ミラノ五輪フィギュア男子SP前編|曲変更の影響と前半グループを振り返る

フィギュアスケート靴の写真や楽譜、コーヒーカップなどが置かれた机の上にノートとペンが広げられている写真

ミラノ・コルティナ冬季オリンピック(ミラノ五輪)、フィギュアスケート個人戦は男子シングルのショートプログラム(SP)とアイスダンスが終了。次は2月13日早朝の男子フリーです。

今大会では「使用音楽の著作権・許諾問題」が浮上し、直前の音源変更を余儀なくされる選手が相次ぎました。とりわけ男子シングルでは、演技の世界観や準備過程に影を落としたケースも見られます。

今回は男子SP第1~第3グループを中心に、曲変更の影響という視点も交えながら振り返ります。第4・第5グループは後編で取り上げます。

目次

男子SP関連情報リンク

男子SP関連の基本情報や映像はこちらからご確認いただけます。

滑走順とリザルト

こちらが男子シングルSPの滑走順と結果を確認できるリンクです。

男子SPスタートリスト(滑走順)PDF版

オリンピック公式版 男子シングルSP情報一覧
※選手名の横の「+」をクリックすると、採点表(簡易版)が見られます
※ページの下部に「スケーター別各ジャッジの採点詳細」としてISU版の採点表へのリンクがあります

スケジュール、滑走順、順位、採点表等へのリンクが網羅されたページは下記のリンクからどうぞ。

ミラノ五輪2026フィギュアスケート競技リザルト(ISU版)
※こちらのJudge Scoreは、通常のISU試合形式の採点表で上記版より詳細が記載されています

いつもリザルトをチェックされている方でしたら、こちらのサイトの方が見やすいです。

競技フル動画

NHK ONEで、男子シングルSP全選手の演技を視聴できます。町田樹さんの解説入りですが、会場音声のみにしての視聴も可能です。

NHK ONE 男子シングルSP競技フル動画
※NHK ONEはアカウント登録せずとも利用規約の同意と地域設定を行えば視聴は可能です。ただし画面に登録を促すメッセージが随時表示されます。サービス利用には受信契約が必要なため、契約していない場合は利用後に手続きが必要です。

<追記>
NHK ONEの視聴期限は通常は放送後1週間ですが、今回の配信期限は現時点では不明。大会終了後しばらくは視聴可能ではと推測はしていますが、早く終了する可能性もあるのでご覧になりたい場合はお早めに。

今大会に影響を及ぼした「著作権問題」

演技を振り返る前に、今大会でクローズアップされた「使用音楽の著作権や使用許諾の問題」について触れておきます。

ここ数年、フィギュアスケート競技に使われる音楽の著作権に関する問題がデリケートな問題となり、選手たちは事前に使用許諾を取るよう強く求められるようになりました。

そのため、各国の選手たちは今季のプログラム用の音源について慎重に対応していました。しかし、五輪直前になって権利者から使用を認められなくなるケースが相次ぎ、出場を目前に音楽変更を迫られた選手が複数出たのです。

音楽はフィギュアスケートにおいて単なるBGMではありません。ジャンプの助走、ステップの呼吸、振付のアクセント。1年かけて身体に刻み込んできたリズムを、本番直前で差し替えることの影響は想像以上に大きいはず。

男子シングルでは、その影響を受けたと思われる選手が複数名いました。使用曲の変更理由は公表されていないケースも多いですが、著作権や使用許諾に関する問題が背景にある可能性が指摘されています。

第1グループ

ここからは、私の印象に残った演技について第1グループから順に振り返っていきます。

第1グループには世間から注目されている選手がかなり集まっていました。

男子シングルの注目選手についてはこちらの記事に経歴やおすすめできるポイントを書いています。よろしければどうぞ。

ピョートル・グメンニク選手(AIN ※ロシア)

第1滑走は、AIN(中立アスリート)として五輪参加が許された、ロシアのピョートル・グメンニク選手

使用曲変更のはずが、衣装はそのまま

6分間練習に登場した彼は、昨年9月の「ミラノ五輪最終予選」で着用していた、赤い花びらつきの衣装を着用していました。

この時私は「あれ?彼は著作権問題でこのプログラムできなくなったんじゃ?」と混乱しました。
(上記の注目選手紹介記事に、曲を使用できなくなった件を報道記事情報と共に書いています)

しかし、その後の実況解説により「衣装は予定していたプログラム用のままだが、曲は『ワルツ1805』でやる」ということがわかりました。

曲変更がプログラムの世界観に与えた影響


この衣装は、このプログラムの使用曲だった『Perfume: The Story of a Murderer(映画「パフューム ある人殺しの物語」の曲)』に合わせて作られたもの。特殊な嗅覚を持つ調香師が、香りへの執着のあまり殺人に手を染めていくというストーリーの映画(原作小説あり)です。

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しかし、曲が変わるとプログラムの世界観を前面に打ち出すことが難しくなったのか、印象的だったハンカチを使う演出は使わずじまい。1年近く練習を続けて体になじませた曲を雰囲気の近い別音源に急遽変更したわけですから、振り付けもまったく同じとはいかないでしょう。以前感じられた表現力は影を潜め、何だかぼやけた印象になってしまいました。

冒頭の4回転フリップは着氷がやや乱れ、コンビネーションジャンプのセカンドがダブルトゥループになりました。予定構成では次の4回転ルッツがコンビネーション予定だったんですけど、早めに確実に跳んでおきたかったんでしょうね。その点もあって、頼みの技術点も伸びきらず、86.72で12位スタート

ミラノ五輪代表最終予選のときよりかなり仕上げてきているという情報だけはチェックしていました

もし曲の直前変更がなかったら、どんな演技が見られていたのかと思うと少し残念です

アイスダンスのクリスティーナ・カレイラ/アンソニー・ポノマレンコ組(米国)はFDでこの映画音楽を使えていたんですけどね…その背景については公式発表はなく、詳細は不明です。

会場には彼の応援幕を持った観客もいました。事前情報では「AINはミックスゾーンでの取材を受けることができない」と言われていましたが、記者たちが彼を取材する場は別途設けられているようで、彼のコメントを伝える記事も出ていました。

マキシム・ナウモフ選手(アメリカ)

2番滑走のマキシム・ナウモフ選手は、クラシックな美しさを備えたスケーティングが魅力の選手。昨年1月の米国航空機墜落事故でフィギュアスケートの金メダリストだったご両親を亡くされています。

彼のSPは御両親への感謝を込めて選曲した、ショパンのノクターン

五輪の晴れ舞台で良い演技ができるとよいなと願っていましたが、それが実現してよかったです。日本のメディアも詳しく報道しています。主要なものだけ記録しておきます。

トマス=リョレンス・グアリノ・サバテ選手(スペイン)

トマス=リョレンス・グアリノ・サバテ選手も、著作権に振り回された一人です。(詳しくは先日の注目選手紹介記事にて)

使用許諾を取れるまでの経緯はこちらの記事が詳しいです。(本人への直接取材記事)

しかし、最終的には「ミニオンズ」の曲も衣装も使うことができました。

今季一度も決まってなかったトリプルアクセルがステップアウトながら入って良かった!

おそらくフリーには進めないだろうと思っていたので、SPで彼比で良い演技を見せられてホッとしました。この技術レベルの選手にしては高いPCS評価でした。(Skating Skillsは6点台だけど、他の項目は7点台)

69.80で25位。実はあと1つ順位が高ければフリー進出でした。

ドノヴァン・カリーヨ選手(メキシコ)

5番滑走は、私が注目選手紹介記事でも熱く語っていたドノヴァン・カリーヨ選手

旗手を務めた開会式でも注目

開会式であの笑顔を炸裂させて旗を振り回している彼の姿は、日本でも報道されていました。

SP本番の演技は

彼は4回転サルコウ持ちだし、スピンは得意だし、たぶんフリー進出はできそう。

しかし一つ大きなミスが出ると、昨年のボストンワールドのように「SP落ち」になることもありえます。

なのですごく心配していたんですが…冒頭4回転サルコウー3回転トゥループは凄く綺麗にはまりました。しかし次のトリプルアクセルで転倒。なのに彼は笑顔で立ち上がり、その後もキラキラしたハッピーオーラをまき散らしながら演技を続けました。

得点は75.56。フリー進出ボーダーライン辺りと予想していた75点ラインを、わずかに上回りました

「フリー進出」可否の確認はお預け

オリンピック公式ページなどで暫定順位表をチェックすれば「フリー進出」を示す「Q(Qualifiedの略)」マークがついたかどうかを随時確認はできます。

でも私はこれをチェックできません。というのも、試合の結果情報を完全にシャットアウトして生放送感覚でディレイ視聴しているから。

ここでうっかり最終順位表を見ちゃったら、結果が壮大にネタバレされてしまいます

そのため、私はこのあと第3グループ終了後に順位表が紹介されるまで延々ハラハラし続けることになりました。

第2グループ

第2グループからは、二人を振り返ります。

ユーシャン・リー(李宇翔)選手(台湾)

第2グループのトップは、私が大好きなユーシャン・リー選手(台湾)。

テレビ放送では、「李宇翔(り・うしょう)」と日本語読みされて「誰やねん」となりました。

ボーヤン・ジン選手が「キン・ハクヨウ」呼びになったり、ハン・ヤン選手が「エン・カン」呼びになったりなどはしていましたが、NHKでは台湾選手も日本語読みする決まりになっているのですね。

原語読みが先に普及してしまっているケースではもうちょっと何とかならないものでしょうか

ピアニストの「ラン・ラン」さんですら「ロウ・ロウ」と呼ばれていたと聞きました…「誰やねん」にも程があります

ユーシャン・リー選手は今季苦戦していたトリプルアクセルも着氷し、スピン・ステップはオールレベル4。スコアはパーソナルベスト(PB)を更新して72.41。

基礎点からいって「彼のフリー進出はないだろう」と踏んでいた私。この時は、「五輪の初舞台をいい演技で終えることができてよかったね~」と思っていました。

キリロ・マルサック選手(ウクライナ)

キリロ・マルサック選手も、フリー進出は難しいだろうと思っていた選手でした。

しかし、彼は想像のずっと上を超えて来る演技で何とSP11位に。その結果、予想外の滑走順になってビックリ…ということは先日のこちらの記事に詳しく書いています。

第3グループ

ベテラン選手と個性派が集まったこのグループ。全員を振り返ります。

ボーヤン・ジン(金博洋)選手(中国)

第1滑走は、ボーヤン・ジン選手。好みのタイプの滑りではないけれど、個性ある演技で大好きなスケーターです。

冒頭の4回転トゥループをミスするイメージは全然ないな~と思いながら見ていたら、解説の町田樹さんが「今季成功率100%」と言っていました(笑)。

抒情的なプログラムだったせいか、シニアデビュー直後に4回転ルッツを何本も軽やかに決めていたあの頃の彼と、今こうして情感溢れるステップを披露する彼まで、走馬灯が脳内で回りました。

本人によると、「おそらくこれが最後の五輪」とのこと。今季限りなのかあと何年かやった上で引退なのかはわかりませんが…3月のプラハワールドにも出場してくれることを願っています。

ウラディーミル・リトヴィンツェフ選手(アゼルバイジャン)

ウラディーミル・リトヴィンツェフ選手も、開会式ではアゼルバイジャンの旗手を務めて楽しそうにしていました。

大会直前の曲変更

しかし、「大会直前にSPの曲変更をした」ということを、私はSP当日の放送で初めて知りました。今季やってきたプログラム構成のまま曲だけを変更したようです。

変更の理由は調べても不明でしたが、時期から考えると著作権関連の可能性も否定できません。

ずっと練習してきた曲とタイミングが微妙に異なるからか、冒頭の4回転トゥループのタイミングを見失って、まさかの「ジャンプスルー」。

その後予定外の場所で急遽4回転トゥループを入れたものの、その後は明らかに動揺が見られました。後半の得点源であるコンビネーションジャンプでは、セカンドジャンプをうまくつけられず。

本来は「強心臓」のイメージ

彼は、多少のことには動じない「強心臓」のイメージがありました。

採点システムのトラブルで、第一滑走者の演技後に20分近く中断した昨年のGPSアメリカ大会(スケアメ)で、大勢のスケーターの演技が乱れた中、ただ一人予定構成をクリーンに決めたのは記憶に新しいです。

その彼がここまで動揺してしまうとは…。

ユーシャン・リー選手(台湾)の得点が72点台だったことは記憶していたので、リトヴィンツェフ選手の得点が60点台だった時点で「ひょっとして、ユーシャン選手はフリーに行けるのでは…?」と初めて思い当たりました。

実際のところ、彼のSP落ちと引き換えにユーシャン・リー選手のフリー進出が確定

あの「ジョーカー」のフリーが五輪で見られない…

しかし、私の心境は複雑でした。

私、リトヴィンツェフ選手が「バットマンのジョーカー」を演じたプログラム、個性が炸裂していて結構好きだったんです

※埋め込みが表示されない場合はリロードまたはこちら

あれが五輪で放送されたら、バンクーバー五輪のときのアドリアン・シュルタイス選手(スウェーデン)のように世間の話題になったかもしれないのに…残念でたまりません。

曲変更の影響を受けた選手たち

同じく「SP落ち」してしまったアンドレアス・ノルデバック選手(スウェーデン)も、理由は不明ですが直前に音楽を変更していました。

私が把握できている限りでは、男子ではピョートル・グメンニク選手、トマス=リョレンス・グアリノ・サバテ選手、アンドレアス・ノルデバック選手、ウラディーミル・リトヴィンツェフ選手の4名が直前の曲変更を迫られていました。

結局、この中で急な曲変更を何とか切り抜けられたのは、ピョートル・グメンニク選手だけだったのではないかと感じました。

四年に一度の大きな舞台で、音楽という土台が揺らぐことの重さを痛感させられる大会でした。

アイスダンスの「マリロマ」ことマリー=ジャード・ローリオ&ロマン・ルギャック組(カナダ)だけは、FDで曲変更を迫られた結果、逆によくなった印象を受けました。
でも、あれは超レアケースかと思います

アンドリュー・トルガシェフ選手(米国)

「全米選手権では強くても、大きな国際大会では乱調になるイメージ」が固定してしまっている感のあるアンドリュー・トルガシェフ選手

大崩れしてしまったリトヴィンツェフ選手の直後なので心配したのですが、見事な演技を見せました。その結果、フリー後半グループ入り。

でも、心配性な私はまだ不安が抜けきりません。大崩れしてしまった、昨年のボストンワールドフリーの再来だけは勘弁してほしいです。フリーもうまくいきますように。

チャ・ジュンファン選手(韓国)

チャ・ジュンファン選手のSP「Rain, in your Black Eyes」は素晴らしい出来でした。

なのに思ったほど点数が伸びずで私は驚きました。てっきり90点台後半が出るだろうと思っていたのに92点台。

アクセルの軽微な回転不足判定「q」で点数が減ったのはまだ仕方がないと思えます。

でも、あまりにもPCS辛くないですか…?演技構成点(PCS)は3項目とも8点台半ばです。ステップで珍しく若干もたついたように見えたところがあったとはいえ、もうちょっと出てもいいんじゃないかと思ってしまいました。

今季靴の不調が原因で調子の悪い試合が続いたから?。(それで評価が落ちるとファンに思われてるのも不思議な世界だなといつも思います)

フリーは私が大好きな「ロコへのバラード」です。素晴らしい演技をして上位に浮上してほしいと思っています。

デニス・ヴァシリエフス選手(ラトビア)

デニス・ヴァシリエフス選手は今季、ラトビアの連盟との金銭トラブルなどがあり、所属していたスイス・シャンペリーのチームを一時離れるなど、不安な状況が続いていました。なんとか欧州選手権前には状況は改善し、五輪を迎えることができました。

滑り込めていなかった今季のプログラムもある程度仕上がっていましたが、ボストンワールドの素晴らしいフリー演技をナマで観た身からすると、正直ちょっと物足りなさは残ります。それでも「五輪の場でこうやって笑顔で演技を終えているだけで良かった」と思える状況に、今年はありました。

上記の演技後のインタビューによると直前まで体調を崩していたとのこと。フリーまで中2日あるので、少しは回復しているといいなと思います。

第4&5グループは改めて

軽くまとめるつもりが、前半グループに文字数割きすぎて既に七千字超え(苦笑)。

実は、今朝のアイスダンスFD後の感動&動揺を引きずる中で「いったん冷静になるためにも、別カテゴリのことを考えよう」と思って書き始めたのですが…途中からは完全に逃避行動と化してしまいました(苦笑)。

第4&第5グループの振り返りは明日公開する予定です。

土曜のフリーの展望はこちら

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