現在、「刀剣乱舞」のアイスショー「ICE BLADE」で、重複当選と公式リセールの使いづらさがSNSで話題になっています。その背景には複数の要因がありますが、その問題自体を取り上げたいわけではありません。
この流れを機に、私が改めて気になったのは「ICE BLADE」の席種設定です。

当初販売されたチケットは全席指定19,000円で、別途抽選で「+4,000円のアリーナ席確約オプション」が用意されていました。(8/30からは、12,000円の注釈付き席が追加販売)

実は私、この席種設定については
「あの広大な代々木体育館のスタンド席で全部同料金なの?」
と驚きを持って受け止めていました
でも、そもそもこれは「ICE BLADE」に限った話でもありません。
日本の舞台やスポーツ興行では、かなり広い範囲を同じ席種・同じ価格で販売することが多々あります。フィギュアスケートもその一つです。
そこで今回は、以前から気になっていた「席種とチケット価格」と「そもそも良席って何なの?」という疑問について考えてみました。
私も内心「日本ではこういう売り方が多いから仕方ない」と諦めていた部分があったのですが…調べてみると、他のプロスポーツではすでに従来の販売方法を見直す動きが進んでいました。
「S席」なのに座席によって条件が違いすぎる?
この問題について、以前読んで非常に印象に残っていた記事があります。
2023年にPRESIDENT Onlineに掲載された消費者法の専門家の寄稿記事「日本特有の『名ばかりS席』を許してはいけない」です。

記事では、当時の帝国劇場を例に、1階席から2階席までのかなり広い範囲が同じS席として販売されていることなどを紹介。筆者は日本のエンタメ業界の悪慣習と問題視し、「日本の消費者はもっと怒るべきだ」と論じています。
もちろん、日本のすべての舞台やコンサートがこうした販売方法というわけではありません。
日本国内でも細かく価格帯を設定している公演はありますし、座席表を見ながらピンポイントで席を選んで購入できる興行もあります。

私自身、クラシック系コンサートや海外ミュージカルの来日公演などで、座席を選んで購入したことが何度もあります
アイスショーでも、「ワンピース・オン・アイス」「滑走屋」「フレンズ・オン・アイス」などでは、販売時期などによっては座席を自分で選択して購入できました。

つまり、日本のチケット販売システムが座席指定に対応できていない、という話ではありません。
興行によって、このような販売方法が選択されているのです。
国内フィギュアスケートも、大きなゾーンごとの販売が主流
一方、全日本選手権などフィギュアスケートの大規模な国内大会では、比較的大きなゾーンごとに席種を分け、その席種内の座席位置は購入者が選べない販売方法が一般的です。
全日本選手権の場合
たとえば、2026年全日本選手権の席種は次のようになっています。

| 席種 | 料金(税込) | 備考 |
|---|---|---|
| アリーナSS席(ロングサイド) | 20,000円 | |
| アリーナSS席(ショートサイド) | 20,000円 | 1~4列目 |
| アリーナS席 | 16,000円 | ショートサイド5列目~ |
| スタンドSS席 | 16,000円 | |
| スタンドS席 | 10,000円 | |
| スタンドA席 | 6,000円 | |
| 車いす席 | 16,000円 | 一般発売でチケットぴあから販売 |
アリーナはSSとS、スタンドもSS・S・Aの5種に分かれています。
しかしそれぞれのスタンド席種の中では、ジャッジ側なのかその反対側なのか、ロングサイド中央なのか端なのか、通路側なのか列の真ん中なのかによる価格差はありません。
近年の全日本でも、基本的にはほぼ同様の設定です。
世界選手権(さいたまワールド)の場合
さいたまスーパーアリーナで開催された2019年、2023年世界選手権は席種自体は全日本よりは多い6種です。
しかし会場が巨大なだけに、一つの席種に含まれる範囲は広いです。

あの広大な200レベルのスタンド席は、すべて「スタンドS」で同一価格。
完全に「席ガチャ」です。
2026NHK杯のような事例もあるが…
ただ、今年(2026年)のNHK杯は4階席をロングとショートに分けるなど、座席位置による条件の違いが、これまで以上に席種分類と価格に反映されています。

ただし、今回の会場は座席位置によって見切れの程度にかなり差がある会場です。また、通常より席種が少し細かく設定されていても、その中の個々の座席を指定して購入できるわけではありません。
「価格帯を細かく分けること」と「自分で座席を選べること」は、また別の話です。
好きな席を選べる海外大会で見えた意外なこと
海外のフィギュア大会では、座席表を見ながら自分で購入する席を選べることが多い印象があります。
私がカナダ・モントリオール開催の2024世界フィギュアスケート選手権のチケットを購入したときもピンポイントで座席を選んで購入できました。

このとき私は購入に手間取り、販売開始直後から長時間にわたって座席表を見ていたので、どんな席から埋まっていくのかを見ることができました。

そこで驚いたのが、「みんなが欲しがる良席」は意外にもバラバラだったことです
私が大好きな「通路側席」は確かに結構人気ではありました。
でも一方で、私ならできるだけ避けたい、列のど真ん中付近の席を選ぶグループも意外にもかなりいたのです。
上段席も早々から人気でした。価格が安いことも理由でしょうが、フィギュアは少し高い位置からリンク全体を俯瞰して見たい人も一定数います。
私が好むジャッジ側席より、反対側の席のほうが人気だったのも意外でした。
※下記の記事にも書きましたが、ホッケーサイズリンクで試合を開催する場合、ジャッジ側はカメラやジャッジ席による見切れが多くなるのが一因だったかもしれません

2024年のGPSフィンランド大会でも、私は座席表から希望する席番号を指定して購入しました。
現在チケットが販売されている今季GPS大会のうち、アメリカ、カナダ、フランス、フィンランドでは、座席表に残っている席から希望する座席をピンポイントで選択して購入できます。(本記事公開時点では、中国大会のチケット販売情報は未発表)
一方、GPS日本大会であるNHK杯は、今年は例年よりも細かく席種が分けられていますが、具体的な座席位置を事前に確認して購入することはできません。
そもそも「良席」ってどこ?
そもそも、フィギュアスケートにおける「良席」とはどんな席をいうのでしょうか?
「前に近ければ近いほど良席」なのか?
私自身、過去の競技会のチケット抽選でアリーナ最前列が当選したことが2回あります。

最前列は「大当たり」と思われそうですが…
実は私は2回ともちょっとガッカリしました
めったにない機会なので、現地では楽しんで観戦しましたけどね
リンク際の最前列は、選手が近くに来たら足元が見えなくなってしまう場合が多いです。
私は、アイスショーならばスケーターを間近で見られる最前列を進んで購入することはありますが、試合であれば5列目~20列目ぐらいの高さがあるスタンド席のほうが好きなのです。
「注釈席」「見切れ席」というけれど…?
同じことは「見切れ席/注釈席」にもいえます。
今年の全日本が開催される大阪・東和薬品RACTABドーム(ラクタブドーム)では、テレビ放送用のクレーンカメラが視界を遮るスタンド前方の一部が、現在非販売エリアになっています。
しかし、過去にはこうした座席が後から注釈付き席として販売されたことがあります。

2026全日本のチケット情報記事でも書きましたが、私はクレーンカメラの動きが視界に入ることはさほど気になりません
過去の大阪全日本でスタンドSSに当選できたことは少ないので、「スタンドSSのこのブロックに確実に座れる」と確約されるのであれば、最初から買いたいくらいです
もちろん、「目障りなクレーンカメラの後方席なんて、絶対イヤ」という人もいるでしょう。
だからこそ、「良席」は人によって違うのだと思います。
私なら最前列より「通路側確約」にお金を払いたい
私がもう一つ、フィギュアスケートの試合で重視しているのが「通路側」かどうかです。
出場選手が多いフィギュアスケートの全日本選手権や世界選手権では、昼前後から10時間前後も会場にいることは珍しくありません。当然、何度も席を立つことになります。

しかも全日本選手権は整氷休憩が短いうえ、会場が満員となるとひとたびトイレに立つタイミングを見誤れば、誰かの演技や緊張の6分間練習を見逃しかねません。
かといって、演技終了直後、まだスタンディングオベーションを続けている何人もの観客の前を「すみません~」と言いながら横切って通路へ出るのも、なかなか勇気が要ります。
私は「全日本のアリーナ最前列に2万円を払うか?」と聞かれたら、まず払いません。
でも、「全日本・スタンドSS・通路側確約 2万円」と言われたら…?
ーー払います。ジャッジ側確約ならもっと高くても出すかも。
もちろんこれは私の場合。それぞれの価値観によって、「この席確約だったら、私ならこれだけ出せる」というのは全く異なるでしょう。
でも、ファンによって様々な希望を、少しでも価格や販売方法に反映できれば理想的ですよね。
プロスポーツでは「同じ席種でも価値は違う」に転換が始まっている
実は日本のプロスポーツでは、「同じ席種でも座席によって価値は違う」という考え方を、チケット価格に反映する取り組みがすでに始まっています。
プロ野球では「通路側」「最前列」で値段が違う
例えば東京ヤクルトスワローズは、2026年シーズンのチケットについて、同じ席種であっても試合日や座席位置によって価格が異なる販売方法を採用しています。
公式サイトにも、「通路側」「ブロック最前列」などの座席は、人気や需要によって初期価格が異なると明記されています。

つまり、同じ「S指定席」だからといって全部同じ値段ではありません。
通路側席が他より高く売られている試合もありうるということです。
Jリーグでは「個席単位」で需要を分析
さらに興味深いのがサッカーのJリーグです。
横浜F・マリノスは2026-27シーズンから、ホームゲーム全試合で「個席差額設定」を導入しました。
これは従来の席種単位だけではなく、
- 通路側
- 最前列
- ブロック中央
などについて、過去の販売実績をもとに一席単位で需要を分析し、それぞれ値上げ・値下げする仕組みです。

ここで私が面白いと感じたのは、これは必ずしも人気席を高く売ることだけが目的ではない点です。つまり、需要が高い席は高く設定する一方、比較的選ばれにくい席は安くするのです。
横浜F・マリノスは、これによって観客の予算に応じた選択肢を増やすとともに、特定の場所だけが売れて他の場所が残る状態を減らすことも期待していると説明しています。
「通路側は人気」は実際の販売データにも出ていた
ガンバ大阪でも、「同じ席種の中ですべての座席が本当に同じ価値なのか?」という疑問から、過去の販売データを座席単位で分析しています。

その結果、担当者が以前から感じていた「通路側や前方の座席は人気が高い」という傾向が、実際の販売データにもはっきり表れたそうです。

プロサッカーでも通路側への需要差がこれだけ出るのなら…
会場滞在が10時間を超えることもあるフィギュアスケートのチャンピオンシップ大会では、通路側席を望む人が多くても不思議ではありませんよね?
売る側が考えていた「不人気席」が意外と人気だった例も
また、川崎フロンターレでは、クラブ側が「あまり売れない席」と認識していた場所が、実際には試合によって価格が高くてもまとまって購入されていたことがデータ分析から分かったそうです。

鹿児島ユナイテッドFCの担当者も、「メインスタンドが最も価値が高いとは一概に言えず、バックスタンドのほうが全体を見渡しやすいと感じる人も多い」として、観客それぞれのニーズを価格に反映する必要性を語っています。

これを読んで、2024年モントリオール世界選手権のチケット販売時に座席表を眺めながら感じたことを思い出しました。
「この席から売れるだろう」と私が思っていた順番と、実際に席が埋まっていく順番はかなり違っていました。
- 「前だから良席」
- 「中央だから良席」
というような基準で序列を決めるより、実際に観客がどこを選ぶのかを見たほうが、本当の「座席の価値」に近づけるのかもしれません。
フィギュアスケートでは同じ条件とはいかない
もちろん、こうした国内プロスポーツの仕組みを、そのままフィギュアスケートに持ち込めるわけではありません。
プロ野球やJリーグは、同じ会場で年間何試合もチケットを販売します。
大量の販売データを蓄積できる点では、年1回の開催で、会場も都市によって変わるフィギュアスケートの全日本選手権などとは条件がかなり違います。
「見え方の違い」による細かな席種設定
ただ、「座席によって価値が違う」という考え方そのものは、海外の劇場では昔から珍しいものではありません。
こちらは英国の「Royal Ballet and Opera(ロイヤル・オペラ・ハウス)」が公開していた2014-15シーズンの座席図の一部。
少し古い資料ですが、かなり前から同じ階でも座席位置によって相当細かく価格帯が分けられていることがわかります。

ブロードウェイやウェストエンドの劇場でも、座席位置によって細かく価格帯を分けて販売する劇場・公演は珍しくありません。

日本の演劇やフィギュアスケートのイベントも、これくらい細かく選べる公演がもっと増えてくれれば嬉しいんですが…
もちろん、海外や日本プロスポーツと日本のフィギュアスケート界、演劇界とでは抱える事情がそれぞれ異なります。
海外や日本の他プロスポーツでの販売方法をそのまま日本のフィギュアに導入すればいい、という単純な話ではないことも承知しています。
ただ、「同じ席種だから、どの座席も同じ価値」という前提そのものを見直す動きは、フィギュアスケートのチケット販売を考えるうえでも参考になるのではないかと思います。
座席を自由に選ばせればすべて解決、でもない
今のような席種分けで販売しているのには、興行主側にも当然事情があってのことでしょう。
「飛び席」のリスクを軽減
自由に座席を選べる販売方法にすると、1席だけポツンと空いた「飛び席」ができやすくなります。
映画館の予約でも、予約に出遅れると1席だけ空いた場所が点々と残っていて、2~3人並んで座れる場所が見つかりにくくなっていることはよくありますよね。
興行側からすれば、残り100席あっても、それが2連席50組なのか、バラバラの1席が100個なのかでは売りやすさが違うでしょう。
超人気公演ではアクセス集中への対応も必要
また、抽選販売だと当選したものの入金されなかった座席を再び販売する必要があります。機材の配置などによって、販売できる座席が後から変わる場合もあります。

さらに、超人気公演で大勢の購入者が一斉に座席表を開いて席を選ぶとなれば、システム側の負担も増えます。
それでも、解決策はある
ただし、現在の日本のチケット販売システム自体は、座席選択にもおまかせ配席にも対応しています。
例えば購入資格を先に抽選し、当選者ごとに購入可能な時間帯を設け、その時間に残席から座席を選んでもらう方法もありますし、実際に一部で使われています。
もちろん、そのぶんシステムや運営にコストがかかるでしょうし、すべての興行で現実的とは限りません。それでも、技術的にできないから現在の販売方法になっているという単純な話ではなさそうです。
フィギュアでも「自分にとっての良席」を選べたら
座席位置によって今よりもう少し細かく価格差をつけてもらえたら…
「みんなと同じ価格なのに、たまたま前方の通路側に当たってラッキー!」ということはなくなります。
でも、その一方で、需要が低めの席を今より安く設定する余地も生まれます。
そして国内フィギュアでも今より少し、
「ジャッジ側がいい」
「キス&クライがよく見えるところがいい」
「ジャンプが目の前で見られるショートサイドがいい」
「ロングサイド中央でリンク全体を見たい」
「移動しやすい通路側がいい」
「迫力満点の前方がいい」
「なるべく安いほうがいい」
「俯瞰で眺めたい」
といった、観客それぞれの希望を反映できる販売方法が増える未来が来てほしいと願っています。
最前列が当たってガッカリする人間、クレーンカメラ前の注釈付き席を「むしろそこを最初から売って」と思う人間もいます。主催者が一律に決めた「良席」と、観客のニーズは必ずしも一致しません。
「良席はここ」と一つの序列に当てはめるより、条件をできるだけ明示したうえで、それぞれが自分にとって価値のある席を選べる。
フィギュアスケートでも、そんなチケット販売がもう少し増えてくれたら嬉しいです。

