ミラノ・コルティナ冬季オリンピック(ミラノ五輪)、フィギュアスケート個人戦のアイスダンス競技が2月12日(日本時間)に終了しました。
リズムダンス(RD)に引き続きフリーダンス(FD)でも僅差の勝負が展開。世界選手権三連覇中だった王者が、パートナーを組み替えたばかりの元五輪王者に負けるという事態に、衝撃を受ける視聴者も数多くいました。
私もその一人で、試合当日は興奮と動揺が収まらない状態。
「一晩おけば気持ちが落ち着くかも」と、昨日1日はアイスダンスに関するSNSの反応もあまり見ないようにしていました。
しかしアイスダンスの結果を巡る反応は1日経過したのちも、より一層混乱していました。論争になるとしたら、団体戦との過密日程や団体戦表彰台によるブレード損傷の件の方だろうと思っていたのに、まさか採点に関する論争がここまで過熱化するとは。今後この論争がどう広がっていくかは読めません。
ですので、今回は個人戦アイスダンスでの私個人の感情の流れのみを記録することにしました。
前半は、日本国内でのテレビ放送への不満、後半ではFD当日の感動と動揺を赤裸々に綴っています。
「放送でのアイスダンスの扱い」に対する不満
最初は、日本のテレビ放送の編成についての愚痴です。
フィギュアスケートの4つのカテゴリの中でも日本国内の関心度が最も低い「アイスダンス」。テレビ放送での優先順位が低くなるのは「やむを得ないこと」と受け止めています。
でも、今回は余りにも残念なことが続きました。
RD生放送では、1位の演技がダイジェスト扱いに
放送予定が出た時点で、アイスダンスRD前半グループの演技が放送されないことは確定済み。冬季五輪は競技種目も増えており、日本人選手も出ていないアイスダンスの前半グループが地上波テレビ放送されないのは納得できます。
今回金メダルを獲得したロランス・フルニエ・ボードリー/ギヨーム・シゼロン組(フランス)は結成間もなくてワールドランキングが低いため、RDでは第1グループでの滑走でした。

とはいえ彼らは金メダル候補でしたから、放送枠内のどこかでフル演技の録画映像を再生してくれるものと思っていました
全組の演技終了にやっと放送された…と思ったら、
まさかのダイジェスト映像(!)
私は第1滑走から全演技を見たかったのでNHK ONEの配信を視聴済みだったので無問題でしたが、ほとんどの方はテレビ放送しかご覧にならないでしょう。1位の組の演技をダイジェスト扱いにするなんて、信じがたかったです。
FDでは注目選手の演技中にチャンネル切り替えで映像がブツギレに
第1グループのうち1組は演技の途中からの放送のみ
FDの日は予定の放送開始時刻になっても他競技の放送が続き(その競技の試合が延長になったためで、やむをえません)、第1グループ4組目のカテリーナ・ムラスコワ / ダニエル・ムラゼク組(チェコ)の演技の途中からようやく生放送が始まりました。
幸い、のちの整氷休憩中に1~3組目の演技は録画再生されました。しかし、演技途中から放送開始されたムラスコワ/ムラゼク組の演技は再生なし。地上波放送視聴者は、彼らの演技前半は見られずじまいでした。
若手有望株(総合5位)の演技途中に放送チャンネル変更
そして、最終前グループでは演技の真っ最中にNHK総合テレビからNHK Eテレに放送が切り替えられるという驚愕の事態が発生。
それも、よりによって最終前グループの最終滑走、「次のアルプス五輪のメダル候補筆頭」と期待されているエミリア・ジンガス/ヴァディム・コレスニク組(米国)の演技の真っ最中です。総合5位に躍進した組だというのに、後で録画映像を繋いだとしても、どうしても途切れる部分が僅かに出てしまいます。
「演技がフルで見られない」ことの意味
アイスダンスは運動能力と芸術表現の両方を競うスポーツです。特にFDは、選手達それぞれが個性的な世界観を描き出します。「アイスダンスの良質なプログラムは、4分間で1本の映画を観たかのような満足感を味わえる」と言う人もいます。
1位の選手の演技をダイジェストでしか流さないなんて、人気作品を見に映画館に行ったのに、映画の短縮版を見せられるようなもの。
演技の途中から流し始めておいてそれでおしまいにするなんて、映画館で冒頭の20分ぐらい欠けた状態で映画を上映されるようなもの。
演技中にチャンネル切り替えさせられるなんて、感動大作映画を観ているのに「途中で席を移動してください」と言われるようなもの。
アイスダンスという競技にあまり興味のない人にとっては大したことではないのでしょうが、ファンにとってはどれも避けたい状況です。それが全部いっぺんに来てしまいました。
NHK ONEやBSP4Kで視聴は可能だけれど…
しかしながら、ミラノ五輪では幸いなことにアイスダンスの全演技は、NHK ONEやNHK BSP4Kでの再放送で視聴が可能です。

全演技を録画で残したくば、4Kや8K対応のテレビを購入しろということでしょうね(苦笑)
一番応援していた宇野昌磨さんが現役続行でミラノ五輪に出場していたら、間違いなく買い換えてたんですけどね…
BSのみで放送されていた頃と比べ、配信でいつも見られる方が視聴可能な層も増えていいと思います。
途中で放送が途切れてイライラするほど熱中できるような競技をライブで見る場合は、今後は最初から配信を視聴した方がいいかもしれないと思うようになりました。放送からの数秒のディレイは我慢した方がよさそうです。
私のアイスダンス応援スタンス
「納得はいくけど、もやもやしがち」な採点
採点競技であるフィギュアスケートは、採点に対する不満が溜まりやすい競技です。私も男子シングルについては、技術点と演技構成点のバランスに対する不満を長年強く感じています。
しかし、私が「採点の理不尽さ」を最も強く感じるのはアイスダンスです。
それは、ジャッジの裁量で決められる「加点」の幅が広く、「ジャッジの主観による格付け」に左右されそうな部分が大きいからです。

とはいえ、加点が大きくつく組の技は素人の目から見ても極上で、納得はしやすいです。「採点項目ってずいぶんよく考えられているんだな」と感心することも多いです。
しかし、トップグループ内のわずかな差については「その年その年微妙に変わる『事前の格付け』に左右されている感が、どうしても否めません。当サイトの過去の観戦記記事でも「今季の勢力図/格付けがどう変わったか」について、何度も書いています。
その「格付け」にはいわゆる「ナショナルバイアス」的なものが指摘されることも数多くありました。今季はシャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組(イタリア)への採点がジャッジごとで大きく割れたことは、アイスダンスファンの間ではかなり話題になりました。
ギニャール/ファブリ組の採点への批判については、下記の記事でも話題にしています

だからアイスダンスは「広く浅くゆるく」応援してきたつもりだったが…
なので、私はアイスダンスではどこかの組を熱烈応援することはせず、広く浅くゆるく応援するように努めてきました。

しかし、長年見続けていると知らず知らずのうちに「思い入れ」が育ってしまうのですね…
その「思い入れの差」があると、こうも複雑な気分になってしまうのかと、思い知らされることになりました
アイスダンスRD全体を振り返る
ここからは競技についての振り返りです。まずは、RDの概要から。
中堅選手のRD落ち相次ぐ結果で嘆いた「うたまさ」の不在
今回は中堅選手に位置するヤンス・ファン・レンスブルク/ベンジャミン・ステファン組(ドイツ)とハンナ・イム /イェ・クアン組(韓国)が、どちらも男性がツイズルで致命的なミス。まさかの最下位とその次の順位となり、フリーダンス(FD)に進めないという波乱がありました。イェ・クアン選手は四大陸選手権でも同じところでミスをしていたので悪い予感はしましたが、2組もとは…。
この結果、FD進出ラインの得点が64.98まで下がったのを見て「うたまさ」こと吉田唄菜/森田真沙也組が出場できていたらFD行けた可能性めちゃくちゃ高かったのでは…と少し悲しくなりました。(うたまさは今季初戦を除き全てRD67~69点台)つくづくミラノ五輪代表最終予選の採点が恨めしいです。

団体戦からの連戦組の様子
アイスダンスRDは団体戦FDの2日後、中1日(なか1日)しかありませんでした。
しかも表彰台に乗った選手たちは、RD競技前日の深夜まで行われた表彰式に参加。おまけに表彰台の素材が原因でブレードが刃こぼれするという最悪の事態に見舞われました。

RDとFD両方を滑ったうえに表彰式に参加したシャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組(イタリア)は、競技の日の朝にブレードを研磨したそうです。ブレードは研磨すると滑る感覚が変わることから、一般的には試合直前に研磨することは異例です。
彼らと同様にRDとFD両方を滑り表彰台に乗ったマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組(米国)。彼らはエッジに乗る感覚が変わることを嫌がり、研磨まではしなかったと伝えられています。
その他、団体戦FDに参加していたのはダイアナ・デイビス/グレブ・スモルキン組(ジョージア)とマージョリー・ラジョイ/ザカリー・ラガ組(カナダ)です。彼らはどちらも20代の組。一方、RD⇒FD⇒表彰式のフルコースだったイタリア組と米国組は30代半ばです。
皆こんな状況下で最善を尽くしたと思える演技だったとは思います。団体戦FDに出場したことの影響があったかどうかは、何とも言えません。私見では若干あったのではないかと感じましたが、それは私の先入観からくるものかもしれません。
アイスダンスFDでの明暗
アイスダンスは、マディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組(米国)とロランス・フルニエ・ボードリー/ギヨーム・シゼロン組(フランス)の金メダル争いと、数多くの組が絡んだ銅メダル争いの二点が注目されていました。
そのどちらも、アイスダンスを長年観てきたファンの多くにはほろ苦さが残る展開となりました。
前半グループにいい演技もたくさんあったはずなのですが、今は最終グループでの展開の記憶が生々しくて記憶を引き出すのがしんどいです。
激しかった銅メダル争い
うっかり知ってしまった銅メダルの行方
私はこの日はゆっくり朝6時台から時差再生による疑似ナマ視聴をNHK ONEとテレビの録画再生の双方を駆使して楽しんでいました。
しかし、前半グループが終わったところでうっかりNHK ONE配信画面のカーソルをシークバー上で動かしてしまい、おそらく表彰式中だと思われる笑顔のパイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組の小画面が目に入ってしまいました。メダルの色はわからなかったけど、おそらく彼らが銅メダルを獲ったのだろうと悟りました。
そこから最終グループを見るのは、何とも複雑でした…。
シャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組(イタリア)
ここ2シーズンほど、ジャッジ評価の揺れに振り回されていた感のあるシャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組。彼らは試合後のインタビューで、ジャッジ評価の低下に苦しんだことを吐露しています。
※インタビューは下記のInstagram投稿で読めます。英文なので自動翻訳してください。優勝を左右した採点についても少し触れています
私は彼らにも銅メダルを獲ってほしい気持ちがありました。
でも、マルコ・ファブリ選手のツイズルでごくわずかな乱れが出た時点で、銅メダルを逃したのはわかりました。団体銅メダルを獲れたから良かったとはいえ、彼らは個人のメダルも欲しかったはず。そして、彼らはこの時点では手が届くかもしれない位置にいました。
ライラ・フィアー/ルイス・ギブソン組
続くライラ・フィアー/ルイス・ギブソン組はもっと悲しかった。

時代の波に乗った感があり、この2シーズンで評価が一気に上がってきた二人。トービル&ディーン組以来の英国メダル獲得なるかとの期待は大きかったはず。
緊張があったのか、冒頭の連続リフトでレベルを取りこぼし、次のツイズルではライラ・フィア―選手が姿勢を崩しました。
試合後、彼女はこみ上げる感情を抑えつつ、「この時点(ツイズルのミス)で銅メダルを逃したのが早々に分かったので辛かった」と上記のBBCのインタビューに答えています。
※上記記事内のインタビュー動画の視聴は英国VPNが必要ですが、ほぼ全文が記事に掲載されています
それでも彼らは、後半のスコットランド民謡「オールド・ラング・サイン(「蛍の光」の原曲)」に乗せた明るいカントリーダンス。彼らは笑顔で踊り、解説の町田樹さんが言う「祝祭空間」をリンクに作り上げました。
彼らは他の組に比べればまだ若いし、何が何でもメダルを獲得してほしいとまでは思っていませんでした。それでも、キス&クライで沈む彼らを見るのはとても辛かったです。
パイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組(カナダ)
続いてのパイパー・ギレス/ポール・ポワリエ組の演技は、圧巻でした。
ゴッホの生涯を描いたプログラムの「ヴィンセント」は、彼らの他の名作プログラムに比べると若干地味な印象がありました。「過去プロを復活させるなら、他の派手なプログラムの方がいいのでは」と思っていた人は私も含め多かったはずです。

「そんな風に思ってごめんなさい」と土下座したくなるような情感溢れる演技でした
ここ1~2年の彼らの演技ではミスが増え、「衰えが出てきた?」と思わせることもありました。ですがこの演技での彼らは何か大きな力が宿っていました。
本人たちの思い入れが強いプログラムをやるのは大事なのかもしれません。いつも冷静に見えていたポール・ポワリエ選手が演技後泣きじゃくる姿は胸を打ちました。
上記Instagram投稿で読める演技後のインタビューも心に染みます。
私は、長年頑張ってきた彼らにも是非五輪の銅メダルを獲ってほしいと願っていました。そして、それにふさわしい文句のない演技で彼らは銅メダルを獲得しました。この演技ならば、他のライバルたちも少しは納得できるのではないでしょうか。
論争を呼んだ金メダル争い
マディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組(米国)
マディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組は、6日間で4回の試合演技を行うとんでもないスケジュールでした。そして、彼らはそのいずれでも最高と呼んでもいいパフォーマンスを実施しました。
彼らはワールド三連覇はしていますが、ちょっとしたミスが比較的多い組です。私は彼らの個人戦での演技中、不安とずっと心臓がバクバクしていました。
その彼らが、わずかなレベルの取りこぼしこそありましたが、4回の本番でいずれも素晴らしい演技を決めた。そのことに私は感動しました。
あとは、ライバルの演技を待つのみ。
ロランス・フルニエ・ボードリー/ギヨーム・シゼロン組(フランス)
続くロランス・フルニエ・ボードリー/ギヨーム・シゼロン組は、スケーティング技術で場を圧倒しました。
名古屋グランプリファイナル(GPF)の会場で、まさに目の前で目撃したカーブリフトのエッジの深さと迫力は本当にとんでもなかったです。あの時、ロランス・フルニエ・ボードリー選手が演技中に転倒しなければ彼らが優勝してもおかしくなかったと思わせました
名古屋GPFのときは、「スケーティング技術は彼らの方が上回っているかもしれないが、同調性については長年組んでいるマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組には勝てない」と思わせました。しかし、今回のFDの演技ではその点は以前より改善されたように見えました。
一方、解説の町田樹さんも指摘していたように、シゼロン選手が体勢をわずかに崩した瞬間が複数あったのは事実。「これはどうなるかわからない」と思いました。
結果に対して感じたこと
結果は、ロランス・フルニエ・ボードリー/ギヨーム・シゼロン組の優勝でした。その差はわずか1.43点。

アイスダンスは10年以上かけてじわじわと評価を積み上げてきた選手が多いだけに、思い入れを育ててきた年数が半端ではありません。メダルに届かなかった組にも本当ならメダルを上げたかった。
私は、長年応援してきたチョクベイのふたりに金メダルを獲ってほしかったです。
凄いと思ったのはフルシゼの二人かもしれない。でも凄いと思う人と、勝ってほしいと思う人は違うんです。
凄いかもしれないけど、まだ思い入れが育っていない。以前組んでいたガブリエラ・パパダキス選手とシゼロン選手の組ならともかく、組んでまだ1年も経っていないと、気持ちが追いつかないんです。
何度も日本のアイスショーで素晴らしい演技を見せてもらった。前回の北京五輪では惜しくも4位だった。ワールドの金メダルを3つも持っているけど、五輪のメダルは一つも持っていない彼らには金メダルを上げたかったです。
でも、今季の二組のFDのプログラムを見た時点で、私は五輪で逆転されることをずっと恐れていました
この結果が生んだ波紋
ロランス・フルニエ・ボードリー/ギヨーム・シゼロン組は、リンク外のことで国内外のフィギュアスケートファンの一部から批判を受けている存在です。
(ロランス・フルニエ・ボードリー選手は以前組んでいたパートナーの性暴行疑惑の件で、ギヨーム・シゼロン選手は以前組んでいたガブリエラ・パパダキス選手が出版した自伝に書かれていた内容で批判を受けています)
これでまたバッシングが強まるだろうことを、私は危惧しました。
しかし、バッシングはこれまでの論調の拡大にとどまらず、採点論争にまで拡大してきています。

確かに採点表を改めて見るとジャッジたちの採点はかなり割れており、論争を呼ぶのは理解できます。今回の採点は「もしこれが旧採点形式だったら、マディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組の方が順位点が上だったんじゃん…」とは思いました。
また、今季は何度もアイスダンスのジャッジに関するナショナルバイアス(というよりも派閥争いと言った方が近いかもしれませんが)は批判の対象となっています。
でも、今はそのような論争や署名運動などに加わりたくはありません。ソルトレーク五輪のペア競技採点論争のような事態がまた始まるのかと思うと気持ちがどんよりとしてきます。
しばらくは事態を静観しつつ追いかけたいと思います。アイスダンスの結果を自分の中で消化しきれるのは、もう少し先になりそうです。
町田樹さんの解説は非常によくまとまっていると思いますので、最後に記録しておきます。


