2026世界フィギュア男子フリー|マリニン3連覇と鍵山優真“完成トゥーランドット”、最終グループのドラマ

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「世界フィギュアスケート選手権2026(プラハワールド2026/WC2026/世界フィギュア2026)」の競技が終了しました。

今大会の男子フリーは、「大荒れ」の印象が強かったミラノ五輪とは対照的に、上位選手の多くが実力を発揮した“好試合”という印象です。

イリヤ・マリニン選手は構成を調整しながらも安定した演技で世界選手権3連覇。鍵山優真選手はついに完成形とも言える「トゥーランドット」を披露し銀メダル、佐藤駿選手もノーミス演技で銅メダルを獲得しました。

この記事では、メダル争いが繰り広げられた最終グループを中心に、男子フリーの展開と印象的な演技を振り返ります。

世界フィギュアスケート選手権2026 リザルト
※出場者リスト・スケジュール・採点結果などの一覧です

目次

世界フィギュア2026 男子フリー総括|“実力者が報われた大会”

実力者がその実力を出せた姿を見られるのは、これほど嬉しいものかと思いました。

SP上位選手たちが続々と大崩れしていった、ミラノ五輪個人戦男子フリーの展開は本当につらかったです。だからこそ、あのときうまくいかなかった選手たちの多くが、今大会でいい演技をすることができたのを見られたのは感無量でした

ミラノ五輪男子フリーのトラウマ、少し和らいだ気がします

最終グループ振り返り|メダル争いの行方

以下は最終グループのメダル争いを中心に、滑走順に振り返っていきます。(第1~3グループについては、後編で別途振り返ります)

鍵山優真|ついに完成した「トゥーランドット」

ついに最終形態の完成版「トゥーランドット」が見られました。

鍵山優真選手はSP出遅れした際はフリーで挽回することが多いので、「これは好演技のフラグ」と期待はしていました。

しかし6分間練習でも演技前半でも表情が硬く、ちょっぴり心配していたのですが…演技中盤からは「これは大丈夫」と思えました。

ジャンプが全部決まってからの彼は、ここ数シーズンの国際大会でフリー演技の不調が続いていた心労を吹き飛ばすかのようなエネルギーを発散していました

むしろ演技前半の固さから一転した、激しい感情の表出が逆に劇的な効果を与えていた気がします

チェコの会場にいた観客も、鍵山優真選手のフリーの不調が続いていたことをよく知っています。「もっと上手い選手なのに」と歯がゆい気持ちを持っていた選手がようやく実力を解放する姿を見て、観客自身もこの何年かのストレスから解放されたかのようでした。

鍵山優真選手が五輪シーズンの大舞台でノーミスのトゥーランドットを披露したら、ここ数年のフリーの不調が伏線となってドラマチックな展開となるだろうと期待していましたが、その通りになりました。

「これがミラノ五輪でできていたら…」と思った方は多いでしょう。私も頭にはよぎりました。

でもあの苦いミラノ五輪のフリーも、ここに至るまでに必要だった流れかもしれません。今はミラノ五輪への後悔よりも、シーズン終わりを素晴らしい演技で締めくくれたことを喜びたいと思います。

リーダーズチェアで真っ先にスタンディングオベーションしていたケヴィン・エイモズ選手がすてきでした。

日本のネットメディアにも取り上げられていました(笑)。

スティーブン・ゴゴレフ|覚醒を印象づけた4位

待ち望んでいた鍵山優真選手の素晴らしい演技に観客は興奮冷めやらぬ状態。どよめきが収まらない中でのスタートとなったスティーブン・ゴゴレフ選手(カナダ)はシニア世界選手権は初出場です。

「こんなやりにくい環境で平静を保てるだろうか?」と心配しましたが、彼はミラノ五輪フリーと同様、技を一つずつクリーンに決めていきます。トゥループとサルコウの4回転3本を着氷、後半のトリプルフリップ~トリプルアクセルという超高難度シークエンスジャンプも決めます。

2大会連続でこれほどまとめた演技ができるなんて、近年のカナダ男子の流れからは信じられないくらい。SP・フリーともにパーソナルベストスコアを更新し、合計281.04。ミラノ五輪5位から順位を一つ上げ、4位となりました。

試合後の下記のインタビューによると、やはり鍵山選手の直後は集中するのが大変だったようで、耳をふさいでいたそうです。

ジュニア時代に「天才少年」と注目されながらも体型変化に苦しんだこの数年間が嘘のような活躍

後半でセカンドトリプルアクセルを跳べるのは来季からのルール改正にも有利だと思われるので、来季は更に活躍しそうです。カナダ2枠が確定したので、ロマン・サドフスキー選手が現役を続けてくれたら来季は彼も見られるかも?

アレクサンドル・セレフコ選手|悲願の2枠獲得

予想外のSP3位の好スタートとなったアレクサンドル・セレフコ選手(エストニア)。

彼の弟のミハイル・セレフコ選手とは実力が拮抗しており、毎年ワールドの出場枠「1」を二人で争っています。そして、セレフコ兄弟はこれまで何年も「ワールド2枠確保への挑戦」を続けてきました。

セレフコ兄弟の2枠への挑戦

特にここ2年のセレフコ兄弟の挑戦を、私は現地で見てきました。

2024モントリオールワールドでは兄のアレクサンドル・セレフコ選手が出場。宇野昌磨選手がメダルを逃した動揺の中、セレフコ選手の順位を慌てて確認したときの衝撃は今も覚えています。結果は11位。あと2.08点あれば2枠でした。

2025ボストンワールドでは弟のミハイル・セレフコ選手が出場。SPでミスが出て19位と出遅れた中、フリーでの一発逆転を賭けて最大難度のジャンプ構成で挑みましたが、結果は19位。またしても2枠には届かず。

ついに掴んだ「エストニア2枠」

「2枠」に再挑戦するアレクサンドル・セレフコ選手のフリー

彼がフリーをまとめきれる確率はかなり低いと思っていたので、私は「転倒は2回ぐらいまではいいけれど、とにかく回転の抜けだけなくして何とか10位以内までにとどまってほしい」と「エストニア2枠獲得」だけを願っていました。

グランプリシリーズ大会では見事に決まった冒頭の4回転ルッツは、残念ながら転倒。

しかし、そこからは踏ん張りました。直後の4回転トゥループは決め、その後の予定ジャンプも全部降りました。「ああこれなら2枠は余裕!」

フリー173.93は彼のパーソナルベストスコア。総合6位!望んだ以上の結果でもう嬉しくて嬉しくて。

試合後のインタビューでは笑顔が炸裂していました。

ちなみに2枠は獲れましたが、エストニアには若手の成長株選手もいます。来季は兄弟揃ってワールド出場するための国内代表争いが待っています!

佐藤駿選手|“最低値の底上げ”でつかんだ銅メダル

絶不調だった公式練習

「公式練習で絶不調 ⇒ 本番ではほぼクリーンな演技」は佐藤駿選手にはよくあることです。しかしSP前日までの練習情報はなかなか凄くて、さすがに私もちょっと心配になりました。

どれ程不調だったか、現地のフィギュアスケート専門記者による公式練習記録のリンクを残しておきます。

初日の練習は慣らし程度な場合も多いから不調でも全く気になりませんが、2日目でもこの状態でしたからね…

3Lo, 3Lz, 1A, 3A(fall), 2T, 4T(hangs on), 4T(q,fall), 4T3T, 4T3T, 4T3T, 3Lz(<<,fall), 2Lz, 4Lz(ur,fall), 4F(e?), 4T3T(hangs on), 4F, 2F(e), 3Lz(step), 2Lz(fall)
曲かけ練習: 4T(step), 1Lz, 3A
※上記サイトより引用

4回転トゥループは降りるようになってきたものの、4回転ルッツ成功はゼロでした。(fall=転倒)

最後まで崩れなかった「火の鳥」

SPは切り抜けましたが、フリーはどうなるかは読めません。

しかし、転倒1回ならありうるかもしれないが、それ以外はまとめられるだろうという予感はありました。冒頭の4回転ルッツはさすがに緊張しましたけどね。

結果、ジャンプはノーミス。そして、今季ずっと課題だったスピンもSPに引き続き全てレベル4を獲得。ジャンプの着氷が完璧とまではいかなかったのでパーソナルベストスコア更新まではできずでしたが、事前の調子が悪かった中で本番でここまでできるということ、彼の「最低値」がすごく底上げされていることを実感しました。

ミラノ五輪で活躍したせいか、観客からの声援が大きくなっていたのも嬉しかったですね。

でも、銅メダルを獲得しても相変わらずリアクションが薄い佐藤駿選手の姿が独特で面白いです。(そばにいるゴゴレフ選手に気を使ったのかもしれませんが)

喜びを素直に表現する日下匡力コーチとはあまりにも対照的で、「愛すべき選手&コーチコンビ」としてすっかり世界のフィギュアスケートファンに認知された感があります。(ISU公式配信でも何度か日下コーチについて言及されていました)

アダム・シャオ・イム・ファ|崩れながらも残した結果

好演技が続いた後半グループの選手の中で、唯一「残念」と感じた演技だったのは、SP2位発進だったアダム・シャオ・イム・ファ選手(フランス)です。

ミラノ五輪と同様にSPで4回転ルッツを抜いた構成でしたから、調子はよくはなさそう。でも、ミラノ五輪で悔しい思いをした鍵山優真選手やアレクサンドル・セレフコ選手などがいい演技をしただけに、「彼にも五輪の悔しい思いをここで晴らしてほしい」という願いはありました。

冒頭の4回転トゥループは美しかったのですが、4回転ルッツは転倒。4回転ジャンプ4本目の4回転サルコウは2回転になってしまいました。中盤からのトリプルアクセルはどちらも着氷が乱れて技術点が伸びず。

それでも最後のスピン・ステップで魅せるところはさすがで、これだけのミスが出たにもかかわらず169.71。総合271.56で5位に踏みとどまりました。ケヴィン・エイモズ選手が7位でしたので、5+7=12でフランスの来季出場枠3枠も確保

試合後のインタビューでは「練習ではうまくいっているのにまたミスしてしまった。メンタルの問題が大きいと思う」と、三浦佳生選手を思い起こさせるようなことを話していました。

ピースが全てはまったときの彼の爆発力を知っているだけに、もう一度まとまったフリーを見たい気がします。でも、「ルッツを抜いた4回転3本構成にしていたらどうなっていたんだろう?」とは考えてしまいましたね。

イリヤ・マリニン|“過去一の緊張”を越えた3連覇

そして、最終滑走で登場したイリヤ・マリニン選手

以前は緊張なしに楽しんでいたマリニン選手の演技が…

私は、高さのあるジャンプよりも幅とスピードのあるジャンプを好むこともあり、特別熱心に応援している選手ではありません。

なのに、今回の男子フリーで一番ドキドキハラハラしながら見たのは、長年応援してきた選手でも日本男子でもなく、イリヤ・マリニン選手でした

「なんでマリニン選手の演技にこんなにドキドキしてるんだ!?」と自分でも驚くくらいでした

私が彼の試合を初めてナマで観た2023さいたまワールドでも、初の世界王者になった2024モントリオールワールドでも、連覇した2025ボストンワールドでも、とんでもないジャンプ構成をやり遂げた2025名古屋グランプリファイナルでも、私は緊張感もなく、ただただ「スゲー」と見守っていただけなのに。

これはすべて、ミラノ五輪の悪夢のような個人戦フリー演技の後遺症です。

あんな悲痛な王者の姿は二度と見たくないという気持ちもありましたが、後半に詰め込んだ超高難度コンビネーションがいかにハイリスクで、失敗することもありうるという事実に気づいてしまったことが大きかったと思います。

私以上に混乱していた暫定得点表示

ミラノ五輪個人戦フリーの件があるし、SPでの点差がある程度開いていたので、彼のMAXより1~2段階落としたジャンプ構成で来るんじゃないかとは思っていました。

冒頭の4回転フリップは着氷。次の4回転アクセルは「やはりトリプルで来たか…」と思ったら、画面右上の暫定技術点表示では「4A」表示「見間違えた?」と思いました。

その後の4回転ループはフリップに変更したようでしたが、画面には「4F REPEAT(同一ジャンプの繰り返しで、減点となる)の表示。

「4回転フリップ単独で2回跳んだことになってREPEAT減点?彼がそんなミスするかな?と頭が混乱

試合後に採点表を確認して、事実が判明しました。

4A(4回転アクセル)と表示されていたのはやはりトリプルアクセル

そして、「4F(4回転フリップ)」と表示されていたのは3回転フリップで、REPEAT扱いではありませんでした。

私は自分の目を信じていなかったので、最後のジャンプで通常はセカンドにトリプルアクセルを跳ぶところをダブルアクセルにしていたのを見て「今回は慎重にダブルで抑えたんだな」と思っていました。

でも、4回転アクセルをトリプルにしたのなら、最後のジャンプのセカンドにもしトリプルアクセルをつけていたら規定違反です。4回転アクセルを回避したのなら、最後はダブルアクセルにせざるを得なかったのだと初めて気づきました。(ジャンプの回数・種類に関するルール上、その構成は取れないため)

演技終了直後に「優勝確実だが、フリー2位になるかも?」と思った理由

結局マリニン選手は大きなミスなく予定構成を完了。彼比で落とした構成とはいえ4回転4種5本を成功させ、他の要素もまとめており優勝は確実に思えました。

しかし余裕のある着氷は少なく、暫定技術点表示では審議マークが多数ついていました。

そのため、「これらがもし全て回転不足判定になったりしたら、技術点が大きく下がり、フリーの順位は鍵山選手に続く2位になるかも?」と思いました。選手によっては技術点が10点ぐらい下がる場合もありますから。

しかし表示された点数は私の予想スコアよりはるか上の218.11点

というか技術点下がってなくて上がってる?何で?と混乱しました

私は気付いていませんでしたが、暫定技術点表示上では約18点を叩き出した4回転ルッツからの後半コンビネーションの4回転ルッツが「REPEAT」判定になって大幅減点で計算されていた模様。あの暫定技術点表示が実態とはかなり離れた数値を出していたんですね。

あんまりあれを信用するのもよくないのかなと思いましたが、私の肉眼はもっと信用できない…困ったものです。

“実力者が報われた大会”という手応え

実力者の多くが本来の力を出せる試合は、それほど多くはありません。

特に五輪直後のワールドは調整も難しく、荒れることも多いです。そんな中、実力を発揮できた選手を多く見られたことはありがたかったです。

イリヤ・マリニン選手がまとめきった演技をしてくれて329.40と言う高得点を出してくれたのもありがたかったですね。鍵山優真選手の得点は306.67。素晴らしい得点ですが、マリニン選手とは約23点の差があります。

鍵山選手のSPでのトリプルアクセル踏切前の転倒はあまりにも不運でした。もしマリニン選手にミスが出て僅差での優勝になっていたら…「あのアクセル前の不運な転倒がなければ」「マリニン選手への回転不足判定がもっと厳しければ」などの「たられば」を考えてしまっていたでしょう。

世界王者はミラノ五輪の雪辱を果たし三連覇。フリーで実力を発揮しきれずにいた実力者がついにクリーン演技で銀メダル。ミラノ五輪の銅メダリストは世界選手権でも初の銅メダルを獲得。

ミラノ五輪男子フリーの辛い記憶を少し和らげてくれたことは、とてもありがたいです。

アイスダンスについても色々書き残しておきたいことがあるのですが、それはまた男子シングルの後編のあとに改めて。

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