「世界ジュニアフィギュアスケート選手権2026(ジュニアワールド2026/JWC2026/世界ジュニア2026)」は、日本勢にとって非常に華やかな大会となりました。
男子シングルでは中田璃士選手が2連覇、西野太翔選手が銅メダル。女子シングルでは島田麻央選手が4連覇を達成し、岡万佑子選手も銅メダルを獲得。男女ともに日本勢ダブル表彰台です。アイスダンスの「かほゆう」こと山下珂歩/永田裕人組も14位に入りました。
それでも今回は、どうしても手放しで喜びきれない気持ちが残りました。
島田麻央選手の体調不良。そして華やかな結果だからこそ考えてしまう2022年の「シニア移行年齢引き上げ」というルール改正。
華々しい記録を前にして感じた、“少し複雑な今季の世界ジュニア”を振り返ります。
世界ジュニアフィギュアスケート選手権2026 リザルト
※出場者リスト・スケジュール・採点結果などの一覧です
世界ジュニア2026男子シングル|中田璃士選手連覇&西野太翔選手が銅メダル
中田璃士選手が世界ジュニア2連覇|構成を抑え完成度を重視
名古屋JGPFより構成を抑えて臨んだ勝負のフリー
「世界ジュニア2連覇」を目標にしてきた今シーズン。試合前は気合が入りまくっている様子で、逆にちょっと心配したくらいだったのですが、本番では落ち着いて演技できていたように見えました。
彼は昨年の名古屋ジュニアグランプリファイナル(JGPF)では4回転2種3本を投入したものの着氷の乱れが目立ち、4回転1本構成ながら完璧なフリーを演じたソ・ミンギュ選手(韓国)に逆転優勝を許しました。

今回の中田璃士選手は、4回転2種2本にとどめて全体の完成度を高める方針で臨んできました。その成果かどうかはわかりませんが、今回はジャンプが面白いくらいクリーンに決まりました。マイナス一つないスコアシートは壮観。
スピンでレベル2と3を一つずつ取っていたにもかかわらず、総合スコア268.47とはとんでもないですね。これでSPに4回転、フリーにステップが加わるシニア構成にして、スピンのレベルを揃えられれば一体どれほど点が出ることか。
2連覇は喜ばしいなと思いますが、やはり世界ジュニアで「連覇」の文字を見ると、「シニア移行年齢の引き上げ」のことを考えずにはいられません。あのルール改正が無ければ彼は今季からシニアで活躍していたわけですから。

年齢資格を満たしていたとしても、今季前半は疲労骨折もありましたし、五輪代表になれた可能性がどれほどあったかはわかりません
それでも「もし今季からシニアとしてグランプリシリーズ(GPS)初戦から戦えていたら…」とつい考えてしまいました
来季・2026-27シーズンから、ついにシニアの試合に参戦です。
メダル争い|ソ・ミンギュ選手と西野太翔選手は接戦に
ソ・ミンギュ選手(韓国)は、私が名古屋で目にしたときの好調さが見られずじまいで、少し残念でした。何と言ってもIGアリーナで観たフリー「エクソジェネシス」はかなりのインパクト。4回転サルコウも完璧、滑りも美しくて申し分のない演技でした。
SP後のインタビューで「靴が壊れそうだったので新しいのに変えて、ようやく慣れてきたところ」と話していましたから、そのあたりの事情が影響したかもしれません。フリー冒頭4回転サルコウで転倒していなければ、上位2名揃っての名演技が見られたのかもなと思います。

ソ・ミンギュ選手と僅差で銅メダルを獲得したのは、西野太翔(たいが)選手。
4回転トゥループとサルコウ2種2本がクリーンに入ったほか、スピンはオールレベル4。前半のトリプルアクセルに「q」がついた以外はマイナスなしの会心の出来。SPもフリーもここまで揃えて来るとは!
西野太翔選手の蛯原大弥選手への声援
ただ、私の印象により強く残ったのは、その後の展開です。
直後にSP3位だった蛯原大弥選手が演技したのですが、西野太翔選手はどうやらリンク脇のリーダーズチェアから大声で蛯原選手に声援を送っていたようです。

蛯原選手がジャンプでミスした場面や、ミス後にトリプルループを綺麗に降りた場面、さらに2回目のトリプルアクセル挑戦前に聞こえた大きな声は、西野太翔選手のものだと思います
ISU公式配信の実況でも、「西野選手がリーダーズチェアから熱心に声援を送っていた」と伝え、「日本男子は連帯が強くて互いに励まし合っているのが素晴らしい」と彼らの人間関係を賞賛していました。
蛯原選手はフリー後のインタビューで、「SP3位だったのに何故かネガティブな考えになってしまった」と吐露。
しかし、フリーでのトリプルアクセル2回目を跳ぶ前に「頑張れ!」という西野太翔選手の声が聞こえてきて彼と目が合い、気持ちを切り替えられたーと話しています。
Daiya Ebihara 🇯🇵 135.99 / 217.52
— Golden Skate (@goldenskate) March 6, 2026
“This Junior World Championship was half disappointing because of the short program. I gave it everything and started in third place, but after that I somehow fell into a negative mindset. I was not able to process the short program properly, and… pic.twitter.com/kznbZP0KW6
冒頭の4回転トゥループ転倒とトリプルアクセルの抜けが響いてフリー12位・総合9位になってはしまいましたが、後半は良い演技だったからこそ10位以内に踏みとどまれたと思います。
西野太翔選手と蛯原大弥選手は来季もジュニアに残留するかと思いますので、来年の世界ジュニアでは是非雪辱を果たしてほしいですね。
その他気になった選手たち
ジェイコブ・サンチェス選手(米国)は4回転がないもののオールラウンダーで高PCSを獲得できる、「ジェイソン・ブラウン選手路線」。トリプルループがダブルに抜けていなければ表彰台乗れていたかもしれませんね。全米選手権での神演技再現とはならずでした。
チェ・ハビン選手(韓国)は、今までジャンプ偏重型だと思っていたんですが、採点表を見るとスピンがオールレベル4でした。まだ粗削りですが、今回の演技は結構気に入りました。4回転ルッツを、ダブルアクセルへのシーケンスを含め2本決めてフリー4位。(後半のトリプルルッツでのミス連続がもったいなかったですが…)SP9位から追い上げて総合5位に入りました。
マティアス・リンドフォース選手(フィンランド)とイアン・ワイラー選手(スイス)、ユーシャン・リー選手(台湾)は演技を堪能しました。
ユーシャン・リー選手は来季からシニアです。月末の世界フィギュアスケート選手権(プラハ開催)にも参戦します。昔のデニス・テン選手やマッテオ・リッツオ選手を思い出すような忙しい出場スケジュールです。
ユーシャン・リー選手のInstagramよりSP演技の一部
名古屋JGPFで惜しくも4位だったデニス・クルーグロフ選手(ベルギー)も良かったんですが、フリーの最後のトリプルサルコウの転倒が本当に本当にもったいなかったです。
彼も来季からシニア。4回転なしで魅せられる選手ですが、どう戦っていくでしょうか。
世界ジュニア2026女子シングル|島田麻央選手4連覇、岡万佑子選手が銅メダル
島田麻央選手が世界ジュニア4連覇|体調不良の中で掴んだ金メダル
フリー前は棄権を考えるほどの体調不良だった
島田麻央選手はSP終了後に「棄権を考えざるを得ないほどの体調不良」になったと、フリー終了後のインタビューで語っています。
Mao Shimada 🇯🇵 137.01 / 208.91
— Golden Skate (@goldenskate) March 7, 2026
“I was exhausted today. However, I was able to finish my skating, and I think the fact that I never gave up and finished my skate led to this result.”
“Actually, yesterday I was bedridden, and until then I thought there was nothing I could do… pic.twitter.com/O58uSwrH0Y
フリー前の練習でもほとんどジャンプやスピンをしていないと伝えられ、フィギュアスケートファンの間では「試合に出られる状況なのか?」と心配する声が広がっていました。
今季は怪我と体調不良が続き、見ていてずっと辛いシーズンでした。正直なところ思い切って休む選択をしてほしいと思ったこともあります。なので公式練習の様子を知ったときは私もかなり心配しました。
原因は怪我ではなかったようですが、体調不良の詳細は明らかにされていません。
4回転回避の構成変更|島田麻央が3.52点差で優勝
結局、島田麻央選手はフリーでは4回転トゥループを回避する構成を選択しました。
スピンでミスが出てレベルを落とすという、島田麻央選手としては激レア級のミスが出てしまったものの、他はまとめて総合208.91。
ジャンプの着氷がギリギリになっていたところもあったので、回転不足を厳しくとられれば優勝を逃すリスクも危惧しました。得点が出るまではヒヤヒヤしましたが、最終的には2位に3.52点差で優勝を勝ち取りました。

昨年の世界ジュニアでは230.84と2位に40点以上差をつけての優勝でした。
3.52点差は、今までの彼女の「世界ジュニア金メダル」でもっとも僅差。今までで最も苦しい闘いの末に勝ち取った金メダルだと言えるでしょう。キス&クライで彼女が涙にくれるのも無理はありません。
「ジュニア39試合連続無敗」「世界ジュニア4連覇」の偉業に抱く複雑な想い
これまで世界ジュニアでは、島田麻央選手のみならずカップル競技で3連覇はありました。しかし、「世界ジュニア4連覇」は前人未踏です。
毎年上位メンバーがかなり入れ替わる女子シングルジュニア。なのに彼女は4年連続で、世界ジュニアでの好演技を続けてきました。女子シングルで世界ジュニア4連覇をする選手は今後現れないのでは?と思ってしまうぐらいの偉業です。
しかしこれは、「世界ジュニアで優勝できる実力を持っていた選手が、何年もシニアに上がることができなかった」という現実を突きつけられる記録でもあります。
昨年「3連覇」を果たした時点でも、複雑な想いはありました。

北京五輪時のスキャンダルに端を発した「シニア移行年齢制限の引き上げ」が無ければ、中田璃士選手の2連覇も島田麻央選手の4連覇も起き得なかった。
しかも今回は、島田麻央選手と同学年の中井亜美選手がミラノ五輪で銅メダルを獲得したばかり。(誕生日は半年違い)

島田麻央選手は「ジュニアで39試合連続無敗記録を達成」「これまで出場した全ての世界ジュニアで演技をまとめあげて4連覇」という文句のつけようのない結果を残したというのに、観る側に「割り切れない気持ち」が出てきてしまう。100%の歓喜&祝福を送れない自分を申し訳なく思います。
本人も優勝が確定した瞬間は「ホッ」としたという印象に見えました。来季はようやくジュニアの枠から解放され、「若い挑戦者」としてのびのびと挑めるようになれるのではと期待します。
シニア初年度からトップスピードで飛ばす必要はないと思うので、怪我や体調とうまく付き合っていってほしいと思います。
ハナ・バス選手が銀メダル|世界ジュニア女子でオーストラリア初メダル
最終的に銀メダルを獲得したハナ・バス選手(オーストラリア)のフリー演技は、とんでもなかったです!
彼女のトリプルアクセルートリプルトゥループは近年の女子シングルで最高の出来だったのではないでしょうか。フリーの得点は138.44と、137.01だった島田麻央選手を押さえて1位。総合205.39で2位となりました。
昨年の世界ジュニア10位からの躍進、世界ジュニアのシングル競技でオーストラリア初のメダルです。

2025年8月「サマーカップ」で見た、トリプルアクセル2本投入の今季フリー
彼女の今季の演技を私が初めて観たのは、昨年8月の滋賀「サマーカップ」でした。
2025世界ジュニアで見て気になっていたオーストラリアの選手が、何故か日本のローカル試合に出ていて自分の目の前で演技しているという不思議な事態。当時見た彼女の演技のことはかなり詳しく書いています。

この時私は、こう書いていました。
終盤疲れが出たのかサルコウがダブルになったり、スピンで崩れて転倒してしまったり。トリプルアクセル2本という高い壁を超えてプログラムをまとめるには、スタミナと滑り込みがまだまだ必要そうです。
来年の世界ジュニアの頃にはどこまでクリアできているか、凄く楽しみ。
「いや~めちゃくちゃクリアしちゃいましたよ!」って、当時の私に伝えたいです。
2025年8月と2026年3月の採点表比較で見える、驚きの成長
昨年の夏の木下カンセープレゼンツ「サマーカップ2025」では冒頭のトリプルアクセルは転倒。コンビネーションジャンプに強引にダブルトゥループをつけようとしたものの、ダウングレード判定されて大きく失点しています。

スピンはレベル2~3のみ。うち1回はスピン中に転倒。中盤からスピードがガクッと落ちていたのをよく覚えています。
しかし、今回の世界ジュニアの採点表を見てください。マイナスがついたのは着氷が少し乱れた2回目の単独トリプルアクセルだけ。スピンはオールレベル4です。

後半のジャンプも予定していたジャンプが全てクリーンに入っています。しかも終盤までスピードを保っていました。ジュニア選手の中では、スケーティングでかなり魅せられる演技だったと思います。

昨夏はあまりにもハードな構成に「これ滑り切れるんだろうか?」と思っていてごめんなさいーと謝りたいくらいです
ハナ・バス選手は来季もジュニア年齢。彼女は少女体型の恩恵でジャンプを跳んでいるタイプの選手ではないと思うので、早くシニアで見たい選手ですね。こればかりはルールなのでどうにもなりませんが…。
その他気になった選手たち
岡万佑子選手はトリプルアクセルが決まらなかったのは惜しかったですが、SP2位、フリー4位でまとめきって銅メダル。
男子も女子も日本勢はダブル表彰台です。彼女の癖になる感じの個性的な演技スタイルがフィギュアスケートファンの間でちょっとした評判になっているようで、すごく嬉しいです。

SPでコンビネーションジャンプにミスが出てギリギリでフリー進出となった岡田芽依選手は、フリー5位でSP24位から総合10位まで追い上げました。トリプルアクセルがシングルに抜けてしまったのは痛かったですが、その後まとめきったのがさすが。
1番滑走でず~っと暫定1位を続けて、後半グループが始まってから結構長い間リーダーズチェアに座っていられたのを見られて、少しホッとしました。
他選手では、私が昨年から気になっているインガ・グルゲニゼ選手(ジョージア)がやはり気に入りましたね。
SPは「こういう明るい曲調も行けるんだ」と演技の幅の広さを確認。フリーは相変わらず独特の個性をまき散らしていました。回転不足を多く取られてフリーは10位になってしまいましたが、最終的には昨季と同じ総合6位。ジュニアでここまで世界観出し切れる選手はそんなにたくさんいないので、今後がすごく楽しみです。
世界ジュニア2026まとめ|ジュニア年齢ルールへの複雑な想い
2022年のISUのルール改正によりジュニア残留期間が長くなったことで、今季の世界ジュニアにはこれまで以上に有力選手が集まりました。
シニア移行は17歳からという年齢制限そのものには納得しているつもりなのですが、トップレベルの選手たちがジュニアで競い続ける状況を見ると、どうしても複雑な気持ちが残ります。
こうした感覚も、あと数年すれば当たり前のものとして受け止めるようになるのかもしれません。
そして来季はいよいよ、島田麻央選手や中田璃士選手がシニアへ。ようやくジュニアの枠を離れた彼らが、世界のトップ選手たちとどんな戦いを見せてくれるのか楽しみです。
今季の試合は、国際B級大会クープドプランタン、そして世界フィギュアスケート選手権(プラハワールド)を残すのみ。五輪シーズンを終え、引退のニュースも増える時期ですが、新しい時代の始まりを見届けたいと思います。


