ミラノ五輪フィギュア女子フリー|1.89点の分岐点―坂本花織の涙とアリサ・リウ戴冠、中井亜美銅

黄金のトロフィーとラッパに華やかな紙吹雪が舞っている写真

ミラノ・コルティナ冬季オリンピック(ミラノ五輪)、フィギュアスケート競技の女子フリーが終了。これにて、団体戦・個人戦ともにフィギュアスケートの全競技が終わりました。

金メダルはSP3位から逆転したアリサ・リウ選手(米国)。銀メダルに坂本花織選手、銅メダルに中井亜美選手、4位に千葉百音選手と日本女子は2~4位を独占。

そして、SP13位スタートとなったアンバー・グレン選手(米国)が追い上げて5位に入賞しました。

今回は、今朝の試合の流れを振り返ります。
前半はアンバー・グレン選手の躍進、後半はSP1~5位勢のメダル争いについてです。

目次

女子フリー結果

まずは、試合の総合結果の確認から。

総合1位と2位、3位と4位はいずれも1点台の僅差

1位のアリサ・リウ選手と2位の坂本花織選手の得点差は1.89
3位の中井亜美選手と4位の千葉百音選手の差も1.28

どちらもほんの少しの点差が、順位を分けました。

ISU公式リザルトより引用 全順位を閲覧するには表をクリックしてください

フリー5~9位は、約1点に5人がひしめき合う大混戦

中井亜美選手がフリー9位だったのに3位を確保できたことに、驚いた人もいたかと思います。

下記がフリーのみの結果ですが、5~9位が141.64~140.45。

フリーの得点は、わずか1点ちょっとの間に5人も詰まっています

ISU公式リザルトより引用 TSSが総合得点、上記の表をクリックすると全順位の得点一覧が見られます

フリー4位だった千葉百音選手と9位の中井亜美選手の点差は少し広がりますが、それでも3.43にとどまりました。SPで4.71点の差がついていましたので、この点差ならば中井亜美選手がフリー9位でも逃げ切って銅メダルを獲れたのにも納得です。

中井亜美選手は最初は得点を見たでしょうから、「9位」の表示を見てメダルを逃したと思ったんでしょうね

佐藤駿選手に続く「メダル獲得になかなか気づかなかった銅メダリスト」になりました(笑)

詳細は下記から確認できます。

女子フリー結果(五輪公式版)
※PCから閲覧すると、上記ページ下部に「スタートリスト」や「結果詳細」「予定構成」などのPDFリンクが掲載されています

フィギュアスケート全競技のスケジュール、滑走順、順位、採点表等へのリンクが網羅されたISU版ページは、下記のリンクからどうぞ。

ミラノ五輪2026フィギュアスケート競技リザルト(ISU版)

アンバー・グレン選手(米国)が見せた強さ

前半グループで最も印象的だったのは、メダル候補の一角だったアンバー・グレン選手の追い上げです。

バッシングに悩まされつつの五輪出場

アンバー・グレン選手はSP後半のトリプルループがダブルに抜けるミスで、まさかの13位。前半グループの最終滑走者としての登場でした。

彼女が五輪前に脅迫などバッシングに悩まされていたことはSP終了後の振り返り記事に書いています

そのことに関しては日本でも今日になって報道が出ました。

団体戦でもSPでも辛そうな表情しか見られず、私は彼女のメンタルをかなり心配していました。

心配されたフリー演技で見せた強さ

演技開始前の表情はかなり緊張しているようで、「フリーもひょっとしてダメかもしれない」と覚悟しました。

でも…今の彼女はやっぱり強かった!


冒頭のトリプルアクセルは見事に決まり、その後も順調。

ただ、後半になると少し動きが重くなってきました。よりによって最後のジャンプは、SPでダブルに抜けてしまったトリプルループ。跳ぶ前は、本当ドキドキしましたよ…

残念ながらここでお手付きになってしまいましたが、今回は3回転を回り切りました。

すごい!アンバーがトリプルアクセルを見事に決めたあと、ジャンプが1回も抜けたり転倒したりしなかった!
これなら150点近い点が出るかも…!?と私も興奮

演技後の彼女も、お手付きを悔やむ様子なくガッツポーズ!

最後に笑顔を見られた喜び

そして、キス&クライで得点を見てコーチともども「キャーッ!」って喜びで絶叫するアンバー・グレン選手を見ることができて本当に良かったです。彼女の五輪が、SPのあの涙では終わってほしくなかったから。

フリー147.52はシーズンベスト(SB)スコア。ループジャンプのお手付きが無ければ間違いなくPBを更新していたでしょう。

でも、彼女が気迫ある演技を完走できたこと自体が感動的だったので、そんな「たられば」は一瞬頭をよぎっただけで終わりました。いい形で終われてよかったです。

13位からの怒涛の追い上げで、アンバー・グレン選手の最終結果は5位。

SP終了後「自力メダルはもう無理としても、上位勢とそこまで点差はないし、好演技をすれば5位ぐらいには自力ではい上がれそう」と内心では期待はしていました

本当に期待通りの展開が実現したのは嬉しい限りです!

最終グループのメダル争い

ここからは、最終グループでメダル争いに絡んだ5選手の演技を振り返っていきます。
(他のSP70点台選手や、前半グループの気になった選手は後日別途振り返るつもりです)

アデリア・ペトロシアン選手(AIN)の賭け

SP終了後の記事では、アデリア・ペトロシアン選手については「4回転トゥループ1本のみを追加しただけなら、SP上位勢にミスが出ない限り金メダルは厳しそう」と予測していました。

しかし、6分間練習時に実況解説陣は「4回転トゥループを2本投入予定」と話しているではないですか!

練習でのあの精度で2本入れて来るとは予想していなかったです。2本降りられて両方とも軽微な回転不足「q」レベルで済めば一発逆転金メダルもありうるかもしれません。

でも、その思い切った挑戦はうまくは行きませんでした。アンダーローテーション「<」で転倒となったため基礎点も下がり、3.80点しか得られません。

おそらく最初の4回転トゥループを連続ジャンプにする予定だったのでしょうが、2本目に挑戦するのはリスクが高すぎるのでさすがに回避。4回転1本構成に変更してきました。

それでも後半にトリプルフリップ-トリプルトゥループを決めて見せた度胸&実力は凄いですね。ここの加点が大きかったです。

4回転の回転不足での転倒1つがあっても141.64を出してくるのはさすがだなと思いましたが、アンバー・グレン選手の点数は超えられずでした。

千葉百音選手は総合スコアでPB更新

SPでは最後のレイバックスピンで満点評価を獲得したものの、コンビネーションジャンプの「q」で点数が伸び切らず4位発進となった千葉百音選手。メダルを獲るにはミス一つない演技が欲しいです。

演技全体が慎重な感じで、いつもの彼女のスピード感にやや欠けているようには感じました。でも、それはこの五輪の場で全ての技をクリアしていくには必要なことだったのかもしれません。

全ジャンプを降りてからようやくリミッターを外した印象でした。そこから先の要素についている加点はものすごいです。

素人目にも「回転不足取られたかも?」と不安になった冒頭の連続ジャンプと後半の3連続ジャンプで軽微な回転不足「q」を取られましたが、後半の加点でそれを補いました。

フリーの点数は143.88とPB144.94にはわずかに及ばずでしたが、トータルスコア217.88は彼女のPBです。

しかし、それでもメダルにはあと1.28点足りませんでした。

彼女自身「全力を出し切っても届かなかった」と話しています。悔しい結果にはなってしまったけれど、彼女はこの初めての五輪で出せるものは出せたのではないでしょうか。

アリサ・リウ選手の「安定性」の勝利

「五輪フリー」は結局昨季フリーに

アリサ・リウ選手が五輪用のフリープログラムに選んだのは、全米選手権で披露した「レディー・ガガ」プログラムではなく、去年世界選手権で優勝した「マッカーサーパーク」。

「どんな試合でも緊張することがない」と言われている彼女ではありますが、去年の世界選手権での演技と比べると、今回は若干固めな印象を受けました。

アリサ・リウ選手の強み

そもそも最終グループは全員、いつもより少し慎重に滑っていたように思います。その中で、いつもの状態に一番近い演技をできたのが、アリサ・リウ選手かもしれません。

ジャンプの一つ一つの着氷がどれものびやか。結構繋ぎを入れた上でジャンプを跳んでいるのに着氷時に全く不安を感じさせないのが凄いです。

彼女はジャンプ以外の要素も全部安定してるんですよね。GOE(技術加点)で5レベルの評価を得ているのはレイバックスピンくらいしかないのに、他を全部GOE3前後で揃えて来る。それも毎回SPフリーを確実に揃えて来る。毎回ノーミスを続けるのは至難の業です。

フィギュアスケートの採点では、「安定してまとめられる選手」が評価を積み上げやすい採点傾向があります。彼女の場合、「見ている側に不安を抱かせない」という能力が、見えない部分で評価されている印象を受けます。

今回はフリップジャンプ二つともに踏切エッジ不明瞭を指摘する「!」マークがついていたのに、それを相殺できるほどの「安定性」は強いです。

「テストで学年1位を取った科目は一つもないけど、全科目の成績平均が高いから総合点数は1位」みたいな感じでしょうか?

そして、「うっかりミス」をしたことがほとんどないという

150.20という彼女のPBに迫る高得点が出て暫定1位でメダル確定。

しかしこの時点では、残る坂本花織選手と中井亜美選手のPBから考えて、彼女たちに勝機は十分残っていると思っていました。

坂本花織選手の後半トリプルフリップ

坂本花織選手は滑り出し時はちょっと慎重な印象も受けましたが、緊張感をうまく制御できている様子。一つ一つ技を着実に決めていきます。

だから、後半のトリプルフリップ-トリプルトゥループが単独になってしまったのには絶句しました。

まさか長年の武器だったあのジャンプで!

SPの「q」判定の影響

私が真っ先に思ったのはSPの後半トリプルフリップ₋トリプルトゥループに軽微な回転不足「q」がついたことの心理的影響です。

SP終了時の振り返り記事でも書きましたが、坂本花織選手のこのジャンプと、アリサ・リウ選手の後半トリプルルッツ‐トリプルループに「q」がついたのはかなり厳しい判定だと感じました。

この記事の中で私は「この厳しさが、フリーに臨む選手たちのメンタルにどう影響するのかも気になります」と書いていました。

自分が「回り切れていた」と感じたジャンプに回転不足認定がついていたとしたら…次回試合でそのジャンプを跳ぶときには「もっと質を上げなくては」と気になるでしょう。

SPの判定がどれだけ彼女の心理に影響していたかはわかりません。でも、注意するあまりいつもと何かが違ってしまった可能性はありえます。この点、アリサ・リウ選手はトリプルルッツ₋トリプルループをフリーには入れていなかったので、そのような心理的影響は受けずに済みました。

痛恨の「REPEAT(単独ジャンプの繰り返し違反)」判定

そもそも、坂本花織選手のフリーのジャンプ構成は、「REPEAT」リスクが高いハイリスク構成でした。

フィギュアスケートでは、同一プログラムの中で同じジャンプを単独で繰り返して跳んではいけないというルールがあります。2回同種のジャンプを単独で跳んだら、2本目は「REPEAT」扱いとなり基礎点が15%減点されます。

同種ジャンプを2回跳ぶ場合、通常は1回目を連続ジャンプに、2回目を単独にするのが定石。1回目の着氷が乱れたら、2回目のジャンプを連続に変更することができるからです。

坂本花織選手の今季のフリーは前半のトリプルフリップを単独にしていたため、後半の連続ジャンプでミスした場合、REPEATになるリスクが高い構成

ただ、トリプルフリップ₋トリプルトゥループが得意でスタミナもある坂本花織選手はこの構成でミスすることが少なかったため、強くは不安視されていませんでした

たまに回転不足になったり、連続ジャンプのどちらかがダブルに抜けてしまったりはあったので、ハラハラはするジャンプではありましたが、「単独REPEAT」になる心配をしていたファンは多くはなかったのではないでしょうか。

「ここでせめてシングルトゥループでもつけていれば、連続ジャンプ扱いになってREPEAT減点は避けられていたのに…」と考えてしまいます

しかし映像を見返すと、あのトリプルフリップは「よくぞこらえた」という感じ。本人もそこまで頭が及ばなかったのかもしれません。

セカンド「トリプルトゥループ」は最後まで入れられず

私は「最後のトリプルループでリカバリーしてくるか?」と思いました。

ダブルトゥループはもう2回使っているので、ルール上つけられるのはトリプルトゥループかダブルループあたり。

しかし、彼女はそのどちらもつけないまま次のスピンに移りました。

演技後のインタビュー(上記有料記事など)によると、そもそも最後のループの後にリカバリーをする想定での練習はしていなかったようです。

そもそも体力の限界に近付きつつあるラストジャンプで、練習を積んでいない挑戦をするのはリスクが高すぎます。無理に跳んで転倒などになるよりは、プログラム全体をまとめる方向を選んだのは無理もありません。

演技が終わった時、彼女も動揺していましたが、テレビの前で見守っていた私も動揺していました。

涙にくれる坂本花織選手を見る辛さ

観客への挨拶をしている間は気丈に振舞っていましたが、リンクサイドの中野園子コーチを見た瞬間に涙があふれる坂本花織選手の姿を見るのは辛かったです。

五輪は、特に女子シングルにおいては「絶対的に強い金メダル候補」に番狂わせが起きやすいイメージがあります。私はそれが内心不安でした。でも、坂本花織選手ならそれを打ち破れるかもしれないという期待も抱いていました。なのに再びこんなことが起きてしまった。

採点表を見るとルッツのエッジコールはついていませんし、ほとんどの技の要素もPCSも高い評価を受けています。

あのREPEAT減点とセカンドジャンプの失点さえ無ければ、彼女は金メダルを手にしていたでしょう。考えても仕方ないのに、つい「たられば」を考えてしまいます。

上記の記事にも書かれている、中野コーチが掛けた言葉が胸を打ちます。

「これで良かった。これからの人生のうえで。一つ残ってますけど、その分、コーチになったときにまたやっていこうという力を残す意味では、これがいい位置」

初五輪の緊張を何とか抑えた中井亜美選手

とてつもないプレッシャーでの演技

最終滑走の中井亜美選手は、キス&クライで涙する坂本花織選手やどよめく観客の空気感などは伝わっていたはずです。SP1位で五輪の最終滑走というだけでも精神的プレッシャーは物凄いだろうに、この空気感の中で滑るとはかなりの重荷でしょう。

スタートポーズにつくまでは緊張が少し見えた気がしましたが、音楽が流れてからはいつもの笑顔。トリプルアクセルをSPに引き続き成功

しかし、トリプルルッツ-トリプルトゥループのセカンドがダブルに抜けたうえに着氷が乱れてしまいました。

彼女はトリプルアクセルが乱れても、それ以外の要素をクリーンに決めて来たのが今季躍進の鍵でした。ここで乱れが出るとは予想外。

後半ジャンプもいつもよりちょっと危うい感じでヒヤヒヤしましたが、うまく持ちこたえました。

「審議」多めの暫定技術点表示


演技終了時の点数はトップの77.74に近い技術点が出ていましたが、「審議」の黄色マークが多かったため「これは結構下がるかも…」と覚悟しました。

審議の結果技術点は72.53まで下がり、フリーは9位。それでも得点は140.45もあって、総合3位。無事銅メダルを獲得です。

大喜びでアリサ・リウ選手と抱き合う姿はとても微笑ましかったです。それとは対照的な中庭コーチの感涙姿が印象的な写真です。

メダリストたち、全力を尽くした選手たちに祝福を

涙止まらぬ坂本花織選手をガードしたのは…

競技終了直後、しばらく涙が止まらなかった坂本花織選手。そんな彼女を間近で撮影しようとしたカメラマンを静止したのは、アンバー・グレン選手でした。

選手たちはみんな、悔しい試合、嬉しい試合、それぞれ経験してきています。選手同士だからこそわかりあえるものがあるのかもしれません。

表彰式での笑顔

短時間で、気持ちを立て直して表彰式に出ねばならなかった坂本花織選手

メダル獲得は喜ばしいことだというのに、彼女が懸命に笑顔を作ろうとする姿を見るのは複雑でした。アリサ・リウ選手と中井亜美選手は明るいムードで彼女の気持ちを引きあげてくれているかのように見えました。

ピークが短い場合が多い女子シングル選手が、2大会連続でメダルを獲得するのは難しいこと。北京銅メダルに次ぐ銀メダルは素晴らしい結果です。

何より団体戦と個人戦を闘い抜いただけでなく、他選手たちへの声かけや応援など、ミラノ五輪のフィギュアスケート選手たちの精神的な支柱としての彼女の働きは金メダル級でした。中野コーチのおっしゃる通り、この悔しい経験が今後指導者を目指す彼女の糧になることは間違いないのではと思います。

メダルを獲得できた選手、いい演技をできた選手全員を祝福したいです。

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