名古屋IGアリーナで開催された、2025年のフィギュアスケートグランプリファイナル(GPF2025/2025GPF)の観戦記2つめは、ペアについて。
当初はペア&アイスダンスでまとめようと思っていたら、ペアだけで結構なボリュームになったのでペアのみで公開することにしました。
2025名古屋GPFリザルト
※出場者リスト・スケジュール・採点結果などの一覧です
出場組は全部異なる国から!
ペアのGPF出場は、下記の6組。
ジュニアカテゴリはカナダと中国が3組ずつでしたが、シニアの出場組は全部国が違います。カナダが一組いるものの、ロシアも中国も米国もいないことに時代の変遷を感じます。
「りくりゅう」三浦璃来/木原龍一組
「コンマチ」 サラ・コンティ/ニッコロ・マチー組(イタリア)
「ハゼボロ」 ミネルヴァ・ファビアン・ハーゼ/ニキータ・ボロディン組(ドイツ)
「メテベル」 アナスタシア・メテルキナ/ルカ・ベルラワ組(ジョージア)
「ステデシ」 ディアナ・ステラート=デデュク/マキシム・デシャン組(カナダ)
「パブスビ」 マリア・パブロワ/アレクセイ・スヴィアチェンコ組(ハンガリー)

テレビ朝日フィギュアスケートXアカウントの投稿より引用 ※画面をクリックすると元投稿が開きます
GPFのシニアペアは好演技続き!
「大技」の多いペアは、男子シングルのように上位層でも一定の割合で転倒や抜けが生じます。しかし今回は、大ミスがほとんどない好試合でした。
SPではハゼボロがサイドバイサイドジャンプが抜け、フリーではステデシがスロージャンプで転倒した程度。それ以外には転倒や抜け無しで「12個の演技中に大ミス二つだけ」というのは、ペア競技では珍しいのではないかと思います。

ワールドや五輪ならともかく、GPFの段階で皆ここまで安定させてきているとは。
私が名古屋GPFフリーで一番満足度が高かったのはペアだったかも?
ペアの演技振り返り
まだ本調子には遠そうだった「ステデシ」(カナダ)
SPではジャンプ系に小ミスが続き点が伸びず、6位スタートとなったステデシ。フリーではスロージャンプで転倒があり、順位を上げることは叶いませんでした。
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Deanna Stellato-Dudek & Maxime Deschamps deliver a passionate free skate to finish 6️⃣th at #GPFigure Final.
— Skate Canada / Patinage Canada (@SkateCanada) December 5, 2025
Deanna & Maxime terminent 6️⃣e en patinage en couple à la finale du Grand Prix. pic.twitter.com/AqiaUq0roi
2024モントリオールワールドで見た彼らはすばらしく輝いていましたが、今季はなかなか調子が上がりきりません。
SPでのディアナ・ステラート=デデュク選手のスローバックフリップには観客が湧きましたが、それ以外では見せ場が作り切れなかったのがもったいなかったです。なんとなく二人がかみ合っていない印象を受けました。
フィギュアスケート界ではおそらく前例がないだろう「40代の五輪メダリスト」(ディアナ・ステラート=デデュク選手は42歳)を見たい気持ちはあるのですが、今の調子のままだとちょっと厳しい気がします。

40代でこれだけの活躍は常々すごいなと感心していたけれど、JGPF女子シングル王者の年表を見たら、ただただ「スゲー」と思いました…
「ハゼボロ」(ドイツ)の復活フリー
サイドバイサイドのジャンプがシングルに抜けてしまい、SP5位と出遅れたハゼボロ。SPを見た限りでは、試合前に感じていた通り、昨季程の調子が出ていないように見えました。
SPではりくりゅうとコンマチが僅差で1・2位、3位がメテベル。なので私は、今大会のメダルはSP上位3組での争いになるかな?と思っていました。
ところがハゼボロは私の予想をいい意味で裏切って、すごく良いフリー演技を見せてきました。

「こんなクリーンな演技をされちゃったら、彼らがSP5位からの逆転優勝になるかも?」ってビックリしましたよ。「ようやく本来の調子を取り戻してきたか…りくりゅうは大ミス一つも許されなくなりそう」と身構えました。
ボストンワールドの想い出
ハゼボロで私が思い出すのは、ボストンワールドフリー演技後の姿。
それまでは「高難度技を淡々と着実に決めて来る組」というイメージしかなくて、強い思い入れは無かったんですが…見事な大の字姿のミネルヴァ選手とリンクに正座するボロディン選手の対比がおもしろ過ぎて、それ以来憎めない組になりました。

リーダーズの熱烈応援を受けた「パブスビ」(ハンガリー)
今大会には2025ボストンワールドと同様、キス&クライの横に「カレントリーダーズチェア(暫定首位席)」が設けられていました。SP6位発進だと、必ずリーダーズチェアに座れます。
※こちら(下記埋め込み投稿)でリーダーズチェアからの眺めが動画で見られます
ハゼボロはフリー149.57というブッチギリのスコアでしたので、当然フリー演技終了後はリーダーズチェアに座りました。
そして、次の演技者パブスビの演技後半のことです。
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Pavlova és Sviatchenko a kűrben egy helyet visszacsúszva lett végül ötödik Nagojában.https://t.co/fwOoUM1NvM
— Eurosport Hungary (@EurosportHU) December 5, 2025

私が彼らの演技を見ていたら、ハゼボロの二人が両方とも立ちあがったままパブスビを熱烈応援している姿が偶然目に入りました
それも、技が決まった時に二人揃って両手を挙げて「やったー」と飛びあがるかのようなエキサイトぶり!
ー私はもうそれから彼らの激しいリアクションが気になってしまいまして。パブスビの演技に集中できませんでした。ぶっちゃけ彼らの演技後半はハゼボロが熱烈応援していた姿の記憶しか残っていません(苦笑)。
パブスビもほぼノーミスの演技でパーソナルベスト(PB)に後わずかのところまで迫る135.49を出しました。

「同門の選手とはいえ、ライバルでもある彼らの成功をあんなに激しく喜ぶなんて」って、ハゼボロの好感度がまた一段階アップ(笑)。
ちなみにその後ハゼボロはコンマチに抜かれるまでずっとリーダーズチェアに座っていましたが、それ以降どんなリアクションをしていたかは視界に入ってこなかったので不明です。
「メテベル」(ジョージア)の若さ
続いて登場したのは、若手成長株のメテベル。

サイドバイサイドのトリプルサルコウで少し乱れはあったものの、全体としてはクリーンにまとめた演技に見えました。「ペアフリーなのに3演技連続でクリーンな演技が見られるなんて」と興奮して得点発表を聞いたら、スコアは136.49。「あれ、何で?」となりました。(彼らのフリーは140以上出る場合が多い)
後で採点シートを見て納得したのですが、どうも最初のリフトで大きくレベルを落としていました。その心理的な影響からなのか、その後のデススパイラルやスピンでもレベルの取りこぼしが連続。
私はペア技のレベル認定条件に詳しくないので、現地観戦では全く気付かずでしたね。フィンランド大会でもリフトミスをきっかけに大きく崩れたし、1ミスで動揺しやすいのは若さから来るものでしょうか?
メテベルの「同志感」とエキシビションこぼれ話
今回私は彼らのスタートポジションに比較的近い位置に座っていたのですが、彼らは演技開始前に必ずグータッチのようなことをやっていました。
その時の「同志感」が何ともイイ感じでした。「情感」じゃなくて、「同志感」なんです。「同志よ、さぁ闘いに行こうぜ!」みたいな。
エキシビションでは、もはや恒例?のゲーム「モータルコンバット」を題材にしたプログラムを披露した二人。

彼らがこのプログラム後半で毎回客席に配っていた赤い物は、手提げつきのハート形のポーチであることが確認できました。(私の近くの席にも一つ飛んできたので確認できた)
こういうショーマンシップに溢れた選手たちは大好きです。彼らはミラノ五輪でもメダル候補になっていますが、年齢的には次のアルプス五輪では更に強くなりそうですね。
「コンマチ」(イタリア)の情感
地元ミラノ五輪に向けての仕上がりは上々!
続いて登場したコンマチは、SPに引き続きクリーンな演技を成し遂げました。
ニッコロ・マチー選手の自宅はミラノ会場まで自転車で行ける距離。超・地元開催のミラノ五輪に向け、かなり仕上がってきているのを感じました。
彼らは他のトップクラスのペアに比べるとスピード感やリンクカバーについては若干の物足りなさはあるものの、技に安定感があります。

コンマチの強みは「情感」
そして何よりも、彼らの演技には深い「情感」を感じます。私が引き込まれるのはそれが一番の理由ですね。
所作などは他のペアも彼ら同様に美しいのですが、何かが違うんです。言葉に表現しづらい「情感」の持つパワーを、現地観戦だと更に強く感じます。
これまで彼らの演技は2023さいたまワールドのフリー「ニューシネマパラダイス」が強く記憶に残っていましたが、今回の演技もあの時と同様、私の記憶に長く残りそう。それぐらい印象深い演技となりました。
※下記の埋め込みは2023さいたまワールドフリー後の投稿
Never stop believing and dreaming.
— Inside Skating (@insideskating) March 23, 2023
2023 bronze medalists Sara Conti and Niccolo Macii.#WorldFigure pic.twitter.com/1UBp8OoGEY
コンマチが暫定1位に
フリー1位はハゼボロでしたが、コンマチは今大会でSPもフリーもPB更新。GPF2連覇をしていたハゼボロを上回って暫定1位!
最終的にはりくりゅうに僅差で敗れ銀メダルとなりましたが、ミラノ五輪金メダル候補に堂々と名を連ねました。

ミラノ五輪団体の銀&銅メダルをめぐるイタリア・ジョージア・日本の三つ巴の闘いは熾烈になりそうですね
表彰式の光演出の仕掛人
実はフリー演技前に会場モニターに表示されていたコンマチの観客へのメッセージは「スマートフォンのライトをつけて振ってね」だったそうです。(モニターが見づらい席だった私は、そのメッセージに気づかず)
リンクサイドにいた関係者(振付師のブノワ・リショー氏など)がそのメッセージを覚えていたのか、ペア表彰式の時に率先してスマホのライトを灯して振り始めました。それに気づいた周囲の観客が続々とスマホライトを点灯。私も途中でライトをつけました。
そしてその後の表彰式では、観客がスマホライトを点灯して振るのが恒例になりました。演出仕掛人はコンマチです。
※下記に埋め込んだ投稿では、女子&男子の表彰式の映像が多数見られます
ニッコロ・マチー選手の陽気さは観客の間でも話題に
コンマチは2023さいたまワールドのフリーで大喝采を受けて以来、「日本の観客の前で演技をするのが大好き」ということを何度も発言していますし、実際日本の試合に多く来てくれています。今季中国杯~NHK杯の間は日本に来て練習までしていました。
下記に埋め込んでいる表彰式後のインタビュー動画では、「エンディングポーズに入る前に拍手が沸き上がって、場内スタンディングオベーションの嵐になったこと」を物凄く喜んでいました。2023さいたまワールドの想い出にも触れています。
彼らが言うように、日本のファンはイタリア音楽の情感に共感しやすいのかもしれません。
特にニッコロ・マチー選手は表彰台でも踊っていたし、表彰式後は二人が貰った花束を観客に投げてプレゼントしちゃうし。ずっと楽しそうにはしゃいでいましたね。

会場からの帰り道、フィギュアスケートを見始めたばかり?と思しき若い観客が
「あいつ、すっごく明るくていいヤツだね!りくりゅうにも笑顔で祝福しにいってたし、超楽しい人みたいで私ちょっとファンになったわ!」
ーと言っているのを耳にしました。
彼を気に入ってもらえたのは何だかちょっと嬉しかったです(笑)。
地元の期待を背負った「りくりゅう」
第2滑走からほぼノーミス演技が4連続というのは、ペアフリーではかなり珍しい展開。そこで最終滑走に登場したのは我らがりくりゅう。
「彼らは現役世界王者なんだしGPFは気楽に臨めばいいと思うけれど、木原龍一選手にとって名古屋は地元だからきっと力が入っているだろう。この流れにうまく乗れるといいのだけど…」と少し不安に思いながらフリー演技を見始めました。
サイドバイサイドの3連ジャンプでお手付きが…
私が一番心配だったのはスロージャンプだったのですが、何とサイドバイサイドの3連続ジャンプで木原龍一選手が珍しくお手付き。
実は6分間練習のとき、木原龍一選手が3つ目のジャンプ(ダブルアクセル)で珍しく転倒していました。
その時は「まぁそんなこともあるだろう」と特に心配していなかったので、本番でもここで乱れたことに驚きました。その後のインタビューで「筋トレのやりすぎで少し疲労がたまっていた」と話しているので、この時点で少し足に来ていたのかもしれません。
ジャンプ3つ目でのお手付きですから、失点は最小限で済みます。
でも、他が皆ノーミスで揃えてきているから、金メダルを獲るにはもうこれ以上のミスはできない」と、その後の演技はもうヒヤヒヤものでした。
二つ目のスロージャンプで着氷が少し詰まった時は若干動揺しましたが、大きな乱れにはならず。結局3連続ジャンプ最後の着氷ミスのみで抑えて演技終了。
お手付きの程度は転倒扱いになるほどではなさそうだったし、二人のスピードとリンクカバーは圧倒的。フリー1位はハゼボロになるだろうけれど、SPの点差&PCS差でギリギリ優勝いけそうかな…?と思いながら彼らに拍手を送りました。
ヒヤヒヤしながら待つ得点発表
しかし演技が終わった途端、木原龍一選手がガックリ肩を落として謝り始めたじゃないですか!?
三浦璃来選手が嬉しそうにガッツポーズをしているのに余りにも対照的。
(ひょっとして彼女は木原龍一選手が手を付いたのが見えていなかったのかもしれませんが)


私は内心、「璃来ちゃんみたいにガッツポーズして『大したミスしてないよ』ってアピールしてよ!僅差になるだろうけど、たぶん大丈夫だよ!」って思いました。
と言いつつ、私も「彼らが優勝する」という確信まではなく、「僅差で銀or銅もありうるかも?」という不安はありましたが(苦笑)。
※私は現地モニターの暫定得点表示は見えておらず、ステップが一時的にノーカウント状態だったことは全く知らなかったのでその点での不安はゼロでした
2025ボストンワールドに続き、今回もフリー後にヒヤヒヤしながら採点合計を待つ展開に。
やはりフリーはハゼボロに次ぐ2位でしたが、フリーの得点147.89はPBスコア!
ジャンプのミスは最小限の減点で済む内容でしたし、相変わらずリフトでの加点が大きかったです。現地で見ていないとわかりづらいですが、りくりゅうのリフトの移動距離とスピードは抜きんでていますからね。
総合得点は225.21。コンマチの総合得点223.28を1.93点上回りました。GPF優勝は、シーズン全勝した2022年以来2度目です。

ミラノ五輪に向けて
ミラノ五輪はコンマチが会場の大声援を受けそうです。そして、彼らはそれをプレッシャーとして感じることなく、自分たちのエネルギーに変えられそうな選手なように思います。
コンマチ以外のトップ選手たちとの実力も、かなり伯仲しています。マスコミは「りくりゅう金メダル獲得へ!」と煽るでしょうが、りくりゅうの五輪メダル獲得は簡単ではないと思っています。

ミラノ五輪でりくりゅうが後悔のない、のびのびとした演技ができて、表彰台に上れるように祈ります。
日本のペアが表彰台に乗れたらもうそれは快挙。「表彰台のてっぺんに登れるかも?」という期待を持てること自体物凄いことです。彼らが素晴らしい演技を見せて日本中に人気が更に広がることを期待したいです。
北京五輪でも二人はかなり一般の注目を浴びていましたからね。あのときにもっとメディアに取り上げてほしかったと思っているので、今度こそ!と思っています(笑)。

今回はここまで。次回はアイスダンスを振り返るつもりです

