2024世界フィギュアスケート選手権、現地観戦記録を細々とまとめてきましたが、ようやく競技最終日ぶんの最終投稿です!
…と思ったのですが、最終グループの前半3人はともかく、メダリストとなった鍵山優真選手とイリヤ・マリニン選手の演技についてあれこれ書いてたら長くなっちゃって、表彰式まで書ききれず(笑)。
そもそも男子フリー表彰式の後には、「ペアの表彰式のやりなおし」が行われるという粋な計らいがあったんですよね。なので競技が終わった後のことは、また分けて後日まとめます。
エキシビションや現地でのエピソードでまだ書いていないこともあるので「モントリオール滞在記」はまだもう少し続きます。
ジェイソン・ブラウン選手
SPでボーヤン・ジン選手のまさかの演技の直後に登場したジェイソン・ブラウン選手。彼の演技は、落ち込んだ気持ちを癒してくれました。長く活躍している選手のベテランならではの演技はパワーを与えてくれます。
彼は今季、フリーは「ターザン:REBORN」で滑っていたのですが、全米選手権から昨季の「The Impossible Dreams」に戻してきました。今季の試合ではジャンプ不調が続いていたので、跳びにくいプロだったんでしょうか?
全米の時も調子は今一つ上がり切っていない印象だったので、「半プロの状態で競技プロを仕上げていくのは厳しいのかなぁ」と思っていましたが、きっちりワールドには合わせてきました。ワールド現地入り前週に日本開催のアイスショーに出演していたので「あまりにハードな日程過ぎないか?」と思っていたのですが、彼にはそんな心配は無用だったようです。
しかしながら、昨年のさいたまワールドで素晴らしい「The Impossible Dreams」をナマで見てしまっただけに、私の中の満足ハードルが異常に高く設定されてしまっています。後半のダブルアクセルが抜けてしまったのは痛かった。せっかく最後の最後で決めるトリプルフリップは美しく決まったのに。
私の後方にいた例のアメリカ人スケオタ女性が演技終了直後に「なんてsilly mistakeを~~~」と嘆いていました。(「凡ミス」or「しょーもないミス」のどちらのニュアンスで訳せばいいか判断つかなかったので原語で記載)私も心の中で「なんてもったいないミスを~~」と一緒に嘆きました。
ジェイソン選手は高難度ジャンプこそないものの、所作の一つ一つが研ぎ澄まされていて本当に美しい。シニアワールド出場は今回で6回目となりますが、4⇒7⇒9⇒7⇒5⇒5位と出てきた大会全て一桁順位。実質4回転なしで、ここまでの安定した成績を残し続けているのは凄いです。
ジェイソン選手は既に現役続行を表明しています。私は彼と共にベテランのデニス・ヴァシリエフス選手、宇野昌磨選手らがジャンプ以外のスケーティング技術で魅せる演技を披露し続けることで、ジャンプ&アクロバティック動作に重心を移しているように感じられる今のフィギュアスケート界に対する刺激となれば…という勝手な願いを今も抱いています。
ニコライ・メモラ選手
今年シニアに上がったばかりのメモラ君が最終グループに入るなんて誰が予想したでしょう!?
そりゃジュニアで活躍していたから期待されてる選手ではありますが、グランプリシリーズでは5位&11位でしたからね。シーズン最終試合でこんなにクワドルッツが安定するとは。
(シーズン最初の方の大会でクワドルッツを試合で初めて降りたのに、本人全く喜んだ様子を見せずジャッジや解説がトリプルルッツだと思い込んでたのは面白かったです(苦笑)。私も初見ではクワドかどうか判別つかなかったw)
演技開始前、私の近くの席のアメリカ人スケオタ女性が「彼は第1グループからジャンプアップしたアダムの逆バージョンになってしまうかもね」と予言していました。実は私もそうなるんじゃないかと危惧していました。でもメモラ君は私達の予想をいい意味で裏切ってくれましたね!
後半のトリプルルッツでステップアウトしてコンビ抜けちゃいましたが、目立つミスはそれぐらい。総合9位は凄い!メモラ&フランジパーニ選手のコンビでは「へたしたら来季ワールドイタリア1枠ってこともありうるか?」と心配していたのですが、2枠を確保できました。
ユーロ終了後、手術を受けて今リハビリを今頑張っているマッテオ・リッツオ選手の復帰が期待できそうな環境が出来て一安心です。1枠になってたら来季はメモラVSリッツオのもったいない代表争いになっちゃうところでした!
(ダニエル・グラッスル選手はイタリアのドーピング検査機関から求められた2年の出場停止処分期間が最終的にどう決着したのかがわからないので来季どうなるかは?です…)
ルーカス・ブリッチギー選手
ブリッチギー選手には大変大変申し訳ないのですが…私は彼のフリー演技後半を集中して観ることができませんでした。
というのもリンクサイドにいつ宇野選手が出て来るかが気になってしまって(苦笑)。チラチラリンクサイドに目をやりながらの鑑賞でした。
実はNHK杯フリーでも彼は宇野選手の直前の滑走だったので、あの時もフリー後半は気が散って集中できなかったんですよね。あのエスニック感満載のプログラム結構好きなんで、一度は集中して観たかったです。なんで私がナマで観ることができた2回とも宇野選手の直前滑走なんだよ~!
時々リンクサイドに目をやりながらも、各要素を次々とクリーンに決めて行ったのは見えていました。最後の3連後半がダブルになっちゃったのだけが惜しかったですけど、ほぼほぼノーミスと言っていい素晴らしい出来。
彼はこの2年ぐらいで急激に安定度を増して上位に食い込むことができるようになった中堅選手。
あの安定感で「2024ユーロはメダル確実!アダムの調子次第では金すら狙えるかも?」と思ってたらユーロのフリー最終滑走でまさかの大崩れをしてしまったのは悲しかった。なので最後の最後となるワールドでほぼノーミス演技ができて本当によかったと思います。
現地で彼の演技を堪能することができなかったので、後日ちゃんと放送録画で彼のフリー堪能したいと思います!
宇野昌磨選手
彼の演技については以前の投稿にてたっぷり語り倒しています。よろしければそちらをご一読ください。私自身の競技への向かい方すら見つめ直すきっかけになる思い出深い演技となりました。
男子フリー最終グループは好演技が続く素晴らしい流れだっただけに、彼がその流れに乗り切れなかったのは残念でした。でもやっぱり彼の演技が一番好きなことは変わりありません。
鍵山優真選手
私の感情が大混乱の中で始まった演技
この時私は宇野選手のまさかの乱調を受けて内心パニック状態だったため、鍵山選手のリンクインも滑り出しもほとんど記憶にありません。気が付いたら聴き慣れた「Rain, In our Black Eyes」が始まっていました。冒頭のサルコウ無事降りれたのは目には入ったけど、まだ気もそぞろ。
続いて彼が綺麗な4回転フリップを降りた瞬間も、「あぁうらやましい、こんなにきれいなフリップ降りられたらきっと凄い加点がつくだろうな…」とショックを引きずった感想をまだ抱いていました。
でもそのフリップをきっかけに、ようやく鍵山選手応援モードに気持ちを切り替えることができました。
実は私、鍵山選手が全日本に初出場した時から「何このめちゃくちゃ滑る子は!」と気に入っていまして。「実直な滑り職人」のような演技から、少しずつ所作が洗練され、成長していく彼を楽しみに観てきました。
「現行ルール上、4回転3種構成に戻さないことにはライバルのミス待ちでトップは取れないだろう」と思っていましたので、フリップが決まったことで「ついにこの構成でクリーンプロ来るか?」と期待値が一気に高まったのです。
不運過ぎた転倒にもれた、会場の悲鳴とため息
だからこそ、2本目のトリプルアクセル後の転倒は本当に衝撃で。
だって…キレイに降りてたじゃないですかぁ!!!
何かに引っかかったのか、着氷直後だったこともあってこらえきれず転倒してしまった感がありました。転倒するような着氷じゃなかっただけに「もったいない感」が凄かったです。「これは物凄い演技が観られるんじゃ?」と期待が高まっていた観客から悲鳴が上がったのも無理はありません。
私も驚きの声が出てしまいました。「これはジャンプ転倒扱い?それとも繋ぎ部分での転倒?どっち?」とかなり焦りました。(結局転倒扱い…キビシー!)
その後のステップで一時はその焦りを忘れさせてくれましたが、演技自体がよかっただけに「あああの転倒がなければ」という残念感が最後まで残ってしまいました。
怪我で国際大会1年休養してから復帰したてのワールドでいきなり銀メダルなんてスゴイ快挙だっていうのに、どれだけ期待値が大きいんだよ!こんな凄い演技だったのに残念感を感じちゃったなんて、本当にごめんね!って思います(苦笑)。
今後の鍵山選手に寄せる期待
彼にはまだまだ伸びしろがあると思うし、今の高難度構成をライバルたちが毎回クリーンにまとめられるとまではまだ思えないので、彼が今後金メダルを獲れるチャンスは十分あると思っています。シルバーコレクター呼ばわりする人は出るでしょうが、銀メダルが多いのは優勝争いに何度も絡んでいるという実力の証。
今季からはアクロバティックな動作がやたら注目されだした感があり、「スケーティングの美しさがないがしろにされてやしないか?」という不安感を私は強く感じ始めています。だからこそ彼のような美しい滑りができるスケーターが今後活躍して、ふさわしい評価を勝ち取ってほしいです。
(もともとPCS評価を高くつけられていた選手は、どんなに演技や滑りが深みを増しても点数が僅かしか増えない。現地で見ると明らかな、あの滑りの違いのアドバンテージが、ジャンプ一個のステップアウトとかでほぼ消えちゃうって私は本当納得いきません…)
イリヤ・マリニン選手
「今日は、彼の日」だった
私は重心の低いスピード感のある滑り&スピードと幅のあるジャンプが好みです。イリヤ・マリニン選手は助走レスでふわっと上に高く上がる系のジャンプ。高さのあるジャンプが好きな方のツボにははまるのでしょうが、私の好みとはちょっとずれています。
(あくまで「好み」の話で、どちらが優れているとかいう話ではありません。どちらも評価されるべきジャンプです)
所作の粗さは徐々に改善されてきているし、繋ぎを入れこんだうえで助走レスなジャンプを入れ込めるのは凄い能力なので、彼のPCSが上がってきているのは理解はできるんですけど…「ジャンプ自体美しければ雄大な助走でも最近のジャッジは好評価つけがちなのにPCSちょっと上げすぎじゃない?」とも思ったり。
また、彼はスピン&ステップでもレベルをきっちり取って来る選手ですが、私の好み路線とはちょっとずれています。特にステップはアクロバティックな動きで見栄えはするけれど、私が求めているエッジ使いのグライド感に欠けるので、いいと思えたことがほとんどありません。映像で見るとすごく華があるのに、現地で見るとステップでは滑りの粗さとスピードのなさが目立つという印象です。
・・・でも、この日のマリニン君のフリー演技は、そんな私を黙らせるような凄い内容でした!
「いや~あの高難度構成やりきったら、そりゃあなたが優勝です!」って素直に思えました(笑)。
「ワールド前に足を痛めていて欠場も考えたと言っていたのはホンマか?」と疑ってしまうぐらいの出来栄え。(公式練習でも調子はよくないのかな?という感じでしたし、痛めていたのは本当だろうと思います。だからこそ本番であそこまでの精度で技を決めて行ったことに驚きました。ステップには疲れが見えて“相変わらず感”をさすがに感じましたが、あの構成やりきること自体がエグいですからw)
去年までは回転不足や着氷乱れが多かったのに、今年のワールドではガンガン着氷が決まっていって、途中から笑いがこみ上げてきました。なんじゃこりゃwって(苦笑)。
北京グランプリファイナルの時も「スゲーなw」って感じでしたが、あの時よりさらにゾーンに入ってる感が伝わってきて、「あぁ、今日は彼の日なんだな」って思いました。調子悪かったのにここ一番で決めてこれるってことは、やっぱり彼は「持ってる人」なんだなって。
「MAX構成」に挑戦するアスリート精神
彼は最終滑走でしたから、難度を落とすことはできたはずです。今シーズン彼のPCS評価はずいぶん上がりましたから、手堅くまとめたらそこそこPCSも取れて十分優勝できたはず。なのに今できるMAX構成で挑んできたところは、ソルトレーク五輪のアレクセイ・ヤグディン選手やミラノワールドのネイサン・チェン選手を思い出しました。どちらも難度落としても十分優勝できたのに、あえてMAX構成に挑んで素晴らしい滑りを見せました。
好みの滑りの選手ではないけれど、そういうアスリート精神は物凄く好みです。
いや~いつかは確実にワールド金メダルを獲るだろうと思ってたけど、今季もう勝ち取るとはね。優勝おめでとう!
ただ…個人的には「ちょっと早かったんじゃないかなぁ」という想いはあります。
TESでタコ殴りしまくった若手が勝つ展開は嫌いじゃないのですが、「ワールド金メダルはホールパッケージの選手に取ってほしい」という勝手な想いがあるので…。あれだけSPフリーまとめきった演技なら彼が優勝で当然だし順位には何の文句もないんですけどね。
マリニン選手は「ジャンプ以外の能力が他のトップ選手に比べて足りない」と考えていて、向上のための努力を続けています。その成果が出始めているだけに、「まだこれからの部分多々あるのに、もう金メダルに届いちゃったか…」とつい思ってしまって。
でも彼はこれで努力を止めるようなメンタリティの選手じゃないと思っているので、来季はジャンプ以外のところも進化したマリニン選手が見られるといいな。
「来季はシゼロン振り付けらしい」という噂が飛んでいるので、来季の変化を楽しみにしています。
表彰式からあとの出来事は、改めてまとめる予定です~