GPS中国大会まとめ前編/佐藤駿選手、怪我明けで掴んだ優勝&渡辺倫果選手、全米女王に挑んだ銅、波乱の展開も

GPS中国大会のロゴ

中国・重慶で開催されていたフィギュアスケートの2025年グランプリシリーズ(GPシリーズ)第2戦が終了しました。

今回は、GPS第2戦中国大会(中国杯2025/カップオブチャイナ2025/COC2025)の男子シングル・女子シングルについて振り返ります。

2025 GPS中国大会リザルト

東日本選手権・ペア予選会の競技経過&演技動画を合間にチェックしながらの視聴で慌ただしかったです。

次の週末、私は「スケートカナダ(GPSカナダ大会)」、「Ice Brave2」、「西日本選手権・アイスダンス予選会」の3つを追うことに。とんでもないことになりそうです。

本記事中では触れませんが、東日本選手権のリザルトも貼っておきます。

2025 東日本選手権・ペア予選会リザルト

目次

男子シングル

ここからは、前回の投稿で私がピックアップしていた見どころを中心に、各カテゴリの印象的だった点について振り返っていきます。

痛み止め服用して出場していた佐藤駿選手が優勝!

ジャンパー系に偏った印象のあった男子フリー第2グループ

6月に右足首に骨挫傷を負った佐藤駿選手。練習も本人の思う通りにできない状況が続く中、痛み止めを服用しながらの出場で優勝を果たしました。演技ではSPもフリーも怪我を感じさせない動きでした。

中国大会男子フリーは、SPの結果が思わしくなかったチャ・ジュンファン選手デニス・ヴァシリエフス選手らが第1グループに入った結果、第2グループはジャンパー系が偏った印象に。

その中で佐藤駿選手が最終滑走だったのはかなり利点があったと言えるかも?
佐藤駿選手のフリー演技構成点(PCS)合計は1位でした。

またも見せた勝負強さ

4回転ルッツがSPフリー双方決まったのにはしびれました。怪我で出遅れたこと&序盤であることを考えたら凄い。フリーではスピン1つとステップがレベル3になった以外は全てレベル4で揃えたのですから、改善してきています。

何より体のコンディションが万全でなくともここまで本番でできるという勝負強さを示しました。SPフリーで全く回転不足を取られていないのもいいです。

日下コーチの大喜びから感じたこと

優勝が確定したときのキス&クライでの日下コーチの喜びようは今回も最高で、思わず笑ってしまいました。

いつも選手以上に大喜びされる方ですが、今回は「本当によくやった、頑張ったな」と佐藤駿選手に何度も声をかけて抱き寄せる姿を見て、「大会前は色々大変だったんだろうな」と察しました。

佐藤駿選手の次戦は2週間後のGPS第4戦NHK杯。今回の優勝で名古屋グランプリファイナル(GPF)出場の可能性が高まったので、NHK杯でも表彰台に乗りたいところです。

キスクラの動画はこちらで見られます

グラッスル選手とシャイドロフ選手 回転不足判定の謎

議論を呼んだ、SPでの4回転ルッツの回転不足判定の「差」

今回は表彰台3人全員が4回転ルッツジャンパーでしたが、銀メダルのダニエル・グラッスル選手(イタリア)と銅メダルのミハイル・シャイドロフ選手(カザフスタン)は、どちらも回転不足判定に悩まされました。

二人とも回転不足を取られやすい傾向はありますが、今大会は、腑に落ちない回転不足判定が見られました。案の定海外掲示板では相当議論に。

議論になっていたのは、SPのダニエル・グラッスル選手は軽微な回転不足「q」なのに、ミハイル・シャイドロフ選手が回転不足「<」を取られたことです。

私もこれは正直言って納得はできませんでした。スローで何度見ても違いがわかりません。

角度によって見え方が異なっていた可能性もあるので、ジャッジ側が別の映像を見ているのならそれを見せて欲しいとすら思いました。

点差を分けたのは回転不足ではなく、スピン

あの判定の違いが二人の点差を広げたのは間違いありませんが、それ以上に点差の元になったのはスピンです。

グラッスル選手はSPフリーともオールレベル4だったのに対し、シャイドロフ選手はレベル4が1つだけしかありません。

もしフリーでの4回転5本が全てクリーンに成功したら、その差も吹き飛びかねませんけどね…

4回転投入本数を増やすとスタミナが奪われ転倒&回転不足リスクが高まるので「バクチ要素」が高まっていきます。

「ジャンプ偏重」の印象が濃かった今大会の二人の演技は私にはしっくり来ませんでしたが、今後の熟成を楽しみにします。昨季序盤は、シャイドロフ選手がボストンワールドであんなに観客を盛り上げることになるなんて想像もしていなかったですからね。

チャ・ジュンファン選手と山本草太選手の不調

表彰台争いに関わるとみていたメンバーのうち、チャ・ジュンファン選手(韓国)と山本草太選手は共にフリーで大乱調となり、総合8位と9位に沈みました。

チャ・ジュンファン選手の靴トラブル

チャ・ジュンファン選手(韓国)は危惧していた通り靴問題での脱落です。

SP演技後のインタビューで詳しく語っていました。新しい靴に変えたけど、この試合の前週にその靴も壊れ、別の新たな靴に変えなければならなかったと。

試合で使用した靴で初めて本格的な練習ができたのは試合前日だそうで。それは厳し過ぎる…。五輪とワールドではどうか靴問題が起きないよう祈ります。

山本草太選手は4回転2種構成に挑むも…

私は今大会前、山本草太選手は「フリーでは中部選手権のような4回転1本、もしくは1種2本に抑えてくるかも?」と予想していました。表彰台は厳しくなるだろうけれど、彼はスケーティングで点数を積めるのだから、250点台を次の目標にするのもあるのでは?と考えたのです。

しかし、SPでサルコウとトゥループの両方が決まり4位発進。こうなるとフリーの戦略は読めなくなりました。(サルコウに「q」はついたものの一見クリーンな着氷でしたし)

結局は4回転は2種類、最低2本入れる構成でフリーに挑んだようです。しかし冒頭の4回転サルコウ着氷後、次の4回転トゥループへの助走の最中に一瞬ためらったような瞬間から全てが崩れていきました

トゥループの転倒に続いてトリプルアクセルがダブルになったところまでは、まだ私が想定していた「崩れ」の範囲内でした。

しかし彼が後半のルッツの踏切を逃してしまうとは…これには「まさか」と血の気が引きました

トゥループの転倒で腰や足首を痛めてしまったのだろうか?と心配に。

コンビネーションジャンプも1回のみで、技術点(TES)は50点未満。PCSで点数を積みましたが、フリー11位で総合9位。先週のフランス大会の三浦佳生選手同様、ランキングポイント獲得も逃す結果になってしまいました。

演技後のインタビューに滲む強い焦燥感

演技後のインタビュー(有料)には焦燥感がにじんでいました。

インタビューでは、熱心に練習を積むタイプの彼は、腰痛で思うように練習を積めない今の状況を耐え難く感じているようでした。

ベテランになった今、練習量制限も冷静に受け入れているのかと想像していたけれど、練習をたくさん積みたいという情熱は変わらずでした。「もうケガ、ケガ言っていられないので、練習しまくります」との発言まで。

今季の日本男子は怪我に悩まされる選手が続出していますが、怪我そのものだけではなく「怪我と付き合いながらの練習で、いかに最大限の効果を引き出せるか」が、今後を分けるかもしれません。

デニス・ヴァシリエフス選手の現況

シャンペリーを離れ、コーチ帯同なしで今大会に臨んだデニス・ヴァシリエフス選手(ラトヴィア)。

今の状態についてSP演技直後のインタビュー(下記の埋め込み投稿)でじっくり語ってくれました。関心のある方は是非日本語翻訳をかけて読んでほしいです。

精神的な支えとなってくれたファン達への感謝が主ですが、用意していた「007」のフリープログラムを使用せずに過去プロに戻した理由なども語っています。(著作権に不安があるからとのこと。連盟からの金銭支援が滞っている状況で訴訟リスクは抱えられないですもんね)

総合10位に終わりましたが、彼のシーズンはここでようやく始まったばかり。ぬいぐるみに囲まれたフリーのキス&クライでは「これがスタートなんだ」と繰り返していました。

ユーロ(欧州選手権)には他選手帯同で会場にいるであろうステファン・ランビエールコーチがキス&クライになぜか座っていたりしないか?とわずかな期待は持っている私。

でも、実際のところどうなるかは全くわかりません。「いずれわかるでしょう」という彼のコメントを、自分なりの解釈でとらえるしかありません。

中国代表争い ボーヤン・ジン選手 VS ダイウェイ・ダイ選手

私が見どころの一つだと思っていた、ボーヤン・ジン選手とダイウェイ・ダイ選手の中国代表争い

しかしダイウェイ・ダイ選手のSPに大きなジャンプミスが連続。安定した演技が持ち味だったのでショックでした。彼の次戦は第5戦のスケートアメリカですが、中国の連盟が重視していたGPS中国大会の結果が11位では、五輪代表は厳しくなったように思います。

対するボーヤン・ジン選手は引退かもしれないシーズンにふさわしい新プロをSPフリー共に見せてくれました。SP5位はともかく、不安が大きかったフリーでも7位。総合5位とはいい意味で予想外だったので嬉しかったです。

※埋め込みが表示されな場合はリロードまたはこちら

4回転ルッツ持ちの選手が表彰台を占めたこの大会。4回転ルッツの先駆者であるあのボーヤン・ジン選手が4回転トゥループ1種のみの構成になっていることを残念に思う方も中にはいるかもしれません。

セカンドに3回転が入らずで苦しいジャンプ内容ではありましたけど、それでも懸命に戦う姿は彼を以前から知るファンには胸を打つものがありました

インタビューによると体の状態がよくなかったとのことで、NHK杯ではさらに進化した演技を見られるかもしれません。

女子シングル

新旧全米女王対決 アリサ・リウ選手 VS アンバー・グレン選手

SPフリーでトリプルアクセルを決めたアンバー・グレン選手が優勝

今大会の見どころだった、アリサ・リウ選手とアンバー・グレン選手の「新旧全米女王対決」

SPフリー共にトリプルアクセルを下りたアンバー・グレン選手が制しました。

アンバー・グレン選手は今季もトリプルアクセルの高い成功率を保っているようです。ただ、SPフリーともトリプルフリップジャンプの精度がまだ今一つで失点してしまっています。

とはいえ、「トリプルアクセルは決まっても、後半ジャンプが抜けてせっかく得た点数がご破算」を繰り返していた昔の彼女には戻っていません。ジャンプでの失点は最小限に抑えています。

トラブル続きだったアリサ・リウ選手のプレッシャー

アリサ・リウ選手は今大会は事情があってどちらも昨年のプロに急遽戻すことになりました。フリーはともかく、「五輪SP使用曲のミュージシャンが物騒な事件に関わっていたらしい」と発覚するなんて、悪夢以外の何物でもないです。

いくら昨季滑り込んだプロとはいえ、新プロを練習し続けた後でSPフリー両方を元に戻すのは大変だったでしょう。そんな中でSP後半にトリプルルッツートリプルループを投入してきたのは痛快で驚きました。しかも後半!

ただフリーではトリプルルッツで着氷を乱し、次の3連続ジャンプにも少し影響が出てしまいました。結果、今大会は2位に。

大会に臨む彼女のプレッシャーは相当なものだったようで、SP後の記者会見では涙を流していました。

過去プロに戻したのは一時的なことで、この後再度プログラムを変更するようなので今後も調整が色々大変だろうと思います。

彼女が五輪代表から外れるようなことはまずないでしょうから、ミラノ五輪に照準を合わせてじっくり進めていってほしいです。

アリサ・リウ選手はこれがGPS初メダル!

驚いたのは、アリサ・リウ選手はこれがGPS初メダルだったということ!現役世界女王なのに。

昨季は現役復帰後のGPSは調子を確かめながらの状態でしたし、前回の引退前はロシア女子が席捲している時代だったから表彰台に乗ったことなかったんですね。

昨季、樋口新葉選手がスケートアメリカで「初のGPS優勝」だったことに驚きましたが、それを超える驚きでした

渡辺倫果選手はトリプルアクセル3本投入挑戦で、銅メダル獲得!

ハードルの高いトリプルアクセル3本投入

今季はずっとSPフリーでトリプルアクセル3本を投入する構成に挑戦し続けている渡辺倫果選手

「無謀」と思う人もいるかもしれませんが、彼女が五輪代表を目指すならこの挑戦は必須だろうと思います。

そして、彼女によると練習ではほぼミスなくできているようで、決して無謀な構成ではないようです。ただ試合となるとうまく入らないーというのが難しいところで、ハードルの高い挑戦であるのは間違いありません。

SPは74.01で2位発進

SPでは完璧とまではいえないものの、トリプルアクセルを着氷。さらに他の要素をオールレベル4で揃えてSPのパーソナルベスト(PB)を更新する74.01を出し、全米女王たちの間に分け入って2位発進となりました。

「ロクサーヌ」は過去プロではありますが、スピンの入りが素晴らしくカッコよくて彼女の強みを生かしたプロに育っているなと興奮しましたね。

フリーはミスが出て総合200点を切るも表彰台へ

「もしフリーでトリプルアクセル2本決まったら、220点前後で優勝もありうる?」と期待しましたが、さすがにそう簡単な挑戦ではなかったです。

1本目のトリプルアクセルは見事な着氷でしたが、セカンドを跳びに行くタイミングが若干ずれて転倒になったのは勿体なかったです。(セカンド跳ばなきゃいけないのが一瞬頭から飛んだーとの本人談あり)

次のトリプルアクセルは何とか降りましたが(「<」判定)、後半のトリプルループが抜けてしまいました。

前に滑ったアナスタシヤ・グバノワ選手は、演技をまとめて197.88点を出していました。「表彰台は厳しい?」と覚悟しましたが、総合点は198.63。わずかにグバノワ選手を上回り、銅メダルを獲得

五輪代表選考を考えると、住吉りをん選手や千葉百音選手のPB216点台を超えておきたかったところですが、ジャンプミスがこれだけ出ると200点台も厳しい。

となるとGPF進出に望みが残る「表彰台」は確保しておきたかったので、ここで3位に踏みとどまったのは大きいです。

彼女の次戦は第5戦のスケートアメリカ(GPSアメリカ大会)。今大会で競ったアリッサ・リウ選手、アナスタシヤ・グバノワ選手と再び対することになります。ひとまずはここでPBを更新して2位以内に入ることが次の目標ですね。

大事な試合は決めて来るイメージがある彼女ですから、シーズン終わりまでは爆発的なフリー演技が一度は見られるんじゃないかと期待しています。

「一歩前進」の松生理乃選手は6位

松生理乃選手は総合188.06点で、SP・フリー・総合全て6位でした。

点数が伸びなかったSP 原因は?

国際大会のSPがなかなかまとめられない印象があった彼女が、SPでジャンプノーミスで演技を終えた時は「70点前後出るんじゃ?」と期待したのですが、出た点数は65.91。ISU公式YouTubeチャンネルの実況も「もっと高い点が出ると思っていたが…」と言及したほどでした。

私はてっきりまた回転不足を多数取られたのかな?と思ったのですが、ジャンプにはルッツにエッジ不明瞭の「!」マークがつけられたのみ。スピンとステップでレベルを落としていたことが原因でした。(最後のスピンだけレベル4であとは全て3)

フリーではまさかの…

「ならばフリーでもそんなに回転のことは心配せずに行ける?」って思ったんですけれど…。

最後のサルコウの着氷が若干ぶれたものの「全ジャンプ下りた!」と喜んだ直後、まさかのステップ序盤での転倒。思わず悲鳴を上げちゃいました。

あれでステップの点数はほぼゼロ。(1.49獲得したが転倒で1点引かれるから0.49しか残らない)しかも最後のポーズで体勢を崩したのが転倒減点になりさらに1点マイナス。もったいなさ過ぎる。

ステップ中の転倒はある意味「事故」にあった感があります。悔いても仕方ありません。それより彼女が国際大会でSPフリーのジャンプを揃えられたのは一歩前進。元気そうな笑顔で試合を終えられてまずはよかったです。今後の課題ははっきりしましたしね。(フリーはスピン・ステップのレベル4なし)

名古屋GPF出場への夢はほぼなくなりましたが、あとは全日本に向けて徐々に調子を上げて行ってほしいです。

踏ん張った吉田陽菜選手の笑顔

笑顔といえば、吉田陽菜さんの笑顔が私は印象に残りました。彼女は今季明らかに調子を落としていますし、本人色々思うところもあるかと思いますが、それでも常に口角を上げて笑顔を絶やさずにいる彼女を素直に偉いなと思っています。


吉田陽菜選手は176.54点で総合10位でしたが、第1戦フランス大会だったら8位入賞でランキングポイントを貰えるスコアでした。

212.71点も出したイザボー・レヴィト選手が表彰台に乗れなかったフランス大会女子シングルは「ハイレベル」でしたが、実は入賞ラインの争いでは中国大会の方がハイレベルだったと言えます。アサインの運不運はありますね。

韓国女子の代表争い イ・ヘイン選手 VS シン・ジア選手

シン・ジア選手は総合5位。CS大会では「昨季の不調を乗り越えたのかな」と思ったのですが、まだ少し不安定なようです。ジャンプがはまればスゴい点が出そうな感はあるのですが、もどかしいですね。

イ・ヘイン選手はジャンプが精彩を欠き、フリーで順位を落とし10位。まだ仕上がっていない?という印象だったので、この時点で二人を比較するのは難しいです。彼女の次戦は第5戦スケートアメリカ、キム・チェヨン選手と対します。

韓国女子は全員ファイナル進出が厳しい状態になったので、ナショナルが正念場。その前哨戦としてはスケートアメリカの結果が代表争いに影響を与えそうです。

ペアとアイスダンスは別記事で振り返ります

エキシビションと大会の会場で気になった話も付け加えるかも?ではまた~

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