ミラノ五輪最終予選3日目【男子フリー編】ドノヴァンの五輪再挑戦&4回転なしで枠をつかんだユーシャンの快挙

ミラノ五輪代表最終予選会の大会ロゴ

北京で9/19~21にわたり開催されていた「ミラノ五輪最終予選」が終了し、フィギュアスケート競技参加枠が確定しました。

今回は、興奮まださめやらぬ男子シングルフリーについて振り返ります。

時系列順で振り返るのであれば、五輪最終予選とは思えないハイレベルな演技&残り枠の激戦が見られた女子フリー、僅かな点差で「うたまさ」の枠獲得ならなかったアイスダンスの方を先に書くべきなのでしょうが、そちらについては後日また書き残します。

ミラノ五輪最終予選会リザルト

目次

「高難度ジャンプだけでは勝てない」という事実を証明した試合

高難度ジャンプの成否で点数が大きく上下する男子シングルでは、後半グループの誰が代表枠を掴んでもおかしくありません」とは思っていましたが、やはり波乱が起きました。

全順位を参照したい場合は画像をクリック

中堅選手たちの真剣勝負からは、「高難度ジャンプだけでは勝てない」ということがよく見えてきます。

今回の総合5・6位の選手は4回転を入れていません。そのうえ5位はSPとフリーにそれぞれトリプルアクセル1回のみ。6位に至ってはトリプルアクセルが1回も入っていません。

4回転を複数本入れようとも他のジャンプで大きなミスをしてスピンやステップのレベルを十分に取れなければ、トリプルアクセルすらない選手が高いレベルの演技をしてきたら勝てない。その事実を改めて知らしめた大会だったと思います。

それでも採点に不満をこぼす選手がいたので、伝わってない選手もいるみたいですけどね…その発言を報じたロシア記事のコメント欄ではスケートファンにぼろくそ言われてましたが当然かと思います。採点に不満をこぼす自由もあるけど、それは違うだろと反論する自由もありますからね。

前半グループ

この大会の前半グループは、普段大型国際大会には参加が難しい選手達の演技が続きます。これはこれで楽しいです。

私が男子シングル前半で一番気になったのは、南米エクアドルから出場したガブリエル・マルティネス選手

ISUのバイオグラフィーを確認すると、米国シカゴ在住でこれまで米国内のブロック大会などに出ていた選手で、昨季からエクアドル代表の道を選択したのだそう。エクアドルの公式ユニフォームを笑顔で着用する姿がなかなかキュート。

大きな国際大会出場はこれが初めてとあって(過去の国際試合はメキシコカップのみ)、ジャンプの難度も精度も低いですが、滑りは割と好みのタイプ。キス&クライでお茶目なリアクションを見せていて、何だか応援したくなりましたね。

オリンピックチャンネルによる彼のインタビュー記事を日本語翻訳で読むと、やはりメキシコから五輪に出場したドノヴァン・カリーヨ選手をリスペクトしているそう。

いつか四大陸選手権のミニマムスコアをクリアして出場してほしいですね

それにはまだ25点ほど技術点を積み上げないといけませんが…

後半グループ

4回転は複数入っても…

後半に入ってくると、4回転トゥループ・サルコウ・ルッツなどを跳ぶスケーターが続々出てきます。しかし、4回転ジャンプを決めたとしても、あとのジャンプを盛大にミスって4回転で稼いだ点数があっという間に帳消しになるパターンの繰り返し…。

4回転3種4本投入予定だったタミール・クーパーマン選手(イスラエル)も、前半の4回転は降りたものの後半に予定していた4回転トゥループとトリプルアクセルが抜けて大幅に失点。ゲンリッヒ・ガルトゥング選手(ドイツ)は4回転フリップ、ルッツを連続で決めたところまではよかったのですが、トリプルアクセルの着氷が乱れ、ループジャンプは抜けて、最後のスピンは二つともレベル1…。

練習ではこの構成でも出来ているのかもしれませんけど「もうちょっと何とか…」と、もどかしい気分になりました。

4回転はないけれど…

そんな中でクリーンな演技をしてくる選手がいると、ひときわ目立ちます。私が応援しているユーシャン・リー選手(台湾)もその一人になりました。

先日の記事内で私は彼について、こう書いていました。

構成的には五輪出場枠獲得は難しいと思っていますが、上位勢が空回りしまくるようなことがあったら(あってほしくないけど)、彼にもひょっとしてチャンスがあるかもしれません

その「あってほしくない」事態が起き、ユーシャン・リー選手は本当に五輪代表枠をつかみました
フィギュアスケート種目では、台湾選手の五輪初出場となります。

ユーシャン・リー選手(台湾)の笑顔と涙

でも、千載一遇のチャンスをつかめたのは、彼がSPでもフリーでもパーソナルベスト(PB)を超える演技をそろえられたからです。

ユーシャン・リー選手のフリーは昨季からの継続のビートルズ曲「エリノア・リグビー」。試合で一度も「q」なし認定になったことがない4回転トゥループは抜き、トリプルアクセルも1回のみにとどめるという安全構成です。

トリプルアクセルの着氷こそ少し乱れましたが、あとは超クリーン。「なんぼほどジャッジに笑顔を振りまくねん!」というぐらい笑顔アピールをしていました。

でも、そんな笑顔いっぱいのイメージの彼が、得点が出たときに泣いてしまったのは心に迫りました。彼はきっと私のように五輪枠獲得は無理だろうとは考えておらず、「安全構成だからこそミスが許されない」というすごいプレッシャーの中、悔いのない演技ができたこと自体がすごく嬉しかったんだろうと思います。

総合スコアは約10点も更新する216.98で暫定1位。

「この点数ならひょっとして枠獲得の可能性出てきた?」と私の中で期待が生まれました

最終グループの波乱

最終グループ演技開始時になっても、暫定1位はユーシャン・リー選手(台湾)のまま。しかし、ここから滑る選手はまだ6名もいます。彼らにも皆いい演技をしてほしいので、何とも複雑な気分です。

キリーロ・マルサック選手(ウクライナ)の奮闘

特に第1滑走のキリーロ・マルサック選手(ウクライナ)は五輪には是非出場してほしい存在。今年ホームリンクを爆撃で失ったということもあるけれど、彼はジャンプだけじゃなくて、美しいスピンでちゃんとレベル取ってくる選手ですしね。

回転が少し抜けたジャンプは複数ありましたが、大崩れすることなくまとめきりました。フリーの得点はユーシャン・リー選手の下でしたが、SPの得点差で暫定1位

「彼がいい演技ができてよかった。ユーシャン君はまだ18歳だから、次があるよね」
…ってこの時は思っていました

ダヴィデ・リュートン・ブレイン選手(モナコ)の運命を分けた一瞬

2番滑走はダヴィデ・リュートン・ブレイン選手(モナコ)

26歳ですが、トリプルアクセル成功の公式記録がありません。2025ボストンワールドSPではトリプルアクセルに挑んでいましたが、全ジャンプでミスが出て47.50と全選手中最下位。

ーでも、当時の採点表を見るとスピンステップはオールレベル4でした。

今大会SPでは潔くトリプルアクセルを省いた構成で73.56を出して5位発進。ケヴィン・エイモズ選手の振付がここまでハマるとは!ジャンプ構成を落としたことで、ジャンプ以外の全てのうまさにようやく着目されたという印象です。

※下記はSP演技時 埋め込みが表示されない場合はリロードまたはこちら

でも、ジャンプ構成は確かに弱い。後半にダブルアクセルーダブルトゥループーダブルトゥループの3連続ジャンプは、シニア男子ではそう見かけない構成です。でも、美しいんですよね。ジャンプの基礎点は低いのに、GOE(技の出来ばえ点)を積み重ねることで着実に暫定1位の技術点に近づいていきます。

「ここまで極められるなら、こういう選手が五輪に出場するのもいいかもしれない」と思い始めた最後の最後のスピンで、彼の姿勢が一瞬崩れます。

「ああ、ひょっとしたらこれが彼の運命を分けてしまうかも?」と思ったら、本当にそうなってしまいました…

最後のスピンで彼はざっと1~2点弱を失いました。彼の総合得点は216.12、ユーシャン・リー選手に0.86点及びません。あの一瞬で運命が変わってしまったかもしれない。モナコから初のフィギュアスケート競技の五輪選手が誕生すれば、これも注目を集めたでしょうに。

この時点で、キリーロ・マルサック選手(ウクライナ)の五輪出場が確定します。

※埋め込みが表示されない場合はリロードまたはこちら

キム・ヒョンギム選手(韓国)の枠取り再挑戦

続いてはキム・ヒョンギム選手(韓国)の登場。

2025ボストンワールドSPではトリプルアクセルで転倒してしまったことで、彼はフリーに進めず。壷井達也選手がギリギリSP通過を果たしました。ひょっとして日本選手の誰かがこの大会に出ていたのかもしれないのに、たった0.18点の差で彼は五輪最終予選に出ています。

韓国男子は抜きんでた2番手選手がいない状態ではありますが、実力のある選手が複数いて国内代表争いが熾烈です。自国のライバルたちの期待も背負っての出場ですし、前回自分が2枠目を取り逃してしまったという自責の念もあったと思います。

緊張した表情に見えましたが、トリプルアクセルに「q」がついただけの、見事なノーミス演技!

※埋め込みが表示されない場合はリロードまたはこちら

得点が出て五輪枠が確定したとき、涙を流す姿を見て彼のこの大会にどれほどの不安と決意をもって臨んでいたのかを思い知らされました。これで彼は韓国に胸を張って帰り、これからは厳しい国内代表争いが始まることになります。

フランソワ・ピトー選手(仏)の波乱

続いてはフランソワ・ピトー選手

フランスは3枠目の挑戦権を2025ボストンワールドで獲得。26歳のリュック・エコノミド選手と20歳のフランソワ・ピトー選手のどちらを五輪最終予選に派遣するか注目されました。直近のシーズンベストスコアはエコノミド選手が236.87とピトー選手のスコア229.44を7点ほど上回っています。

フランスのスケート連盟は若手のピトー選手の派遣を決定。

彼はその期待に応えるかのように、先月の仏マスターズでは230.80(ISU非公認)を出し、ケヴィン・エイモズ選手に次いで仏男子2位に入っていました。

そして、今大会のSPは4回転抜きの構成ながらジャンプノーミス、スピンステップオールレベル4の81.24点で3位スタート。

80点台を超えたのは3名のみ。この3人までは優位に立ったかに思えました。ピトー選手はSPへの4回転投入にはかなり苦労していましたが、フリーはそこまで大崩れしないイメージありましたしね。

しかし、フリーの冒頭で挑んだ4回転サルコウがダブルに抜けてからは、ほぼ全てのジャンプの着氷が乱れ…。4回転が1本抜けたとしてもその後をまとめきればたぶん枠はとれたはず。なのにトリプルアクセルも抜けて、結局加点をもらえたジャンプはトリプルフリップ&トリプルルッツートリプルトゥループの2つのみ。

「こ、これはまずい…」と心配が膨れ上がっていきます

最後のジャンプに急遽トリプルアクセルを投入してきた闘志には、かなりしびれました。でも、その着氷も乱れてしまいます。この時点で「フランスの五輪3枠目は消えた」と悟りました。

彼もリュック・エコノミド選手も素敵なプログラムを滑る選手なのに、そのどちらも五輪で見られないなんて…

SP3位から一転フリーは11位、総合点は214.57と、トリプルアクセル無しで競ったダヴィデ・リュートン・ブレイン選手にすら届かず総合は7位。この結果、ユーシャン・リー選手の五輪枠が確定します。

ここ数年応援していた選手の五輪出場が決まったというのに、こんな「まさか」の展開の結果だと、心から喜ぶことができません。

「ユーシャン・リー選手たちのようにフランソワ・ピトー選手も4回転無しの構成で臨めば枠は取れていたのでは?」という考えが頭をよぎります

構成をどうするかは当然彼もコーチ陣も考えて決断した結果でしょうし、ただの素人が外野からどうこう言う権利はありません

でも、どうしても考えてしまいます…だってあまりに残念すぎて

ドノヴァン・カリーヨ選手(メキシコ)の二度目の五輪挑戦

場内には沈鬱な空気感が漂っています。そこに登場したのがドノヴァン・カリーヨ選手

SPの時と違い、彼の表情に少し緊張が見えます。私は「SP85点近く取ったんだから、多少ミスっても大丈夫よね?」と必死で自分に言い聞かせます。

彼は25歳。年齢的に言って、五輪出場はこれがラストチャンスになる可能性もあります。彼が滑り始める前に北京五輪からの苦難の4年間のことが私の脳内を駆け巡りました。ロストバゲージによるワールド出場断念とかカナダへの拠点変更とか足の手術⇒復帰とか、本当いろいろありましたから。

モントリオールワールド観戦記の中で、彼のここまでの道のりを紹介しています

しかし冒頭の4回転サルコウは大きく着氷が乱れ、大減点に。

それは想定範囲内のミスでしたが、続く2本目のコンビネーション冒頭の4回転サルコウがダブルに抜けて単独になります。「あぁ、これであとはもう大きなミスができない!」と私はプチパニック。

幸いその次のトリプルアクセルは加点付きで綺麗に決まってホッとしましたが、その後も高得点源になるジャンプの着氷がパキッと決まらず、暫定技術点表示の点数が思うように伸びていきません。

相変わらず美しいポジションの最後のA字スピンのポジションを見ながら「だ、大丈夫よね?PCS取れるスケーターだし、転倒はしてないし」と自分に言い聞かせました。でも、得点がコールされる瞬間、私は不安で仕方なかったのですが、そんな中でも彼はやっぱりコーチ陣と肩を組み前をまっすぐ向くのです。

私はこの瞬間、怖くて目をつぶっておりました(苦笑)

総合得点222.36、総合2位とコールされた瞬間大喜びするのかと思いきや、一瞬気が遠くなったかのように脱力するドノヴァン・カリーヨ選手。脱力の数秒間を経た後にようやく歓喜の叫び声をあげていました。

こういう瞬間を見守れるのは本当にうれしい キム・ヒョンギム選手のキス&クライもコーチの愛情が伝わってきて、とてもよかったです

「SP貯金って本当に大事」と改めて思わせられる結果でした。あぁよかった、彼をもう一度五輪で見られる!今度こそ大勢の観客の前で笑顔で滑って観客の歓声を存分に浴びてほしいです。

南米系のメディアは彼の二度目の五輪出場決定を華々しく報じていました。

ピョートル・グメンニク選手(中立アスリート ※ロシア)の4回転5本フリー

最終滑走のピョートル・グメンニク選手の時は落ち着いて見られました。

フリーには4回転5本を予定しているし練習でもジャンプは好調と聞いていたし、それだけ突き抜けた構成なら3~4回転したとしても基礎点の積み重ねで五輪枠には余裕で入るでしょう。

SPの時は魅せる選手だなと思ったのですが、さすがに4回転を5本も入れるとなるとジャンプジャンプの連続という印象が強く…私はこのフリープログラムは初見ではあまり好きになれませんでした。

4回転を4本に減らして細かい所作が追加されれば、印象は変わるかもしれません。でも今大会の結果を見る限り高PCSは期待できなさそう。となると、ロシアとしては技術点で殴り込みをかける戦略で来そうですね。課題は4回転5本での構成をどこまで安定させられるか、回転不足をどこまで抑えられるかになりそうです。

最後のルッツは着氷が乱れ、トリプルループへのコンビネーションジャンプを見せてもらえなかったのが少し残念でした。(セカンドループはやっぱり気分がアガりますので!)4回転フリップやサルコウの安定度はすごいし、セカンドループまで入ったら五輪最終グループには入ってきそうです。

何より3年ぶりの国際大会、五輪出場を賭けた一発勝負の場でここまでまとめたのは、素直にすごいなと思います。

実力はあるのに大一番で大自爆してしまうことが多かった近年のロシア男子選手(マーク・コンドラチュク選手のぞく)の中では画期的な存在かもしれません。これなら五輪という大舞台でも大崩れまではしなさそう?って思いましたね。

でも、回転不足を取られやすそうな印象も受けたのでメダル争いにからめるかは未知数ですね。まだシーズン序盤だし、もう五輪までは国際大会には出てこないからミラノではものすごく進化したプログラムを見せてもらえるかもしれません。

表彰式&会見に思うこと

女子も男子も中立アスリート(AIN)の優勝となりましたが、表彰式は「AIN」の旗がデジタル表示されました。

しかし、表彰式後の国旗を背負ってのリンク内ビクトリーラップや記念撮影はなし。

メキシコ国旗を背負ったドノヴァン・カリーヨ選手の姿はレアだから見たかったんですけど、ひとりだけ旗が全くないのも確かにちょっと…ですね。ミラノ五輪ではAINの旗を用意してもらえないでしょうか。

「中立アスリート参加を認める」との報道がされたときにも触れましたが、五輪期間中、「中立アスリート」は協議後にメディアの取材を受けることができませんメディア関係者がいるミックスゾーンへの立ち入りも禁じられています。

五輪最終予選のこの大会でもミックスゾーンへの立ち入りは禁じられ、彼らの談話は報じられず。男子シングル選手の五輪出場枠を決定させた5選手のうち4人のみで記者会見が行われました。決められたことではありますが、これに関してはすっきりしないものは感じます。

今大会で決まったのは、「中立アスリート」以外は「国ごとの枠」のみです。韓国やウクライナでは国内での代表争いがまだ待っています。代表枠を勝ち取るために9月にピークを持ってきた選手たちが、これから五輪出場に向けて順調に調整していけるといいなと思います。

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