ボストンで現地観戦した2025世界フィギュアスケート選手権、今回は男子SPの振り返り後編、第5~7グループです。
第5グループは五輪枠を賭けている中堅選手たちが多く、ミラノに向けた勝負として見ごたえがありましたし、第6-7グループは高難度4回転ジャンプがバンバン飛び交う激しくも楽しい展開でした。
現地でないとわからなかったと思われる情報&会場で撮影した写真を極力入れつつ、振り返ります。
5/18追記 ジュンファン選手写真キャプションの「観客へのメッセージ」訳文変更してます
第1~5グループ第一滑走までの振り返りはこちら

2025世界フィギュアスケート選手権リザルト(総合)
2025世界フィギュアスケート選手権男子SP採点表
観戦直後、現地で書いたフレッシュな観戦記録はこちら

第5グループ
第5グループにはアンドリュー・トルガシェフ選手とジェイソン・ブラウン選手と二人の米国選手が登場。地元選手に観客席がにぎわいました。トルガシェフ選手はSPは8位だったのでいい演技だったはずなのですが、フリーでの崩れっぷりがあまりにも衝撃過ぎて正直記憶があまり残っていません…
ジェイソン・ブラウン選手(米国)
今季のジェイソン・ブラウン選手はグランプリシリーズでも全米選手権でもトリプルアクセルが決まらず。「ワールド代表に選んじゃって大丈夫?」と米国のスケオタからも心配されていました。
本人直前まで日本のアイスショー(ノッテ・ステラータ2025)に出てたし、私も正直心配していました。例年ならワールド直前にショーに出てようが「彼なら大丈夫でしょう」と思えてたんですけど。
しかし、公式練習でトリプルアクセル綺麗に下りてるのを見て一安心。おかげでSP本番も「たぶん大丈夫だろう」と落ち着いて見ることができました。

トリプルルッツからのコンビネーションのセカンドがダブルになってしまったけれど、まぁこれは想定内。いい「Tarzan」でした。
しかしながらトリプルアクセルが「q」判定で点数は84.72と伸びきらずSP12位。最終2グループにギリギリ滑り込み!。
五輪枠を掴んだ中堅選手たち
第5グループには「フリー進出=自国の五輪出場枠1の確保が目標」な選手たちが複数いました。
ヴラディミール・サモイロフ選手(ポーランド)、ヴラディミール・リトヴィンツェフ選手(アゼルバイジャン)アダム・ハガラ選手(スロバキア)がフリーに進み五輪枠を獲得。
中でもアダム・ハガラ選手は、第3グループのアンドレアス・ノルデバック選手(スウェーデン)やトマス=ジョレンツ・グアリノ・サバテ選手(スペイン)同様4回転ジャンプを持たない選手。
それでも加点の積み重ねで五輪出場を掴みました。
4回転ルッツ持ちのフェディール・クーリッシュ選手(ラトヴィア)も、デニス・ヴァシリエフス選手と二人でで五輪出場枠2の確保に成功。
ただ、彼はウクライナ国籍でまだラトヴィア代表の資格がないはず。今回の結果を受けてラトヴィア政府が国籍取得に向けて動いてくれるといいのですが。
第6グループ
第5グループ終了後の整氷休憩中には、往年の名選手ブライアン・ボイタノさんの会場インタビューがありました。しかし私はフジ放送席の宇野昌磨さんの観察に夢中になっており、何をしゃべってたかほとんど記憶にありません(苦笑)。
フジ放送席では第5グループはジェイソン・ブラウン選手の時だけ実況中継を収録していたようですが、地上波BSともに放送されていません。(解説聞きたかった…)第6グループ第1滑走はデニス・ヴァシリエフス選手なのですが、皆さんまだヘッドセットをつけません。

えええ、デニス・ヴァシリエフス選手は入賞候補レベルだし人気もあるのに収録しないの?
私は昌磨さんがシャンペリーで一緒に練習をしたデニス君の演技後どんなことを話すのか凄く楽しみにしていたので、超ガックリ
デニス・ヴァシリエフス選手(ラトヴィア)
「えええ、収録しないの!?」と思ってる間に演技が始まりました。視界の左隅にフジ放送席をとらえつつ、氷上の演技を見守ります。昨夏のTHE ICEで何度も見せてもらったポップなプロです。

彼は観客に大人気なので、前半のジャンプが決まるたび会場のボルテージもどんどん上がっていきました。放送席の昌磨さんも横顔しか見えないけど、すごく楽しそう。
しかし、最後のトリプルアクセルで惜しくも転倒。私が「あ~」と思ったら、視界の隅の昌磨さんも「あ~」って感じで大きくのけぞってました(笑)。あの転倒が無ければ最終2グループに入れていたでしょう。79.99点でSP16位発進。

ちなみにフジテレビ放送席は2番滑走のダニエル・グラッスル選手(イタリア)から収録を開始。デニス収録しなかったのにグラッスル選手は撮るんだ…って気持ちに。
(グラッスル選手は絶不調な様子でしたが、予定構成はルッツトループの4回転2種で出してたからですかね~好調なら上位狙える選手ですし。でも結局4回転は1本でSP14 位だったためか放送されない幻の収録に…)
ただ収録中って、トークにも集中しているからリアクション減るんですよ。「仕事モード」に入るんだから当たり前ですが(苦笑)。

デニス・ヴァシリエフス選手演技中は、収録をしていなかったからこそ、本田武史さん達と喋りながら生き生きと楽しそうに観戦している昌磨さんを見ることができたーと言えます。
チャ・ジュンファン選手(韓国)
チャ・ジュンファン選手も、最後のトリプルアクセルが転倒になってしまいました。これには放送席も私もガックリ。転倒後のスピンとステップ両方ともレベル3と、ジュンファン選手にしては珍しく取りこぼしていました。

アジア大会に最大のピークを持ってきた感はありました。兵役免除無事勝ち取れたようなのでその選択で良かったと思いますが、できるものならアジア大会の演技をナマで観たかったな~
ケヴィン・エイモズ選手(フランス)
滑ってみるまで、最高の演技をするか最悪の演技をするか全く予想がつかないジェットコースターなケヴィン・エイモズ選手。練習では不安を感じさせるところはありませんでしたが、どうなるかわからないので演技前は少し不安でした。

今季のSPはダンサブルなナンバーだったのですが、米国航空機墜落事故後に、しっとりした曲調の昨季SPに戻すと発表。昨季はワールド出られてないですからそれもアリでね。性転換をした2名の友人に対する想いも込めていたと演技後のインタビューで語っていました。
4回転トゥループのコンビネーションで「q」を取られるなどの多少の減点要素はありましたが、基本クリーンに、情感溢れたプログラムを見せて貰えてホッ。今大会の彼は大丈夫そうかなと思えました。

しかし、リンクを引き上げてきたときにようやく気付いたのですが、ケヴィン・エイモズ選手同様豊かなリアクションで知られるシルヴィア・フォンタナコーチがいません。
私の知らない間にコーチ変更したの?あんなに叩かれてもフォンタナコーチにつき続けて来たのに?と脳内に「?」マークがいくつも浮かびましたが、その後のインタビュー(下記)を読んで解決しました。
どうもボストンには帯同していたようですが、体調を崩してホテルで休んでいたみたいです。
Kevin Aymoz 🇫🇷 93.63
— Golden Skate (@goldenskate) March 27, 2025
“I feel like I am living in a dream right now. I remember last year, at the World Championships, I wasn’t there. I was alone in the dark, crying. But now, I’m here. I worked so hard since the European Championships. I’m so thankful for my whole team, my… pic.twitter.com/DlVziBhMPV
ニコライ・メモラ選手(イタリア)
第6グループは私の印象が強かった3人だけを取り上げるつもりだったんですが、ニコライ・メモラ選手も観客のメッセージがちょっと面白かったので記録しときます。
彼の観客へのメッセージは「Stand tall in my skates」。“スケート靴を履いて堂々と立つ”という意味ですが、Stand tallという自分の高身長にひっかけた表現が表示されたときは観客席から笑いが起きていました。

彼は大きなミスはなかったものの、細かいレベルの取りこぼしなどで87.89と点が伸び切らずSP7位、2年連続ワールド最終グループ入りまであと一歩でした。
第7グループ
さぁここからは最終グループ。
最終グループの6分間練習を現地で観られるのは本当にいいですね~。あちこちで高難度4回転ジャンプがポンポン飛び交うのを自由に追えます。
ルーカス・ブリッチギー選手(スイス)
ルーカス・ブリッチギー選手のメッセージ性の高い今季SP。昨秋現地観戦したGPSフィンランド大会ですごく印象的で、再びナマで「完成版」を見るのを楽しみにしていました。

初優勝を遂げた欧州選手権後に入院したーという噂は聞いていたので、少し心配はありました。やはり冒頭のコンビネーション&アクセルジャンプの着氷は今一つ。フィンランド大会のような気迫を感じ取れる演技ではなかったのですが、後半まとめてきて85.83でSP11位を確保。
私、てっきり病気で入院したのかと思ってたのですが足の怪我で簡易な手術をしていたようですね。よく間に合わせてスイスの五輪1枠を無事確保できたものです。
Lukas Britschgi 🇨🇭 85.38
— Golden Skate (@goldenskate) March 27, 2025
“First of all, I am very happy that I achieved my main goal here. I qualified for the Olympic spot. After my little surgery, I feel good again. I don’t have pain anymore. Luckily, it healed in time for me to be here. Today wasn’t totally ideal, but I… pic.twitter.com/zHx1YSOywa
ミハイル・シャイドロフ選手(カザフスタン)
ミハイル・シャイドロフ選手の「DUNE 砂の惑星」もこれにて見納め。今季のDUNE祭り、割とどのプロも好きでした。

トリプルアクセルでお手付きはあったけれど、4回転ルッツのコンビネーションも後半の4回転トゥループも高い加点付きで決まり、94.77でSP3位発進。
昨季までの彼は4回転ルッツを含む高難度ジャンプ多数を決めるものの、ジャンプ以外の要素が軒並み荒くて点が伸びないイメージ。今季はジャンプ以外の部分も徐々に点が取れるようになってきています。スピンステップを確実にレベル4をとって加点が更に増えれば、来季100点台をあっさり超えてきそうです。
「練習でもずっと安定してるし去年のワールドのフリーみたいに崩れることはなさそう。今大会は表彰台に乗ってくるんじゃないか?」とSP演技を見た後に思いました。
佐藤駿選手
公式練習の佐藤駿選手の様子を見て、全日本後からの数か月で抱いた不安は消えていました。
…なのに演技開始前にモニターに映った佐藤駿選手の表情が「うう…吐きそう」ってな感じで緊張しているように見えてしまい、一気に心配モードに(苦笑)。

でも後で改めて見ると、落ち着いた表情してるようにも見えます。私の心の中に残っていた不安が演技開始前の緊張で噴出したのかもしれません。
冒頭の4回転ルッツがキレイに入ったときは痺れましたね~
この演技の時も私は放送席の宇野昌磨さんの様子を視界の片隅に入れながら演技を見守っていたのですが、収録中にもっともリアクションが大きかったのが佐藤駿選手の演技中だったように思います。

ジャンプを決めるたびにうんうん頷く姿。
横顔しか見えてないのに嬉しそうな空気感が伝わってきました
Numberのトークショーで、私たちが思っていた以上に昌磨さんが佐藤駿選手が実力を発揮できるよう心配りをしていたことがわかった今では、あのリアクションの大きさに納得です。

4回転トゥループの着氷が少し乱れて、セカンドジャンプがダブルにはなったとはいえよくぞ最小限のミスでまとめたなという感じ。
スピンステップでレベルを落としてしまうのは来季への課題として残りましたが、91.26でSP5位発進。まだまだ上を目指せるポテンシャルはありますけど、初めてのワールドでここまでできれば本当大健闘だと思います。

演技後、アシュリー・ワグナーさんがキス&クライにやってきて日本のファン&観客へのメッセージを求めたのですが。
「I was nervous…I did my best」(緊張しました…がんばりました)」とボソッと答えていたのがちょっとツボでした(笑)
アダム・シャオ・イム・ファ選手(フランス)
同国のケヴィン・エイモズ選手ほどではないにせよ、アダム・シャオ・イム・ファ選手も結構なジェットコースター系。私は3年連続でワールド現地観戦していますが、彼がクリーンなSPを滑ったことを一度も見たことがありません…。
クリーンな演技が見られない予感を、私は感じてしまっていました。
冒頭の4回転ルッツは回転不足「<」で転倒、続く4回転トゥループのコンビネーションも着氷が乱れます。「これはこのままヤバいバージョンの方のアダムで行く?」と怯えましたが、トリプルアクセルは詰まりながらも着氷。そこから後は持ち直しました。

ちなみに彼の観客へのメッセージは「Backflip for everyone」。“皆のためにバックフリップを”だったのですが、このSPに入れていたバックフリップの部分をニースライドに変更してきました。
この曲なら絶対そっちの方が合ってる!毎回バックフリップ入れる必要ないよ!って思いました。

イリヤ・マリニン選手(米国)
次の滑走は地元アメリカのイリヤ・マリニン選手。リンクインした時から会場の熱気が少し上がったのを感じました。

6分間練習の様子を見る限り、4回転アクセルは入れずに来るだろうと思えたので演技前の不安感はなし。彼の場合4回転ルッツは他のトップ選手の4回転トゥループより成功率高そうですからね。下手すると他選手のトリプルアクセルよりも確率高いかも。
4回転ルッツが後半でもめちゃくちゃ安定していることが彼の最大の強みだと思います。回転不足を取られることはあっても転倒や抜けをほとんどせずに確実に入れてくるのは本当強い。
冒頭に4回転フリップ、後半に4回転ルッツー3回転トゥループのコンビネーションという今大会最高難度のジャンプ構成で110.41。
珍しくスピンが一つレベル3だったのでまだ伸びしろがあるw。4回転アクセル入れたらまだ伸ばせるけど、SPはこの構成で来季も行くのではないですかね?入れて来るかな。

鍵山優真選手
大喝采の中リンクインした鍵山優真選手。数々の人気選手の直後に滑ってきた経験を持つ彼ですから、動じることなく演技してくれるだろうと思っていました。
ボストンの観客も演技前の彼に惜しみない声援を送っています。観客へのメッセージは「Everyone, it’s time to stand up」“さぁ、立ち上がる時がきた”。
ーそして私の期待通り、スタンディングオベーションで称えられるすばらしい演技を見せてくれました!
冒頭の4回転トゥループー3回転トゥループは気持ちのいいスピード&幅があり、3名のジャッジがGOE(加点)5をつける出来栄え。
次の4回転サルコウは跳びあがった瞬間「やばっ!」と思うぐらい軸がずれたうえに壁際スレスレに見えたので肝を冷やしましたが…空中で難なく姿勢を修正して綺麗に下りてきました。

「なんじゃそりゃ!」って、いい意味で驚きました(笑)
「サウンド・オブ・サイレンス」の後半に手を加え、より盛り上がるように変更していたためか、後半のステップの盛り上がりは一層気迫が感じられて凄く良かったです。


キス&クライでの会場向けインタビューでは、ベンジャミン・アゴストさんに「どうやって集中を保ったのか」と聞かれ一瞬「?」な表情に。聞き取れなかったのかな?と心配したら「As usual(いつも通りで)」って一言でそつなく返していました。「?」となってたのは、どう答えたものかで悩んでたんでしょうね。
そしてそのままマイクを奪い取り、「I feel good, EXCITNG!(超いい気持ち!)」と笑顔で答えていたのが何ともキュートでした。さらに「I love Boston!I love Figureskating!」と続けたので観客は大盛り上がり。
…しかしその喝采の中で高揚しながらも、「でも4回転がトゥループとサルコウの2種だと今回も105~108点ぐらいなんだろうな」と諦観した部分が私の中にはありました。

予想通り、点数は107.09。マリニン選手とは約3点差のSP2位。
PCSがインフレして上限に近づいてしまっている現在の採点システム上では、表現がどんなにブラッシュアップされようとも、どんなにすばらしいスケーティングスキルを発揮しても、その点が採点に反映される実感が私は得られません。ステップで得られるGOEはジャンプのGOEに比べたら超ささやかだし。
今季の採点を見る限り、「鍵山優真選手が4回転ルッツやループ、フリップのいずれかを投入しない限りもうこれ以上は点は出さないよ」って言われてるような気がずっとしています。
ミラノ五輪で自力金メダルを狙いに行くならSPでも4回転ジャンプの構成を上げるのが必須になるだろうけど、SPは確実に仕留めたいし本当悩ましいですね…ってただの観客の私が悩むことじゃないですが。
「大荒れ」の事態も起きやすい男子シングルですが、ボストンワールド男子SPは比較的好演技が多かったように思います。この日はこの後に行われたペアフリーで好演技が多くてりくりゅうも優勝するしで大満足でした!