日本のペア・アイスダンスをどう育てる? 関空アイスアリーナで始まった新施策と海外の育成例

関空アイスアリーナ建物外観

月曜の夜、とあるペア選手のInstagram投稿を見て、「そういえば、今季の日本のカップル競技強化計画についてまだちゃんと書いたことなかったな」と気づきました。

最初は「日本のカップル競技育成史を軽くおさらいしてみようかな?」くらいの気持ちだったんですが、ペア選手がほとんどいなかったのに、ペア育成拠点に成長したカナダ・ノバスコシア州の事例を知ってカナダの記事を読み耽るはめに(苦笑)。

日本の強化策にそのまま取り入れられるものではないでしょうが、とても興味深かったのでその事例についても紹介しています。フィギュアスケートのカップル競技の未来に関心のある方はどうぞ。

今季序盤のCS大会のアイスダンスについてまとめるのは、また次の記事にて~。

まだ観たい演技全部観終われてないんですよ、昨夜の「踊る!さんま御殿!!」もまだ視聴できていないし

(評判良かったみたいですね!)

目次

関空アイスアリーナで始まったペアの新しい育成

9月6日、日本スケート連盟(JSF)はペアの育成を進めるため、2018年平昌冬季五輪ペア金メダリストのブルーノ・マッソさんをコーチとして招聘することを明らかにしました。

マッソさんとは2030年3月まで、3年半に及ぶ契約。主にジュニア世代を国内で中長期的に育成していくと発表しています。

そして、その拠点は大阪の関空アイスアリーナ!

大阪在住で、ペア競技も楽しんでいるフィギュアスケートファンとしては、とても気になるニュースでした。

ブルーノ・マッソさんは一家で大阪で暮らすようで、インスタグラムのストーリーで引っ越し準備を楽しそうに報告していました。奥様も引っ越し前に「世界の向こう側、日本へ引っ越します」と、日本移住Vlogの第1弾をInstagramで公開。

この情報が出たころ、「マッソさんに師事するコヴァレフ夫妻(フランス)はどうなるんだろう?現役続行するけどコーチを変更するのかな?」と思い、私はカミーユ・コヴァレフ/パヴェル・コヴァレフ組のISUバイオグラフィーを確認。

すると、「シーズン中の練習拠点」欄に、フランスのNantes(フランス国内で拠点変更あり)と並んで、Izumisano / JPNの文字が加わっていました。

Izumisanoは、関空アイスアリーナのある泉佐野市…

「コヴァレフ夫妻が日本で練習するの?」とビックリ!

コヴァレフ夫妻はどうやら、木下グループ杯後に大阪に長期滞在して、関空アイスアリーナで練習を積んでいたようです。

帰国前に彼らがInstagramへ投稿した写真を見ると、トップには「あゆルカ」こと籠谷歩未/本田ルーカス剛史組と4人で撮った写真がありました。

関空アイスアリーナ界隈で撮影した写真だけでなく、だんじり祭りに、なんばパークスなど、大阪滞在中のオフ時間の写真もたくさん!

大阪に住んでいる身としては「そんな身近なところにコヴァレフ夫妻が来てたの?」とかなり楽しめました

でも、一番感慨深かったのは、海外の現役シニアペアと日本の若手ペアが同じリンクで練習する環境が生まれていたことです。

今回の計画について竹内洋輔フィギュア強化部長は、中高生時代から海外へ行くことによる経済面や精神面の負担にも言及しています。「世界レベルの専門指導を受けるために海外拠点を選ぶこと」は珍しくありませんでしたが、育成の形は少しずつ変わってきています。

日本のカップル競技、これまでの強化策は?

日本のカップル競技強化は、2026年に突然始まったわけではありません。

1972年の札幌五輪前には、都築章一郎さんら関係者の尽力によって複数のペアが結成されました。その中で競技を続け、札幌五輪に出場したのが長沢琴枝/長久保裕組です。

こちらの記事では、長沢琴枝コーチが五輪前の育成について語ったインタビューも紹介しています

2014年のソチ五輪からの団体戦導入が決定したのは、2011年4月。同年から日本スケート連盟はペア・アイスダンスのトライアル/トライアウトなどに力を入れてきました。

日本スケート連盟の公表資料から辿れる、強化・育成策の主な変化は次のようになります。
(五輪代表候補への重点強化や、例年の強化事業などはのぞく)

時期主な変化カップル競技強化の流れ
2011年~
ペア・アイスダンスのトライアル/トライアウトを本格化ソチ五輪からの団体戦導入を見据え、選手発掘・カップル結成を強化
2019~20年アイスダンストライアウトに「海外留学、入門説明会コース」を設定海外拠点で専門指導を受けることも想定した育成策 
2026年関空アイスアリーナで新たなペア育成プログラム開始海外の専門コーチが日本を拠点に、国内で中長期的に育成する体制を整備

一時は「海外アイスダンス留学、入門説明会コース」も

興味深かったのは、2019~20年に連盟がアイスダンストライアウトの中に、「グローバル(海外)アイスダンス留学、入門説明会コース」を設けていたことです。
(2019・20年以外で開催されていた資料は発見できませんでした)

「2020アイスダンス トライアウト要項」によると、対象は20歳以下。アイスダンスパートナーがいなくてもOK。

保護者同伴で座学や個別面談を受け、「近い将来、選手単身または家族でアイスダンス留学を考えていること」などが参加条件に挙げられていました。さらに「海外からトライアウトのオファーがあった場合には渡航できる状況であること」まで条件になっています。

参加者がどれだけいたのか、いたとしたらその中で海外トライアウトや留学につながった選手がいたのかまでは、公式の資料では確認できませんでした。

その後は新型コロナの感染拡大によって海外渡航や滞在そのものが困難な時期に入り、近年の連盟資料ではこのような公式説明会は確認できていません。

海外拠点にはどのくらいお金がかかる?

現在も海外を拠点にする日本選手はいますが、費用問題は大きなネックです。

「りかしん」の西山真瑚さんは、シングル選手時代からカナダを拠点にしています。彼はアイスダンス選手として活動を始めていた2020年に受けたインタビュー内で、海外を拠点にアイスダンスを続けるには、レッスンや振付だけでなく生活費や航空券、コーチ帯同費なども含めると1人あたり年間およそ1000万円がかかると明かしていました。

その後進んだ円安は、海外拠点を続ける日本人選手にとっては負担を押し上げる要因になっているでしょう。連盟からの強化費やスポンサーなどの支援がある選手ならともかく、これからペアやアイスダンスを始めようという段階の選手には金銭のハードルはかなり高いです。

だからこそ、カップル競技に関心を持つ若い選手が国内で専門的な指導を受けられる環境には意味があります。

「今度は専門コーチに日本に住んでもらおう」という、発想の転換ですね

国内育成をめぐる新たな動き

アイスダンスの海外コーチ招聘も調整中

今回発表された国内育成の構想は、ペアだけを対象としたものではありません。日本スケート連盟は、アイスダンスについても海外からコーチを招聘する方向で調整中だと発表しています。

ファンの間では「あの方では?」という噂も出ていますが、ここは正式発表を待ちたいところです

アイスダンスへの注目が高まっている中、今後、誰が国内の若手育成を担当することになるのかは、このプログラムのもう一つの注目点になりそうです。

木下グループでも将来のアカデミー構想

民間でも新しい動きがあります。

木下グループは、現役を引退した「りくりゅう」こと三浦璃来/木原龍一さんとともに、将来的にペアを育成するアカデミーを作る構想を明らかにしています。

まだ計画の段階で、具体的な動きは今後を待つことになりますが、期待度大です。

ペア競技のファンは、木下グループに足を向けて寝られません

ペアがほとんどいなかった地域が育成拠点に|カナダ・ノバスコシアの取り組み

今回、海外のカップル競技強化策も気になって少し調べてみました。

その中で特に興味深かったのは、カナダ東部ノバスコシア州での取り組みです。

ペア「1組」が、わずか数年で「12組」に

「カナダ?昔からペアの強豪国だしね」と思ってしまいそうですが、事情は地域によってかなり違います。ノバスコシア州は歴史的にペアが非常に少なかった地域です。

しかし、Skate Nova Scotia(ノバスコシア州連盟)は2021年、数年前に1組だったペアが12組まで増えたと紹介しています。

Skate Canada Nova Scotia「Growing Pairs Program」(2021年・Internet Archive保存版)

現在は11組が所属し、初めてペアに取り組む選手から全国ジュニアで競うペアまで、幅広いレベルの選手が活動しています。2026年にはSkate Canada Trophyのプレノービスクラスで銅メダルを獲得した選手もいます。

どうやってここまでペア選手の育成を進めたのでしょうか?

体験プログラムで「小さい頃からペアスケートを身近に」

この急増には、ノバスコシアの地元コーチ陣による積極的な普及活動がありました。中心人物であるシャーリーン・キャメロンコーチは、世界ジュニア15位を獲得したペアを指導した経験があります。

彼女が取り組んだことの一つは、小さい頃からペア競技を体験する機会を増やすことでした。「ペアスケートを若い選手にとって身近なものにすること」が大事だと彼女は語っています。

カナダでも従来は、ある程度実績を積んだシングル選手がペアに転向するのが一般的でした。しかし、ノバスコシアではもっと小さい頃からペアを体験させ、基礎から育てる方法を取り入れているそうです。

2026年に行われた体験プログラムには20人以上が参加。そこから3組の新しいペアが誕生しました。

また、ペア競技を学び始めるために所属クラブや元のコーチを変える必要はなく、シングルと並行してペアを学ぶ選手も多いそうです。

選手だけでなく「ペアを教えられるコーチ」も育てる

驚くことに、このプログラム推進の中心人物であるキャメロンコーチは、ペア競技出身者ではありません。

彼女はカナダ連盟のコーチ育成制度を利用し、経験豊富なペアコーチや技術の専門家から指導法を学んでいきました。 全国のコーチや審判、振付師、テクニカルスペシャリストらに練習動画を見てもらい、アドバイスを受けることもあったそうです。

もちろん、この方法をそのまま日本へ持ち込めるわけではありません。日本ではリンクの数自体が少なく、練習に広いスペースが必要なペアは貸切枠確保に苦労するケースもあります。

体験機会とペアの数を増やしていくなら、練習環境の整備も同時に必要になります。

それでも、「地域でスケートを楽しむ子どもたちに、ペア競技の初歩を教えられる人材を増やす」という発想には、学べるところがあるように感じました。

名コーチを招聘した、その続きは…?

関空アイスアリーナ建物外壁の看板アップ

カナダの取り組みを知ると、関空アイスアリーナで始まったプログラムについても、今後の展開が気になります。「世界的なコーチを日本へ呼べば全て解決!」にはならないでしょうから。

「りくりゅう」など、日本のトップレベルペアスケーター以外にも、ペアを指導できる国内コーチを今後どう増やしていくのか。子どもたちにペアを気軽に体験できる機会をどう提供していくのか。

ペアに比べれば国内指導者の数が多いアイスダンスでも、今後の国内指導体制を考えていくことは大切だろうと思います。

育成の「選択肢」が増えている

日本スケート連盟は、シングル選手への声かけやトライアウトの実施、海外拠点の選手たちのサポートなど、様々な育成策を行ってきました。

近年は、国内を拠点にしながら必要に応じて海外で長期合宿を行うカップルも複数見られるようになり、育成の形も少しずつ多様になっています。

そして2026年からは、海外の専門コーチ自身が日本に生活拠点を置き、国内で継続的に選手を育てるという新たな形が加わりました。

選手の年齢やレベル、生活環境に合わせて選べる道が増えていくことは、日本のカップル競技の裾野を広げることにつながりそうです。

関空アイスアリーナでコヴァレフ夫妻が撮影した写真も、そんな新しい環境を記録した一コマになるのでしょうね

にほんブログ村 その他スポーツブログ スケート・フィギュアスケートへ
にほんブログ村

関空アイスアリーナ建物外観

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次