2025NHK杯国際フィギュアスケート競技大会(NHK杯フィギュア)、11/8(金)と9(土)の2日間現地観戦しました。
今回は女子シングルとアイスダンスの振り返りです。
女子シングル
まずは女子シングル全体の感想、その後に印象に残った選手たちの演技を振返ります。
演技には満足だったのに感じた“微妙な物足りなさ”
女子シングルでは、坂本花織選手が圧倒的な強さを見せて優勝、2位はソフィア・サモデルキナ選手(カザフスタン)、3位はルナ・ヘンドリックス選手(ベルギー)でした。
坂本花織選手の素晴らしい演技をナマで見られたことは大変な幸運でした。
彼女以外にもいい演技を見せてくれた選手たちが何人もいたので、演技内容自体には大満足!
ーでも、正直申しますと、私が今回のNHK杯で唯一「微妙な物足りなさ」を感じたのは女子シングルでした。

どうも私は「好きな選手たちが素晴らしい演技をした」というだけでは満足しきれないようで…
私は「誰が勝つかわからない」という緊張感&ドラマを試合に求めているんだなと自覚しました
「今季の女子は群雄割拠状態で俄然面白くなってきた」と感じていただけに、フリー前に「優勝者当確状態」になってしまったことへの物足りなさを例年以上に感じました。
「イチかバチかの大技挑戦」が少ない女子では大逆転はそうそう起きませんしね…
SPは女子シングルでは珍しい自爆展開に
GPS出場レベルの女子シングル、特に後半グループは大崩れなしにSPをまとめて来る選手が大半です。なのに、NHK杯女子は大きなミスが相次ぐ、驚きの展開になりました。
今季GPS大会女子SPのミス数比較
ちょっと気になったので、今季GPS各大会の女子シングルSPの大きなミスの数を調べてみました。
| フランス | 転倒5人、要素抜け2人 |
| 中国 | 転倒1人 |
| カナダ大会 | 転倒3人 |
| 日本(NHK杯) | 転倒5人、要素抜け3人 |
| ※ここでの「要素抜け」はコンビネーションジャンプor単独ジャンプでの規定要素無し扱いを指す | |
フランス大会のSPって意外と自爆傾向強かったんですね…上位勢がほぼノーミス演技続きだったのですっかり神大会として記憶していました。まぁ初戦だからこんなものでしょうか。
おそらくNHK杯の場合は、メダル争いに絡むことを期待されている選手に大きなミスが多かっただけに過失が多いイメージが強まったのかなと思います。

「何でよりによって貴重な全国地上波放送ゴールデンタイムでこんな自爆続きだなんて…」と現地で悲しくなるレベルでした
坂本花織選手
SPの悪い流れを断ち切る会心の演技
不本意な演技が続いてしまったSPの最終滑走で登場したのは、坂本花織選手でした。
彼女がクリーンな演技を披露して、会場を包んでいた重苦しい空気を綺麗に締めてくれたのは本当にありがたかったですね。「あぁこれで暗い気持ちを切り替えて家路に着ける!」って。

圧巻のフリー
フリーはただただ「圧巻」でした。
SPでの点差が大きかったですし、1~2回ミスしても優勝は当確状態という、スポーツとしては面白味に欠ける展開でした。そこを強引に実力でねじ伏せて、観客を大満足させるって…さすがですよ。
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🏆 Four-time queen of NHK Trophy! 👑
— ISU Figure Skating (@ISU_Figure) November 8, 2025
Kaori Sakamoto blew the roof off in Osaka, delivering a powerhouse performance she’ll never regret: full of fire, finesse, and fearless energy! 🔥🇯🇵
Her fourth NHK Trophy title and another statement that she’s the one to beat this season. 💥… pic.twitter.com/q6zbQc6Hiy
あれをナマで見られたのは後世の人に自慢できるレベル(笑)。いやまだこれからグランプリファイナル(GPF)も全日本もあるから自慢できる経験がまだまだ増えるかな?

樋口新葉選手
崩れたSPと渾身のフリー
今季はなかなか調子が上がっていない感がある樋口新葉選手。SPでは冒頭のダブルアクセル以外のジャンプで大きなミスが続いてしまいました。どうも足の痛みでSPは練習したくてもあまりできなかったようです。
フリーは比較的練習が積めていたこともあってか、木下グループ杯で見た時よりもずっと力強い「ワンダーウーマン」が見られました。

次戦は今週末のスケアメ
SPでの出遅れが響いて総合168.27で9位と、ランキングポイントは獲得できず。次は第5戦アメリカ大会(スケートアメリカ/スケアメ)です。
連戦なのが心配ですが、今出来る限りの演技を披露して北米のワカバファンたちに彼女のパワーを見せてほしいです。

青木祐奈選手
連戦で臨んだSPは…
第3戦カナダ大会(スケートカナダ/スケカナ)からの連戦となった青木祐奈選手。その疲れが響いたのかどうかはわかりませんが、SPでは冒頭のルッツが回転不足「<」、コンビネーションジャンプも最初のフリップが詰まりこちらも回転不足「<」となり、56.72 と9位スタート。
表現力で魅せたフリー「ラ・ラ・ランド」
ただ、フリーの「ラ・ラ・ランド」は本当にすばらしかったです!

セカンドトリプルループこそ入りませんでしたが、咄嗟にダブルトゥループに変えたことで失点を防ぎ、プログラムの世界観を守りました。ダブルアクセル~トリプルフリップ、コンビネーションは入りましたし、何より表現力が炸裂していましたね。
回転不足「q」を4つもつけられたこともあり、得点は126.59と演技で受けた印象ほどは伸びませんでしたが、「そんなジャッジの指摘なんかほっとけ!」という気分になりました。
海外掲示板でも高く評価されていましたね。こういう表現力に満ちた演技をもっと見たいと。
フリー5位で総合6位。今季GPSの最後にいい演技を披露できてよかったです。
ルナ・ヘンドリクス選手(ベルギー)
復活に寄せる期待
ルナ・ヘンドリクス選手(ベルギー)は、坂本花織選手と同様ロシア女子が席捲している時代に闘ってきた選手。実は私、彼女にも五輪メダルを手にしてほしいと願っています。(そう願ってる選手が他にも何名かいるのは別の話…)

ミスが連続したSP
昨季は右足の手術でほぼ全休しワールドランキングが落ちていたため、今大会SPは前半グループでの登場となりました。
しかしトリプルルッツからのコンビネーションジャンプのセカンドがダブルになり、後半のトリプルフリップで転倒で、まさかの62.45点で4位発進。

五輪代表最終予選でもSPでは3回転3回転のコンビネーションは入らなかったので、「やはりあれからピークは落としているか…今大会の表彰台は厳しいかもな」と覚悟しました
会心のフリーで銅メダル
しかしフリーでは会心の演技で136.52を出し、フリーは2位!
SPを揃えられればまだまだトップ争いができると思わせてくれました。
総合3位、次戦はフィンランド大会です。私はできたらGPFで彼女を見たいのですが、あまりにも激戦区なんですよね…。

彼女のInstagramには、大阪滞在を満喫している様子が投稿されていました。楽しそうで可愛かったです。

会場に移動する時、地下鉄駅の構内でホテルに戻る彼女&コーチ(昔選手として活躍していた兄のヨリック・ヘンドリックス氏)とすれ違えたのはなかなか良い想い出になりました
その他の選手たち
ソフィア・サモデルキナ選手(カザフスタン)
今回2位に入ったソフィア・サモデルキナ選手。私は彼女の演技を今回初めてナマで見ましたが、映像で見ていたよりもずっと気に入りました!
アンナ・ペゼッタ選手(イタリア)のトリプルルッツも豪快で良かったのですが、私にはソフィア・サモデルキナ選手はジャンプ以外も含め、よりパワフルに感じられました。大柄な体で繰り出す技には迫力がありましたね。
SPのチャルダッシュ良かったです!

昨季カザフスタン代表として競技復帰した際は、「ジャンプが回転不足気味でスピンのレベルが取れないのが惜しい選手」という印象だったんですが、現地で見たらジャンプは豪快に回り切って降りて来るし、スピンも昨年よりかなり改善しているではないですか!
ダイナミック系が好きな私としては、彼女はお気に入り選手に仲間入りしました。

総合点が200.00ピッタリだったのも、超珍しくて面白かったです(笑)
宇野昌磨選手が2022GPFのSPで99.99を出したのを思い出しました
ソフィア・サモデルキナ選手はこの1戦のみの出場予定でしたが、第6戦フィンランド大会からニーナ・ペトロキナ選手(エストニア)の棄権が決まったため、2戦目が巡ってきそうです。2戦目の結果次第ではGPF進出もありえます。
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Women's press conference at #GPFigure NHK Trophy!
— In The Loop (@InTheLoPodcast) November 8, 2025
Apologies as Kaori Sakamoto 🇯🇵 was late to the press conference so we were unable to get her quote! pic.twitter.com/jFgxraP2gG
韓国の五輪代表女子争いが更に混沌に?
今回出場している韓国女子選手については、さほど注目していなかったのですが…ユ・ヨン選手の活躍には驚きました。フランス大会では奮わず10位だったのに。
SPがクリーンに決まったとはいえ、本人も3位以内に残るとは思わずにホテルに戻って休憩。記者会見のために慌てて地下鉄で会場に戻ってくることになったのは、微笑ましいエピソードでした(笑)。

しかも、フリーでもクリーンに決めてきました。私は今の彼女がフリーで131.16も出せるとは思っていなかったので本当にビックリ。総合198.82と、あと一息で200点というところまで迫りました。
韓国女子の五輪代表争いはワールドメダリストのキム・チェヨン選手とイ・ヘイン選手にシニアデビューしたばかりのジア・シン選手の3名で2枠を争うものと思っていました。
そこに、ユ・ヨン選手のこの演技。「私もいます」というアピールになったのではないでしょうか?
アイスダンス
最後に、アイスダンスを振り返ります
私が今回のNHK杯で一番試合として楽しんだのは、実はアイスダンスだったかもしれません。
フィアギブ(英) VS ギニャファブ(伊)
ミラノ五輪シーズン 注目の勢力争い 2回目も「フィアギブ」が勝利
アイスダンスで私がフランス大会に引き続きもっとも注目していたのは、「フィアギブ(ライラルイス)」ことライラ・フィアー/ルイス・ギブソン組(イギリス)と「ギニャファブ(シャルマル)」ことシャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組(イタリア)との対決でした。

予想はしていましたが、今季2度目の直接対決は再び「フィアギブ」に軍配が上がりました。

ギニャファブは練習時に衝突のハプニング
「ギニャファブ」はRDの曲&振付を一部変更するなど対策を施してきていたのですが、公式練習時に「うたまさ」の吉田唄菜選手とシャルレーヌ・ギニャール選手が衝突してしまった件が響いていたかもしれません。

ギニャファブは総合2位で銀メダルは獲得し、4位ー2位でGPF進出に望みをつなぎました。しかしエキシビションは怪我を理由に欠場していましたし、演技への影響は多少はあったかもしれません。
衝突のハプニングを伝える記事はこちら

フィアギブはGPF出場確定!
フィアギブはGPS大会2位ー1位で、グランプリファイナル出場を確定させました。
彼らの今季RD・FDは、どちらも会場観客を味方につける系のノリのいい路線。特にFDは最初から観客もノリノリ。終盤で超明るい「蛍の光」が流れたあたりの観客の一体感は凄かったです。

「ミラノ五輪でこの明るい蛍の光をバックに笑顔で駆け抜ける二人の演技が観られたら、楽しそうでいいな」と思いながら観ていました。現地で見る二人の衣装はどちらも映像よりも素晴らしかったです!
シブタニ兄妹(米国)の復帰演技
7年ぶりの競技復帰
「シブタニ兄妹」ことマイア・シブタニ/アレックス・シブタニ組は、マイア・シブタニ選手の腎臓がん治療を経て7年ぶりの復帰試合です。
6分間練習のリンクインスタイルが当時から大きく変わったためか、二人が出て来るタイミングを間違えて先にリンクインしてしまって、慌てて一旦退場するという一コマがありました。

「間違えちゃったよ、恥ずかしい!」と頭を抱えて出ていく姿が可愛らしかったです
RDの演技では複雑な気持ちに
RDが始まった時、これまで練習着だと思っていたのが本番衣装だと知ってビックリ。(あの衣装は練習着だとばかりw)
フィギュアGP第4戦NHK杯・公式練習、
— 吉田 航太 (@kotayoshidapic) November 6, 2025
初めてのアメリカ・チーム澁谷、キレキレフレッシュな曲かけとても良かったです。本番楽しみ。
調整する米国のマイア・シブタニ、アレックス・シブタニ組
=大阪・東和薬品ラクタブドームで2025年11月6日、吉田航太撮影
写真特集|https://t.co/Q20Bss4xqD pic.twitter.com/fymPOuc7j9
RDには、東京・渋谷駅の案内アナウンスがサンプリングされた曲を使用し、上着には「澁谷兄弟」とプリントするこだわりよう。(兄妹でなくていいのかw)
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NHK杯
— 蓮野亜耶【AYA HASUNO】 (@Hasuno_chunichi) November 6, 2025
マイア・シブタニ、アレックス・シブタニ組(米)も公式練習に参加しました。 pic.twitter.com/wWvtFesJJG
ただ、平昌五輪シーズンの名古屋グランプリファイナルで見た素晴らしいスケーティングは完全には戻っておらず、少し悲しい気持ちになりました。

やっぱり7年のブランクは大きいのかな?
大病の後となると、やはりこうなるのか…と
FDの「Fix You」に感じたもの
しかし、FDで再演した「Fix You」(2015-16シーズンプログラム)は、そのような気持ちを捨てさせる演技内容でした。
実力は戻しきれてはいないかもしれないが、この7年の流れが詰まったかのような表現で。

それは、彼女が闘病していたこと、復帰にあたってあれこれあって色々あったこと等、私が彼らのバックグラウンドを知っているから感じ取れるものなのかもしれません。演技そのものではなく、背景のストーリーに感動しているだけかもしれない。
でも、演技を見ていたら彼らが戻ってきたことを素直に称えたくなったので、スタンディングオベーションで拍手を送りました。

今大会の結果を見る限り、ただでさえ激戦のアメリカアイスダンスのミラノ五輪代表争いに絡むのは難しそうに思えます。
でも、彼らは31歳と34歳。アイスダンスの世界ではまだ現役続行可能な年齢ではあるので、今後彼らが挑戦を続ける気持ちなのであれば、気長に応援するのもいいかなーと思いました。
3位争いはグリパー(米国)がタシュラーズ(チェコ)を下す
「グリパー」ことキャロライン・グリーン/マイケル・パーソンズ組(米国)が順当に3位を獲得しました。たアイスダンスの五輪代表争いは熾烈なので、まだどうなるかはわかりません。

個人的に兄妹カップル「タシュラーズ」ことナタリー・タシュレロバ /フィリップ・タシュラー組(チェコ)にGPS初の表彰台を期待していたのですが、お預けになりましたね。グリパーはエキシビションも凝ったのを通っていたし、今季のプロにも個性を発揮してかなり力を入れてるなと感じました。米国内五輪代表争いはどうなるか気になります。
ピリハラ(フィンランド)
昨季、FD「コーラスライン」で人気を博した「ピリハラ」こと折原裕香/ユホ・ピリネン組(フィンランド)。彼らの今季プロはやっぱり楽しかったです!

RDで色々取りこぼした要素があり、まさかの最下位には驚きでした。ですがFDでは8位、総合8位に順位を上げました。FDは多くの選手が使っている「ムーランルージュ」。しかし選曲に個性が溢れていてコミカルな振付も多く、今年も人気を集めそうな予感がしました。
気になる五輪出場ですが、今のところフィンランド国籍取得の目途はたっていないようで、折原裕香選手いわく「厳しい」とのこと。期待し過ぎないようにしておきます…。
うたまさ(吉田唄菜/森田真沙也組)
「うたまさ」こと吉田唄菜/森田真沙也組が出場するGPSはこのNHK杯1戦のみ。
RDは8位の好演技でパーソナルベストスコア(PB)にわずかのところまで迫りました。「PBの70点出してくれてもいい演技だったのに~」と残念に思ったくらいでしたが、FDでは大きなミスが二つ重なり、総合10位に順位を落としてしまいました。
今大会では練習のために早めに帰国したのにロストバゲージになったせいで練習がしばらくできなかったり、公式練習では衝突アクシデントがあったり、FDではまさかのミスが出てしまう。衝突の際に受けたダメージが影響したのかどうかはわかりませんが、とにかく災難続きで彼らにとっては試練の大会となりました。

これが厄落としになって、全日本では彼らの実力を発揮できるよう祈ります。
さいごに
今回はせっかく現地に行ったので、会場での展示やらイベントやらを写真つきであれこれ振り返りたかったのですが、「Ice Brave2」京都公演の記録もまだ書き終えていないし、今週末のGPS第5戦アメリカ大会・スケアメも迫ってきているのでその時間が今は取れません。
エキシビションにも書き残しておきたいユニークな演技もいくつかあったのですが…


とりあえず2025NHK杯フィギュア振り返りはこれにていったん終了と致します。ではでは~

