2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピック(ミラノ五輪)女子シングルで金メダルを獲得したアリサ・リウ選手(米国)。
ミラノ五輪を通して、彼女の発言には「宇野昌磨さんとよく似た競技観」があると感じました。
五輪を特別視しない姿勢、失敗をポジティブに受け止めるメンタル、そして「結果よりプロセス」を重視する考え方…。
これまで「ユニーク」と言われてきた二人ですが、実は驚くほど多くの共通点があります。実際に二人の発言を並べてみると、その共通点はかなりはっきり見えてきます。

今回は、アリサ・リウ選手と宇野昌磨さんの発言やキャリアを振り返りながら、その共通点を整理してみます
心理の共通点:五輪を特別視しないスタンス
アリサ・リウ選手の発言から初めて宇野昌磨さんを想起したのは、「緊張していない」というコメントでした。
「五輪も一つの試合」「緊張していない」
多くの選手にとっては「五輪は人生最大の晴れ舞台」ですが、二人は「五輪もひとつの試合に過ぎない」という考えを貫いていました。
2026ミラノ五輪でのアリサ・リウ選手の発言
アリサ・リウ選手はこう発言しています。
“If I mess up and do a horrible program, I would totally be OK with that, actually. So there’s nothing to be nervous about.”
(もし失敗してひどい演技になっても私は全然大丈夫。だから緊張する理由はないです)
※下記のNBCSports記事より引用(日本語は拙訳)
2018平昌五輪での宇野昌磨選手の発言
宇野昌磨さんの「緊張しない」発言の最初は、2018年平昌五輪団体SP後でした。
「五輪だからと言って特別な緊張はしなかったです」
下記のスポーツナビ記事より引用

ちなみにこの時、「ネイサン選手やコリヤダ選手があれだけ失敗するのは初めて見ました。やはり(五輪の)緊張感は特別なものがあるのかなとか、朝早いからかなとか思ったし、自分も失敗するのかなと思いながら試合に臨みました」とも言っています。

自分を俯瞰で見て冷静にとらえる傾向はこの頃からあったんだなと思いました
個人戦の後はさらにこんな発言もしています。
「特別な感情はわいてこなかったし緊張もしなかった」
「僕は五輪に対してあまり特別な思いも持っていなかったです。五輪を目指してやってきてはいなかったので、最後までひとつの試合という感覚しかありませんでした」
※下記のSportiva記事より引用


こんなことを言っていた昌磨さんも、北京五輪フリー後は「さすがに少し緊張した」と発言していました
二度目の五輪なのに緊張なしに臨めたというアリサ・リウ選手のメンタルは強力ですね
ただ、昌磨さんにとっては北京五輪フリーはかなりの例外だったようで、その後「現役終盤の試合では緊張なく平常心で臨めるようになった」と数々のインタビューで語っています。
五輪での「失敗」をポジティブに受け入れるメンタル
また、ふたりとも五輪という特別な場での「失敗」をポジティブに受け止める発言をしています。
2026ミラノ五輪でのアリサ・リウ選手の発言
アリサ・リウ選手はミラノ五輪で転倒はしていません。
ただ、ミラノ五輪中のインタビューで「転ぶのも好き」と発言したことは日本でも報道されていました。

元の発言内容はこちら。
“What’s there to be nervous about? Because, let’s say, you could fall. I like to fall too. I don’t mind falling.”
(何を緊張するっていうの?だって転ぶかもしれないじゃない。私転ぶのも好きよ。別に転んだってかまわないわ)
※下記のVanity Fair掲載のインタビュー文章を拙訳

2018平昌五輪での宇野昌磨選手の発言
宇野昌磨さんは平昌五輪個人戦フリー後、冒頭の4回転ループで転倒したときに「笑いがこみ上げてきた」と発言したことは当時報道でも大きく取り上げられました。

演技映像を見返すと、転倒直後に彼は本当に笑っているんですよね。
ただ、宇野昌磨さんは最初から失敗をポジティブに受け入れられていたわけではなく、一つのミスで大泣きしていたことも数多くありました。
平昌五輪での活躍した翌シーズンからは「良い成績を出さないと認めてもらえない」と自分を追い詰めてしまって苦しんだ時期もありました。
このスタンスをずっと保てていたわけではありません。

なので、少なくとも2年以上にわたって「ミスを恐れない」スタンスを保てているアリサ・リウ選手は、次のレベルに到達している感はありますね
競技哲学の共通点:「演技は長い物語」という考え
ふたりが比較的平常心で五輪に臨めた背景には、似通った競技哲学があったように思います。
それは、「試合での演技を物語の一部としてとらえ、一つの試合の結果だけにとらわれない」という考え方です。
2026ミラノ五輪のアリサ・リウ選手の言葉:失敗したとしても、それも美しい物語
金メダルを獲得した直後、米NBCに対するアリサ・リウ選手のインタビューで語った言葉は、非常に印象的でした。
“What I like to share about myself is my story, my art and my creative process. Messing up doesn’t take away from that. It’s still something, it’s still a story. A bad story is still a story, and I think that’s beautiful.”
(私は自分の物語や芸術、創造の過程を共有するのが好きなんです。ミスをしても、それは失われるわけじゃないし、何かが残る。それでも物語になるの。悪い物語もやはり物語だし、私はそれも美しいと思うから)
※日本語は拙訳
米NBCのスポーツ記者ローハン・ナドカルニ氏のX投稿で、上記の言葉を直接聞けます(45秒ごろ~)
GOLD MEDALIST Alysa Liu chats with @NBCNews about winning on her own terms, skating with joy and the message she wanted to send tonight: pic.twitter.com/gVfUHzobIO
— Rohan Nadkarni (@RohanNadkarni) February 19, 2026
2024世界選手権後の宇野昌磨さんの言葉:成功しても失敗しても受け入れられる
この言葉を聞いて私が思い出したのは、宇野昌磨さんの過去のインタビューです。
「成功しても失敗しても両方とも受け入れられる練習をしてきた。それだけ自分が最善と思える練習をしてきたからこそ、良くても悪くても受け入れられる」
※下記のスポニチ記事より引用

「結果」ではなく、「プロセス」を重視する価値観
ちなみに宇野昌磨さんは、引退後にはこのようにも発言しています。
「練習でうまくできたとしても、試合でできなかったら意味がない」って意見もよく聞きますけど、僕はそう思わない。練習の過程って、雰囲気ににじみ出ると思っているので。
※下記のSportiva記事より引用

彼は「試合に至るまでの過程」も含めて演技をとらえる考え方を、過去のインタビューで何度も語ってきました。
彼は、2022年の4月、初の世界王者になった直後のインタビューでこう答えています。
「練習を何十時間何百時間とやってきた中で、たった4分に凝縮される。それが僕は綺麗だと思うんです。良い演技でも悪い演技でも」
報道ステーションの下記インタビュー動画より引用
放送ではお伝えできなかった熱い声を届ける【#熱声】#フィギュアスケート#宇野昌磨 選手
— 報道ステーション スポーツ (@hst_sports) April 11, 2022
『演技で伝えたいこと』
2022年4月6日インタビューより#報ステスポーツ pic.twitter.com/x9F3qxTHtl
これは昌磨さん現役最後のフリーを振り返った記事でも取り上げたことのある、私にとっては印象深いインタビューです

宇野昌磨さんは「失敗=ダメな演技」ではないという考えを、数々のインタビューで繰り返し語ってきました。選手それぞれにその試合に至るまでの物語があるんだという主旨のことを語っていた記憶もあります。
「試合を迎えるまでの日々が輝いていれば、演技が成功でも失敗でもそれは美しい」という考え方。
これは、アリサ・リウ選手のいう「ミスをしても、それは失われるわけじゃないし、何かが残る。それでも物語になるの。悪い物語もやはり物語だし、私はそれも美しいと思うから」に繋がると感じます。
キャリアの共通点:早熟な才能と自己探求
そもそも、ふたりには選手としての成長過程に似た点があると思います。
十代前半で年上選手に混じり表彰台
フィギュアスケートのトップクラス選手の大半は幼少期からその才能が注目されますが、中でもこの二人は十代前半で「天才少年・少女」として華々しく注目を浴びた過去があります。
2019全米選手権:アリサ・リウ選手13歳で優勝
アリサ・リウ選手はわずか13歳で全米選手権で優勝しました(史上最少年優勝)。
2位ブレイディー・テネル選手と3位マライア・ベル選手はどちらも20代。当時身長140cmほどのアリサ・リウ選手に1位のは表彰台が高すぎたため、二人に手助けしてもらって上がったのは今も語り草になっています。
1~4位が同じ台に並ぶとアリサ・リウ選手がひときわ小さいのがわかります

2009全日本ジュニア選手権:宇野昌磨選手11歳で3位
宇野昌磨さんは、2009全日本ジュニアフィギュアスケート選手権に小学生(当時11歳)ながら特別出場が許されて3位に入り、話題を呼びました。

表彰式に一人だけ身長130cm台の小柄な少年が混じっている姿は、彼の選手歴を振り返る時に毎度使われるお馴染みの写真となっています。
十代後半から自主自律の練習スタイルへ
もう一つ興味深い共通点として、どちらも十代後半から「自分で自分の練習を自律的にコントロールする選手」に変化したことが挙げられます。
アリサ・リウ選手は16歳で突然引退し、その2年後に復帰したタイミング。宇野昌磨選手は東海グランプリクラブ卒業前後からです。
アリサ・リウ選手は復帰後、自分自身で練習内容のみならず、プログラムも衣装も自分主導で決めているとインタビューで語っています。
下記のインタビューはとても読み応えがあっておすすめです

宇野昌磨さんは、「練習の内容などを決めているのは自分。ステファンはやり過ぎてしまう僕を止める役割」との発言をこれまで何度もしています。先日のNumberPREMIERのインタビューでもそう話していました。
周囲の証言からいって、二人とも幼少期は親やコーチに従い、真面目に長時間練習を重ねてきたタイプに見受けられます。
だからこそ早期に結果を出せたともいえるのですが、その後極端な自主自律の練習スタイルに行きついたのは幼少期の反動だったりするのでしょうか。
「試合の勝利」を最優先しない:外的評価から内発的動機へ
試合結果への執着心が比較的薄く、「試合に勝つこと」を最優先していないことも共通点です。
アリサ・リウ選手:「金メダルは要らない」
アリサ・リウ選手はミラノ五輪で「金メダルは要らない。ここで自分が表現できればいい」とまで発言していました。
“I don’t need a medal. I just need to be here. I just need to be present and need people to see what I do next.”
(メダルは必要ありません。ここにいるだけでいいんです。ただそこにいて、次に私が何をするかをみんなに見てもらうだけでいいの)
※下記に埋め込んだミラノ五輪SP終了後のミックスゾーンインタビューより引用 日本語は拙訳
Alysa Liu 🇺🇸 76.59
— Golden Skate (@goldenskate) February 17, 2026
On performing for the audience:
“Tonight I performed for the people. I performed for them specifically.”
On how this Olympics feels different from her first:
“Genuinely I could not even describe how different it is. Just the fact that my family and friends… pic.twitter.com/KciLfKd6Tw
彼女は金メダル確定後「自分は幸運だった」と喜んでいましたし、決して金メダルの価値を軽視しているわけではありません。
ですが、試合の真っ最中に「金メダルはいらない」とまで言い切れる。ここまで結果への執着を感じさせない五輪選手も珍しいかもしれません。
宇野昌磨さんも北京五輪の際に「僕が金メダルを望むのはネイサン選手の失敗を望むことにつながる」と言って「金メダルを目指す発言」は一度もしませんでしたが、それとはまた状況が異なる気がします。
宇野昌磨さん:「トップを獲ること」が最優先ではない
宇野昌磨さんはアリサ・リウ選手レベルまでの達観はしておらず、「トップを獲りに行きたい」という闘争心は現役最後まで保っていたと思います。
ただ、昔からずっと「トップを獲ること」が最優先ではない選手でした。
ぶっちぎりで優勝したのに、いい演技ができなかったと悔し泣きしている幼少期のインタビューは記憶に強く残っています。圧勝だった2022トリノグランプリファイナルのフリーの演技については、後日に「もう1回見たいとは思わない」とまで発言しました。

現役終盤は、「自分自身が満足できる演技」や「ステファン・ランビエールコーチを喜んでもらえる演技」を目指していると公言していました。
ふたりとも、「勝つために滑る」よりも「自分が楽しいと思えること」「自分に課した目標を達成すること」ことを優先する。
このような考えは「試合結果への執着が薄い」と取られることもありますが、試合結果と言う「外的評価」から、「自分が実現したいこと」=「内発的動機」を最優先するスタイルを確立したとも言えます。
「内発的動機」を最優先することは、試合に対する過度なプレッシャーを軽減することにもつながります。結果として「競技への程よい距離感」を取ることができたと言えるかもしれません。
アリサ・リウ選手と宇野昌磨さんのさらなる共通点
上記に挙げた以外も、二人には共通点がまだあります。
初期のキャリア絶頂期の記憶がない
どちらも、選手時代初期のキャリア絶頂期の記憶がないと発言しています。
アリサ・リウ選手は全米選手権優勝時、宇野昌磨選手は2018-19シーズンの記憶がほとんど残っていないと語っています。
(アリサ・リウ選手は下記に再度紹介するインタビュー内で、宇野昌磨さんはNumberTVのインタビュー企画内でそれぞれ発言)

過去を何一つ変えたいと思っていない
そして、「過去について何一つ変えたいと思わない」と語っているのも同じですね。「過去に戻っても、もう一度同じ失敗をしたい」と願うタイプ。
どちらも上記に紹介したインタビュー内でもその発言が出てきます。


気になるアリサ・リウ選手の今後
現役時代からユニークな競技哲学を持つスケーターとしてとらえられてきた、宇野昌磨さん。
アリサ・リウ選手は、「宇野昌磨さんと似たスタンスを持ちながら、そこに彼女独自の個性が加わりパワーアップしつつある」ーーそんな印象を今回のミラノ五輪で強く持ちました。

私は昌磨さんの演技だけではなく、独特の競技観にも魅力を感じています
アリサ・リウ選手がこれからどのような競技生活を送っていくのか、引き続き注目していきたいと思います

<おまけ>宇野昌磨さんラジオ出演情報
昌磨さんは3/15に「Ice Brave(アイスブレイブ)」劇場公開PRで、TBSラジオ「ONE-J(ワンジェイ)」のゲストコーナー「9時の純喫茶」に出演予定です。私はradikoで聴く予定です。
2026/3/15(日) 8:00〜10:00
*9:00〜9:20ごろ出演予定


