今回は2024世界フィギュアスケート選手権男子フリー第3グループについてです。第3グループも思い入れある人多すぎて最終グループにたどり着かなかった(苦笑)。
ただ、本当はこのあたりのグループでボーヤン・ジン選手を見たかったです。
ボーヤンはワールド終了後の3月31日になって、中国の大手SNSのWeibo(微博・ウェイボー)で複雑な心情を伝えてくれました。
機械翻訳によると「一度の失敗で打ちひしがれず、気持ちを整理して再スタートしたい」というような主旨のこと書いていたようなので、現役は続けてくれるのかと期待しています。
公式練習のSPでは本当にいい演技を見せていたから、今年のワールドのフリーは再び後半グループで滑れるだろうと思っていました。まだまだできるんだと世界中の人に良い演技を見てほしかったな。
平昌五輪であんなにいい演技をしていたのに中国国内の一般人気がブレイクしたのが北京五輪後というのが個人的には納得いきません。国内スケオタ以外にはあまり知られてなかったんでしょうけど、彼はずっと昔から輝いているのになぁ。
以下、第3グループの中で記憶に残ったメンバーについて現地観客席の様子&私の勝手な感想をまとめています。
アレクサンドル・セレフコ選手 ~“あと一歩”の11位~
ユーロの時のような神がかった着氷続きの演技ではなかったものの、SPフリーともイイ感じでまとめてきました!(下記のインスタ写真はSPです)
フリー2本目ジャンプは雄大な助走の後にトリプルルッツでした。予定構成では4回転ルッツで提出してたようだけど「抜け」ではなかったので、踏み切り前後の時点で既にトリプルにしようと決断していたんでしょうかね?
今季はルッツを捨ててジャンプ構成下げたことでジャンプの質が上がり、今季の躍進があったとと思っているので、無理しなかったのは賢明だったと思います。でも4回転2種を成功させるセレフコ兄もいつか見てみたいです。
その前にTHE ICE2024でショー演技を観られますね!
というか今日取り上げてるメンバーの大半がTHE ICE2024の出場者ですね。来季プログラムを見られたら嬉しいな~
競技終了直後、宇野昌磨選手のまさかのフリーの乱れ後の動揺が収まらない中、私は表彰式準備中の時間にリザルトを慌ててスマホでチェックしました。会場モニターでセレフコ兄の最終順位を見逃してしまったのです。
画面をのぞくと…期待もむなしく11位の表示。
「ああああエストニア2枠まであと一つだったのに~~~」と頭を抱えました。
10位以上の選手の名前を眺めて「この中の誰かと代わってもらえないだろうか」とトチ狂ったことまで一瞬考えてしまいましたが、代わりに11位に落ちてほしいと思えた選手は一人もいませんでした(当たり前だw)。
セレフコ兄弟揃ってワールドの夢はお預けになりました。来年のワールド出場は一人のほうがミラノ五輪の出場枠を2つにできる可能性は上がりそうではありますが…
でもデニス・ヴァシリエフス選手の順位はそのままで、ラトビア2枠のうち1枠をエストニアに分け与えていただけないものかーとは内心思っていますw(バルト三国でカテゴリを超えた枠の融通が出来ればいいのに…)
ロマン・サドフスキー選手 ~見守る観客たちの一体感~
つきまとう「SP落ち」の不安
続いて登場したのは、地元カナダ代表のロマン・サドフスキー選手。彼が後半グループで滑ることができるなんて、ワールド前は全く予想していませんでした。SP落ちするんじゃないかとマジで心配してましたから。
ロマン君のスケーティングは美しい。ジャンプも決まった時はすごく美しい。所作も美しくて表現力も備えている“ホールパッケージ”の選手です。しかし悲しいかな安定感というものが皆無に近い(泣)。
グランプリシリーズでもSPトップを取れる選手なのに、結局SPフリー両方揃うことはまずなく。SPフリー揃えば260点台以上出せるのに…という皮算用はとてもむなしい。
ここ数年は「実力はあるから応援したいのに、期待するとかなりの高確率で悲しい思いをさせられる選手」ーという印象がすっかりこびりついてしまっていました。
彼の演技中に感じた「一体感」
だからSPの時の会場の反応は凄く興味深かったです。
最初に4回転サルコウがキレイに入ったところで、周囲の観客の多くが明らかに「え?」と驚いているのがわかりました。
続いてトリプルアクセルも決まった時にはさらに「え?あのロマン君が?ダブルじゃなくてトリプル降りれたの?マジで?」という空気感と期待感に満ち溢れ(苦笑)。
ちなみに私もトリプルアクセル降りた時はめちゃくちゃ驚きました(苦笑)
カナダナショナルではSPもフリーも一度もトリプルアクセル入らなくって(敢えて入れなかった?)。まぁそのおかげで大崩れせずに済んだというメリットはあったんですが、ダブルアクセルのみでは上位には食い込みようがないし。
2024カナダナショナルがいかにとんでもない大自爆大会だったかは、こちらに詳細を書いていますw
でも彼を信じきれない観客は最後の3Lz-3Tのコンビネーションが終わるまでは全く気を抜くことができません。「今喜んだところで最後にどえらいミスが来ちゃうんじゃないか」という不安に襲われているのも感じられました。
コンビ降りた瞬間、「えええ!?私達今、ひょとして物凄いレアな瞬間を目撃しようとしてる…?」って半信半疑の驚き&感動が一斉に場内にグワーッと広がるのを私は感じました。
さすが地元カナダ。会場中の観客が、「ロマン君のノーミス演技がどれだけスーパーレアなものか」を痛感しているっぽい。このなんともいえない物凄い一体感!!!(苦笑)。
そして迎えたフィニッシュ、観客の歓声は本当に凄かったですよ。これはただのノーミス演技じゃない。実力を発揮できる確率がごくわずかしかないロマン君が、プレッシャーのかかるだろう地元開催ワールドで演技をクリーンに決めたんだ!!って。
フリーはSPのノーミス演技再来!とは残念ながらなりませんでしたが、会場も「あぁやっぱり両方は揃わなかったか」という感じ(苦笑)で暖かかったように感じました。
SP11位から総合19位に順位は下げましたが、大崩れまではしなかったので、あの凄かったカナダナショナルを思えば十分いい結果だったのではないでしょうか。本来この順位で納得していい実力の選手ではないので、来季以降安定感を増して伸びてきてほしいです。
フリーの日の記録だというのに、彼についての文章の8割がSPについてだったことをお許しください。SPのあの観客の空気感はホント今もはっきり思い出せるんですよ(笑)
三浦佳生選手 ~気合スイッチはうまくはまるのか?~
補欠からの繰り上がりとは言え、2022モンペリエワールド代表を高1でつかみ取る快挙を成し遂げながらも肉離れで欠場となってしまった三浦佳生選手。
(その結果、代打出場の友野一希選手が初の100点超えでSP3位という快挙につながったのですが…まぁこれも運命のめぐりあわせというか何というか)
佳生くんにとってはやっと行けた憧れのシニアワールドです。
北京グランプリファイナル~全日本は体調不良の中で根性で滑り切る試合が続いていましたが、モントリオールでの公式練習では体調はかなりよさげ。
時々わけのわからんコンビネーションジャンプを決めたりしていましたが、「気合が入り過ぎててちょっと心配だな」とも感じていました。
でも、佳生くんは2回目の四大陸選手権出場時にフリー最終滑走でまさかのクリーン演技を披露して優勝しちゃったスゴイ経歴がありますからね~。気合のスイッチがちょうどいい感じで入れば、とんでもないパワーを発揮するポテンシャルがあります。
アダムほどの大逆転は難しくとも、5位ぐらいまでは十分狙えそうーと期待していたのですが…冒頭の4回転ループは明らかに回転が足りておらず、転倒。あぁこれはまずい方のバージョン来ちゃうのか?と覚悟を決めました。
その後4回転トゥループは美しく決まり安心したのもつかの間、サルコウで再度転倒。「あぁ、さすがに2転倒ではPCSは期待できない。最初のワールドは苦い結果に終わるのか…」と思いました。
しかし後半のジャンプは全部美しかった!後半があれだけ良ければ前半の転倒はもうスパイスのようなものです(苦笑)。2転倒したら相当体力が削られると思うのに、本当によく立て直したと感心します。
最終結果は8位。本人はもっと上を目指していたから悔しい結果でしょうが、ワールド初出場で8位入賞は素晴らしい成績だと思います!
あのスピードと暴走気味のかっ飛びジャンプが彼の魅力&個性ではありますが、暴走傾向ゆえジャンプに毎回バクチ感があるのは否めません。今後トップを目指すにはスピードの制御とスピンの向上が必須になってくるでしょうが、緩急をコントロールできるようになった彼の姿が今はまだ想像できません(苦笑)。
彼の演技が今後どう進化していくのかは楽しみですが、あのスピードから生み出される個性は失われてほしくないなと思います。
チャ・ジュンファン選手 ~怪我の中での挑戦~
今季はずっと足の調子がよくないままなのに、連戦連戦だし大丈夫なんだろうか?きっちり休ませてあげた方が回復にはいいのではないか?ーと素人ながら心配していました。
なのに本人は今季のジャンプ構成上げてくるし…今季の彼のワールドは期待より心配の方が大きかったです。昨年のさいたまワールドのフリーのジュンファンは神がかっていました。一度ワールドのメダルを獲ったからこそ、ミラノ五輪を見据えているからこそ彼は今年を「飛躍する前に一旦かがむべき年」だと決めたのかもしれません。
公式練習でもあまりジャンプを跳んでおらず、状態がよくわからない。はっきりとは語っていないようでしたが、足の状態は万全ではないように思います。
ただ滑りは相変わらず美しい。今回のワールドではかなり至近距離で公式練習を見ることができましたが、目の前を通り過ぎる時のジュンファンのスケーティングのインパクトは本当に凄かったです。ただ滑りぬけて行くだけなのに優雅さ&スピード感が強烈で。
冒頭の4回転サルコウがキレイに入った時は、「おぉ?ひょっとして行けるのか?」と期待値がグワーッと上がったのですが、2本目の4回転トゥループは抜けてしまいました。その後4Sコンビネーションは気合で1Tをつけたし、ルッツループ決まって「うおぉ」となったものの、後半のアクセルで転倒してしまったのが痛かったです。結果は総合10位。
調子がよくなくても、4回転3本構成を諦めなかったところに彼のアスリート魂を見た気がします。
ジュンファンのフリープログラム、去年は007で今季はバットマンと映画音楽が続きましたが、来季は映画音楽から離れて渋い選曲してほしいなぁ。派手な曲を滑らせたいのならクラシックの名曲でもいい。足の状態がよくなった状態で彼のフリーを見たいです。怪我の回復が進みますように。
デニス・ヴァシリエフス選手 ~プロ変更からステファン感涙へ~
直前のプログラム変更の驚き
ワールド前に飛び交っていた情報の中で最も驚かされたのは、「デニスがフリープログラムをライオンキングに変えるらしい」でした。ユーロ後にプロ変えるなんてそうそうないですよね?昔やった競技プロに戻すのならともかく、全くの新プロにするなんて。
シーズン終盤にプロを変えた有名選手で私の記憶にあるのはソルトレーク五輪の時のエフゲニー・プルシェンコ選手ぐらいでしょうか?
(グランプリファイナルでヤグディンに負けて2位になったのを機にフリーの「シルクドゥソレイユ」のメドレーを「カルメン」に変更した。五輪SPでまさかの転倒をし、超高難度コンビ入れまくった構成で挑んだことから日本のスケオタには「やけくそカルメン」と語り継がれることに…。でも彼もこの年のユーロは欠場しているので一定の準備期間はあったんですよね)
高橋大輔選手が「ロックンロールメドレー」から「月光」にSPを変更したこともありました。でもあれも四大陸選手権の前での変更でしたしね。ユーロや四大陸終了後に全くの新プロでワールドに臨むなんて相当な冒険です。今季は胸元ガバーの大人なジャズで攻め続けるのかと思ってたので想像が追いつきません。
幸いサブリンクの練習で曲かけを見ることができました。流し気味だったのでプロの全貌ははっきりとはわからずでしたが、やっつけ感は全くなくよさげな予感。
ただ、練習で4回転サルコウ降りてるとこは見られましたが、トリプルでちょくちょく転倒していたので不安は感じていました。
ほぼクリーンな演技にステファンコーチは…
そして迎えた本番フリー。冒頭4回転サルコウが2回転に抜けた後、3Lz3Tを決めたのを見て、私はちょっと安心してしまいました。(以前4回転サルコウ2回目跳びにいったことがあるんで…)これで美しいプロを見られる可能性が高まったと。
彼はジェイソン・ブラウン選手のようにトリプルアクセルまでの構成にしてPCS勝負をかければ、もっと確実に上位に食い込めるであろう選手です。でもまだ彼は4回転への挑戦を続けている。実際に練習では割とよい確率で降りてるし、挑戦し続けるのも納得できます。
でも、「ワールドの大舞台でほぼクリーンな彼のフリー演技を見てみたい」との想いはずっと持っていました。今回、その夢がかないました。ベストの構成ではありませんでしたが、私は満足できました。SPフリーともに8位で総合7位!2018ミラノワールドの6位以来、久々の一桁順位です。
彼の演技終了直後、デニスがリンクで観客の声援に応えている時だったでしょうか?まだデニスがリンクサイドに引き上げてくる前。私はステファンが涙をぬぐっているような仕草をしているのが見えました。拍手に専念していてカメラは構えていなかったので、あいにくその感動シーンを記録に残すことはできずでしたが。
「ステファン、モントリオールで少なくとも1回は感涙できてよかったね!昌磨くんも後に続けるといいなぁ」とその時思ったのをよく覚えています。
最終グループの演技はまたの機会に~