ISU(国際スケート連盟)では通常総会が原則2年ごとに開催され、制度変更や選挙が行われます。
2026年はその総会年。スペインのテネリフェで2026年6月10日から12日にかけて通常総会が開催されます。
今回注目されていたのは、「フィギュアスケートのSP・フリー廃止案」とも呼ばれた改革提案のゆくえ。
しかし、総会開始前の6月3日に、この提案の2027-28シーズンの導入は見送りになったと日本のメディアが報じました。
今回は、このルール改訂案を巡る一連の動きについてまとめます。私が最も驚いたのは、ルール案の内容そのものよりも、ISUの意思決定の仕組みが大きく変わっていたことでした。
※宇野昌磨さんの6/6(土)のゲームイベント参加予定、最近のポッドキャスト情報は下記記事にそれぞれ本日追記しています。


「SPとフリー」廃止案は見送りへ 日本メディアが報道
「2027-28シーズンからSPとフリーを廃止して、技術プログラムと芸術プログラムに分けよう」という驚くべき提案。(技術プログラムではジャンプは最大4本まで。芸術プログラムではジャンプなし)
そのゆくえが注目されていたISU通常総会は10日から開催予定で、まだ始まってもいません。
開催1週間前に、「2027-28シーズンからSPとフリーを廃止する」という改革案の見送りを報じたのは、日本のメディアでした。海外ファンの間でも、日本メディアの報道を引用した情報が広く共有されました。
こちらの記事はどちらも文字数が少ないです。無料で読める権利は別記事に使うことをお勧めします


「この案を2027-28シーズンに導入しない」ということは、2030年のアルプス五輪のシーズンまではこれまで通りで行く可能性が非常に高くなったと言えるでしょう。選手たちの混乱を避けるため、大規模な変更は五輪直前には避けるべきだという考え方が従来から重視されているからです。
2年前に総会で決定されたジャンプ数の削減等のルール変更の施行が2026-27シーズンまで持ち越されたのも、それが理由でした。(この時はその大原則が無視されそうな雲行きがあったため、総会前にジャンプ数を減らしたプログラム振り付けをしてしまった選手たちもおり、結果的に少々混乱はしましたが)
SPとフリーの区分を廃止し、技術プログラムと芸術プログラムに分けるというのは大規模ルール改正どころか競技の根本を変える改正だと、個人的には考えています。
当初私がこの改定案を問題視していなかった理由
この改定案の話題は昨年からかなり話題になっていましたが、私はこのサイトでは一度も触れずにいました。
「芸術部門を新たに作る」という類の提案は過去に何度もされては否決になっていたので、「またか…どうせ却下されるだろう」と思っていたのが一番の理由です。
「ソルトレーク五輪の採点スキャンダル発覚後、競技スポーツとしての透明性向上を強く求められて今の新採点制度ができたというのに、こんな改革はこれまでの流れを全否定するような提案じゃないか?」と思ったのも一因です。
本当に驚いたのは、ルール改訂に関わる「ISUの新体制」
しかし、この提案は珍しく複数のメディアが熱心に取り上げていました。かつてないメディアの動きに、私は「これは例年とは雲行きが違うということだろうか?」と不思議に思い始めました。
2026ワールド記者会見で男子シングルのメダリストらが反対意見を表明
そして、2026プラハワールド(世界フィギュアスケート選手権)男子シングル終了後の記者会見ではこの改訂に関する質問が行われ、イリヤ・マリニン選手、鍵山優真選手、佐藤駿選手の全員が反対意見を表明しました。
この会見での発言は、国内外で報道されました。

そして、このことを伝えたNumberの上記記事内での記述に私は驚きました。
実はISUの新体制により、これまで大きなルール改革はISU総会での加盟国の投票で決定されていたが、現在は14人からなるISU理事会のみで通すことが可能になってしまった。そのため具体的な詳細がわからないまま、いつの間にか決定されていた、という事態が起きる可能性もある。
※上記のNumber Web記事より引用
メディアがこんなに騒いでいたのはこれが理由だったのか!とようやく納得しました。
同時期に、ファンベースのフィギュアスケート専門海外メディアからも同様の記事が出ました。いかにコーチや選手間に反発の声が多いのかを伝える内容でしたが、その中でも、やはりこの決定ルートの変更を懸念していました。
ステファン・ランビエールコーチの声も取材されています

2025年7月、ISU臨時総会は新たな憲章を承認し、意思決定権を総会からISU理事会へと移管した。(略)ISU理事会の権限が強化され、各連盟が変更を阻止する力は弱まる。過去とは異なり、総会は6月に開催される際に、競技規則の具体的な変更について投票を行う予定はない。
※上記記事内の引用を日本語機械翻訳
「ISU総会では競技規則の具体的な変更について投票すら行われない」と書いてある…。にわかに本当とは信じがたい情報でした。
そして知ったのは、2025年7月に行われたISU臨時総会で可決された新憲章のこと。これで決定ルートが従来より大きく変わりました。

緊急課題が発生した場合に総会まで2年待たなくてもよくするための改定、と言う点ではメリットのある新憲章です。しかし、ISU理事会の権限が大幅に強化され、従来より加盟国の関与が少なくなっています。
変更案の詳細が日本でも大きく報道される
改定案は2月ごろに、ロシアメディアによってリークされたことがきっかけで、反発の声が広がりました。日本でも4月下旬に、日本経済新聞がルール改訂案の内容について大きく取り上げています。
日本経済新聞はアカウント登録で無料で読める記事は1本だけですが、選ぶなら読み応えのあるこちらの記事をおすすめします。

日本経済新聞を読めない方は、こちらの英文記事にてルール改革案の詳細を読むことができます。日本語機械翻訳で概要はわかります。

スポーツ紙ではない、経済新聞ベースである日経がこんなことを事細かに書くということは、ひょっとしてISU理事会は導入にかなり前向きなのではないか?という心配が出てきました。
理事会はフィギュアスケートだけでなくスピードスケートやショートトラックなど各分野の代表者で構成されています。従来は加盟国による議論・投票のプロセスを経てルール改正が行われていたのに、何故こんなことになったのでしょう…?
当初は「どうせ却下されるだろうに騒ぎすぎ」と思っていた私も、ようやく本気で心配する事態になりました。

SP・フリー廃止案は見送りへ それでも残る懸念
とりあえず「2027-28シーズンの導入は難しい状況」と報道されたことに安堵はしています。でも、まだ公式発表があったわけではありません。
気になるのは、報道で見送りにされたと言われているのは「SPとフリーを廃止する改定案」であることです。「現在のフリーにあたるプログラムを4分から3分30秒に減らす」という提案なども出ていましたが、そちらはしれっと2027-28シーズンから導入されやしないかと心配しています。
競技進行スピードアップのため、6分間練習を別場所でやるという提案もありました。
6分間練習は本番リンクのコンディションや会場環境を確認するために行われるものなのに、違うリンクでやったら全く意味がありません。何よりフィギュアスケートファンがどれだけ6分間練習を楽しみにしているか全く理解していない、アスリートとファン双方を無視した酷い提案だと思います。これも見送られることを強く願っています。
アスリートファーストでの大幅変更には、長期計画が必須
「コンパルソリー復活」の方がまだ夢がある
「SPとフリーが似ている」と文句をつけるくらいなら、「コンパルソリー(フィギュアスケートのエッジで氷上により正確な“図形=Figure”を描く競技)」を復活させればいいのに…とつい考えてしまうオールドファンの私。
コンパルソリーは「テレビ中継していても退屈」「観客が楽しめない」と言う理由から次第に存在意義を問われるようになり、1990年に廃止になりました。YouTubeなどで検索すると昔の五輪のコンパルソリー放送動画が見られます。まぁ確かにSPやフリーの演技よりは退屈です。

でも私は、ここ数年「現代ならコンパルソリーを面白く見せることできるんじゃないか?」とずっと思っているんですよね
選手がスケートのエッジで描いた図形を場内モニターやテレビ画面にCGでラインを引いてリアルタイムで見せることは、今の技術ならできそうです。ミラノ五輪でも団体戦初日だけは軌跡図のCG小画面を出していましたし。
小規模な大会では審判の目視で判断せざるを得ないのは昔と同じでしょうし、いくらショーアップしたところで技術と芸術の極みであるSPやフリーの方が人気が高いのは変わらないでしょう。
でも、「SPとフリー形式を辞めるくらいなら、コンパルソリー競技をショーアップして追加実施した方がマシなんじゃ?」と半分皮肉で思っています。
「大改正」には長期の移行期間が必須
でも、もし本当にコンパルソリーを復活させるような大改正をするとしたら…
コンパルソリーが廃止されてもう35年以上。指導できる層が減っているし、今の選手たちはコンパルソリーを全くやっていない人も多い。復活させると決めたとしても、アスリートファーストの観点からは、ジュニアのレベルの試合から徐々に試していき、シニアの国際大会で実施するまでには10~20年はかける必要があるでしょう。
ジャンプの速度や高さ、スピンの回転速度や軸ブレのなさなどを機械で測定して競う部門を作れば、というファンの提案も見かけました。その実現もすぐにとはいかないでしょう。
その点、「ジャンプありの技術プログラムとジャンプなしの芸術プログラムに分ける」というのは、技術的にはすぐに実現可能な提案ではあります。
でも、「直近で可能な変更案」に振り回されるあまり、本末転倒になっている気がします。スポーツと芸術の融合こそがフィギュアスケート人気の要因だと考える選手たちやファンから猛反発が出たのは無理もありません。
ISUがよりよい競技を目指して改革を進めること自体は否定しません。でも、その改革はアスリートファーストであってほしいし、多くのファンが惹かれているであろう「スポーツと芸術との融合」という魅力の根本は変更してほしくないと切に願います。

