ボストンで現地観戦した2025世界フィギュアスケート選手権、今回は男子SP振り返りの前編です。(前半グループにも好きな選手たちが多く、長くなったので分割しました)
ミラノ五輪出場枠をこの大会で確定させることができなかった中堅選手たちは、9月の五輪最終予選大会が正念場となります。ミラノ五輪男子シングルの残り5枠を巡る争いの展望も含めました。
今回は、壷井達也選手のフリー進出が決まった瞬間まで(第5グループ第1滑走者演技終了後)です。
私は宇野昌磨さん見たさ(笑)でフジ放送席を度々覗いていたおかげで、後続選手の採点発表前に壷井選手のフリー進出がいち早くわかりました。
スリリングだったあの瞬間も、会場で撮影した放送席写真と共にまとめています。
2025世界フィギュアスケート選手権リザルト(総合)
2025世界フィギュアスケート選手権男子SP採点表
観戦直後、現地で書いたフレッシュな観戦記録はこちら

男子SP観戦を前に
今大会の男子シングルはミニマムスコア(出場するのに必要な技術点)の数値を上げたにも関わらず、出場者が39名。うち15名もの選手がSP落ちするという、なかなかシビアな展開。
男子シングルが一番好きな私としては、SPで見納めになる可能性が高い前半グループの選手たちの演技はしっかり目に焼き付けておきたいところです。
競技開始に間に合ってホッ
去年のモントリオールワールドでは、男子SPの日にチケット関連のシステムにトラブルが発生、入場が遅れ第1グループの演技が見られなかったーという悲しいできごとがありました。

ボストンでは各カテゴリ終了するたびに退場⇒列に並んで再入場せねばならないのは手間でしたが、幸い入場時のトラブルはなし。
ブライアン・ボイタノ氏場内インタビュー
競技開始前には、往年の名選手ブライアン・ボイタノさんへのインタビューコーナーもありました。
1988年カルガリー五輪の「ブライアン対決」時代の私はオーサー派で、ボイタノ派ではなかったのですが何だかちょっと嬉しいw。早く着いてよかった。

司会の一人、ベンジャミン・アゴストさんが「あなたが優勝した瞬間をテレビで見て、『僕もこんな気持ちのいい瞬間を味わいたい』と思いスケートに取り組んだんですよ!(意訳)」とボイタノさんへの熱い愛を語ってました。
彼のインタビューコーナーは後半2グループ直前の整氷中にも行われました。さらに会場内で「ボイタノズラウンジ」と呼ばれるファンミーティング(有料)も開催。かつてのファンたちが詰めかけていたようです。
第1~2グループ
第1グループは自爆演技続き
そして、競技開始。去年ナマで滑りを見られなかったユーロの中堅勢を、無事見ることができました。
しかし最初の一時間余りの展開は凄かったです。
ランキング下位の第1グループにミスが多いのは当然とはいえ、ふつうグループ中一人や二人はクリーンな演技を見せてくれる選手がいるものなんですが…。
「大ミスが2~3個がデフォルト」な展開で40~50点台が連続。アクセルすっぽ抜けて無得点だったヤリ・ケスラー選手が60点台ギリギリでトップというまさかの事態。

第2グループ開始前に着席した隣席の米国人客に「第1グループどうだった?」と聞かれて、思わず「大惨事でした…」と答えたぐらいです
ユーシャン・リー選手(台湾)
第2グループには私のお気に入りのスケーターが二人いました。
最初に登場したのは、台湾のユーシャン・リー選手!

2023夏の大阪開催ジュニアグランプリシリーズ大会に出ていたので、ナマで演技を見るのはこれが2回目です。2023年に地元台湾で開催された世界ジュニア選手権での演技がすごく良くてね~。
4回転トゥループ持ち(成功率まだ低めですが)ながら、トリプルアクセル成功経験がないのでフリー進出の可能性は低い。予定構成には4回転トゥループ入れてたようですが、抜いた構成に変更してきました。公式練習でも6分間でもジャンプの調子よくなかったので、無理もありません。
なのに本番全てクリーンに決めて本人も感無量の様子。ステップはレベル3だったけど他は全部レベル4、トリプルアクセルのないジャンプ構成で69.63。これは4回転トゥループとトリプルアクセル入りの構成で挑んだ昨年のアジアントロフィーの69.03を上回るパーソナルベスト!

台湾での世界ジュニアの時も思いましたが、彼は結構大舞台に強いタイプなのかもしれません。今後の成長を凄く期待している選手です。
ダイウェイ・ダイ選手(中国)
今大会の中国代表はボーヤン・ジン選手ではなく、若手のダイウェイ・ダイ選手。比較的幅のあるジャンプと滑りが割と好みで、2023年中国杯から応援している選手です。
しかし冒頭は4回転トゥループからのコンビネーションだったはずがファーストが3回転に。「ああ…」となりましたが、そこからはまとめて75.02、SP21位でフリー進出を果たしました。

SPフリー両方で4回転決めてクリーンにまとめたら結構上に行けるポテンシャルありそうなんですけどね。初ワールドでフリー進出、五輪中国1枠確定させたのは立派な結果でしょう。
ボーヤン・ジン選手と彼と、どちらがミラノ五輪に行くことになるかな…二人とも好きなのでこの代表争を見るのちょっとしんどいです。
第3グループ
ドノヴァン・カリーヨ選手(メキシコ)の五輪枠獲得は?
第3グループで私が一番楽しみにしていたのは、ドノヴァン・カリーヨ選手。

彼については、モントリオールワールドの時に一度語り倒してます。

上記の記事でも「来年ボストンワールドでも頑張って、ミラノ五輪出場枠を掴んでほしい」と書いていました。
しかし…冒頭の4回転サルコウで転倒しコンビネーションにできず。その後のトリプルアクセルも若干堪え気味、最後のトリプルルッツにトリプルトゥループつけてリカバリー図ったものの乱れました。
それでもフィニッシュは笑顔で決めるカリーヨ君。

「サルコウの転倒だけならまだしも、これだとフリー進めないかも…」と思ってたら、アシュリー・ワグナーさんがキス&クライにマイク持って行くじゃないですか!
「北米で大人気の選手だからとはいえ、この演技後によく突入できるよな~聞きにくそう」と思ったけど、彼は爽やかな笑顔で対応していました。

でも、採点待ちの時はさすがに不安げな顔。私も不安。

結局アクセルには「q」がつき、ルッツトウは「>」の回転不足判定で点が伸びず、71.55。
フリー進出には75点は欲しかった…これはフリーは見られなさそうだなと悟りました。

残されたミラノ五輪出場の可能性は?
彼はフリー進出を逃し、五輪のメキシコ代表枠を獲得できませんでした。9月に北京で行われる五輪最終予選会に出て来るでしょう。
男子シングル残り5枠を、ロシア(ピョートル・グメンニク選手)、フランス(リュック・エコノミド選手?)、韓国(誰が出て来るか読めない…)、ドイツ(ニキータ・スタロスティン選手)や、その他ヨーロッパ勢の中堅選手多数と争うことになります。
パーソナルベストスコア&演技構成からいって、五輪出場枠獲得できる実力は十分あると思います。
でも、男子シングルの順位は当日の演技次第でど派手に入れ替わります。候補選手の誰ひとり確実とは言い切れない。国内大会では300点超えしているロシアの選手だって久々の国際大会でどうなるかは読めない。

男子の五輪最終予選会は激戦のペア同様、めちゃくちゃ緊張しそう…考えるだけで胃が痛いです
第4グループ
このあたりから入賞狙えるレベルの選手が続々登場してきます。
ロマン・サドフスキー選手(カナダ)
滑りもジャンプも所作も高いポテンシャルを持ちながら、安定性に著しく欠けることで知られるロマン・サドフスキー選手。去年モントリオールのSPクリーンに決まったときにビックリしたくらいですからね(苦笑)。

しかし今季は比較的安定した試合運びをしており、私は去年のワールドの時のほど「SP落ち」の心配をしていませんでした。

”チャンネル登録よろしく”の方がいいかな
冒頭の4回転サルコウ降りたし(qついちゃったけど)、鬼門のトリプルアクセルも降りたし、これは2年連続ワールドクリーンSP行けるか?…と思ったらコンビネーションのセカンドがダブルに(苦笑)。まぁでも「クリーン演技を期待してしまった」たということ自体が進化な気がします。
壷井達也選手
壷井達也選手がワールド代表の座をつかんだとき、スケオタ層に最も心配されたのは「4回転サルコウ1種のみだから、本番SPで4回転orトリプルアクセルが抜けたらSP落ちしちゃうのでは?」という点でした。
五輪3枠をこの大会で獲得するためには、出場選手全員がフリー進出するのが必要条件だからです。
その壷井達也選手は、現地公式練習で4回転サルコウに大苦戦していました。
練習では何度も4回転サルコウに挑戦していましたが、結局一度も着氷した姿は見られず。「ひょっとしてSP構成4回転抜きに変更もありうる?」とすら思ったほどです。

冒頭の4回転サルコウはダブルに「抜け」てしまいました。ダブルだと「要素抜け」で無得点。転倒ならともかく「抜け」はヤバイ!と青ざめました。
でも、彼は後半しっかり立て直して演技を終えました。
得点は73.00。最善は尽くしたけれど75点を切ってしまった…。これではフリー進出を示す「Q」はつきません。

壷井選手がフリーに進むには、後続選手の「ミス待ち」状態になってしまいました。
ミハイル・セレフコ選手(エストニア)
続いては第4グループ最終滑走、ミハイル・セレフコ選手。彼も公式練習や6分間練習での調子が今一つ。「今の調子なら、今大会に関しては会場に観客として来ている兄のアレクサンドル・セレフコ選手が代わりに出た方がよかったりしない?」とすら思っていました。
なので、冒頭の4回転トゥループで転倒した時は「あぁやっぱり…」と受け止めました。むしろ調子よくない中で、その後の演技をよく頑張ってまとめたという印象でしたね。

77.50で19位発進。この時点で「エストニア2枠獲得して兄弟揃っての五輪出場」の夢はほぼ消えてしまいました。
どうでもいい余談
私、実は競技初日の整氷休憩中に会場ロビーでアレクサンドル・セレフコ選手と超至近距離ですれ違ったんですよ!
去年夏のアイスショー「THE ICE」出演をきっかけ?に交際し始めた米国ペアのエミリー・チャン選手と手を繋いで仲良さげに歩いて。驚きのあまり目を見張ってしまったら、その視線に気づいたセレフコ兄とすれ違いざまに思いっきり目が合ってしまい、気まずかったです(苦笑)。
「あの二人手つないでたよ!」って口走りたかったけど、プライベートだしーと黙ってました。でも、さっきInstagram見にいったら10日程前に二人揃ってラブラブ花畑デート写真wをアップしてたんで書いちゃいます(笑)
スリリングだった壷井選手のSP通過
フリー進出は後続選手の得点次第
壷井達也選手の滑走は20番目。あと一人、壷井選手のスコア73点を下回る選手が出ればフリー進出が決まるという状況でした。
第5グループには4回転持ちでない選手が複数いたし、安定感に欠ける選手もいるのでフリー進出の望みはそこそこあります。とはいえ全員が上回る可能性もありますし、後続の選手に失敗してほしいとは思えないので微妙な心境でした。
しかし、その時は思ったより早く訪れました。
第5グループ一番滑走のキム・ヒョンギョム選手(韓国)は4回転トゥループ入りの構成を敢えて落とし、クリーンにまとめてフリー進出を狙う戦法で来ました。しかし惜しくもトリプルアクセルで乱れてしまい。とはいえ他の構成要素はハイレベルでまとめてきたので(スピンステップオールレベル4!)、これは73点前後の微妙なラインかもなと思っていました。
フジテレビ放送席の動きでいち早くわかった壷井選手のフリー進出
採点待ちの間に私がフジテレビ放送席を見ると、中村アナウンサーが放送席に並ぶモニターをペンで指さして何やら真剣に喋っています。
(放送席の3名は、第4グループ前の整氷中にブースにやってきて、壷井選手の演技時のみ実況解説を行いましたが、その後はヘッドセットを外してそのまま普通に観戦していました)

彼らは暫定技術点だけでなく、GOE修正&PCSが入力されていく様子もリアルタイムで見られるのかな?と思い、注目。(カメラのズーム機能ではモニター画面まではさすがに見えずw)
まだ場内モニターには演技のリプレイ映像が流れていた時間帯でしたが、中村アナウンサーの顔に驚きがパッと浮かんだのが見てとれました。

そして、横の二人に何やら話しかけます。
採点結果のアナウンスがあったのはこの後でしたが、この時の放送席のリアクションを見て私は壷井選手のフリー通過を確信しました。


この後はアダム・ハガラ選手(スロバキア)のような4回転なしの選手もクリーンな演技を決め、全員が73点以上のスコアを出しました。
結局、壷井選手はフリー進出24名の中にギリ入るSP24位で通過。25位とはわずか0.16点差、点差はギリギリでした。
たまたま後続2人めで早々に進出が決まったから落ち着かない時間帯は短くて済みましたが、本当滑り込みでしたね。
万一彼がフリー進めなかったとしても、選手層の厚い日本男子なら五輪最終予選で3枠目を取ることは十分できたでしょう。でも、やはりこの大会で3枠決まるのが一番。ここでSP通過できたのは大きかったです。
韓国の五輪2枠目は9月の五輪代表最終予選で再挑戦
キム・ヒョンギム選手がSP落ちになってしまったことで、韓国は今大会でのミラノ五輪2枠確定を逃しました。チャ・ジュンファン選手が総合7位に入ったため、ジュンファン選手以外の韓国男子が五輪最終予選で上位に入れば、2枠目を確定することができます。
五輪出場の可能性がキム・ヒョンギム選手など他の韓国男子に残されているぶん、後味の悪さが軽減されたのはよかったなと思います。
では、今回はこの辺で一区切り。