9月の連休は実家に行ったり、映画に行ったり、家族と出かけたり。友人が遊びに来た日は、先日の木下グループ杯の録画を一緒に見たりと、あれこれ楽しく過ごしました。
なので、同時期に開催されていたロシアのテストスケートや、CS(チャレンジャーシリーズ)のロンバルディア杯、JGPS(ジュニアグランプリシリーズ)アンカラ大会などの試合を追うのは諦めました。夜の空いた時間などに、気になる演技や動画をちょこちょことチェックしています。
ロンバルディア杯は男子&アイスダンスだけチェックできましたが、なかなか面白かったので、今週末の試合と併せて記録しておきたいなと思っています。
ですが、今回はロシアのテストスケートで起きた、アイスダンスのRD5分間練習中の衝突事故について先に取り上げます。
今季はアクロバティックな動作が増えていることなどもあって例年以上に心配していたのですが、早くも事故が起きてしまいました。
気になってアイスダンスでの過去の接触事故や対策を調べてみたのですが、思わぬ発見がいくつかありました。
アイスダンス5分間練習中にまさかの衝突
9月19~20日に行われたロシアのシニアテストスケート。順位がつけられる「試合」ではないのですが、国内選手が集まって今季のプログラムを試合形式で披露します。
初日、アイスダンスRD(リズムダンス)の5分間練習中、アンナ・シェルバコワ※/エゴール・ゴンチャロフ組と、ワシリーサ・カガノフスカヤ/マキシム・ネクラソフ組が衝突しました。
※北京五輪金メダリストのアンナ・シェルバコワ選手とは同姓同名の別人です
カガノフスカヤ/ネクラソフ組と、ツイズル中のシェルバコワ/ゴンチャロフ組との軌道が近づいた際、ゴンチャロフ選手のツイズルが外側にはずれ、バランスを崩して転倒。そこへスピードに乗ったカガノフスカヤ/ネクラソフ組が滑って来たため、互いに回避できずに激しく転倒しました。
カガノフスカヤ/ネクラソフ組はそのままRDを棄権。その後の検査ではネクラソフ選手の腕に脱臼が確認されたものの、幸い骨折や靱帯の損傷はなかったとのこと。

※カガノフスカヤ/ネクラソフ組は先日の木下グループ杯で2位。負傷後も10月初旬のCSデニス・テン記念大会には出場予定です。
私は、下記の記事で衝突したアンナ・シェルバコワ選手が話した内容が気になりました。

RDではパターンダンス(今季はゴールデンワルツ)が原則反時計回りに進むのに対し、今季のサーキュラーステップシークエンスが時計回り指定。
どの組も5分間練習でこの2つの重要な要素を確認したがるので、今後も衝突が起こる可能性があるという趣旨の話をしていたのです。
今季のアイスダンス、5分間練習がちょっと怖い
もともと私は、アイスダンスの公式練習や5分間練習を見るたびに、「ちょっと怖い」と感じることがありました。

試合前のアイスダンスの練習は最大5組。つまり最大10人のスケーターが同じリンク上で、それぞれ違うプログラムの要素を確認します。
そして、以前のアイスダンスと比べ、最近はリフトなどでアクロバティックな動きがかなり増えています。

先日の木下グループ杯では4組×3グループでしたが、それでもヒヤッとする瞬間がありました
今季はアクロバティックな要素やFDのツイズルが増加
さらに、今季2026-27シーズンのシニアRDでは、クリエイティブダンス要素(CDE)が新たに必須要素になっています。
CDEでは「敏捷性とバランスを伴うアクロバティックな動き」を1回取り入れる必要があります。そのため、トップクラス選手はこぞって側転や倒立、回転動作などのアクロバティックな動きを取り入れています。

また、FD(フリーダンス)では、シンクロナイズドツイズルの必要回数が昨季までの2回から3回に増えました。ツイズル中は周囲が視界に入りにくくなるうえ、上位層は高速回転しながらかなりの距離を移動します。

直前練習では、繊細なボディコントロールが必要なツイズルも、アクロバティックなリフトの確認も大切です。高得点要素であるステップ確認もしておきたい。
アイスダンサーのステップはスピードもあり、カーブも深いです。10人ものスケーターがリンクを狭しと滑り回る様は、年々ヒヤヒヤする瞬間が増えているように感じています。
ところで「5組で練習」って昔からだっけ…?
そもそも「アイスダンスの5分間練習って昔から最大5組だったっけ?」と気になったので、改めて確認してみました。

私はアイスダンスはゆるく楽しんできただけなので、記憶が怪しくてですね…
改めて過去の大会まで遡ってみると、少なくとも1992-93シーズンには5組でのウォームアップが行われていました。30年以上前から「5組」で滑っていたことになります。
つまり、以前のアイスダンスに比べてアクロバティックな動きが増えてきたことが、私が「大丈夫?」と心配する大きな要因のようです。
過去に起きたアイスダンス練習時の衝突事故
「過去にもいろいろ衝突事故あったよね?」と思ったので、記憶を頼りに過去の主要な衝突事例を少し調べてみました。(パートナーとの衝突は除きます)
2025年NHK杯 「うたまさ」と「ギニャファブ(シャルマル)」
記憶に新しいのは、昨年のNHK杯です。
公式練習中に吉田唄菜/森田真沙也組とシャルレーヌ・ギニャール/マルコ・ファブリ組(イタリア)が衝突しました。

シャルレーヌ・ギニャール選手はいったんリンクを離れた後に練習へ復帰。吉田唄菜選手も翌日のRDには出場しましたが、衝突による腰の痛みがあったことを試合後に明かしています。

実はNHK杯では、かなり以前にもアイスダンスで衝突事故が起きています。
2011年NHK杯では同じ日に2件の衝突
2011年NHK杯(札幌)では、同じ日に別々のカップル同士による衝突が2件発生しました。
朝の公式練習では、カナダのアレクサンドラ・ポール/ミッチェル・イスラム組と、イタリアのロレンツァ・アレッサンドリーニ/シモーネ・ヴァトゥーリ組が衝突。アレクサンドラ・ポール選手は太ももの後ろをブレードで切り、FD(フリーダンス)を棄権しています。
そしてFD直前の5分間練習では、米国のリン・クリングクライラット/ローガン・ジュリエッティ=シュミット組と、日本のキャシー・リード/クリス・リード組が衝突。この両組はどちらもそのままFDに出場しました。
キャシー・リードさんは引退後、「一番悔しかった思い出」としてこの事故を挙げ、相手選手のブレードがクリス・リード選手の右足に刺さり、足の指を骨折していたことを語っています。

クリス・リード選手が演技後に靴を脱ぐと大量に出血。その後約3か月練習できず。キャシーさんは上記記事のインタビューで、「たったその1つの事故のために、最悪のシーズンになってしまいました。本当に不運でしたね」と振り返っています。
当時私は仕事が多忙で、この年のNHK杯は一部の演技映像をチェックしただけ。彼らが衝突した時の映像は記憶に残っていません。フィギュアスケートファン歴の長い方は、現地で目撃された方も多いのではないでしょうか?

一瞬の事故が「最悪のシーズン」を招きかねないのは、本当に怖いです
2025年欧州選手権では脚を負傷し、棄権した組も
昨季の2025年欧州選手権(ユーロ)でも、公式練習中にエリザベス・トカチェンコ/アレクセイ・キリアコフ組(イスラエル)と、スペインのオリビア・スマート/ティム・ディーク組(スペイン)が衝突。ティム・ディーク選手は頭を氷に打ち、アレクセイ・キリアコフ選手はブレードで脚を切りました。
これによりトカチェンコ/キリアコフ組はRDを棄権しています。
ティム・ディーク選手によると、双方とも後ろ向きに滑っており、コーチたちが叫んでいる様子は見えたものの、音楽が大きくて聞こえなかったとのこと。(下記の記事に証言が載っています)

5組10人がそれぞれプログラムを確認している状況では、周囲が見えない瞬間も当然あるでしょう。「気をつけていれば避けられるだろう」と簡単には言えません。

2025名古屋グランプリファイナル(GPF)でも話題になりましたが、ISU国際大会はここ1~2年、直前練習時の演出が派手になっています
会場内BGMも大きく感じるので、選手の負担が大きくなっているのではないかと心配です
※下記記事は全文を読むにはサブスク契約が必要ですが、GPFでの照明や演出に対する苦情があったとの話題が出ています

30年以上前には骨折した腕を固定して滑った選手も
さらに遡ると、1994年全米選手権でも大きな事故がありました。
1994年リレハンメル五輪の代表選考がかかった試合で、ナンシー・ケリガン選手襲撃事件が起きたときの全米選手権です。

前年の全米王者、レネー・ロカ/ゴーシャ・サー組。練習中、後ろ向きに滑っていたレネー・ロカ選手がガリット・チャイト/マキシム・セヴォスチャノフ組と衝突し、左腕を骨折しました。
しかし、ロカ/サー組は直後のオリジナルダンス(当時3種あった課題の2つ目)を滑ったのです。
当時現地で取材していた記者の回顧録(下記)に当時の様子が詳しく書かれています。
10組目のカップルがダンスを終えたところで、ロカ/サー組が戻ってきた。ウォーミングアップが始まるまで10分間の準備時間があり、ロカはまだ練習着のままだった。
左腕を指先から肘までギプスで固定した状態で、ロカ/サー組は情熱的なルンバを踊り、2位に入った。
残念ながら、その2日後、このカップルは「サマータイム」に合わせてフリーダンスを披露することはできず、棄権せざるを得なかった。すでにサーの市民権取得の早期申請が却下されたことを知っていたため、彼女の腕にさらなるダメージを与えるリスクを冒す理由はなかったのだ。
Detroit 1994 A Look Backより引用(機械翻訳)
実は、レネー・ロカ選手のパートナー、ゴーシャ・サー選手はソビエト連邦からの亡命者。当時まだ米国市民権を取得しておらず、リレハンメル五輪に出場できるよう特例で取得を早めようと、前年には米国議会に法案まで提出されていました。
しかし全米選手権を迎える前に市民権取得が間に合わず、五輪出場資格を得られないことが判明。それでも前年王者として全米連覇と世界選手権出場を目指していた中で起きたのが、この事故でした。
事故後に腕をギプス固定してオリジナルダンスまで滑ったなんて、今ではちょっと考えられない話ですが…
そういえば1972年世界選手権では、ペアのイリーナ・ロドニナ選手も、脳震盪と頭蓋内出血を負ったエレベーター事故の直後に出場するというとんでもない無茶をしていました。

大怪我をしても滑り切った選手は凄いとは思いますが、さすがにこんな無茶を許すような時代には戻ってほしくないです…。
「5組は危険では?」ISU技術委員長にも質問されていた
5組同時のウォームアップについて、現代の競技関係者はどう考えているのでしょうか?
2025年世界選手権後、当時のISUアイスダンス技術委員長へのインタビュー内で、「5組が同時に滑るウォームアップはかなり危険では?」との質問がありました。
このとき、当時の技術委員長ショーン・レットシュタット氏は、4組に減らすとFD進出組数も16組に減らすことになるという大会運営上の問題を挙げ、選手側にも衝突を起こさない方法を考えてもらう必要がある、という趣旨の回答をしています。
確かに現在の世界選手権FDは20組。5組×4グループならきれいに収まり、途中の整氷も1回で済みます。

大会運営の効率も大切なのでしょうが、安全面とのバランスは気になります…
英国では安全対策として「最大4組」に
今回記事をまとめるにあたってアイスダンスの練習規定を調べていたら、興味深い資料を見つけました。
英国スケート協会(British Ice Skating)が2026年に発表した、「On Ice Safety Review for Events」です。
医療関係者や各競技の技術委員会、保険会社なども交えたリスクレビューをもとに安全対策をまとめたものです。
この中では、「アイスダンスのウォームアップは最大4組(8人)」と明記されています。
しかも英国国内大会だけではなく、英国スケート協会の許可を受けて開催される国際大会も対象です。
いつからこの運用になったのかは確認できませんでしたが、少なくとも2024年全英選手権では、シニアの出場が5組だったにもかかわらず、2グループに分けていました。
ISUでは最大5組まで、英国では安全対策として最大4組までという運用。
「5組でなければ大会運営上困る」という事情と、「安全面では何組までが適切なのか」は別だということ?――そんな疑問が浮かびます。
日本勢は「5組同時」の練習に慣れている?
今季の日本アイスダンスチームは、結成からまだ日が浅く、アイスダンスの試合経験が少ないカップルが多いです。

国内を拠点にするチームの場合、普段から何組ものシニアアイスダンスチームと一緒に練習する機会はそう多くありません。トップスピードで滑るシニア5組=10人が同時にリンクで練習する機会はかなり限られます。
そして、国際大会経験を比較的積んでいる「うたまさ」でも、昨年のNHK杯では練習中の衝突がありました。

必ずしも「経験が少ないから危険」という話ではありませんが、「普段とは大きく違う密度での5分間練習」は、ちょっと気になりますね…
さいごに
「最近のアイスダンスは練習での事故が増えた」「昔より危険になった」と断言できるようなデータはありません。
ただ、アクロバティックな要素が増えたことにより不安が強まっている観客は、私以外にもいるのではないでしょうか?
今回のロシア・テストスケートでは、実際に衝突した選手自身から「今後も衝突事故は起きるだろう」との発言もありました。
また、安全面のリスクレビューを経て最大4組という基準を導入している国があることを知った今、「最大5組」という人数設定は、現在のアイスダンスにも本当にちょうどいいのかな?という疑問は強くなりました。
今季は今まで以上に「どうか何事もなく終わって~」と思いながら練習を見守ることになりそうです。


