今回は、2025年グランプリシリーズ(GPS)第2戦・中国大会(中国杯/カップ・オブ・チャイナ、COC2025)のまとめ後編です。今回はエキシビションについて。
前半は、今季ついにGPSでのエキシビション開催が半分に減ってしまったことについて。後半は私が楽しんだプログラムを背景情報や、昔懐かしいあの選手の話題なども含めて振り返りました。
そして最後に、中国アイスダンス組のキス&クライでの騒動(大陸間弾道ミサイルのクッションを持ち込んだ件)等、「ぬいぐるみの投げ込み」について最後で触れています。
GPSでのエキシビションが半減したことについて
今季開催はフランス・中国・日本のみ
今季のGPSでエキシビションを実施する開催地は、全6か所中フランス・中国・日本のみ。いまや貴重な機会です。「この3つの開催地も来年の開催はどうなるのだろう?」と若干心配しています。
昨季、カナダの連盟がエキシビション開催を取りやめた理由はボランティア人員確保が困難なことでは?と推測されていました。しかし、フィンランドと今季開催を取りやめたアメリカについては、理由は不明です。
エキシビションが無くなった件に関する昨季の記事はこちら

ベテラン2組が医療上の理由でエキシビションを欠場
「チョックベイツ」ことマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組と「スイハン」ことスイ・ウェンジン/ハン・ツォン組は「医療上の理由」で出演しませんでした。
どちらも実際怪我を抱えながらの出場だったようなので欠場はやむをえません。しかしながら「スイハン」はそもそもエキシビションプログラム自体用意できていなかったようです。練習再開数か月では新プロ2つ間に合わせるだけで限界ですよね…昔のプロやるにも3年も組んでいなかったら練習必須でしょうし、何より危険です。
GPSの時期にエキシビションを行う負担
ISU(国際スケート連盟)が新シーズンのルール改訂を定めるのは毎年6月の総会です。
近年には「ジャンプ規定回数削減のルール改訂」が予想されていたものの総会で承認されず、ジャンプ個数を減らしたプログラムを準備していた選手たちが総会以降に振り付けの大幅手直しを余儀なくされた事態もありました。

細かいルール改訂に毎年対応しなければならない近年の選手たちにとっては、「GPSの段階でエキシビションプログラムと衣裳も用意しろ」というのは、酷なことなのかもしれません。
今後はどうなる?
今年エキシビションを取りやめたアメリカの連盟が来年以降もエキシビションなしを継続したら、今後「フランス・中国・日本のみ3エキシビション実施」が固定化されるかもしれません。
となると、「エキシビションのない大会に出たい」と思う選手が出てこないでしょうか?―逆に、ショーに関心があるか、資金を得たいなどの理由で「エキシビションのある大会」に出場したいと思う選手もいるかもしれません。
「エキシビションの有無」がアサイン希望条件の一つに今後なる可能性はありそうに思います。
GPS大会で最後までエキシビションを続ける国はどこになるでしょう?アメリカが「開催なし」に追随したことで、GPSエキシビション廃止の流れは今後も進みそうに思えてなりません。

かくいう私もアイスショーにお金を回したいので、NHK杯エキシビションとMOI(全日本選手権後のエキシビション)のチケットは購入していません。
現役選手による試合エキシビションが減っていくのを嘆く権利はないかも…
楽しかったエキシビションプログラム
さて、ここからは楽しい話題で行きます。中国大会は私が個人的に気に入ったプログラムが多くありました。
渡辺倫果選手の「RRR」ナートゥ・ナートゥダンス!
フィギュアスケート×ナートゥダンス!
渡辺倫果選手の用意してきたエキシビションプログラムは、2022年のインドのミュージカルアクション映画「RRR」の「ナートゥ・ナートゥ」!
私この映画大好きで映画館に3回観に行ったくらいなので、超アガりましたよ!よくあのハードなノリの曲をやろうと思いましたね!
映画のダンスパフォーマンス中にもサスペンダーを使った振付があるんですが(動画の55秒あたりから)、彼女も男装スーツ風衣装で出てきてスピン中にサスペンダー芸を披露してくれました。
氷上では再現が難しかろうステップも最後の方で披露。いや~楽しかった。
蘇る「アブザルのサスペンダー芸」の記憶
10年以上前からフィギュアスケートをご覧の方の中には、アブザル・ラキムガリエフ選手(カザフスタン)を思い出した人が数多くいたことでしょう。彼の名前を検索すると、サスペンダー芸写真が表示されるのが「わかってるー!」って思います(笑)。
サスペンダーを利用した振り付けをやるスケーターは定期的に現れますが、彼以上のインパクトを競技で見せてくれるスケーターはそうそういませんね。思わず動画探して見ちゃいました。
下記の動画はソチ五輪のアブザル・ラキムガリエフ選手の演技部分から再生されるように設定しています。当時、一部の層でかなり話題になったサスペンダー芸のショートプログラムが見られます。3回のジャンプ、スピン後のステップが見どころです。演技後、観客が少々ザワザワしているのが衝撃を物語ります(笑)。
チャ・ジュンファン選手の「Thunder」
チャ・ジュンファン選手はストリートファッション系衣装でイマジン・ドラゴンズ(Imagine Dragons)の「サンダー(Thunder)」を演じました。

韓国でキム・ヨナさんアイスショー「All That Skate(オール・ザット・スケート)」での男子ナンバーで使われた曲といえば、メンバーだった宇野昌磨さん、ネイサン・チェンさん、ハビエル・フェルナンデスさんのファンにはわかりやすいかもしれません。
「All That Skate」での男子選手コラボは、一人一人のスケーターが曲に合わせて技対決をしていき、ここぞというところで連続バタフライジャンプなどをリズミカルに決めるーという流れ。動きを揃えてキメキメに踊るパフォーマンスもいいですが、「Thunder」は程よい「抜け感」があって大好きなプログラムなんですよ。
チャ・ジュンファン選手がこの曲で演技してくれたおかげで、「『All That Skate』のあのメンバーにチャ・ジュンファン選手が加わっていたら?」という妄想の手助けになりました(笑)。彼個人のエキシビションとしてももちろん十分楽しめますけどね!
トリは佐藤駿選手の「千本桜」
昨年の中国杯エキシビションに引き続き、トリを務めたのは佐藤駿選手。今季のエキシビションは「千本桜」、宮原知子さん振付の鬼プロだと聞いていたので見るのを楽しみにしていました。
ただ、「千本桜」といってもボーカロイド版ではなく、ヴァイオリン版でした。演奏しているのは佐藤駿選手2022-23シーズンのSP「Carol of the Bells」の奏者・リンジー・スターリングさん。原曲を知らない方はクラシック音楽かと思う方もいたかも?
確かに鬼プロ!中国の観客にも受けていました。
その他
その他で印象的だったのは、アナスタシヤ・グバノワ選手(ジョージア)の「長靴をはいた猫」プロ。セクシー&キュート系の衣装が最高でした。北京五輪最終予選準備で大変だったろうに脱帽です。
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Anastasiia Gubanova 🇬🇪 at #GPFigure Cup of China skating to Por Que te Vas and Americano during the exhibition gala 🖤 pic.twitter.com/EdY2KlyrTo
— In The Loop (@InTheLoPodcast) October 27, 2025
アイスダンスの「ジンコレ」のエミリア・ジンガス選手(米国)がアンバー・グレン選手(米国)の予備のフリー衣装(CS大会で着用していたもの)を着てエキシビションに出ていたのも、話題を呼びましたね。
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A beautiful gala program from Emilea Zingas and Vadym Kolesnik 🇺🇸 to Work Song by Hozier 💙 pic.twitter.com/GltgXVdkvu
— In The Loop (@InTheLoPodcast) October 27, 2025
「スマディク」ことオリヴィア・スマート/ティム・ディーク組(スペイン)のサッカープロとか、「ロパブリ」ことエフゲニア・ロパレワ/ジョフレー・ブリソー組(フランス)のコミカルプロとか、他を挙げていくとキリがないのでこのへんで(笑)。写真のある投稿だけ埋め込んでおきます。
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— In The Loop (@InTheLoPodcast) October 27, 2025
中国大会で改めて考えさせられた「観客のプレゼント投げ込み」
中国は新型コロナ感染拡大期が過ぎて以降フィギュアスケート国際大会の誘致に積極的で、今季の四大陸選手権と来季のグランプリファイナルと四大陸選手権はいずれも中国開催が予定されています。

私は2023年の北京グランプリファイナルを現地観戦しました。
観客にお国柄の違いは感じましたが、大会運営もスムーズだし周囲にいた人のスケオタ度は濃くて、「どこもファンは同じだな」と楽しめました
ただ最近の中国開催試合は、人気選手の演技時のぬいぐるみの投げ入れ個数が度を超し始めているのが少し気がかりでした。
ぬいぐるみの投げ入れ…ちょっと増えすぎでは?
「スイハン」演技後の投げ込みの多さに関する「コンマチ」ことサラ・コンティ/ニッコロ・マチー組の談話については先日の記事でも紹介しましたが、ボーヤン・ジン選手SP直後の樋渡知樹選手も大変そうでした。彼は終始にこやかに対応していて不満一つ述べていませんが、寛大な選手に甘え続けるのもなと思っています。
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What a special and emotional moment for Boyang Jin 🇨🇳 who skates a clean SP in front of his home crowd! 👏🏻
— Golden Skate (@goldenskate) October 24, 2025
He earns 86.62 points!!#GPCHN2025 pic.twitter.com/YJjfTvmheN
数名のキッズスケーターですぐ拾える数なら皆が楽しめるツールだと思いますが、数名で規定時間内に拾いきれないくらいの個数になると別。「真剣勝負の場で、リンクコンディションを乱すような行為を許すのはどうなのか?」と思います。
フリーでボーヤン・ジン選手の後に滑走したのは山本草太選手でした。彼はこういう事態を見慣れていて何とも思っていないかもしれないけれど、ファンの立場からしたら、少しでもよいリンクコンディションで演技に臨んでほしいと思う人も多いではないでしょうか?
日本でもNHK杯や名古屋グランプリファイナルでは席を限定して投げ込みを許可しました。既定の席以外から投げ込んだり、許可されていないものを投げたりするような「ルールを守らない観客」が現れたら毅然と対応してほしいと思います。
キス&クライに持ち込まれた「大陸間弾道ミサイル」の波紋
アイスダンス8位だった中国のJunfei REN/Jianing XING(レン・ジュンフェイ・レン/ジアニン・シン※日本語表記はまだ定まらず)組がキス&クライに、中国最新の大陸間弾道ミサイル「東風(DF-61)」の布製クッション(抱き枕らしい)を持ち込んだ例の件。やはり波紋が広がっています。


日本でも既に複数社から報道されていますが、そちらについては上記のまとめ記事内に記載しています。
この騒動のミラノ五輪への影響は?
オリンピック開催まであと半年を切っています。近年のオリンピックでは政治的なメッセージを含む物品の会場への持ちこみは選手観客ともに厳しく制限されていますが、観客の投げ込みはこれまで許可されてきました。
しかし、今回の件を機にミラノ五輪はひょっとして投げこみ全面禁止になりかねないと思っています。あるいは2025ボストン世界フィギュアスケート選手権(ボストンワールド)のように、持込検査がより厳重に行われるようになるか。

フィギュアスケートの試合では、選手に対して心を込めた投げ込み用プレゼントを手作りされる方もいらっしゃいます。今回の中国大会でも、ミハイル・シャイドロフ選手(カザフスタン)に送られた手作りのパンダの王冠にはほっこりさせられました。
もしこれで規制が強化されたら「何て余計なことをしてくれたんだ」と思うファンも多そうです。でも、少なくとも選手の演技に影響がない大会運営を期待したいと思います。


