世界フィギュア2026の放送はなぜ大きく変わったのか “配信シフト時代”のスポーツ中継を考える

フジテレビ社屋を背景に、2026世界フィギュアのロゴが薄く載っている画像

今年から大きく変わった、フジテレビの世界フィギュアスケート選手権の放送

私は試合から1カ月以上が経過した先週、ようやくフジテレビの「世界フィギュアスケート選手権2026(プラハワールド)」の放送録画を見終わりました。

今年は試合からおよそ2日後の録画放送で、現地での実況解説なし(実況解説は国内スタジオ収録)。日本のスタジオに司会+解説者に現役&引退直後の選手4名(友野一希選手、山本草太選手、青木祐奈選手、樋口新葉選手)を呼んで進行し、演技中のスタジオ出演者達のトークは副音声で放送されました。

私は当初、これは制作予算不足による“縮小”だと思っていました。

しかし最近のスポーツ配信事情を調べるにつれ、これは単なるコスト削減ではなく「スポーツ中継戦略そのものの転換」なのではないかと考えるようになりました。

今回は、フジテレビの今年の「世界フィギュア」地上波放送体制に感じた違和感とその背景を整理していきます。

目次

初めて行われたスケーター達のトーク生配信企画

今年のフジテレビの世界フィギュア地上波放送で大きく変わったポイントの一つに、合計6~7名ものスケーターが揃って登場するというスタジオ演出があります。

スケーター達による演技中のトークは副音声で放送されていました。YouTubeではトーク部分が同時生配信されており、現在も放送2日間分が視聴可能です。

こちらは放送初日の副音声LIVE配信アーカイブ動画

著作権の都合かと思われますが、試合の演技映像は全く入っていません。
いわゆる「リアクション動画」のように「ぼかし入りの演技映像」の小画面でも入っていないと、この動画単独では見づらいです
追記:フジテレビとしては放送を見せるのが主目的なので敢えてこの作りなのかもしれませんが…

セット背景に使われているモニターには現地のリンク映像が映し出されていますが、彼らがいるのは国内のスタジオ。解説を担当した本田武史さん、荒川静香さん、高橋成美さんらは実況解説の収録を済ませたあとにこの収録に参加しています。

解説者たちはメイン音声では真面目に解説をしているけれど、副音声では若手スケーター達と和やかに談笑しているという構造です。

今年の地上波放送で感じた違和感

それ以外にも、今年のフジテレビの地上波放送はこれまでの放送と大きく変わった点がいくつもありました。

今まで以上に遅い放送

まず、約2日も遅れての放送スケジュールに驚きました。

時差の関係で、実際の試合時間より遅れて放送されることは過去にも何度もありました。しかし、2日以上経過してから放送されたのはこれが初めてではないでしょうか?

女子SP(ショートプログラム)は日本時間の水曜夜実施。放送のある金曜夜までの間に、多数のメディアが映像や写真を交えて競技結果を報道済みです。

「こんなに時間が経ってからゴールデンタイムに放送するの?」という違和感は大きかったです。

スタジオ出演者を前面に出した映像演出の増加

番組冒頭、スタジオにバラエティ番組かと思うほど大勢の出演者がいたのにも驚きました。

2025ボストンワールドで解説実況陣が大集合したときも多いなと思いましたが、それより3名も増えてますからね。しかも冒頭の挨拶時のみではなく、頻繁に映ります。

選手の演技中は通常の試合中継演出でしたが、練習風景などでは画面内にスタジオにいるスケーター達の顔が小さいワイプ画面で映し出されていました

放送当日に放送画面を見かけたときは、バラエティ番組のような絵面に正直かなりの違和感を覚えました。

後日に視聴したときは、選手たちのトークも楽しめたんですけどね…

放送される演技がこれまで以上に少ない

放送時間が分かった時点で懸念されることでしたが、放送される演技は原則日本人選手と3位以内に入った選手のみ。全国放送枠では、ペアとアイスダンスは日本の組の演技が各1つだけでした。

せめてBSフジなりCSで後日放送があればいいのですが、フジテレビの放送で「録画保存」ができるのはごく一部の演技のみです。できるだけ多くの演技を慣れ親しんだ解説者の実況解説入りで録画保存したいと願うファンにとっては、ダメージが大きいです。しかも今年はBSフジでの放送も無くなりました。

現在、FOD(フジテレビオンデマンド)プレミアムで2021年以降の過去大会映像が視聴可能ではありますが、これらの試合映像もいつまでアーカイブ視聴可能かどうかのはわかりません。2019年以前の配信動画はもう視聴できなくなっています。
(※2020年は新型コロナで中止)

世界フィギュアスケート選手権の全カテゴリ全演技を録画したい場合は、FODプレミアムより費用はかかりますが、JSPORTS4チャンネルを契約すれば可能です。かなり専門的な実況・解説も聴けます。

JSPORTS4の世界フィギュアスケート選手権放送予定

JSPORTS4チャンネルを視聴するには、スカパー!や、ケーブルテレビや光回線系テレビサービス(例:ひかりTV、auひかりテレビ)で JSPORTS4を含む有料チャンネル契約 が必要です。
ひかりTVやauひかりテレビを使えば必ずしも衛星(CS)アンテナの設置は必要ありません。

フジテレビの放送体制の変化

現地実況・解説の取りやめ

これまでのフジテレビの実況中継は、男女シングルについては新型コロナ感染拡大期以外は解説者とフジテレビのアナウンサーを現地に派遣し、現地放送席から実況していたと記憶しています。

今年のプラハワールドにはリポーター1名と現地放送スタッフが派遣されていたようですが、リンクサイドでの立ちリポートがわずかにあったのみ。現地での実況解説を取りやめるというのは、この規模の大会中継としては思い切った選択だと言えると思います。

会場全体が視界に入った状態で実況するのと、モニター画面を見ながら実況するのとでは、実況解説の情報量や深みにどうしても違いが出ると私は感じています

BSフジでの放送も無くなり、“有料配信シフト”が強化

以前はフジテレビ系列のCSやBS放送で世界フィギュアを視聴できた時期もありましたが、近年は地上波以外での放送機会が減少しています。それでも昨季はまだ、BSフジでの放送が4月上旬にありました。

BSフジでは地上波とは若干違うコンテンツが視聴できたのですが、今年はBSフジでの放送もなし。

CSやBSなどの有料放送でのコンテンツ提供から、配信でのコンテンツ提供へのシフトを強化した印象です。

なぜ、地上波放送の演出をここまで変更したのか

当初、私は解説陣を現地派遣しないという主要な原因は、制作費削減だと考えていました。

演出変更の理由は制作費削減?

フジテレビはスキャンダル発覚以来CMスポンサーが激減し、昨夏には2025年度決算は120億円の営業赤字見通しだと報じられていました。

2026年2月の経済誌の記事でも、フジテレビの番組制作現場では予算が大幅に削減されてかなり苦しい状況だと伝えられています。

厳しい予算削減状況についての記載がある下記記事の後半部分は無料登録で読めます

赤字回復を支えた“脱・放送”戦略

しかし調べてみたところ、今年2月に「営業赤字が想定より回復した」との記事が出ていました。

フジテレビの広告料は以前の93%まで回復、昨夏には120億円に上ると予測されていた営業赤字は72億円にまで減ったと報じられています。

フジテレビが予想を覆し、早期に経営状況を回復できたのは何故でしょうか?

上記の記事では、TVerやFODを軸とした配信連動型のIP収益モデル、2026年サッカーW杯放映権を起点とするデジタル展開などの「脱・放送」戦略が成功の鍵だったとの分析でした。

経営の悪化という状況があったからこそ、デジタル展開を見越した番組設計を大胆に進めることができたのが回復の要因だと。

五輪後の“刈り取り”戦略だったのか?

2026ミラノ五輪のフィギュアスケート競技は、金メダル獲得を期待できる選手が複数揃っていたことから世間の注目を集めるであろうことは十分予想されていました。

そして、期待通りミラノ五輪で「りくりゅう」をはじめとするフィギュアスケート選手が活躍。視聴者のフィギュアスケートへの関心はこれまで以上に高まりました。

いわば、「種まき」は終わっている状態です。

あとは、このチャンスに一気に「刈り取る」だけ。五輪でフィギュアスケート試合観戦に興味を持った視聴者を、一気に有料配信に囲い込む。

今回のフジテレビの世界フィギュアの放送は、結果として最初の視聴ピークが配信に集中する形となりました。地上波放送をあえて急がなかった背景としては、五輪の影響がまだ残っている状況ならば、地上波で改めて広く露出するよりも配信視聴に誘導する方を優先した可能性は十分に考えられます。

ただ、これまで毎年放送してきた以上、地上波テレビ放送視聴者向けサービスを一気に失くすのもリスクがあります。

そこで、地上波テレビ放送にはこれまで視聴してきたコアなファン層に対する「付加価値」を付けたうえで、後日のゴールデンタイム枠に放送するーという戦略を取ったのかもしれません。

こちらは放送二日目の副音声LIVE配信のアーカイブ

視聴者として感じたズレ

スタジオ部分には異色な印象こそありましたが、試合演技部分の放送は、主音声を聞いている限りこれまでと同様のスポーツ中継らしい内容でした。

2日遅れの放送でも、放送する演技が減っても、「テレビでやってたら見ようかな」くらいのライトファンならこれで十分なのかもしれません。

副音声トークとYouTube配信は、コアなファン層向け

一方、毎年放送を楽しみに視聴しているコアなファン層は副音声でマニアックなトークが楽しめます

スタジオに呼んだメンバーは、コアなファン層に根強い人気を持つベテラン選手たち。落ち着いたトークができそうな人材が選ばれています。

実際、彼らのトークでは演技中のエッジの深さに感銘を受けたり、ステップ要素や難易度に関するやりとり、演技している選手たちが普段の練習をどのように進めているかなど「濃いトーク」が多かったです。

素人にもわかりやすいトークを心がけてはいるようでしたが、スケーター同士だとどうしてもマニアックなトークに脱線しがち。でもそれは逆に、コアなファン層には興味深い内容だったと思います。

以前こちらの記事でも取り上げたことのある、懐かしのアブザル・ラキムガリエフ選手の話が出て来たところなど、楽しかったです!

“スポーツ中継モード”から副音声トークを楽しめるようになるまで

しかし、私は地上波放送時には番組を楽しめる心境にはなれませんでした。

試合のライブ配信を視聴して1~2日経過したぐらいでは、私の頭はまだ完全に“スポーツ中継モード”。ISU(国際スケート連盟)の配信で試合は一通り視聴したものの、“スポーツ中継らしい放送”をまだ欲していました

もちろん、選手たちが集まった賑やかな雰囲気を楽しめるテンションになっていた人も多数いただろうと思います。実際SNSなどでは放送で副音声トークをリアルタイムで楽しんでおられた方を見かけました。

でも私は「今はこのノリにはついていけない…」となり、「しばらく寝かせておいてから後日見ることにしよう」と決めました。もし来年このような放送が行われても、きっと数週間はおいてから録画視聴すると思います。

私の希望する放送体制とのズレ

ここからは、世界フィギュアの今後の放送や配信に対する私自身の勝手な希望を連ねます。

“配信シフト”で置き去りになる視聴者層

私は何も、世界フィギュアを地上波で全部生中継してほしいとまでは思っていません。

スポーツ中継が配信に移行し、地上波はライト層にアピールするツールになっていくのは時代の流れです。

しかし、現状の“有料配信シフト”は

  • 充実した日本語実況解説を聞きたい層
  • 録画保存したい層

が置き去りになっていると感じます。

世界フィギュアの今後の放送・配信への個人的希望

私が望むのはただ一つ。「実況解説付きのフルの試合映像を、できれば有料放送(BSまたはCS)、せめて有料配信で提供してほしい」ということです。

FODプレミアムでのライブ配信は会場音声のみです。実況解説なしを好むファン層も多いので、会場音声のみの配信が提供されていること自体は良いことだと思っています。

でも私は、スポーツ中継には専門家視点の情報を強く求めるタイプ。

せめて後半グループだけでも、試合のアーカイブ配信には実況解説付き版も残してほしいです。

ライブ配信で日本語実況解説を提供するのが難しいのであれば、私はライブ視聴時はISU公式YouTubeチャンネルの英語解説を選びます。先日のISUアンケートから「今後の試合配信は有料化されるかも?」という空気感を感じていますが、今後有料になったとしても実況あり配信の方を選択するつもりでいます。

でも私は、フジテレビで馴染みのある解説者を起用しているのなら、後日でもいいので充実した日本語解説も多く聞きたいんです。ミラノ五輪では、以前応援していたスケーター達による内容の濃い解説がたくさん聞けて本当に嬉しかったです。

F1に見る“配信シフト”完了後の地上波放送のあり方

今後“配信シフト”が進むと、どのような地上波コンテンツが必要になってくるのでしょうか?

そのヒントはモータースポーツのF1にあるかもしれません。

フジテレビが人気スポーツのF1レースの地上波中継から撤退し、CS有料放送に移行したのは2012年頃です。しばらくは地上波でダイジェスト放送を流していましたが、それも2015年には終了。2016年以降フジテレビはF1の放送・配信権を手放し、DAZNでの独占配信となりました。

しかし、フジテレビは2026年から2030年までのF1の日本国内における独占放送・配信権を取得

4月からはF1のダイジェスト番組(関東ローカル)を地上波で開始しました。F1の地上波番組が、11年ぶりに復活したのです。

DAZN、F1配信終了 26年からフジテレビが独占、11年ぶりに地上波復活 配信は「FOD」でも

フィギュアスケートはオリンピックサッカーにはFIFAワールドカップがあります。野球は今年こそWBCがNetFlix独占配信となったものの日本ではまだまだ地上波露出の機会が多いスポーツです。

しかし、F1には五輪やFIFAワールドカップ、WBCのような「地上波で大規模に露出される機会」がありません。いくらF1が世界的に大人気のスポーツであっても、配信オンリーで長年続けていると国内の新規視聴者層の開拓が課題になってきます。

ということは…もし五輪も含めたスポーツ中継の“配信シフト”が今後進んでいったら、10年後くらいに「フィギュアスケートTV!」のような試合のダイジェスト番組が地上波で復活する日が来るかもしれませんね。

変わっていくフィギュアスケートの放送スタイル

スポーツ中継の有料配信への移行自体は、止められない時代の流れだと思います。

ただ、その中でも「実況解説付きで競技をじっくり見たい」「何年も経ったあとに、録画なりアーカイブなりを見返したい」と願う視聴者層のニーズは残るはずです。

全日本フィギュアスケート選手権や世界フィギュアスケート選手権が、今後どのような形で届けられていくのか?
これからの時代に合った、“スポーツ中継らしさ”がどう変わっていくのかは気になるところです。

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