2025世界フィギュアスケート選手権現地観戦の振り返り、今回は男子フリー前半グループの振り返り。
前半グループにはメダル圏内の選手こそいませんが、ワールド初出場選手や五輪出場枠取りのプレッシャーと闘っている選手がいたりと、それぞれの見どころがあります。今回は前半グループで私の印象に残った選手の演技の記録です。
そして、前半グループのハイライトはデニス・ヴァシリエフス選手の好演技。同門だった彼を見守る宇野昌磨さんの姿とセットであの演技を見られたことは、私のボストン現地観戦のハイライトでもありました。
2025世界フィギュアスケート選手権リザルト(総合)
2025世界フィギュアスケート選手権男子フリー
現地観戦直後のフレッシュな状態で書いた記録はこちら。

9月に開催されるミラノ五輪最終予選の展望については下記の投稿で既に書いていますので、今回の記事では触れません。

以下、写真の無断転載は固くお断りします
第1グループ
男子フリーは競技最終日の3月29日(土)、アイスダンスFD終了後の18時開始でした。
ボストンのTDガーデンでは、一つのカテゴリが終了するごとに全員会場を退出しないといけません。
男子フリーに再入場したとき、自分のすぐ真横を宇野昌磨さんが通ってフジテレビ解説席に入って行った時の驚きは、こちらの投稿の「至近距離のすれ違いにうろたえる」の項目に詳細を書いています。

そうなんです。男子フリーは第1グループ第1滑走者が壷井達也選手だったので、フジの解説陣たちも早々に放送席にスタンバイしていたのです!
壷井達也選手
公式練習の様子を見ている限りでは4回転サルコウが全く決まっていなかった壷井達也選手。
6分間練習で調子が急に上向くようなことはなく、厳しい戦いが予想されました。でも、4回転がはまらずとも他を決めればまだまだ順位は上げられます。

冒頭の4回転サルコウは正直決まる気がしませんでした。アンダーローテーション(回転不足)の「>」を取られる転倒となりましたが、少なくとも今回は抜けなかった!
4回転サルコウ2本目は回避してトリプルにしてきました。1転倒と2転倒の差は大きいので、あの調子ならば賢明な選択でしょう。トリプルサルコウの基礎点は4.30と4回転に比べ5点以上低いですが、加点を稼いで5.22を確保。
スピンやステップでレベルを揃えることはかないませんでしたが、後半はしっかりまとめてきました。フリー19位で順位を少し上げて総合21位。
一桁順位も目指せる実力があっただけに、演技後は悔しそう。全日本のフリー演技を見た観客のひとりとしても、ワールドであのような好演技を見てもらえなかったのは残念でした。
大舞台で演技をした経験が直前の四大陸しかなかった壷井選手。靴を変更してからのジャンプの変調という苦しい状況でこのビッグイベントを迎えたのはとてつもない重圧だったろうと思います。
ミラノ五輪シーズンは休学してフィギュアスケートに専念するとのことですが、この経験を来季の飛躍に生かしてほしいです。
ダイウェイ・ダイ選手(中国)
SP21位スタートのダイウェイ・ダイ選手。冒頭の4回転トゥループが決まってホッとしました。
GPS中国大会の時などは4回転2本構成でしたが、彼も今回は4回転1本構成できました。

でも中盤のトリプルルッツで転倒…トリプルジャンプは安定した選手のイメージだったので、ちょっと意外な感じすら覚えました。
スピンステップでレベルを取り切れなかったこともあり、146.18はPB154.39には及ばず。フリー18位、総合も18位。

彼も10位前後を目指せる実力があっただけに残念さは少しありました。でも、壷井選手同様にここで大舞台を体験できたことが何よりの財産でしょう。
来季はボーヤン・ジン選手とダイウェイ・ダイ選手の五輪代表争いが待っています。
ミハイル・セレフコ選手(エストニア)
ミハイル・セレフコ選手のワールド出場は3回目です。しかし、今大会は特別。「エストニアの五輪出場2枠のチャンス」、兄弟揃って五輪に出場する夢が彼の肩にかかっています。総合10位以内に入れば2枠です。
私は、彼がSP19位と出遅れてしまった段階でエストニア2枠の夢はもう諦めていました。
でも、彼は諦めていませんでした。4回転ループ⇒4回転トゥループ⇒4回転サルコウと4回転ジャンプ3本入りの構成に挑みます。
結果は冒頭のループはダブルに抜け、2本目のトゥループは転倒、3本目のサルコウもダブルに抜け…4回転の挑戦は3本とも成功なしという結果で、自己PB156.86を大きく下回る140.52。フリーは21位、総合19位。

でもフリー進出時点で1枠は確定していますから、「持てる武器を全てつぎ込んだ、一発逆転勝負」に賭ける価値はあったと私は思います。
どのジャンプも試合成功歴はあるし、成功する確率は低いながらもありました。もし3本とも成功していれば自己ベストを10点以上更新できて、10位以内に入れたでしょう。シーズンベストスコア(SB)を出した時のフリーは4回転トゥループ1本のみでトリプルアクセルも抜けてるので、それ位更新できる余地はありましたから。
演技後、私は戦いで散った戦士を見送るような気持ちで拍手を送りました。
五輪のエストニア代表枠は1。表現に長ける兄のアレクサンドル・セレフコ選手と、癖のあるプロで高難度ジャンプを跳べるミハイル・セレフコ選手。どちらが代表になるのかな…
第2グループ
通常の鑑賞記録は滑走順に記載していますが、今回は10&11番滑走の二人をまとめてから、9番滑走のデニス・ヴァシリエフス選手の演技について触れます。
ロマン・サドフスキー選手(カナダ)
ジャンプも滑りも所作もポテンシャルが高いのに出力不安定なロマン・サドフスキー選手。引退するまでに一度はクリーンなフリー演技を見てみたい選手の筆頭格です。

冒頭4回転サルコウが美しく決まり、続くトリプルルッツからの連続ジャンプ決まりましたが…トリプルアクセルで乱れて「あああ」となります。後半の4回転サルコウからの3連ジャンプが乱れたり、後半のアクセルがダブルになったりしたのも痛かったです。
しかし、演技の流れを大きく損なうミス(抜けや転倒)が無いんですよ、今回。(ダブルアクセルは…ある意味戦略と取れないこともないですし)
それだけでも大分違うなって思いましたね。このプロ割と好きだったのでまとめてくれて嬉しかったです。PBには9点ほど足りませんが、フリー160.13はシーズンベスト。フリーは13位で順位を一つ上げて総合14位になりました。
ダニエル・グラッスル選手(イタリア)
翌年に母国イタリアで開催される五輪。イタリアの男子シングルには有望な選手が多く、何としてでも「イタリア五輪出場枠3」が欲しいところ。
なのに、今季前半好調だったダニエル・グラッスル選手は公式練習では冴えないままでSPも14位。
しかし、ダニエル・グラッスル選手は、ループやルッツ等の高難度4回転持ち。ジャンプが決まれば上位に食い込めるポテンシャルがあります。

冒頭の4回転ルッツはダブルに。4回転ループは決まったけれど、次の4回転サルコウはダウングレードで大きな乱れ。
後半はまとめていったのはさすがだったのですが、これで追い上げるのは厳しい…。

得点は161.84。SB181.84より20点も低い点数です。この時点での暫定2位では、3枠の実現は厳しい。
現地では「シーズン前半あれほどジャンプが安定していたのに何故…」と不思議に思っていたのですが、どうも怪我を抱えていたようで。
高難度ジャンプは凄い武器だけれども怪我のリスクと背中合わせであることを実感。シーズン前半の調子だったら、イタリア3枠に手が届いていたでしょう。
放送席の昌磨さんと見守ったデニス・ヴァシリエフス選手の好演技
さて、ここからは前半グループで最も印象的だったデニス・ヴァシリエフス選手(ラトヴィア)の好演技について。
今季のプログラム「ラ・バヤデール」は本当彼に合ってて好きだったので、ナマで観るのを凄く楽しみにしていました。
そして、もう一つ楽しみにしていたのは、彼と同門だった宇野昌磨さんがどんな解説をするか。二人ともスイス・シャンペリーでステファン・ランビエールコーチの指導を受けていましたからね。

…しかし、デニス・ヴァシリエフス選手がリンクインしたのに放送席の誰もヘッドセットをつけていないじゃないですか!
えーSPに引き続き放送なしなの?
フリーの出来次第では入賞ありうるよ?
日本人スケオタにすごく人気のある選手だよ?
…って物凄く残念でした

収録する様子がないまま演技開始!
「昌磨さん解説付きの放送がない」のなら、彼の演技を見守る昌磨さんを自分の目に焼き付けておこう…と私はリンクとフジテレビ放送席を同時に眺め続けました。視野を常に広く保たねばならないので目がちょいと疲れましたけどね(苦笑)。
冒頭の4回転サルコウは下りました!(アンダーローテーション「<」は取られたけど、それは想定内。着氷できればもういいんです!)
これで波に乗り、軽やかな前半をほぼノーミスで進んでいきます。

演技が中盤に近づくにつれ、「ユーロ(欧州選手権)銅メダルのときを超える良演技になるのでは?」という期待が高まってきました。そして、解説席の昌磨さんが横顔しか見えないのにどんどん笑顔になっていくのが少し離れた席からでもわかりました。

演技中盤のしっとりした曲調のステップのあとは、後半のジャンプを畳みかける時間。観客の熱気はジャンプを下りる度に高まっていきます。
そして最後のジャンプ・トリプルループが決まった直後。笑顔がこぼれた昌磨さんが、何やらごそごそしてスマホを取り出します。そして、リンクに目をやりつつ撮影準備をしているじゃあないですか!
これはもう確実にスタンディングオベーションの嵐になる素晴らしい演技。かつてのチームメイトの記念すべきシーンを記録したいのでしょう。

デニス・ヴァシリエフス選手は代名詞のスピンでジャンプ以上に観客を沸かせた後に、美麗なイーグルの入ったコレオシークエンスを披露。そして氷に横たわったフィニッシュからの満面の笑顔です!
彼の演技にノックアウトされたボストンの観客たちは、フライング気味にスタオベして、総立ち状態になりました。私も当然スタオベ。

いや~これは私が今までナマで観ることができた彼の試合演技のなかでは最高レベル!
観客のスタオベの中、放送席の昌磨さんはスマホを高く掲げておそらく観客込みでデニス選手を撮影していました。

私は演技後はカメラを放送席に向けつつも、視線はリンク中心に送っていたので、昌磨さんがこんな風にスマホを高く掲げていたのを知ったのは、帰国後でした。
横顔しか見えないけどすごく嬉しそう。この画像には映っていませんが、本田武史さんもすごく嬉しそうにしていて、最後のコリオシークエンスのあたりでは放送席3人でかなり盛り上がっていました。

投げ込まれたプレゼントを回収している間もスタオベは止まらず。昌磨さんはいつしか撮影を止めて拍手を送っていました。
解説の収録中だったらスマホで撮影したり拍手したりしないので、この一連の流れはフジテレビが彼の演技を収録しなかったからこそ見ることができたと言えます。

ステファンコーチも撮影開始!
そして、リンクに引き上げてきたデニス・ヴァシリエフス選手をステファン・ランビエールコーチが笑顔で迎えます。
キス&クライでインタビューを受ける愛弟子を撮影しようと、ステファンコーチはコートのポケットからいそいそとスマホを取り出して撮影していました。
みんなが彼の晴れ姿を記録したくてたまらない様子(笑)。昌磨さんやステファンはデニスに動画を送ったのでしょうか?

デニス・ヴァシリエフス選手はインタビューで「ボストンの素晴らしい声援が僕を支えてくれました」的なことを答え、観客をまたわかせていました。
そんなキス&クライのデニスの様子を見守る昌磨さんもまだ嬉しそう。

いや~本当いいものを見せてもらいました。こんないい演技に、嬉しそうな昌磨さん&ステファンコーチを見られるなんて。

なんて幸せなひと時だったんだろう
ボストン来た甲斐あったわ~~~~って思いました
後でジャッジスコア見たら、冒頭の4回転サルコウだけでなく後半のトリプルアクセルにもアンダーローテーション「<」がついててがっつり点が下がっていました。
道理でPBに届かなかったのか…。ステップもレベル2判定でしたし。
でも満足感はとてつもなかったですね。回転不足?そんなもん知らん!!!っていう気分。
第2グループ全員が滑り終わった段階では暫定1位。(最終結果はSP9位で総合11位)
後半グループ開始時、会場に用意された「暫定一位席」に座るのはデニス・ヴァシリエフス選手となりました。
さて、この後は整氷中のトークタイムにネイサン・チェンさんが登場し、いよいよ後半グループの演技になるのですが、記事も長くなってきたのでここで一旦区切ることにします。
