今日は競技中のバックフリップの解禁話についてです。
「バックフリップ」に対するISUとカナダ連盟の対応の違い
週末にグランプリシリーズカナダ大会男子フリー感想を書いている際、イリヤ・マリニン選手のバックフリップについて書き出したらバックフリップの是非論に拡大しちゃいました。その時は「あまりにも話題がそれ過ぎだろうw」と丸ごと削除。
マリニン選手のバックフリップ自体は、終盤盛り上がる曲に合わせたコリオ内の技として効果的に使われていたし、余裕のある片足着氷だったしで、素直に「綺麗だな~」と感心しながら見ていました
実は私、ISU(国際スケート連盟)のこれまでの対応についてはモヤモヤが溜まりまくっていまして。
なのに今春のモントリオールワールド直後のように、ISUアカウントがマリニン選手のバックフリップ映像や写真をやたらSNSに投稿するせいで、モヤモヤが徐々に怒りに変わってきました。
そんなところに、スケートカナダ(カナダのスケート連盟)が問題提起する投稿をポストしました。
「競技中のバックフリップ、賛成ですか反対ですか?」
Backflips in competition, yes or no? 🤸🤯 pic.twitter.com/rFSYti0gT1
— Skate Canada / Patinage Canada (@SkateCanada) October 27, 2024
こういう問いには否定派の方が食いつくものなので、返信欄は「NO」派が圧倒的に優勢です。過去のバックフリップ解禁議論においても、国内外のフィギュアスケートファンの集まる掲示板類では否定派が優勢の印象。
しかし会場での歓声は凄く大きかったので、スケオタには不評でも一般観客受けすることは事実。
でも4回転ルッツやトリプルアクセルにつなげるコンボよりバックフリップの方が歓声が大きかったのにはちょっとげんなり
横回転さんざん見た後に縦回転来たらそりゃ新鮮だろうけどさ…
そのうえこの投稿、日本のWEBメディアまでセンセーショナルな見出しの記事にしててビックリw
「ろくな議論を経ないままのバックフリップ解禁」に感じるモヤモヤ
昨季の私はアダム・シャオ・イム・ファ選手が競技中にバックフリップ入れてたことに対して、「絶対反対」派というほどではありませんでした。
「最終滑走の時ならどうぞお好きに」とは思いつつ、「後に演技を控えているスケーターがいる時や周囲にキッズスケーターがいる時にやるのはちょっとどうか派」。「中立」に近い立場でしたね。
しかし、モントリオールワールド直後にISU(国際スケート連盟)がバックフリップをもてはやすかのような投稿を連投、競技での解禁を匂わせ始めてからは「競技解禁には反対」と思うようになりました。
なので今夏ISUが競技でのバックフリップ減点を辞め「解禁」したことはショックでした。
何よりも腹立たしいのは、安全性の担保についてろくに議論もされないまま決定されてしまったらしいことです。
今季のルール改訂に関する国内外の詳報記事や特集番組を見る限り、解禁に際してまともな議論がされた気配がありません。
安全性の議論&安全対策指針の検討が必要だったのでは?
私が驚いたのは、6分間練習中のバックフリップ実施を認めるのか認めないのかも決まっていないということ。選手の良識に任せるということなのでしょうが、組織として無責任ではないでしょうか。
競技習得過程の事故防止策の検討もされていないようです。氷上の練習時にどのような指導&補助体制をつけるべきか等、安全対策指針の検討&周知は必要ではないでしょうか?
過去にもバックフリップの練習や実施では事故が起きており、「大怪我をした選手を大勢知っている」とバックフリップ先駆者でもあるスルヤ・ボナリーさんも解禁には懸念を表明していました。
スケカナ後にはカート・ブラウニングさんもショー中のバックフリップで着氷に失敗、怪我した経験を話していました。世間には出ていないだけで過去に事故は起きています。横回転と違い縦回転は取り返しのつかない後遺症を残す可能性があるので、私は積極的に競技で見たいとは思いません。
ジュニア選手にバックフリップ実施を認めることの是非
私はショーでのバックフリップは大好物です。縦回転は目立つし飛距離が出るから凄く見ごたえがあります。キーガン・メッシングさんのバックフリップは伸身宙返りで姿勢も美しく、飛距離もすごくて大好きなのでバンバンやってほしいぐらい。
でも競技は別。コリオシークエンスで実施する場合が多く、演技終盤に入ることが多い。今季ジュニアグランプリシリーズではひやりとさせられたことがあり、思わずその気持ちをX(Twitter)に投稿しています。
ジュニアだから波乱は予想してたけど、このメンバーでここまでの自爆大会になるとは。璃士君後半疲れちゃったものの、演技まとめてファイナル確定でよかったです。…しかし今日の試合見て、せめてジュニアだけでもバックフリップ禁止した方がいいのではと思いました。会場湧いてたけどアレは怖かった
— けろわん (@kero_one1) October 11, 2024
ジュニアでバックフリップ入れてきたのは16歳の米国男子選手。1戦目のチェコ大会では上々の結果で日本のWEBメディアも取り上げていました。
しかし2戦目中国大会フリーではトリプルアクセルでジャンプ転倒、その後のジャンプも着氷乱れが相次ぎかなりバテた感じに。「最後のコリオシークエンスで予定してるバックフリップどうするんだろう?」と思ってたら、予定通り入れてきたんですよね。結構低空だったのでマジで怖かったです。
バックフリップからそのまんまフィニッシュポーズなんです。
まさかバックフリップ入れないバージョン用意してなかったりして…
少なくとも私はジュニア選手のバックフリップはショーでも見たくないです。ISU&観客にあれだけもてはやされるとショーマンシップ旺盛なスケーター達はやりたくなるんでしょうが、「コレオ用のバリエーション技よりもスピンやステップ、スケーティングの基礎練習を優先してくれよ」と言いたくなります。
ショーと競技は全然前提条件が違う
ショーでバックフリップやるスケーターは、バックフリップ跳ぶ前にヘロヘロになっていません。事前の演技では技の実施難度を落としたうえで体力を比較的保った状態で挑みます。
でも競技は違う。特にフリー演技では体力ギリギリの限界に挑戦している。それも転倒が複数回あったりすると本人の体力の限界を超えた状態で演技を続けなければいけない。何も考えられないまま、無意識に体が勝手に動いている状態のこともあるでしょう。
そんなギリギリの挑戦をしているときに「今の状態でバックフリップを跳ぶと危険かも」と理性的な判断ができるスケーターがどれほどいるでしょう?シニア選手でもそれができる人が大勢いるとは思えないのに、ジュニアならなおさらです。せめてノービス&ジュニアだけでも競技に入れるのは禁止してほしいと思います。
このようなことを言い始めると、「世界最高峰レベルの技術構成をこなした後にバックフリップを入れているアダム・シャオ・イム・ファ選手やイリヤ・マリニン選手は凄い」と褒めてることにもつながりますね(苦笑)
いや確かに凄いとは思いますが…それを観客やISUが過剰にもてはやすことには違和感を覚えるのです
「コリオシークエンスにアクロバティックな動きを入れることで加点を稼ぐ」というのは戦術の一つとして面白く受け止めていました。エイモズ選手やアダム選手などはそこで個性を生み出してますし、高い身体能力が無いと実施できないことですからそこで評価されるのもアリでしょう
でも最近私は「アクロバティックな動き」ばかりがもてはやされ、純粋なスケーティング技術のみで勝負している選手たちが加点を稼げなくならないだろうか?と今後の採点傾向への不安を感じています。アクロバティックな動きはなくとも美しいスケーティングやエッジワークで魅せてくれる選手もちゃんと評価してほしいと思っているので…
技の実施自体は「凄い」と楽しめていたのに、会場の観客がやたら盛り上がったり、ISUがアクロバティックなところばかりを切り出して投稿したりするのを見るたび、逆に冷めていく自分を感じている今日この頃です
ISUアカウントがスケカナ後に投稿してるマリニン君の演技切り出し動画、SPはラズベリーツイスト、フリーはバックフリップだけなんですよね…
一般受けを狙ってるんだろうけど「彼の演技の白眉は、最大のポイントはそこじゃないと思うんだけどな…」って思っちゃいます