannot say I’m happy, of course, but I’m improving and I see and I want to be and I want to stay positive.
I’m… pic.twitter.com/zVsCS9uYXs
トリプルループがダブルに抜けてしまったのは痛かったですけど、それ以降は大体まとめて150.80、総合で229.55を出しました。イタリアのミラノ五輪代表争いは苦しいですが、首の皮一枚繋がった感じはしました。
ジェイソン・ブラウン選手(米国)
ジェイソン・ブラウン選手は2位以上に入ればGPF出場もありうる立場。
優勝候補の二人がミスありのSP発進だったため、「クリーンな演技をしたらひょっとして?」という期待は残っていました。しかし、まさかの冒頭トリプルアクセル2本連続失敗。(1本目が転倒、2本目は着氷乱れ)コンビネーションジャンプをつけられなかったことで大幅減点となり、さすがにこれではGPFどころではありません。
ただしそこからクリーンにまとめていくのはさすがでしたね。転倒を忘れさせるかのような美麗スピン。ジャンプには3つの「q」判定がありましたがスピン・ステップはオールレベル4に揃えて155.51出せるのはとんでもないですね。演技後のインタビューでも、「あの失敗の後に崩れなかった自分」を自ら褒め称えていました。
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Jason Brown 🇺🇸 155.51 / 243.17
— Golden Skate (@goldenskate) November 22, 2025
“I’m proud of the fight… and that I didn’t roll down the hill, and I didn’t let the two mistakes at the beginning of the program affect the rest of the program. I’m very proud of that. I’m a fighter, but I would have loved not to fight as hard.… pic.twitter.com/dljcUvRy5L
山本草太選手
今季悩まされている腰痛に、ぜんそくまで加わって体調が心配されていた山本草太選手。
4回転トゥループー3回転トゥループが物凄く綺麗に入ったのですが、2回目で転倒。中盤のトリプルアクセルは回転がちょっと厳しいかなという仕上がりでしたが(「<」と「q」がつきました)、それが気にならない演技でした。
高難度ジャンプを複数入れることができていたサマーカップの演技よりも、私は今回の演技の方がずっと心を打たれました。点数をとれる演技と、心に響く演技は違うと改めて思わされましたね。
少し落とした構成ながらも比較的まとめた演技ができたので、チャンピオンシップ大会派遣への望みは十分に残せたように思います。

カナダ勢の争い ~ゴゴレフ選手VSサドフスキー選手~
ここ数年「カナダ代表」の盛大な譲り合いを演じてきたカナダ男子が、今年は「ハイレベルな代表争い」をしているのが嬉しいです。
スケカナではほぼ引き分けだったスティーブン・ゴゴレフ選手とロマン・サドフスキー選手ですが、今回スティーブン・ゴゴレフ選手が総合スコアで約10点の差をつけて表彰台(銅メダル)に乗りました。

ジュニア時代に天才ジャンパーと騒がれたものの長らく伸び悩んでいた、あのゴゴレフ選手がついにGPS初メダルです。代表レースで一歩リードしたといえるでしょう。

4回転サルコウを2本、トリプルアクセルを1本にしてクリーンな演技を目指したロマン・サドフスキー選手もクリーンに演技しました。
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Roman Sadovsky 🇨🇦 160.38 / 243.29
— Golden Skate (@goldenskate) November 22, 2025
“I’m glad that what I worked on from Skate Canada until now reflected in this performance, and going to the next event it’s just more growth, hopefully. And now, until Nationals, it’s going to be so quick.
On putting the quad-Sal-double-Axel… pic.twitter.com/22QS0jiubA
4回転サルコウ~ダブルアクセルというコンビネーションジャンプの投入にも驚きましたが、後半の4回転サルコウがキレイに決まったのにはビックリ。その後のトリプルルッツともども「q」つけられちゃいましたけど。

この二人が今季好調なのは知っていましたが…
近年のカナダ男子がふたりとも好演技で試合を終えるなんて、余りにも嬉しい驚き過ぎます!
特にスティーブン・ゴゴレフ選手は前半に4回転2種3本、後半にはトリプルフリップ~トリプルアクセルという「トリプルアクセル苦手が多いカナダ男子」とは思えないコンビネーションジャンプを入れる挑戦構成。「前半のトリプルアクセルがシングルに抜けていなければ、銀メダルだったかも?」と思わせました。
キーガン・メッシング選手は去年までの「代表譲り合い」の状況もあって今季の復帰を決めたと思うのですが(ロマン・サドフスキー選手は徐々に安定してきていましたけどね)、スティーブン・ゴゴレフ選手がここまで安定した状態に仕上がってきていると、カナダの国内選手権では敵わなさそうに思います。
優勝候補二人の乱調
優勝候補二人の演技はどちらも観客の期待からは遠い内容でした。
鍵山優真選手
完璧に見えてワクワクした前半からの急展開
鍵山優真選手の演技前半はとても良い感じでジャンプに大きく加点がついており、暫定技術点の増え方がとんでもなくて「ついに良演技来るか!?」とワクワクしていました。
しかし、後半の4回転トゥループへの助走で踏切タイミングを見失ってジャンプをしそびれてから歯車が狂います。
ジャンプを踏み切れなかった直後に急遽トリプルフリップを跳んだものの、壁際ギリギリの着氷になってステップアウト。ISU公式配信の実況では「伊藤みどりを思わせる壁すれすれジャンプ」と言われていたほどでした。(伊藤みどり選手はリンク外に飛び出してしまったんですが)
その後予定構成を変更しトリプルアクセルーダブルトゥループのコンビネーションを入れるも着氷は決まらず、再度4回転トゥループに挑むも転倒してしまいます。
4回転トゥループスルー→構成変更で再挑戦 で思い出す、あの試合
「4回転トゥループをスルーしてしまい、ジャンプ構成を急遽変更して終盤に4回転トゥループを入れるものの転倒する」という流れ。
私は宇野昌磨選手の2019年GPSロシア大会を思い出しました。「僕本当にスルーしやがって」って発言がちょっと話題になった試合です。

宇野昌磨選手のファンにとっては、その前のフランス大会が大荒れで涙を流していた試合だっただけに、「調子は万全ではないが、闘志は保てている」と安堵したこともあって記憶に強く残っています。
鍵山優真選手は試合のSP・フリーと連続してジャンプの大ミスが続き心配な部分はあるのですが、あそこで大崩れまではいかずに瞬時にリカバリーの判断ができるところには、持ち前の闘志と底力を感じます。
今後への期待は逆に高まった?
このところ本人&観客に対するストレスがたまる演技内容が続いているので、私も正直不安は感じます。
でも、今後の試合で神演技が実現したら、観客にもジャッジにも本人にも凄いカタルシスが訪れてすごいことになるかも?という期待も逆に出てきました。これまでの流れが今後を盛り上げる伏線にならないか?という期待です。

でも、視聴者としてはそろそろ「ある程度クリーンな演技」を見たいですね
GPFは練習通りの演技ができることを期待します!
試合後の有料記事では、鍵山正和コーチがGPFでの4回転フリップ導入はしないようなことを話していました。
GPFや五輪では4回転3種での好演技を見たいなと期待していたので、ちょっぴり残念です。鍵山優真選手は、北京五輪と同様「五輪で3種初投入」となるかもしれません。
アダム・シャオ・イム・ファ選手(フランス)
アダム・シャオ・イム・ファ選手は、練習の様子に関わらず、試合を滑り始めるまでは「どっちのアダムか」がわかりづらい選手です。
今回は「荒れ気味のアダム」の方でした。

私は彼のダイナミックなジャンプが大好きなのですが、荒ぶりすぎて着氷が流れなくなると彼の持ち味である演技全体のスピード感も損なわれてしまうのでとても残念です。
前半に4回転を3種4本立て続けに飛んでも、あの着氷では得点も伸びきりません。しかも中盤~後半にかけてのトリプルアクセル2本ともが乱れてコンビネーションジャンプにできなかったのが得点的には痛かったですね。でも「GPSならまだこんなものでしょう」ということで、驚きはなかったです。

今回は靴のトラブルがあったことも影響したのでしょうが、GPFまでにはコンディションを改善してこれるでしょうか?「神バージョンのアダム」が次に見られるのはいつになるのかはわかりませんが、今季1回は見せてほしいなと願っています。
スッキリしない結末も…
この結果、鍵山優真選手が逆転優勝となりましたが、優勝候補ふたりともが実力を出し切れなかったのでスッキリしない終わり方でした。去年のフィンランド大会を思い出しましたね。この時もSP1位&2位がフリーで乱れました。

これだけミスが出ても勝てるのは強い証ではあるのですが、本人が喜び切れない状況だとこちらの気持ちも上がり切りません。
鍵山優真選手は去年も演技直後に複雑な気持ちを隠しつつ優勝インタビューに答えていましたが、今回もにこやかにインタビューに対応していました。

最後に観客に「キートス!(フィンランド語でありがとう)」「モイモイ(さようなら)」と言っていたのは微笑ましかったです。フィンランドのフィギュアスケートファンが歓喜していたのを海外掲示板で見かけました。
GPFと今後の展開は?
名古屋グランプリファイナル男子シングルの出場メンバーは、イリヤ・マリニン選手(米国)、鍵山優真選手、佐藤駿選手、アダム・シャオ・イム・ファ選手、ミハイル・シャイドロフ選手(カザフスタン)、ダニエル・グラッスル選手(イタリア)と程よく国が分かれました。補欠は友野一希選手、ルーカス・ブリッチギー選手(スイス)、ニカ・エガーゼ選手(ジョージア)の順です。
「大技が多いから何が起きるかわからない」というのが男子シングルの魅力の一つでもあるのですが、出場選手たちの今季の状況を見ると、イリヤ・マリニン選手の優勝はまず間違いなさそうです。イリヤ・マリニン選手も本人比ではまだ調子が上がっていないのですが、彼に大ミスが2~3はないと他選手がノーミスでも厳しそう。そして今季の彼は構成を下げていることもあり、大きなミスを連発しそうには思えません。
ただ、五輪やワールドと異なりGPFは「挑戦構成」がやりやすい試合。各選手が攻めた結果の波乱が起きる、というパターンはあるかもしれません。攻めた結果の波乱であれば、今回のような波乱よりも楽しめるのではないかと期待しています。

女子シングル・ペア・アイスダンスは別記事で振り返ります~


