名古屋GPF観戦記<4>男子SP/挑戦構成が生んだ波乱 マリニンの挑戦と鍵山優真・佐藤駿の完成度

名古屋IGアリーナGPF開催時の名古屋IGアリーナ4階席からの眺め
IGアリーナ4階席ショートサイドからの眺め

名古屋IGアリーナで開催された、2025年のフィギュアスケートグランプリファイナル(GPF2025/2025GPF)観戦記4本目では、男子シングルSPを振り返ります。

試合内容だけでなく、衣装変更のことや(GPFで衣装を変えてきた選手が女子より多かった!)、去年のGPFとの比較なども併せて書いているうちに思ったより長くなってしまったため、SPとフリーで記事を分割しました。フリー編は後ほど公開します。

2025名古屋GPFリザルト
※出場者リスト・スケジュール・採点結果などの一覧です 

目次

男子シングル出場者

GPFの出場メンバーは、イリヤ・マリニン選手(米国)、鍵山優真選手、佐藤駿選手、アダム・シャオ・イム・ファ選手(フランス)、ミハイル・シャイドロフ選手(カザフスタン)、ダニエル・グラッスル選手(イタリア)と程よく国が分かれました。

テレビ朝日フィギュアスケートXアカウントの投稿より引用 ※画面をクリックすると元投稿が開きます

「挑戦」が生み出す「波乱」

GPFの見どころをまとめた記事の男子シングルの項目で、私はこう書いていました。

五輪やワールドと異なりGPFは「挑戦構成」がやりやすい試合です。

「各選手が攻めた結果、波乱が起きる」というパターンはあるかもしれません。

まさにそういう展開になったのが、男子SPでした。

男子SP振り返り

ダニエル・グラッスル選手の好発進

第一滑走のダニエル・グラッスル選手(イタリア)はタンゴのプログラムを4回転ルッツ―3回転トゥループ、4回転ループの高難度4回転2種入りで決めてきました。

4回転ループはごく軽度な回転不足「q」をとられたものの、94.00を出しました。スピンで着実に点を重ねてこれる選手なので、ジャンプがはまると強いです。

ミハイル・シャイドロフ選手とアダム・シャオ・イム・ファ選手の乱調

しかし、続くミハイル・シャイドロフ選手(カザフスタン)とアダム・シャオ・イム・ファ選手(フランス)はどちらも波に乗れませんでした。

どちらも冒頭の4回転ルッツで転倒、トリプルアクセルは何とか降りるものの4回転トゥループからのコンビネーションジャンプを付けられず大減点…と同じ流れのミス。ジャンプを下りるショートサイドが違っただけで構成まで同じなので、同じ悪夢を連続再生されたかのようでした。

昨季SPに戻して来たシャイドロフ選手

ミハイル・シャイドロフ選手は、今大会から昨季のSPプログラム・DUNEに戻して来ました。

私は彼の今季プロも悪くないとは思っていたのですが、DUNEの方が音楽が単なる「BGM」になりにくく、表現が際立つように思います

彼は強い個性&勢いのある選手でかなり好きなのですが、音楽の表現力や同調性はまだこれからーという感はありますので、プロを戻したのは賢明だと感じました。

アダム・シャオ・イム・ファ選手の今季SP衣装の変遷

アダム・シャオ・イム・ファ選手は独創的デザインだった今季SP衣装のボトムスを黒に変更。腹部の色味が少し暗くなっているので、トップスも染め直したか、新たに作り直したのではないかと思います。

2025GPFのSPで滑るアダム・シャオ・イム・ファ選手
https://www.instagram.com/p/DSC6ldUD6SV/ より引用(画像をクリックすると元投稿が開きます)

ちなみに初披露時(9月のロンバルディア杯)のときの衣装はこちら。

アダム・シャオ・イム・ファ選手の2025SP衣装全身を前と後ろから撮った2枚の画像の合成

この衣装の初披露時は結構なインパクトがあり、私も「これで五輪…?」という複雑な心情を綴っていました。

しかしこの時「見慣れてきたら味が出て来るかも」とも書いていたのですが、その通りになりまして。

私もGPS2試合目あたりではこの衣装を見てもギョッとすることはなくなり、「ある意味『一度見たら忘れられない衣装』って貴重では?」と思うようになりました。

(ちょっと路線は違うけどエルヴィス・ストイコ選手の「ライーヨー」とか、トマシュ・ベルネル選手の「桜餅」とかねw)

そのため、今回少し落ち着いたデザインになったことには、逆に残念感すらありました

最初はちょっぴり嘆いていたのに、この変わりよう…(苦笑)

ちなみに今大会、ジュニアのアイスダンスで銀メダルを獲った組の男性衣装もよく似た感じの衣装でした。(「ターザン」のプログラムなので筋肉隆々の裸体風衣装にしたかったもよう)

ボトムスが黒になると、「斬新な衣装」から、「平凡ではないが、たまにある系統の衣装」になった気がします。新衣装なら良くも悪くも五輪中継を見た一般人が衣装を話題にすることはなさそうです。

悪い流れを断ち切った佐藤駿選手

シャイドロフ選手、アダム選手と「手痛い大ミス2つ」の演技が連続したので、佐藤駿選手の演技前はとても心配な気持ちになりました。ジャンプ構成が前の二人とほぼ一緒なので、何だか凄く悪い流れだなと。(ジャンプを跳ぶ順番は違うけど、種別が同じ)

6分間練習も調子が良さそうには見えなかったですしね。彼の場合直前の練習での出来不出来は全く当てにならないので、それ自体は大きな不安の種にはならなかったですが。

なので、冒頭の4回転ルッツをあっさり着氷した時はホッとしました。最後のトリプルアクセルの着氷が若干乱れましたがうまく切り抜けました。これまでずっと揃え切れなかったスピンがオールレベル4になりましたし、もしアクセルの着氷がクリーンだったら100点超えだったかも。

やっと見れた「余裕の表情で煽って来る」鍵山優真選手

佐藤駿選手が場内の空気感をイイ感じで温めてくれたので、鍵山優真選手の演技開始前に私は不安はあまり感じられませんでした。表情も落ち着いているし、なんとなく今回は良い演技が見られるかも?という予感すら。

全ジャンプ見事な着氷。他の5人全員が4回転ルッツを入れる中、彼だけは4回転はトゥループ&サルコウの構成だけれど、ここまで極めれば今の採点ルールでは高得点になるだろうーと納得できる仕上がりでした。

今季中盤での彼のSPは、彼の見せ場であるステップに余裕&煽り感が感じられないのがもったいないとずっと思っていました。今回のステップは感情も乗っていて素晴らしかったですね~やっと「煽って来る鍵山優真」が見られました!ジャッジ9名中7名が加点5をつけていて、「ステップ満点」まであと一歩でした。

スピンステップオールレベル4、ジャンプ加点も3~5がずらりと並ぶ出来で108.77、北京五輪SPで出していたパーソナルベスト(PB)スコアを更新しました。3年半ぶりのPB更新に鍵山優真選手も歓喜。

もちろん私も観客席で大喜び。

でも、五輪ではジャンプ構成を上げる挑戦をしてほしいという個人的な想いはあります。外野のファンに口を出す権利はないのですが、「大舞台では、手堅くまとめるよりも挑戦する姿を見たい」という勝手な願望です。

でも、手堅い構成で確実にまとめる方が高得点になる確率が高そうではあるんですよね。金メダルの可能性は低くなるけれど、より良いメダルの色を狙える可能性は上がりそうです。

今回の構成でここまで点が出せるなら、SPはこのままでいきそうですね…それが賢明な判断なのかもしれないとも思います。

五輪もこの新衣装?

今回SPは新衣装でしたが、五輪はこちらで行くのでしょうか?

前のデザインも今回のデザインもクール系で似合っていると思います。(私は前の衣装より今回の方がやや好み)

でも個人的には、このプログラムはもっと大人っぽい余裕のある系衣装で見たいなーという想いが実はずっとあります。(超ありきたりだけど「ほどけタイ」とか、胸元をもっと開けたデザインのシャツスタイルとか…)

滑りが良ければ基本満足なんですけど、演技に満足すると更に要望が出てきますね(苦笑)。

「高難度技挑戦」のリスクを痛感させたイリヤ・マリニン選手(米国)

6分間練習での4Aー3T

イリヤ・マリニン選手が会場入りする前後から「SPに4回転アクセル―3回転トゥループを入れる予定らしい」との情報が流れ、練習で実際に跳んでる映像が流れてきました。

なので私もSP前の6分間練習で4回転アクセル―3回転トゥループをいつ跳ぶかを注目していたのですが、初めて挑んだと思われるときは、転倒でした。

でもこの前人未踏のコンビネーションジャンプ、彼はイーグルから入ってたんですよ!

「世界初のコンビネーションジャンプを決めようって時にわざわざそんな難しい入り方しなくても…」って思いました(笑)

「シンプル助走で4回転アクセル単独で跳ぶだけでも異次元なのにイーグルから入ろうだなんて、この人ちょっとどうかしてるんじゃないか?(苦笑)」とすら感じました…規格外すぎw

結局その後再挑戦したのですが、そのときには4回転アクセルー3回転トゥループを着氷。

「おお、すごいもん見ちゃったよ!」という満足感は得られました。

本番は…

でも、本番ではそううまくはいきませんでした。

冒頭の4回転アクセルは一瞬決まったかのように見えたのですが、ステップアウト。「リカバリーで後半の単独4回転ルッツに3回転トゥループを難なくつけてくるだろう」と思っていたら、4回転ルッツも着氷が若干微妙でした。一瞬「え、ちょっとヤバい?」と思ったのですが、それでも強引に3回転トゥループをつけます。

「あの状態からトリプルトゥループつけられるってヤバ過ぎるだろ…」と驚きましたが、4回転アクセルと4回転ルッツにそれぞれ軽微な回転不足「q」判定となりました。超高難度ジャンプを転倒せずに降りても、ステップアウトしたり「q」判定になったりすると点はあまり伸びません。

得点は94.05、鍵山優真選手に15点近くの差をつけられてのSP3位スタートとなりました。

SP後の記者会見にはSP1~3位が参加

4回転アクセル挑戦のリスク

イリヤ・マリニン選手の今回のSPでの4回転アクセルの得点は6.79。

一方、鍵山優真選手のトリプルアクセルは11.77、ステップアウトまではいかなかったけれど着氷が若干乱れた佐藤駿選手も8.46を獲得しています。

ダニエル・グラッスル選手は10.97、アダム・シャオ・イム・ファ選手は9.37、ミハイル・シャイドロフ選手は9.03です。

つまり、4回転アクセルを転倒せずに下りることができたとしても、軽微な回転不足&ステップアウトがあれば他の選手たちのトリプルアクセルより低い点しか得られないーということ。

「4回転アクセルをプログラムに投入するのが、いかにリスクが高いことなのか」を実感させられました。

一方、彼に挑む選手やその選手たちのファンの立場からすれば「イリヤ・マリニン選手に回転不足などの小ミスが重なったりすると、他のトップ選手が上回ることは可能」とも言えます。

「現状無敵に見えるイリヤ・マリニン選手といえども、金メダルの保証はない」と思い知らされたSPでした。イリヤ・マリニン選手はミラノ五輪フリーではおそらく4回転アクセルに挑んできそうに思いますが、SPではどうするか?そこはかなり悩みどころだろうなと思います。

そういえば、新衣装でした

彼はSP・フリーとも新衣装でしたね。

SP衣装、曲のイメージには合っている気がしたけれど、足元の装飾が結構すごくて「滑りにくくないんだろうか?」と余計な心配をしちゃいました。

下記に埋め込んである投稿では、2枚目でフリー衣装も確認できます。

フリー編振り返りは、次回に

名古屋GPF男子シングルは、SPから1日おいてフリーでした。

トップ選手が軒並み3本以上の高難度ジャンプに挑む現代の男子シングルフリーでは、SPの15点差がひっくり返ることは十分あり得ますイリヤ・マリニン選手は体調自体は悪くなさそうなので、昨年のGPFでも挑戦した4回転6種7本の構成に挑戦してくるはず。

成功したら「世界初の偉業」を目撃できるし、うまくいかなかったら新たなGPF王者が生まれる劇的な展開になります。

どちらに転んでも「面白い展開」になりそうだなーとフリーが楽しみになりました。

フリーの振り返りについては、また改めて公開します!

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名古屋IGアリーナGPF開催時の名古屋IGアリーナ4階席からの眺め

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